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さようなら竜生、こんにちは人生 作者:スペ / 永島 ひろあき
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第二話 ラミア ダイジェスト化

第二話 ラミア

 ドランという名前の人間に転生し、ベルン村という辺境の村にドランという名前の人間として転生してから十六年がたった。
 ある日、ドランはかつてはリザード族が棲んでいた北にある沼地に足を向ける。何か利用できるものはないか、リザード族たちが離れて行った理由を調査するためである。
 そうして赴いた北の沼地で、ドランは思いがけない出会いを果たす――



「ほう」

 そして私は素直に感嘆の吐息を零した。
 背後を振り返った私の視線の先に居たのは、陽光を浴びて燦然と輝く金の髪を長く伸ばした美少女だったのである。
 目鼻口の配置はまさしく造形の天才の手になるものに間違いはなく、青い瞳はサファイアの如くまばゆく輝いている。
 簡素な造りの薄水色のワンピースとフードの付いた白いケープを纏い、左肩から斜めに鞄を掛けていた。
 十代後半のまだあどけなさを残す少女の顔には戸惑いの色が浮かび、赤い唇からは先端が二股に割れた長い舌がチロチロと出入りを繰り返している。

 お互いを見つめあう私達であったが、少女の顔は私のはるか上にあり、ワンピースの裾からは緑色の鱗がびっしりと生えた巨大な蛇の胴体が伸びていた。
 うねりくねりする蛇体が少女の下半身なのである。
 ラミアか、と私は内心で呟く。人面蛇体の女性しか存在しない魔物だ。
 始祖は既に失われた王国の王女が呪いを掛けられて姿を変えた魔物だと言うが、よもや我が故郷の近くに住んでいたとは知らなかった。

 魔物としての格は中の上と言ったところか。人間よりも長寿で、長く生きた個体ともなれば上級の魔物にも匹敵すると言う。
 強力な魔法を操り、蛇の下半身の一振りは容易く人間の首をへし折り、巻きつけば全身の骨を簡単に砕く力があり、ラミアが現れたら小さな村などは壊滅の危機に陥るだろう。
 人面蛇体の魔物であるラミアだが、総じてその人間の上半身は非常に美しい女性の姿をしているとされる。私の目の前のラミアの少女は、その風説が正しかった事をこれ以上なく証明している。

 また、鱗に覆われた下半身は私の竜としての感性から評価すると、まだ青さを残しながら、こちらの欲望をそそる魅力を発しつつある成熟過程の雌のそれに感じられる。
 鱗の照り具合や滑らかさ、うねる蛇身のしなやかさや若さを見て取れる肉のつき具合などはたいそう魅力的である。
 この場合、私の言う美少女とはつまり人間の上半身と蛇の下半身の双方を指し、二重の意味でラミアの事を美少女と私は感じていた。

 ラミアは私の姿を見て笑みをそのままに赤い唇を長い舌でぺろりと舐めた。新たな唾液の口紅が塗られて、一層ラミアの唇の艶やかさが増す。ただしどこかぎこちなく、頬がかすかに痙攣しているように見えた。
 私はさぞや美味そうな獲物に見えているのだろうが、はて妙な反応が少しあるな。
 人間と変わらぬ食事で生命を維持する事も出来るそうだが、ラミアの主食は他の生き物の精気である。
 特に祖が人間の女性であった為か、人間の男性の精気を最も好むと言う。
 となれば私はラミアにとって最上の獲物と見えていることだろう。

「こ、こんな所に一人で来るなんて、う、迂闊な人間ね。他には誰もいないのかしら?」

 なんとも甘い声であった。まだ大人になりきっていない少女であるのに、はちみつが滴るかの如く、こちらの脳髄を熱く恍惚とさせる声音である。
 魅了の魔力が付加されているが、ふむ、人間の精気を食べるのならこう言う芸当も出来るだろう。
 しかしなんという棒読みか。緊張に凝り固まって舌の根が上手に動いていない様子だ。
 これで役者として舞台の上に立とうものならば、二度と陽の目は見られなくなるのではなかろうか。 

少しばかり呆れながら私は答えた。

「私一人だけだ。他には誰もいない」

「そ、そうですか、良かった」

 私の目の前でラミアは豊かな乳房に胸を置いて、ほっと安堵の息を吐く。
 ふむ、このような状況ならば、曲がりなりにも人間である私の方がラミアと遭遇した事に怯えるべきなのだが、どうも目の前の少女は伝え聞くラミアとはいささか違うらしい。
 改めてラミアの少女の姿を見直してみると、どうもこの旅姿のように見える。

 となるとこの沼を住処としているのではなく、旅の途中でたまたま立ち寄っただけなのかもしれない。
 さて、私はここでどうするべきか。目の前のラミアから害意や邪気というものは感じられない。むしろ私に対して警戒心を抱いていると言うか、怯えていると言うべきか。

「ふむ」

 とはいえラミアが人間にとって危険な魔物である事には変わりない。私は右手を腰の長剣に伸ばし、柄をそっと握り込む。
 その私の動きに気付いて、ラミアの少女の顔には怯えの色がはっきりと浮かび上がり、ずるりと蛇の下半身が後退する。
 どうやら争い事が嫌いか、気の弱い性格をしているらしい。ますますもって私の知るラミアとはかけ離れている。

「ま、待って下さい。私は人間を」

 ラミアの少女が言い終わるのを待たず、私は一息に腰の長剣を抜き、ぬかるむ地面の上で風を巻く勢いで旋回し、背後から襲いかかって来た泥の腕を切り裂いた。
 私の背後の地面から伸びていた泥の腕は綺麗に二つに分かれ、そのどちらともがただの泥に戻って、地面に濡れた音を立てて落ちる。

「襲ったりしません……え?」

 事態の急展開に理解が追いついていない様子のラミアに背を向ける形で、私は長剣の切っ先をだらりと地面に下げたまま、簡潔に状況を説明する事にした。
 このラミアは私と敵対する意思は無いようだし、ひょっとしたら私に協力してくれるかもしれない、と考えたからだ。

「昔、ここにはリザード族が住んでいたが、ある日沼が濁り始めて別の場所へ移住した。
 彼らが移住する事になった原因だよ。狂った大地の精霊だ。時の流れの中で力を増したのかもしれん。これまで村の皆が沼に近寄らなかったのは、正解だったな」



 ドランが沼地で出会ったのは、上半身が美女、下半身が大蛇のラミアという魔物の少女だった。
 人間に対し敵意を向けるどころか、むしろおびえている様子のラミアをいぶかしむ暇こそあれ、ドランとラミアの少女を沼地に潜んでいた狂った大地の精霊が襲いかかる。
 十数年前に発生した大地震によって、精霊力の調和が乱れて大地の精霊が狂った事が、リザード族がこの沼地を離れた原因だったのだ。
 成り行き上、ドランはラミアの少女に対して共闘を提案し、二人は力を合わせて大地の精霊を撃退する事に成功する。
 共闘後、ラミアの少女は生まれつき人がよいのか、ドランに対する警戒心をすっかりなくしてしまっており、ドランはこのラミアの少女をどうするべきかと、悩むのだった。
ダイジェスト化いたしました。
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