【低率の熱効率しか出せない「旧式の原発:発電装置」を,後生大事にその寿命を60年間にまで延長して稼働させろ,などとのたまうエセ科学的な議論をおこなう識者たち】

 【橘川武郎はまだ良心的に,学問的見地から発言(反対)】

 【鈴木達治郎は,学究として,ひどく中途半端の議論(賛成)】

 【田中伸男は,国家官僚上がりになる人間として,単なる原発擁護狙いの不徹底論(賛成)】

 
 ① 人物紹介からはじめる-鈴木達治郎-

 「すずき・たつじろう」(1951年生まれ)は現在,日本経済研究センター特任研究員 / 長崎大学核兵器廃絶研究センター副センター長・教授。専門は原子力政策,環境政策,科学技術政策。

 まず〈略歴〉は以下のとおりである。

  1975年 東京大学工学部原子力工学科卒
  1978年 マサチューセッツ工科大学プログラム修士修了
  1988年 東京大学大学院工学博士(原子力)
  1989年 マサチューセッツ工科大国際問題研究センター主任研究員
  1997年 電力中央研究所研究参事
  2004年 東京大学大学院法学政治学系特任教授
  2010年1月-2014年3月 原子力委員会委員長代理
  2014年4月 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授
  2014年5月~ 日本経済研究センター特任研究員
  2015年4月~ 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授

 つぎに著書・論文などは以下のとおりである。

  『どうする日本の原子力』共著,日本工業新聞社,1998年。
  『エネルギー技術の社会意思決定』共著編,日本評論社,2007年。
  『日本の未来社会』共著編,日本の未来社会,2009年。
  註記) https://www.jcer.or.jp/center/staff/97.html

 ② 鈴木達治郎「〈大震災から5年 エネルギー政策(中)〉『脱原発か否か 対立超えよ』国民の信頼回復急務」(『日本経済新聞』2016年1月20日朝刊「経済教室」)

鈴木達次郎画像 福島第1原子力発電所事故を経験した日本のエネルギー政策は変わったのか。一言でいえば,否である。その最大の原因は「脱原発か否か」の二極対立にこだわるため,事故後の解決すべき重要な課題にとり組めていないことにある。原発の是非にかかわらず,真に解決すべき課題にとり組むことが不可欠である。
 出所)画像は,https://twitter.com/tatsu0409
 補注)ここで鈴木達次郎は「真に」という表現(修辞)を使用しているが,要注意の用語・字句である。社会:世の中の問題にかかわっては,口で「真に」というのは,きわめて容易ではある。ところが,それを具体的に実現するための「真の」方途なり手段なりを求めることは,実際には「真に」困難なわざである。人間社会の事業・仕事に関して「真に」といったことばは,なるべく使わないようにしたほうが無難である。今日の問題は「原発の技術経済社会的な本質」にある。これに「真に」ということばを充てて,議論が尽くせるのか疑問がある。

 鈴木達次郎はまた,話題を「『脱原発か否か』の二極対立にこだわる」のはいけないと説教している。二極対立的な議論だとしたら,もしかしたら「自分の意向に反する意見」であれば,おたがいになんでも相手の意見を,他極の側に押しこめておこうとする論法になってしまうということか?

 そうだとしたら,なお問題がある。受けとめ方にもよるが,脱原発派・原発反対派の立場・議論を封鎖する意図が,そうした枠づけの方法にないとはいえない。脱原発にならざるをえない主張・議論をする側には,それなり理由・根拠がある。それも
「本日の論点」に含めて全体の記述をしていきたい。

 いうまでもないが,「3・11」以前における原発産業側からは,「安全神話」こそが「〈真に〉安全な神話だ」などといったふうに,途方もない嘘をまかりとおされてきた。この神話的提唱は極端も極端,そのきわめつけであった。

 安全神話はもともと,自然科学系の思考からする『機械-人間系』の基本的な特性を,神がかりに一気に克服できたつもりで虚構された
「20世紀的な  “大ウソ”  」であった。だが,それを真実とは信じないといって拒絶した者たちが,どれほど抑圧・排斥され〔イジメられ〕てきたか? その「真実ならぬ〈事実〉」は,もうすでに嫌というほど,われわれの前に陳列されてきている。

 〔鈴木達治郞に戻る→〕 一方で,福島事故の最大の教訓は「信頼の喪失」である。改革の最大のポイントは,民意を反映できるエネルギー政策決定プロセスの見直しにあると,筆者は考える。

 事故直後から,民主党政権はエネルギー・原子力政策の「ゼロからの見直し」をかかげ,改革にとり組んだ。従来なかった「エネルギー・環境会議」を国家戦略室のもとに設置し,旧来の審議会方式のみに依存しない意思決定プロセス構築を目指した。審議会のメンバー構成もあらため,より幅広い視点と多様な立場の専門家をメンバーに採用した。

