時代の正体〈246〉ヘイトスピーチ考(上) 「差別の自由」いつまで

記者会見(上)


 

確信犯

  前野さんが続いて引き合いに出したのはヘイトスピーチ抑止条例を制定した大阪市で起きた事件だった。市議会の傍聴席から条例案に反対する人物が登壇者目がけてカラーボールを投げ込んだ。「テロの一歩手前か、テロそのものか」

 川崎では津崎尚道という50代半ばの人物がデモを主催し続けている。前回昨年11月のスピーチはこうだ。

 〈川崎の日本国民の皆さんはご存じでしょうか。強制連行はうそで、実は出稼ぎ目的の不法密航でした。従軍慰安婦の実態は、朝鮮人女衒(ぜげん)が集めた追軍売春婦でした〉
 〈このようなうそを世界中で垂れ流し、声高に日本をおとしめる勢力になぜ、特権を与え、公金、つまり私たちの血税をバラまかなければならないのでしょうか。なぜアジアの解放のために戦い、白人の横暴と戦ったわれわれの御先祖をおとしめ、同じアジア人として何もしなかった半島人が日本で被害者面で居座り金と特権をむさぼり、ゆすり、たかりを繰り返すことができるのでしょうか〉
 強制連行、従軍慰安婦という歴史の事実をうそと断じる虚言。ゆがんだ事実認識の上に立ち「声高に日本をおとしめる」という架空の反感に訴えかける詐術。ありもしない「特権」を持ち出し自らが「被害者面」するひきょう。思い込みではない、ののしりたいがためにデマと曲解で在日コリアン像を構築していくさまに、対話の余地をみいだすのは難しい。

 前野さんは強調した。「差別が生きがいの確信犯。もはや具体的に規制を目指す段階だ。デモをやりにくくする。やってもリスクが高く、やるかいがないものにすることが必要だ」

 法規制への国の動きは鈍く、ならば自治体に働き掛けるしかない。「人権の問題であり、暮らしや教育現場といった地域社会を害する問題でもある。現状ではデモをやってもカウンターに怒鳴られる程度のリスクしか感じていない」。条例などによる対策を市と市議会に求めていくという市民ネットワークの結成は差別を禁じる法律すらない現状の裏返しでもある。

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