京都というのは不思議な魅力があって、何度も訪れたくなる何かがあると思う。
受験生のみなさまは私大入試をむかえて超山場な時期かと思います。
私はというと、受験生時分は地元北海道の受験事情のヒドさにムカついたのち「京都で大学生をやりたい」と強烈に思い始め、はるばる京都の大学を受験しました。
結果、京都で過ごした4年間はすんごく楽しかったです。
暇さえあれば自転車で京都中を走り回っていて、今や京都のガイドブックが一冊書けそうなくらい。
京都っぽいアルバイトにも複数手を出していて、長期バイトは自転車での通勤時間も京都を見尽くすため、北は修学院*1、西は太秦*2、南は京都駅に、東は平安神宮方面と、東西南北全方角に応募し、ハイシーズンには御室仁和寺で桜の時期に門前の料理屋で、永観堂で紅葉の時期の特別拝観の手伝い・・・。他にもいろいろ。
そんな私がお勧めする、定番の楽しくなるような京都とともにある小説を6作品まとめます。
京都に行く予定があるなら、一冊は読んでおくとより楽しくなるはず。
(と言いながら京都のことを書きたいだけの記事)
アホ大学生の青春系
基本的に笑いながら軽く読めて、それでいて京都の大学生活の楽しさが存分に凝集されている作品。京都の小説においては腐れ大学生は京大生と相場が決まっているのだ。
京都を舞台にした小説なら、定番の『鴨川ホルモー』『夜は短し歩けよ乙女』は必読。
万城目学 『鴨川ホルモー』
大学生活は何よりも鴨川ホルモーに憧れました。ホルモーしたかった。ダントツで面白いと思うし、京都で大学生したくなること請け合いだと思う。
書かれている主人公の3年間、桜から暑くなって葵祭、祇園祭、紅葉に差し掛かる時期の修学旅行生と冬の底冷えの寒季節感は京都らしさを感じます。蒸し暑い京都の鴨川縁、底冷えの冬に、葵祭のサークル勧誘に、人混みの祇園祭でのホルモー開催の儀式。
(正直祇園祭はテスト期間と被るし人混みがヤバすぎて一回でお腹いっぱいでした)
主人公の非モテ感、親友高村のイカキョー*3具合とどう考えてもうまくいかない高嶺の花系美女への一目惚れと、意識高い系のチームメイトなど大学生感満載でいいな、と思う。
50年ごとの節目の年を迎え、古から開催されるホルモーのメンバー内の京都でのアホな学生生活と大学生というセンシティブなお年頃にありがちな恋と妙な友情と無駄に自分を見つめて悶絶したり哲学にはまりだしたりする感じ、この辺りは今大学卒業相当の年齢の人なら懐かしいと感じるのじゃな いかな。
ホルモーとはなんぞやというと、京大・京都産業大・立命館大・龍谷大という四神(東西南北)の方角に位置する4大学の地に代々500年伝わるサークルの、架空のホルモーというオニ?を戦わせて勝敗を競う総当たりのチーム戦というか行事というか、そういうもの。
総当たりのホルモー戦は京都の東西南北の名所や大学各地で行われるので、旅行前の読書に一番いいかも。
そんでもって万城目学の筆力がすごいと思います。奇妙に厳かな雰囲気で100ページも引っ張ってきて急激にオチをつけてくる吉田神社での京大チームの代替わりの儀式は何度読んでも笑う。
ホルモー敗退によるペナルティーの深刻な雰囲気からのオトしも上手い。
余談ですが、京都市内は狭いエリアに大学が集中しておりそれぞれ協定を結んでいるので、他大学の授業が受けられ単位も出るのです。だからホルモーに出てきた大学の授業も何個か受けに行ってました。
京大は学食がおいしいです。あとカフェ内のパフェが種類豊富で安くてうまい。立命館もパフェのクオリティが高いですね。
なにしにいってんだろ。
森実登美彦『夜は短し歩けよ乙女』
- 作者: 森見登美彦
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言わずと知れた名言に溢れる名作。
非モテ京大生が天然系不思議ちゃん酒豪ガールに恋する学生生活もの、だけど世界観がもう不思議すぎて。空を鯉が飛び、謎の老人が廃線になった路面電車をごとごと走らせ秘蔵の酒を振る舞い、学園祭に跋扈する韋駄天コタツとか、古本の神様とか・・・。
幻想の京都と実際の京都のミックスされた世界観がすごくいいなと思う。これはもう言葉で語り尽せないのでとにかく読むべし。絶対ハマる。
二章で下鴨神社の古本市で本を探す話があるのですが、これを読んで学生時代行ってきました。蒸し暑い中並ぶ古本の露店で3冊くらい本を買ったのだけど、何を買ったかもう忘れてしまった。
それと、作中で主人公と女の子が飲んでいた「天国の水のように美味しいラムネ」を飲みたくて。
女流作家・きゅんとする恋愛系
『左京区七夕通り東入ル』は比較的軽め、『早春恋小路上ル』は読み応え系。
雑誌で例えるなら、前者がCanCam、後者がVeryです。
瀧羽麻子 『左京区七夕通り東入ル』
当時流行ってた理系男子もの。
主人公は4回生の京大女子。お洒落好きでアパレルでバイトし就活も早々に内定も複数もらい、映画とかカフェとかに詳しいイケイケ系彼氏は長続きしないけど切らしたことがなく、クラブ行く?とか言っちゃうような男友達もいる。(ヒュー!ムカつく!)