 また「国民的議論をおこなう」との方針のもと,討論型世論調査をはじめ,国民との対話を通じて,新しいエネルギー政策の構築を図った。その結果「原発ゼロ」を目標とした「革新的エネルギー・環境戦略」が生まれたが,残念ながら閣議決定には至らなかった。その後の政権交代で「原発ゼロ」政策は見直されることとなり,2014年4月に福島事故後初めての「エネルギー基本計画」が決定された。

 民主党政権時と異なる重要な変化は,「原発依存度をできるだけ下げる」としたうえで,「原発をベースロード電源として確保する」という,一見矛盾した曖昧な政策が採用された点である。さらに重要なのは,民主党政権下で試みられた「国民的議論」がまったくみえなくなったことである。政策決定プロセスの改革は止まってしまった。これでは国民の信頼は回復しない。
 補注)「原発依存度をできるだけ下げる」としたうえで,「原発をベースロード電源として確保する」という提言は,いちおういまの自民党も模擬的に倣っている基本点である。だが,ベースロード電源に関するこの「基本点の理解」はズレており,そのような内容の関係でとらえられるものではない。2030年における「原発の比率」を「22~23%」の目標に置くという考え方は,「原発依存がベースロード電源として必要だ」とする過誤とも突きあわせたうえで,批判しておく対象である。

 「本記述(1)」(昨日:2016年1月25日)でも触れておいたが,原発がベースロード電源であるという定義・認識は時代遅れの発想であり,現実的ではない。稼働率(操業度)の面ではまったく融通の効かない,いわば《木偶の坊》的な発電装置・機械である原発は,逆説的にとらえれば「ベースロード電源としてしか充てのない電源である」に過ぎず,皮肉的にいえば,この不器用な特性をかばうためにベースロード用の電源として充てるほかないのである。電力需給に対して原発は弾力的に電力生産ができない。この技術特性のほうにこそ基本的な問題性があると観るのが,よりまっとうな理解である。

高橋洋画像 現在,都留文科大学文学部社会学科教授である高橋 洋(地方自治論・政治学担当)は,ベースロード電源の概念は供給側のものではなく,需要側のものであると説明しなおしたうえで,従来より間違えていたその理解を批判している。以下に少し長くなるが,高橋による説明を聞いておきたい。
 註記)http://politas.jp/features/6/article/381
 出所)画像も同上。

★「ベースロード電源」という新たな理屈 ★

 「安全神話」も崩れしてしまい「安価である根拠」も消されつつある原子力であるが,これを必死に正当化するための,最後かつ最新の理屈が「ベースロード電源」(論)である。なお,高橋 洋はこの理屈を批判する前に「原子力推進論者による4つの理屈」を批判している。こちらをさきに紹介しておく。

 イ)   ひとつめの理屈は,2011年の事故直後の理屈としては「電力の需給逼迫」を強調するものであった。けれども,原発ゼロでも安定供給に支障はなかったし,その後も節電は定着してきた。2013年以降,電力需給に大きな問題なない。

 ロ)   ふたつめの理屈は「国富流出論」だというおおげさな騒ぎだてであった。けれども,原発ゼロによる実質的な影響(貿易赤字への影響幅)は半分程度であった。
 補注)ある期間においてそれもたいそう長期間にわたっていたが,日本経済新聞のみならず大手各紙はそろって「原発停止→火力発電用燃料費高価」(だから原発の再稼働が必要だ)という1点を,ひたすら集中的に声高に報道してきた。ところが,原油安に価格が転回した以降は,とりたてて〔逆には?〕はなにもいわなくなった。一貫しない報道姿勢であった。火力用燃料が安価になったことも大いに強説すべき記事になりえたはずである。
    昨日〔2016年1月25日〕『日本経済新聞』夕刊の記事1面上部左側に配置された記事は,「貿易赤字5分の1に 昨年 2.8兆円,原油安で 12月は黒字」との見出しで,こう報道していた。この間,円安の要因も大きく影響していた。

 財務省が1月25日発表した2015年の貿易統計速報(通関ベース)は,輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支が2兆8322億円の赤字だった。5年連続の赤字だが,赤字額は東日本大震災以降で初めて減少に転じ,2014年の5分の1に縮小した。原油安で輸入金額が減った影響が大きく,同日発表した12月の貿易収支は1402億円の黒字だった。

