【軽井沢スキーバス転落】事故のバス会社は監視の目が届かぬ「アウトサイダー」だった 「土下座社長」の説明も二転三転し…
長野県軽井沢町のスキーバス転落事故で、バス運行会社「イーエスピー」(東京都羽村市)の法令違反が次々と明らかになっている。同社は“アウトサイダー”と呼ばれる業界団体に未加入の業者だった。事故車両は道路運送法が義務付けた出発前の点呼すら行わずに出発していた。高橋美作社長(54)は事故翌日の16日に開いた会見で土下座して涙ながらに謝罪したが、事故による死者は15人。長野県警や東京労働局に家宅捜索を受け、大型バス事業からの撤退に追い込まれるなど、ずさんな運行管理の代償はあまりに大きかった。
社長が点呼に遅刻…相次ぐ違反に国交省も絶句
「本当にこの度は大変な迷惑をおかけしまして、申し訳ありませんでした。心よりおわび申し上げます」
約1時間40分に及んだ16日の会見の終了間際、高橋社長は涙ながらに土下座し、同社社員に抱きかかえられるようにして会見場を後にした。
国土交通省から書類の不備を指摘されていたが、高橋社長は会見で“新事実”を明かした。
「当日は点呼をせずに出掛けてしまいました」「私がする予定でしたが、少し時間が早く(事故で死亡した運転手2人が)出発したもので、私が遅れてしまい、立ち会うことができませんでした」
点呼に遅れた理由は「時間を思い違いしていた」。遅れた時間は当初「5分くらい」としていたが、その後、「移動も含めると10分ぐらい」と修正した。
それまで同社で行っていた点呼の場所を昨年12月から市内の別の場所に変更して以降、点呼をしないケースが「少しずつ増えていった」という。
点呼の書類にはあらかじめ社長の印鑑が押されていた。会見に同席した運行管理者は、自身が事前に押印したことを認めた上で、これまでも「正直なところ、何回かはあった」と明かした。
同社のずさんな対応は点呼だけにとどまらない。
事故を起こした運転手の法定の健康診断や適性検査を実施していなかっただけでなく、過重労働の運転手がいたことを示す資料も出てきている。国交省幹部も「かなりひどい状態」「ここまでひどいのはない」と絶句した。
下限下回る額で受注 半数は業界団体未加入
説明内容も二転三転した。
高橋社長は16日の会見で、ツアーを法定の基準額の下限を下回る額で受注していたことを明かし「利益率の高い仕事だなと思って請け負った」と説明した。だが、翌17日午前には同社幹部が「基準以下という認識はなかった。確認を怠っていた」と修正。ところが同日夕方には社長が「昨年12月には基準額を認識していた」と再び説明を変遷させた。
事故が起きたツアーでは、会社側が運転手に対して作成する「運行指示書」にルートの記載がなく、出発地と到着地しか書かれていなかった。
当初、同社幹部は「通常のツアーは、指示書に旅行会社が作った行程表や地図などを添付し、運転手に渡していた。運輸局には指示書に『別表』という記載があればいい、という指導を受けていた」として、書式に問題がないとの認識を繰り返し示していた。
だが、3日間に及んだ国土交通省の特別監査の最終日の17日になって、高橋社長が「運行指示書が正しく作られていなかった」と不備を認めた。
国交省自動車局幹部は「運行指示書の模範様式を埋めていくことで、自然に安全確認に必要な手順を踏むことができるようになっている。制度の理解が不十分なのではないか」と首をかしげる。事故車両は、行程表と異なるルートを走っていたが、運転手から運行管理者への変更連絡もなかった。
バス業界団体の公益社団法人「日本バス協会」によると、全国で約4500あるバス業者のうち、約半分にあたる会員には、新しい通達を周知したり、委員会などで教育の場を設けるなどしている。一方、協会幹部は「残る半分の未加入事業者は“アウトサイダー”と呼ばれ、知らないうちに違法行為をやっていてもおかしくない」と指摘。バス業界の“風評被害”の拡大を恐れる。
今回の事故を受け、国土交通省関東運輸局と警視庁が21日夜に東京都新宿区の路上で行ったツアーバスの街頭監査でも、客を乗せる前のバス計6台のうち5台で運行指示書の記載漏れなど計8件の違反が見つかった。繰り返されるツアーバスの事故。バス業界全体に安全意識が徹底される日はくるのだろうか。