企業のM&A(合併・買収)が空前のブームを迎えている。なぜ今、企業は我先にとM&Aに動くのか。証券会社のアドバイザーや弁護士、公認会計士など、大型案件の裏表を熟知するスペシャリストがM&Aの現場を語る。
■新日鉄・住金合併を担当
中山龍太郎(なかやま・りゅうたろう)
95年東京大学法学部卒、99年に弁護士登録(51期)。06年ニューヨーク大学ロースクール修了。07年中央大学法科大学院非常勤講師。伊勢丹と三越の統合や、協和発酵とキリンの製薬事業統合、東京証券取引所と大阪証券取引所の経営統合、三菱重工業と日立製作所の火力発電システム事業統合などを手掛けた
昨年は日本企業による海外企業のM&Aが話題になりましたが、国内企業同士の再編も増えてきています。私の所属する西村あさひ法律事務所でも昨年は出光興産と昭和シェル石油などの大型統合案件を手掛けました。日本企業はどんどん寡占化が進んでいますから、これからは独占禁止法の壁を突破できるかどうかが国内案件の成否を決める状況になるでしょう。
わたしは独禁法が得意分野です。過去を振り返って印象深いのは新日本製鉄と住友金属工業の合併ですね。この時は新日鉄側につきました。新日鉄自身が八幡製鉄と富士製鉄と統合して誕生した会社です。その当時も一部の製品が独占的になるのではないかという議論があったぐらいですから、独禁法をどうクリアするかは大きな課題だったわけです。
新日鉄と住金の合併交渉入りの発表は2011年2月ですが、先行して出た案件で、鉄鋼業界の寡占に対する公正取引委員会の厳しい見方はわかっていました。電炉大手の共英製鋼と中堅の東京鉄鋼の経営統合案件です。両社は統合で合意していましたが、公取委の審査が長引き、統合効果を早期に得ることが難しくなったとして統合が破談になりました。新日鉄と住金なら、なお難しい。相談を受けた時は日本の産業史に残る大合併ということもあって、思わず身震いしましたね。
車のボディーにつかう薄板など多くの製品は公取委に市場の実態を丁寧に説明することで、日本では独占的な状態にはならないと理解してもらえました。ただし、いくつかの商品については市場シェアが非常に高くなり、「独占力が生じるのではないか」との問題が提起されました。とくに電化製品のモーターなどに使われる電磁鋼板については独占的な立場になり、価格上昇を招きかねないとの懸念もありました。これについては経済分析の結果などを示し、輸入製品との競合なども指摘しましたが、最終的には住金が持っていた商権を商社に譲渡することで決着しました。
うまくいったのは鋼矢板です。土砂などをせき止めるために使う鋼材です。生産する企業が少なく、市場シェアが高まる懸念がありました。これについては土砂のせき止めに使う製品がコンクリートなど他にもあるという具体例を探して、公取委の説得に成功しました。一般論ですが、市場シェアが4割を超える場合は公取委の判断が慎重になる傾向があります。この場合に市場の範囲をどう考えるかが重要です。審査対象となる製品の代替性、つまり他に置き換えが可能な製品があるかがポイントになります。鋼矢板のように別の分野で機能的に代替できる製品があれば公取委はシェアがそれほど高まらないと判断するケースもあるのです。
中山龍太郎、東京エレクトロン、新日本製鉄、昭和シェル石油、新日鉄住金、西村あさひ法律事務所、共英製鋼、出光興産、住金、アプライドマテリアルズ、東京鉄鋼、住友金属工業、豊田通商
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