 2015年の貿易赤字額は2014年の12兆8161億円から8割近く縮小した。輸入額は2014年比8.7%減の78兆4637億円だった。原油の円建て輸入価格が2014年比で39.6%下がり,輸入数量も2.3%減ったことが響いた。
 ハ)   みっつめの理屈は,中東からの化石燃料の輸入に支障が出かねないとして,ホルムズ海峡の軍事的な問題を挙げていた。けれども,エネルギー自給上もっとも優秀なのは,純国産の再生可能エネルギー(再エネ)であるゆえ,国際情勢に左右されることはなくなっており,またその枯渇の心配もない。
 補注)ホルムズ海峡における軍事関連の懸念に関しては,この海域において北側の沿岸線を有しているイランじたいが,軍事的な危険性は起こす事情にないと請けあっていた(反論していた)。にもかかわらず,当事国のこのような意向などとは無関係に,ただ日本側から勝手に決めつけた関係で,それもアメリカの感情・気分の受け売りどうかしらぬが,日本のための石油関連エネルギー調達に影響しそうな軍事的脅威論が勝手に想定され,しかも一方的に誇張されていた。

 ニ)   よっつめの理屈は,二酸化炭素排出量の増大であるが,長期的には再エネにより対応可能である。

 ベースロード電源という概念じたいは以前からあったが,これが積極的に援用されるようになったのは,2014年のエネルギー基本計画からである。このなかで政府は,ベースロード電源を「発電(運転)コストが低廉で安定的に発電することができ,昼夜を問わず継続的に稼働できる電源」と定義し,原子力を「重要なベースロード電源」と位置付けた。

 そのうえで,2015年1月からのエネルギーミックスの議論において,安定供給のためにはベースロード電源が6割は必要という理屈をもち出した。ベースロード電源のうち,水力や地熱は現状の1割程度から大きく増やすことがむずかしく,石炭も温室効果ガスの制約から3割が限度であるため,引き算で原子力が2割は必要になるというのである。
電源ミックス高橋引用図解
 ベースロードとは本来「需要のこと」であり,需要曲線の下層に位置する(上掲の図解「需要曲線とベースロード電源」で〕「流込式水力+原子力+火力〔と記入されているが〕の一部に該当」),24時間続く最低限の部分を指す。

 電力需要は時間帯に応じて変動するため,すべての電源を24時間動かしつづけるわけにはいかない。限界費用が低い(逆に初期費用が大きい)原子力や石炭火力を,ベースロード電源として優先的に稼働させ,つぎに限界費用が低いガス火力はミドルロード,石油火力や揚水がピークロードに対応してきた。この給電順位がメリットオーダー(優先させる順位)である。

 しかし,原子力などがベースロード電源で,これを一定割合以上維持しなければならないというのは,国際的にみれば時代遅れの考え方である。(水力を除けば)再エネがわずかであった時代にはそれが一般的だったが,再エネが20%を超えるような時代には,ベースロード電源という概念そのものが,崩壊しつつある。

 なぜならば,第1に,風力や太陽光,そして旧来からの水力といった再エネこそ,燃料費ゼロで,原子力以上に限界費用の低い,したがって優先的に給電すべき電源だからである。第2に,その結果,原子力や石炭火力の給電順位が劣後し,出力調整運転が一般的になっている。「日本のベースロード電源比率の推移」については,つぎの図表を参照したい。
ベースロード電源比率推移高橋画像2
出所)「各電源の特性と電源構成を考える上での視点」
 (資源エネルギー庁,2105年3月)。

 第5回長期需給見通し小委員会(2015年3月27日)では,ベースロード電源の重要性に関する説明に時間が費やされた。諸外国は,日本政府が定義するベースロード電源の比率が「6割~9割」なのに対し,日本も福島原発事故前は6割以上あったが,事故後は4割に下がっている。「国際的にも遜色ない水準で確保することが重要」としている。しかし,諸外国の状況はあくまで現在の話であり,2030年時点の目標値ではない。

 たとえばドイツでは,2030年に再エネ50%を目標にしており,2014年時点で28%に達している。その内ベースロードと呼ばれてきた水力や地熱は5%弱であり,2030年時点でもあまり増えない。したがって,残りの45%は風力・太陽光・バイオマスなどが占める予定で,この時点で原子力は0%になっている。
ベースロード電源比率推移高橋画像3
出所)同上。「主要各国におけるベースロード
電源の比率」に関する図表。

 2050年には脱石炭もめざしているため,2030年の時点でどう計算してもベースロードは30%程度にしかならない。また,イタリアやスペインは,現時点ですでにベースロードが50%を下回っており,今後さらに風力や太陽光を増やす。

 脱原発かどうかは別にして,先進諸国はいかにして再エネの割合を増やすか,その反面石炭火力や原子力を減らすかという競争をしているときに,日本だけがいかにして後者を維持するか,そのために前者を抑制するかという議論をするのは,きわめて違和感がある。目的と手段をとり違えているのかとも思える。

