(たたく音)障害者施設で繰り返されていた…深くおわび申し上げます。
命を守る血液製剤やワクチンの…そして食品の…組織内に隠されていた不正行為が内部告発によって発覚する事件が相次いでいます。
その陰で組織から報復行為を受けて苦悩する告発者の実態が今明らかになってきました。
不正をただす声を阻むものは何か。
知られざる内部告発者の実態を追いその背景と課題に迫ります。
こんばんは「クローズアップ現代」です。
化血研の薬剤不正製造。
東芝の不正会計。
こうした長い間組織の中で隠蔽され表に出なかった不正を明らかにしたのが内部告発者です。
内部告発は不正による被害から国民の命や利益を守るという意味があり社会的な利益つまり公益が非常に大きいものです。
その一方で内部告発者は解雇やパワハラなど組織による報復やさまざまな圧力に直面するリスクを負っています。
そこで彼らを守ろうと10年前に施行された法律が公益通報者保護法。
企業や行政機関に対し通報者の身分を保護しながら再発防止のために徹底的な調査や対策をとる事が求められています。
今行政に寄せられている公益通報は年間で4,000件を超えているんですが国の最新の調査によりますと現実には重大な問題がある事が見えてきました。
こちら通報を理由として解雇や嫌がらせなどの不利益を受けたという人が全体の半数近くに上っているんです。
保護する法律があるにもかかわらず善意の人が報復措置を受けているという実態。
一体現場では何が起きているんでしょうか?まずは当事者の声をお聞き頂きます。
麻酔科医の志村福子さんです。
勤務していた病院の問題について上司に通報したところパワハラを受け退職に追い込まれました。
深くおわびを申し上げます。
志村さんが勤務していた…去年腹くう鏡手術による患者の死亡が相次いでいた事が問題になりました。
実は内部では何年も前から医療体制のずさんさを指摘する声が上がっていました。
志村さんもその一人。
所属する麻酔科の体制に問題があると考えていました。
がんセンターでは歯科医師が研修を目的に手術の際の全身麻酔を行っていました。
この場合麻酔科医による指導が必要です。
しかし志村さんは医師の適切な指導なく全身麻酔が行われている状況を目の当たりにしました。
志村さんは当時のセンター長にこの状況を訴えました。
ところが思いがけない事態が待っていました。
志村さんは月に12件から21件の手術を担当していましたがその後全く割り当てられなくなったのです。
患者のためを思って訴えたにもかかわらず仕事を奪われ志村さんは退職せざるをえませんでした。
なんとか現状を変えられないか。
志村さんは退職後も手だてを探し続けました。
公益通報者保護法では内部告発を行う窓口として所属する組織のほかに行政機関なども認めています。
それを知った志村さんはがんセンターを告発するメールを厚生労働省に送りました。
ところが…。
厚生労働省は退職している志村さんを公益通報者保護法の対象外として告発を受け付けませんでした。
志村さんはやむなく千葉県を相手に裁判を起こす事にしました。
自らが受けたパワハラの賠償を求める過程でがんセンターの不備を世に知らしめようと考えたのです。
去年9月判決が確定。
がんセンターの不備を含め志村さんの主張が認められました。
裁判にかかった期間は3年。
志村さんは組織を相手に一人で闘い続けなければなりませんでした。
更に取材を進めると告発が受理されても適切な調査や対策につながらない問題も見えてきました。
会社の不正を内部告発したところ行政のずさんな対応に苦しめられたというAさんです。
Aさんが勤めていたのは宮城県にある…長年タラバガニなどの海産物を老舗の旅館や高級ホテルに卸していました。
しかし3年ほど前から業績が悪化。
経営者は売れ残ったカニの賞味期限を偽装して販売するようになりました。
偽装を告発する事を決意したAさんたちは貼り替えられた賞味期限のラベルなど不正を裏付ける証拠を集め始めました。
経営者に見つかれば退職は免れない。
必死でした。
そして去年5月Aさんたちは地元の保健所に証拠を提出。
会社の不正を告発したのです。
告発から4か月後。
ようやく保健所が立ち入り調査に入りました。
しかしその結果はAさんたちの期待を大きく裏切る内容でした。
「調査をしたが不正は認められなかった」。
「今後再調査を行う予定はない」と担当者から告げられたのです。
なぜ不正は暴かれなかったのか。
この調査の様子を地元の新聞記者が目撃していました。
記者の斉藤さんは自ら県の食品担当課に通報しました。
その結果県の主導で再調査が行われようやく不正の実態が明らかになったのです。
現在会社は県の指示を受け営業を自粛しています。
なぜ最初の調査が適切に行われなかったのか。
保健所を管轄する宮城県を取材しました。
すると内部告発の対応に精通した人材がいない中踏み込んだ調査が難しかった事が分かりました。
スタジオには内部告発の問題にお詳しい淑徳大学助教の日野勝吾さんにお越し頂きました。
どうぞよろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
VTRの方ですけど勇気を出してこの不正を明らかにしようとしたんですけれども不利益を被っていると。
非常にですね理不尽な事だと思うんですけれども日野さんはこちら専門としてですねどのようにこのVTRの方々ご覧になりましたか?あの2人の方のですね最後の言葉がすごくしみるんですけどもやはりこれは「言わなきゃよかったな」と「通報しなければよかった」というところが非常に大きいと思います。
公益通報者保護法という法律はですね名前のとおり保護をするというふうに名前をうたっていますのでそういった意味ではこの保護を信じて彼らは通報しようと思ったけれども結局はそこは泣き寝入りになったり嫌がらせを受けたりしているというところですね。
これは非常に法律の不備っていうのが目につくと思います。
これは極めて珍しいケースなのかそれとも特殊なケースではないと。
通報は4,000件年間来てる訳ですよね。
どっちなんでしょうか?当然難しいところありますけども氷山の一角だと思っています。
この暗数としては非常に多く全国にある訳でして例えば職場の中でですねいじめを受けたりとかそういうような場合もありますしまたその職場の中で仕事を与えられずにですね通報した結果ですねそういう状態になっているという方々も多いと聞いています。
保護法がある訳で法律によって守られるべき方が守られていないという現状があるようなんですが実際日野さんご自身も消費者庁の中でですねこの法を運用する立場にいらっしゃった事もあると。
具体的になんですけどどこがどのように機能していないと今見ていますか?こちらの方ですね。
問題点という点でありますが…。
3点ほど挙げて頂き…。
そうですね。
まず全部見てみたいんですけど「保護の条件が限定的」。
そして「報復行為への罰則がない」。
「専門の行政機関がない」。
3点なんですがまずこちらの…。
1点目ですね。
こちらの方は対象者が労働者に絞られているという点が挙げられると思います。
今回の志村さんの件のようにですね退職をしてから通報する場合には法律の適応外になるという点で非常に狭い運用のしかたになっているという点が挙げられます。
2つ目ですけれどもこの「報復行為への罰則がない」という事でして嫌がらせを受けたりしていますね。
あとパワハラだとかそういうような場合に事業者側の罰則がないというところで結局は裁判で決着をつけざるをえなくなってくるというところが問題点であります。
そして自らですねその証拠を自分で収集したり調べたりしなければ現実的になかなか難しいという状況。
これはそもそもおかしな話なんじゃないですか?法律上の欠陥だと思っていますし実際は民事ルールといわれてましてやはり裁判で決着をつけざるをえないとなると証明しないといけない。
その場合に実際の証拠を集めなければいけない。
そのハードルが非常に高いというふうに言えると思います。
そしてこの3つ目「専門の行政機関がない」ですね。
これも結局実際通報する場合にはですね違法行為の法律について知っておかないといけないんでしょうけども行政機関を探すのに非常に一苦労する訳です。
そういった一元的な窓口がないためにですね通報者が非常にいろんな所を探して結局迷ってしまうという結果が招いているというふうに言えると思います。
通報者側に非常にこれでは優しくない法律になっているというふうにしか感じられないんですけどただこの法律振り返ってみれば施行されてもう10年もたってる訳なんですがなぜこういった問題が見直されず改善されず今に至っていると見ますか?この10年でですねやはり事例の蓄積というのがなかなかなかったっていうところがあると思います。
要するに法律を改正する前提となるような事実っていうのが浮き彫りになってこなかったという点が挙げられると思います。
当然また日本の中での意識が非常にまだまだ低いというところがあると思います。
そういった意味ではもう少し一般の方々も知って頂くという事が大事ではないかなと思っています。
そういう意識が低いというのは具体的に言いますと組織の中できっちり通報していかなければいけないっていう雰囲気も含めた環境が醸成されてないって事ですか?実際はこの内部通報の…例えばその窓口ですね。
窓口は非常に設置はされてはいるんですけれども実際機能がですねなかなかまだうまく進んでいないというところがあります。
まあ形骸化しているなというふうには思っています。
はい。
施行10年目を迎えました公益通報者保護法。
機能不全が明らかになる中で今見直しの議論が動き出そうとしています。
公益通報者保護法の見直しを求める全国団体が設立されました。
当初私が内部通報して…。
中心になったのは組織の不正を通報した結果長年にわたって報復行為を受けてきた当事者たちです。
たとえ公益通報であっても保護されないと。