自分も周囲もキラキラしてるんだけど、本当の私はナイーブなところもあって何でも長続きしないことにコンプレックスを感じてて、そこに合コンで出会った無口な数学科男子「たっくん」に今までない誠実な魅力を感じてだんだん恋に落ちてく・・・。
みたいな、本当は両想いなのに進展しない、女心に疎い研究職系理系男子とのもどかしい恋愛を綴った話。下ネタや濃密な絡みシーンはゼロです。さわやかですね。
たっくんと同じ寮の理系男子4人組と仲良くなって4人でタコパしたり大文字を見たり鴨川に花火しにいったり、定番の青春系が詰まっている感じですね。
みんな京大生なので京大・鴨川界隈が中心です。
序章の「青い花柄のワンピースに赤いサンダルの主人公が自転車で出町柳の交差点を曲がっていく」という描写のとこが好きですねえ。
正直この手の話はいけ好かないですが、好きな人は好きかと。
小手毬るい『早春恋小路上ル』
こちらは若干時代が古いです。大学時代は1974-78年の話。
小手毬るいの自伝小説でかなり読み応えあり。
こちらは同志社大学出身なので、京都の中心部の京都御所界隈から下宿先の北山・修学院・一乗寺(北東部)が中心。
表紙の軽やかさに反して、波乱万丈な岡山から上洛以後の半生を綴った重めのもの。まっすぐに大学生活を謳歌している他5冊と違って屈折した薄暗い、それでいてさっぱりした不思議な暗さ。
バイトしてるカフェ*4の常連のヤクザのおじさんと仲良くなってごはんに行ったら雄琴*5に売り飛ばされかけ。女は腰掛OL、行き遅れなんて言葉が横行していた時代に京都の出版社(思文閣出版=京大のある百万遍界隈)に新卒で就職。昼時通っていたフランス料理屋の料理人と結婚。鉄男(夫)の開業という夢に自分の全身を預ける結婚はうまくいくはずもなく、離婚。
結婚は、仕事や夢の代用物にはならない。結婚には決して夢を託してはいけない。
という言葉が刺さりますね。
そこから、自分で人生を切り開くべく蹴上(平安神宮や南禅寺の辺り)で塾講師として力を付けていく、という。しかも仕事がしたい性分なのです、この女性は。なのになんでか職人気質の男尊女卑メンズと付き合い続けるこの不合理。
職場、男、いろんなものを転々としながら京都の東側の街中を歩いていく、当時の社会と合わせて女の人生を見つめさせられる一冊です。
そしてどっしりラーメン餃子定食でも食べたような読後感。
余談ですが、大学時代のとこに出てくるジャンボというお好み焼き屋さん、私も学生時代よくお世話になりました。いっつも並んでるんです。
普通の値段で通常の1.5人前くらいのでっかいお好み焼きとかやきそばが出てくるんですよ!もちろん、おいしいです。
金閣寺周辺に行くときなんかに、並ぶの覚悟で立ち寄ってみてくださいね。
京都市内を走り回る系
森実登美彦『新訳走れメロス』
古典文学の登場人物を京大生にしたパロディが5編入っていますが、ダントツで3編目「新釈 走れメロス」が好き。
要は、現代京都の腐れ大学生・芽野史郎を主人公にして、本来太宰の『走れメロス』でメロスがセリヌンティウスを救うため駆けた道を京都に設定して走り回らせるパロディ。
原作に微妙に忠実で笑う。
主人公は京大生なので、逃走マップは京大のキャンパスがある百万遍から始まり、嵐山でターンしてほぼ京都市を西向きに一周するかたち。けっこう電車にも乗っているし、有名どころを押さえているため、読んでいると駅周辺の風景がパッと浮かぶ。
(写真汚くてすみません)
5編目の坂口安吾のパロディ「桜の森の満開の下」は、あの小説中の哲学の道の桜を見たくて、朝3時に起きて行きました。
まだ薄青い空気の中で、かちんと凍りついたように続いている満開の桜の下はひっそりとして、物音ひとつしません。そこを一人ぼっちでくぐり抜けてゆくとき、(略)恐くて恐くて身震いし、足を早めたかもしれません。
この、恐ろしいほど冷たくて凄い桜。恐ろしいと形容される桜ってどんなものかと。
、が、寝坊により結局着いたのは午前4時前。すでに明るくなり始めていました・・・。
それでも朝の冷たい空気の中、一大観光地の満開の桜を一人占めするのは悪くなかったです。ゾッとするような凄いものではなかったけれど、どっしり落ち付いた涼しげな桜で。
万城目学『ホルモー六景』
- 作者: 万城目学
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
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鴨川ホルモーの登場人物の後日談やこぼれ話を集めた短編集。普通にこれから読んでも面白いですが、1作目のホルモー読後でないと面白さが半減すると思います。
立命館、京都産業大、同志社を加えホルモー5大学の登場人物が出てくるので、その界隈が出てきます。要は東西南北全方位。
全部外れなく面白いですが、「ローマ風の休日」が私は一番好き。ぼんちゃん(映画では栗山千明でした)のツンデレエピソード、かわいいぞ。
とりあえず森実登美彦と万城目学は挙げたもの含め網羅したと思いますが、他にも京都が舞台のオススメの小説があったら教えてくださいね。
- 作者: 小手鞠るい
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