 --以上,高橋 洋の「電源としての原発」をどのように位置づけるかに関した議論は,原発を「ベースロード電源」とする考え方が,国際的にはいまや時代遅れであるのに,日本国内ではまだ歪曲された理解でもってその必要性が固持されている点を批判している。その論旨の意味は,究極的には原発不要論,原発無用論になるほかない。

 それでも,たとえば本日〔2016年1月26日〕『日本経済新聞』朝刊の記事としても出ているように,ともかく電力会社は原発再稼働に執心している。この立場は,営利企業として当面する採算性にもとづいた判断から出ているものであるが,21世紀の全体を展望したうえで,エネルギー問題をどうするかといった見地とは,いっさい無縁である。

◆ 関電,4月に値下げ-高浜原発,29日にも
再稼働 収支改善で家庭5%- ◆

 関西電力は4月に電気料金の改定を国に届け出て値下げする。高浜原子力発電所3号機(福井県)が29日にも再稼働するほか,2月末にも4号機が再稼働し収支改善のめどが立ったため。家庭や企業などすべての顧客の電気料金を引き下げる。下げ幅は家庭向け電気料金で平均5%前後。

 原発再稼働による燃料コスト削減効果が企業や家計に波及する。電気料金には原油やガスといった燃料費を毎月,自動的に反映して上げ下げする制度がある。関電が今回実施するのは制度にもとづき燃料費を転嫁する微調整ではなく,総コストを見直して電気料金全体のベースを引き下げる約8年ぶりの本格値下げだ。

 2011年の東日本大震災をきっかけに電力大手10社のうち7社が本格値上げした。とくに原発への依存度が高い関電は2013年5月に家庭向けで平均9.75%,2015年6~10月にかけて8.36%と2回の値上げを余儀なくされた。

 関電の電気料金は今〔2016〕年2月に標準家庭で月額7899円と全国でもっともも高い。関電は今〔1〕月15日,4月からの新料金プランを発表し,使用量が多い家庭は最大5%程度安くなるメニューを設けたが,競合する新電力の料金より割高感があった。

 4月の電力小売り全面自由化による激しい競争を乗り切るには,さらなる値下げが不可欠と判断した。今回の追加値下げで使用量が多い家庭は現行料金より最大1割ほど安くなる。

 関電は〔1月〕25日,高浜3号機を再稼働させる計画を固め,原子力規制委員会に報告した。2013年に規制委が厳しい安全対策を課す新規制基準を導入後,昨〔2015〕年に再稼働した九州電力の川内原発1,2号機(鹿児島県)に続き,2カ所目。高浜4号機も原子炉への核燃料の搬入を31日に始める計画だ。

 高浜3,4号機が動けば営業利益を年1440億円押し上げるとされる。3月下旬にも3,4号機がそろってフル稼働するとみて4月の早い段階で国に値下げ改定を届け出る。下げ幅は家庭向けで4~5%台とする見通し。新料金の説明に時間を割くため値下げ実施時期は5月1日となる可能性もある。

 関電は大飯3,4号機(福井県)が再稼働すればさらに本格値下げする考え。大飯3,4号機は規制委の審査が大詰めを迎えている。関電は2016年度中の再稼働をめざし,審査にかかわる人員を増やして対応する。

 九電は川内原発1,2号機の再稼働による収益改善効果は限定的とみており,まだ本格改定による電気料金引き下げを実施していない。残る玄海原発(佐賀県)が再稼働すれば本格値下げを検討する構えだ。
 註記)『日本経済新聞』2016年1月26日朝刊1面。
 この報道に記述されているのは,当面する収支計算,それも電力自由化を目前に控えた時期に,企業競争としての電力販売事業に負けてはならぬという関電の経営姿勢である。ここでは関連させて,原油価格の大幅な下落が今回の電気料金5%に対して,いかほど作用しているかという問い(説明)があって当然である。だが,話題はすべて原発再稼働のほうに向けられ,この再稼働のせいで電気料金の値下げが可能であるかのようにだけ説明されている。

 電力会社の立場は,21世紀の未来における日本経済社会のエネルギー事情をどのように考慮するかよりも,目前の営利原則追求がどのくらいよりよく達成できるかのほうに,もっぱら関心事が集中している。国民の過半数が原発再稼働反対である世論など,そっちのけなのである。そういう企業行動方式に徹している。「原発の再稼働さえ実現できれば電気料金が安くなります」といったふうに,販売コスト面からの《えさ》を電力利用者の目先にぶら下げ,宣伝し,応答する「対消費者関係」しか念頭にない。