当事者の身になって頂いて皆様どんどんこの運動を盛り上げて頂きたいと思います。
団体では国に対し通報を専門に受け付ける行政機関の設置や通報者を不当に扱った企業への罰則などを強く求めています。
こうした声に応え国は今法律の改正を見据えた議論を行っています。
こうした見直しの議論の中で参考の一つとされているのが韓国の取り組みです。
韓国では以前から企業による不正行為が問題化していました。
その対策として内部告発の活性化を求める声が高まりました。
そこで5年前公益通報者の保護制度を新たに作ったのです。
最大のポイントは大統領直属の機関国民権益委員会の中に公益通報の専門部署を設置した事です。
日本の場合告発者自身が担当する行政機関を探して通報を行わなければなりません。
それに対し韓国では国民権益委員会に告発すればしかるべき行政機関に調査を要請してくれます。
行政機関は調査と結果の報告が義務づけられています。
もう一つ国民権益委員会の大きな役割が…4年前に大手通信会社の不正を告発したイ・ヘグァンさんはその恩恵を受けた一人。
会社ぐるみで行われた利用者への通話料の不正請求を告発したところ会社はそれを認めずイさんは懲戒解雇の処分を受けました。
解雇など不利益を受けた場合日本では告発者自身が企業などを訴える必要があります。
一方韓国では国民権益委員会に保護を申請して事実が認められれば企業に処分が下ります。
イさんはこの制度を利用しました。
解雇無効の処分を受けた会社はそれを不服として国を訴えました。
去年9月解雇を無効とする判決が下されたこの裁判。
2年に及びましたがその間イさんの経済的負担はなかったといいます。
この韓国ではなんですけど取り組みの結果ですね5年前と比べて通報件数が30倍に増えましてそのおよそ4割で不正が見つかったというんですがこの取り組み日本と比べてみて日野さんどうご覧になりましたか?本当に魅力的な制度だなと思いますけれどもそのまま日本にそれを移入していくっていうのは難しいかなとは思っています。
難しいというのは?まず人の関係ですね。
まず人材が育っていないのではないかと思っています。
当然通報する処理のフローもそうですがなかなかプライバシーを守るだとかそういう意識っていうのは長い期間でですね…研修だとかですねそういうようなものをかませていかないといけないと思っています。
ただ国民権益委員会でしょうか。
そのような組織というものが日本でなぜできないんだろうかと。
要するに消費者であったり通報者の盾になってですねその難しい問題をクリアしてくれるような組織っていうのがあった方がいいんではないかと思うんですけどどうでしょうか?消費者庁が出来る段階でですね法案の付帯決議でですね公益通報の窓口の一元化という事で消費者庁が一元的に検討を…窓口をしていくという事になっていたんですけれどもなかなかそこがですねやはり権限が難しいところでありまして各違法の法律の所管はそれぞれ別の官庁だったりしますのでそこに対して調査の権限を出す事なかなか難しいという事でなかなか法制度上難しいのではないかなと思っています。
であるならばですね難しい中で今まさに困っている人がいるという事にどう対処していけばいいんでしょうか?まずはですねやはりそういった方々に対する支援というところで例えば労働組合とか消費者団体などがですねバックアップをするようなそういったような団体が必要になってきますしイギリスの場合ですとそういったNPO団体がありましてそこで支援をしていってたりしておりますのでそういったような一つのモデルを参考にしていく事が一つかなと思っています。
この問題そもそも趣旨としては通報者だけではなくて広く公益…まあ社会の利益のために不正をただしていくという事でありますがどうすれば達成できるでしょうか?まずは意識を変えていくというところだと思います。
通報者っていうのは非常に身近にいるんだというところがまず一つ挙げられると思いますし我々も駄目な事は駄目だと言える社会をつくっていかないといけないと思っております。
今日はありがとうございました。
ありがとうございました。
2016/01/21(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「内部告発者 知られざる苦悩」[字]
“内部告発”によって、組織の不祥事が発覚する事件が相次ぐ中、解雇やパワハラなどの報復行為を受ける被害が後を絶たない。知られざる告発者の実態に迫り、対策を考える。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】淑徳大学コミュニティ政策学部助教…日野勝吾,【キャスター】西東大
出演者
【ゲスト】淑徳大学コミュニティ政策学部助教…日野勝吾,【キャスター】西東大
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:16638(0x40FE)