 つぎの画像資料は『朝日新聞』2016年1月25日夕刊に報道された関連記事である。説明は不要。(画面 クリックで 拡大・可)
『朝日新聞』2016年1月25日夕刊
     電力側の住民や企業への備えは,ないに等しい。安全性が高まれば事故は起きない。そんな安全神話は5年前,簡単に崩れ去った。「教訓」は置き去りにされたままである。
 註記)『朝日新聞』2015年1月25日朝刊,「電力を問う 原発事故5年(3)-矛盾抱える原発賠償-」。
〔鈴木達次郎の記事本文に戻る→〕 こうした状況のまま,福島事故後の解決すべき重要な課題の議論が進んでいないのが最大の問題だ。筆者はつぎの3点について,早急に改革を進めていくべきだと考える。

 まずなによりも福島第1原発の廃炉や避難地域の復興を安全かつ迅速に進めることだ。そのための長期的な体制づくり,資金や人材確保,技術開発などを最優先課題としてとり組まなければならない。このプロセスの透明性と信頼を確保することも重要である。

 また,いまだに10万人近くいる避難住民の安全確保や精神的ストレスのケアにもっと配慮がなされるべきである。避難地域の解除に伴う復興問題と汚染土の貯蔵や最終処分問題についても,住民との合意形成プロセスを明確にして進めていく必要がある。今後増大する一般の原発廃炉対応も含め,長期的な人材確保もとり組むべき重要課題である。

 つぎに重要な課題は,使用済み核燃料と廃棄物処理・処分問題である。発電所内の使用済み燃料プール貯蔵容量は限界に近づいている。事故以前から「中間貯蔵」の必要性が強調されているが,これまで大きな進展はない。2015年10月に最終処分関係閣僚会議が了承した「使用済燃料対策に関するアクションプラン」では,使用済み燃料を「廃棄物」として扱ったことにくわえ,国がとり組む姿勢を示したという点で,一歩前進ではある。

 技術的には貯蔵プールの安全性を考慮すると,早期にプール内貯蔵をやめ,乾式(空冷式)貯蔵に移行させることが望ましい。乾式貯蔵の促進について政府・電力業界はもっと真剣にとり組むべきだ。国が中間貯蔵後の引き取りや保管自体に責任をもつ「国家責任保管」といった新しい概念を打ち出す必要があろう。

 放射性廃棄物の最終処分も合意プロセスの改革という視点でのとり組みがなされていない。日本学術会議が提唱した「国民合意に必要な期間を確保するための暫定保管」提案は検討に値する。合意プロセスの改革には,運営主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)のほかに,新たに独立・不偏で国民の立場から評価する第三者機関の設置や市民参加の仕組みを導入するなど,科学技術情報に対する信頼回復と市民参加を促す制度設計が不可欠である。

 核燃料サイクル政策の改革も不可欠である。現在の硬直的な「全量再処理政策」では,使用済み燃料は「資源」としてしか扱われず,直接処分の選択肢が制度上も存在しない。また再処理費用は発電コスト換算で直接処分の2倍近いと推定され,再処理を継続するほど国民負担は増す一方である。

 高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)については,2015年末に原子力規制委員会が運営主体の見直しを文部科学省に勧告した。民間事業である青森県六ケ所村の再処理工場も再び運転開始が延期された。政府はこれを機に,再処理事業,そして核燃料サイクル政策や原子力研究開発の総合評価と根本的改革のための議論を始めるべきである。検討されている再処理事業継続のための認可法人化は全量再処理を前提に進められており本末転倒である。将来の柔軟性確保のためにも,全量再処理路線からの脱却が不可欠である。

 最後に,再処理後に回収されたプルトニウムの在庫量問題がある。2014年末時点で在庫量は日本国内に10.8トン,英国とフランスに37トンで,合計47.8トンにのぼる(表参照)。日本の在庫量は非核兵器国としては最大であり,国際的な安全保障上の懸念を呼んでいる。この観点からも核燃料サイクルの見直しは不可欠である。

 また,プルトニウムを普通の原発で再利用する「プルサーマル」が計画通り進まない可能性も考慮し,在庫量削減のための代替処分方法を早急に検討すべきだ。具体的には地層処分の技術開発や,海外への処分委託,プルトニウム処分の国際協力プログラムを立ち上げるといった案が考えられる。これは原子力政策というよりも,核セキュリティーや安全保障の課題として検討すべき重要課題である。

 以上3つの課題は,脱原発か否かにかかわらず,解決すべき重要課題だ。こうした政策の実効性を高めるためにも国民の信頼回復が不可欠である。国民の信頼を高め,政策の構造改革を進めるには,意思決定過程の改革が不可欠である。国民は,政府や電力業界の情報を信用していない。原子力推進・反対の立場を明確にしている既存団体の情報への信頼度もそれほど高くない。

 政府も信頼回復の必要性に気づきはじめている。新しいエネルギー基本計画では「国民各層とのコミュニケーションの深化」の欄が設けられ,「客観的な情報・データのアクセス向上による第三者機関によるエネルギー情報の発信の促進」が提言されている。

 筆者は以前から,独立した第三者機関の重要性を訴えてきた。技術の社会的影響を評価する「テクノロジー・アセスメント(TA)」の制度化についても,「不偏・不党の独立した立場(推進でも反対でもない立場)」から情報発信することの重要性を唱えてきた。第5期科学技術基本計画にもTAの重要性が明記された。真の第三者機関を設立して,政府の政策を独立の立場から検証するメカニズムを政府は真剣に検討すべきである。

 福島事故はまだ終わっておらず,教訓を踏まえた改革も進んでいない。原発を巡る二極対立を超えて,エネルギー・原子力政策の構造改革につなげていくことが望まれる。

 --さて,以上のごとき「鈴木達次郎の議論」については,はたして実現するみこみはあるのかと問うてみたい。鈴木が,論点をいちいちていねいに羅列・指摘し,さらに批判・主張している諸点は,とりわけ脱原発派論者の立場・思想からであれば,いままですでにいくらでも批判され,代替案が説明され,将来の方向づけが提案されてきたものばかりである。

 鈴木はなかでも「国民の信頼」が大事だと強調している。だが,政府(≒議会)・官界(高級官僚)・電力会社(産業界)・学界(原子力工学者たちなど)・マスコミ(大手の各メディア)などのすべてが一致したうえで,それも徒党的に利害集団原子力ムラを形成している事情のなかでは,現在でも変わらずに国民側における「多数派の意思」である「原発廃止」など,平然と簡単に無視されつづけ実質的に圧殺されてきた。

 「3・11」からもうすぐ満5年目の時期が来る。いまのこのときにあって「政府も信頼回復の必要性に気づきはじめている」などと悠長で脳天気な意見を披露できる〈神経〉が,そもそも疑われてよいのである。原発が “トイレのないマンション” だといわれてきたが,この庶民にもよく理解できる表現にこそ反映されている「原発じたいのもっとも困難な技術面の問題性」は,「国民の信頼」というたぐいの問題以前に固有の問題として明示されていたはずである。

  ※ 3つのポイント ※

   ○  原発の是非によらず解決すべき課題多い
   ○  政策決定過程への民意反映の仕組が必要
   ○  国内のプルトニウム在庫量の削減検討を


 本日の記述でとりあげ批判した鈴木達次郎の寄稿は,上記の3つがポイントであるとまとめられていた。このポイントにおいて使われている表現に対しては,「いまさらの感がある」「〈微温的な提言〉である」という印象が回避できないと断わっておく。

 この程度の原発問題に関する意見は「3・11」以前からすでに的確に提示されてきたはずである。したがって,この程度でしかない内容の寄稿がなぜ,いまの時期に『日本経済新聞』「経済教室」に掲載されたのかという注目をしておく必要がある。「屋上屋を架する」議論を,いかにも斬新であるかのように語る(騙る?)原発論になっていないか?

 ③「原発20~22%『非現実的』 米機関,8.9%と分析 2030年度電源構成」(『朝日新聞』2015年8月6日朝刊)

 以上 ② の記述に関しては,「2030年度の日本の電源構成」に触れていたこの記事が参考になる。② のなかでとりあげ言及した高橋 洋の議論に通じて,それも部分的には補強する内容である。

 --原発を2割超とした日本政府の2030年度の電源構成について,エネルギー市場分析に定評がある米民間調査機関が「非現実的」とするリポートをまとめた。独自分析で,原発は半分以下にとどまり,減った分を天然ガス火力が穴埋めすることになると予測した。政府予測は「希望的観測にもとづき,市場動向や政策と矛盾がある」とも指摘する。
『朝日新聞』2015年8月6日原発問題記事画像
 米大手金融経済情報サービス会社のエネルギー市場調査部門,ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)が,事業計画や市場動向などに,現行の規制も考慮し予測した。政府との大きな違いは原発と天然ガス発電にある。

 原発は政府目標が20~22%なのに対し8.9%。再稼働の可能性を一つひとつ分析し,今後3年間に26基が再稼働すると予測。新設はないが,3基は原則40年とされている運転期間を延長するとみこんでいる。政府目標には,建設中も含め37基を動かし,うち18基で40年超運転の必要があるという。「福島の事故以来の反原発の機運や膨大な追加的費用があり,とてもむずかしい」とのみかたである。

 火力では天然ガスの役割を大きくみた。出力が不安定な太陽光の増加に対する調整電源として有効とし,政府の27%に対し現状に近い42.2%と予測した。再生可能エネルギーは,政府より上乗せした26.1%。太陽光は価格低下で公的支援なしでも普及が進み,原発を上回る11.6%を占めるとした。海外で主流の風力は,他電源と比べ環境影響評価がはるかに厳しく,課題と位置づけた。

 これらの結果,2030年度での電力部門の二酸化炭素(CO2)排出量は2013年度比で28%削減と予測。政府の温室効果ガス削減目標(26%)は「道筋は違うが,現実的だ」とした。

 リポートは電源構成の決め方にも言及。今回の経済産業省の審議会方式では,政治的な配慮の影響を避けられないとし,「米エネルギー情報局のように,独立機関が分析するようなアプローチを考慮する必要があるのでは」と指摘した。

 ※「電気料金減は不透明」指摘。 日本政府が電源構成の決め手としたのが,「ベースロード電源」と「電力コスト」という考え方である。ベースロード電源は安くて安定的に供給できる電源と定義。原発・石炭火力・水力・地熱で計6割を目標とした。現在はもとも割合が大きい天然ガスと原発が競合しないかたちになっている。

 電力コストは,火力と原子力の燃料費,再生エネの買い取り費用と送電線への接続に伴う費用を足し合わせたものとなる。政府はこれを全体で引き下げ,国民負担を減らすとアピールする。
 補注)「ベースロード電源は安くて安定的に供給できる電源と定義」するのであれば,原発をこれに容れることじたい,根本的に錯誤である。というのは,この点:「原発コストは安く,供給も安定的にできる」という論拠が,どだいふたしかだからである。

 今後において「廃炉問題の全般」や「福島原発事故」「高速増殖炉」などの後始末のためにも発生してくる大幅なコスト増は,いったいどこまで膨らんでいくのか,まだ誰にも正確な予想はできていない。

 前段の話題は,このまだ計測すらが困難である関連「諸コストの大発生」を,事前に除外しておいた「単なる〈想定〉」であった。それゆえいまでは「原発コスト安価」は,まったく「アテにならない:信用ならない」幻想(デッチ上げ)であるというほかない。つぎの記述にもあるように,要は,原発再稼働にとって「都合の悪いコスト要因」は,ひたすら隠した説明である。まともな議論になっていない。


 〔記事本文に戻る→〕 ただ,電力コストには,火力と原子力の建設費や追加安全対策費,運転保守費などは含まれない。大島堅一・立命館大学教授(環境経済学)は「政府のいう電力コストは,電力に必要なコストの一部で,私たちが支払う電気料金が減るかははっきりしない」と指摘する。

 一方,再生エネの買い取り費用は,建設費や運転保守費などをすべて含む。燃料費が減った分以上に買い取り費用は増やせないため,再生エネ導入量の伸びしろは限られる。BNEFも「石炭火力と原発を守ると同時に,CO2排出削減を達成することを調整する試みのようだ」と分析する。

 ④ アーニー・ガンダーセンの日本原発批判

 以下,記述中にかかげる3点の画像資料は,アーニー・ガンダーセンが語る『福島原発 血税どぶ捨て 凍土壁失敗 百年掛る廃炉 費用60兆円 Gundersen:#Fukushima,IceWallWasteTAX 』から切りとったものである。
 註記) 2015/07/27 公開,https://www.youtube.com/watch?v=JuuHtbMq7FE

 アーニー・ガンダーセンは「福島第1原発廃炉に100年と60兆円費用がかかる」と指摘している。
 補注)本ブログ筆者も同じような主張(批判)をなんどもしてきた。その道の専門家も,あまりにも当然であるかのように語っている。福島原発事故現場の収拾のために必要な時間は「半世紀どころか1世紀」にもなると指摘している。

 a) 核分裂後のメルトダウン燃料の破片は,物理的に5年間は高熱を発する。3機の格納容器は完全に穴が開いており,それぞれの原発は絶えず地下水系に直接的に接触しており,設計者も技術者もこのような事態を原子炉で想定してない。原子炉本体は完全な停止状態には至っていない。核分裂後のメルトダウン燃料の破片は,物理的に5年間は高熱を発する。

 b) 原子炉3基の格納容器は完全に穴が開いており,それぞれの原発は絶えず地下水に直接的に接触しており,環境汚染や住民の影響などお構いなしである。福島第1原発は毎日300トンの汚染水が排出されており,排出される汚染水には終わりない。福島第1メルトダウン後,1500日〔今日は2016年1月26日になっているから,1780日ほどになるが〕以上経過している。

 c) 毎日タンクローリー車50台分汚染水が排水される。タンクローリー車23,000台分の汚染水が太平洋に漏れ出ている。東電がおこなっていることは,4年間〔5年間近くも〕,水が注ぎっぱなしになっているバスタブから溢れてくる水を,別バスタブ用意し溜めこんでいるのと同じであり,真の解決策は元凶の地下水を止めることである。

 d) 地下水系専門家は,東電と日本政府に対して地下水問題は,既存の確立された技術で解決することを助言してきた。だが,日本政府と東電はこうした専門家の意見には耳を貸さず,東電は地下水問題解決のため凍結遮断壁構築を進めている。だが,おそらく失敗に終わるだろう。
 補注)そのとおりである。完全にメルトダウン(溶融)した福島第1原発の3基は,チェルノブイリ原発事故(こちらは1基)よりひどい事故の状況に陥っている。つまり,チャイナ・シンドロームを起こしている。地中にまで溶け出したデブリが地下水汚染の原因であるが,いまだに解決の見通しすらつかない状態がつづいている。
アーニー・ガンダーセンの原発批判画像2

 e) 福島第1原発の場合,メルトダウンした核燃料コアがどのような状態にあるか,まだ誰も正確には把握できていない。メルトダウンを起こした3基の原発の核燃料コアは地下水系と接触を起こし,山側から流れてきた地下水は,核燃料コアと接触を起こすことで汚染­され汚染水に変わっている。 汚染水問題により福島第1廃炉は,チェルノブイリ廃炉に比べ100倍も複雑性を増しており,費用も100倍かかる。福島第1廃炉費用は5000億ドルはかかるだろう。
アーニー・ガンダーセンの原発批判画像1

 e) ウクライナ政府はチェルノブイリ原発の廃炉には100年かかるとし,日本政府と東電は廃炉は30年で済むとしている。廃炉にどれだけの歳月と費用がかかるかは,最終的に科学的問題より政治的問題であって,廃炉事業にどれだけの予算投じるかによって決定される。
アーニー・ガンダーセンの原発批判画像3
 f) 電力会社は休止状態原発のためだけに,数百億ドルもの費用を銀行から借り受け賄っており,福島第1廃炉以前の問題として,費用増大により廃炉事業の費用調達を難しくしている。莫大な貸付金保証とし,銀行は休止中原発早期再稼働をめざしている。銀行は議会に対して原発再稼働するように物凄い圧力かけている。

 g) 以上のまとめ(おさらい)

 1 日本人はまず,福島第1廃炉を30年で終えることは不可能であり,100年超はかかるということを自覚するべきである。

 2 福島第1から流出するプルトニウムを含む汚染水は,今後数十年間に渡って継続する。地下水の浸食は止まらない。

 3 福島第1で生じるダンプで数十万台分に相当する核廃棄物は,最終的には日本のどこかに最終処分場を構築して保管する必要がある。

 4 福島第1で働く数千名の若い作業員は,高い放射線被爆を受けることになるだろう。

 5 福島第1廃炉費用は,最終的には60兆円(5000億ドル)程度になるだろう。

 6 最後に,福島第1からとり除かれた核燃料コアなどの高濃度放射線廃棄物の最終処分場を日本国内でみつけることは不可能である。汚染ははてしなくつづいていく。
 
 --このような指摘が虚構の分析ではなく,事実に関する専門家の説明だとすれば,鈴木達次郎が「3つのポイント 」として整理したつぎの事項は,たとえていえば「泥棒を捕らえて縄を綯う」よりも,このさらに「以前の段階」における発言内容でしかない。

 「原発の是非によらず解決すべき課題多い」という「最初(第1番目)のいいぶん」などは,これが《おとぼけ》でなければ,多分〈恍惚的な感想の文句〉である。

  ○  原発の是非によらず解決すべき課題多い
  ○  政策決定過程への民意反映の仕組が必要
  ○  国内のプルトニウム在庫量の削減検討を
 
  東電福島第1原発大事故の後始末に関していえば,金銭的にそれを最終局面で負担しつづけているのは「国民・市民(電力利用者のみならず全国の人びと)」である「われわれの立場」である。原子力ムラの無責任な人びとは,道徳だとか倫理だとかは無縁の世界に存在している。
渋沢栄一論語と算盤表紙
 渋沢栄一は「算盤と論語」を説きながら,日本の産業経営を数多く起業させてきた人物であったが,栄一の亡霊にもお出ましいただき,ひとつ,お説教でもしてもらわねばなるまい。もちろん原子力ムラの面々に招集をかけて,そうしてもらうのである。
 出所)画像は,渋沢栄一『論語と算盤 CD-ROM』パンローリング,2013年。

 それどもゴジラに登場してもらい,原子力ムラをじかに倒壊・殲滅してもらうか?
 福島第1原発3号機とゴジラの比較画像
   出所)http://blog.livedoor.jp/gs1220/archives/50697930.html