【女流名人戦】里見、地元で1勝!V7へ“タイ”
◆報知新聞社主催 第42期岡田美術館杯女流名人戦5番勝負第2局(24日、島根・出雲文化伝承館)
島根県出雲市の出雲文化伝承館で24日、第2局が行われ、後手の里見香奈女流名人(23)=女流王位、女流王将、倉敷藤花=が140手で挑戦者の清水市代女流六段(47)に勝ち、対戦成績を1勝1敗のタイに戻した。最終盤の一手一手で形勢が入れ替わる大熱戦となったが、持ち前の終盤術で勝利を引き寄せた。第3局は31日、千葉県野田市の関根名人記念館で行われる。
屋外はマイナス2度。雪化粧の風景が広がっていたが、終局直後の対局室は熱気に包まれていた。頬をピンク色に染めた里見は「あまり内容は良くなかったですけど、結果を出せたので」と激戦の末に拾った勝利をかみ締めた。敗れれば徳俵に足のかかる一局で踏みとどまった。
女流名人戦史上に残る激闘だった。形勢不明の終盤に突入してからは数手ごとに勝者が入れ替わった。里見に妙手があったわけではない。「寄せがおかしかった。何度も予定変更をして、負けにもなりました」。最後の最後に白星に手をかけたのは、意地と執念だけだった。
負けられない一局に、集中力は研ぎ澄まされていた。対局開始直前の午前8時49分、突然対局室の明かりが消えた。積雪による停電。異例の事態に関係者は動揺したが、里見は駒箱を開け、通常と変わらない様子で駒を並べ始めた。同56分に復旧。明かりが突然戻っても表情ひとつ変えなかった。「暗い中でも指せないことはないだろうと思ったので…」
見せ場もつくれずに完敗した第1局から1週間。自らを追い込み、将棋に向かう姿勢は対局前夜まで続いた。23日夜、本局の記録係を務める桝田悠介三段(22)と宿舎で15秒将棋(15秒以内に一手指さなくてはならないルール)を7局指して、日付が変わる頃まで盤と向き合った。三段リーグで里見に敗れている桝田三段は「やっぱり終盤のキレ味はすごいです。調子はいいと思いました」と舌を巻いた。
例年は開幕局が行われていた地元・出雲対局。先勝されていた里見にとっては第2局で迎えられたことは好材料だった。「リラックスできますし、傷を癒やしてくれます。(第2局で)かえって良かったです」
対局室を出た女流名人に、妹の咲紀さんが女流3級への昇級を逃したことを伝えると、驚く様子もなく「仕方ないです。まだ今の力のままで上がる(昇級する)のはいいことではないと思うので、まだまだ修業して頑張ってほしい」。姉としてではなく、勝負師としてエールを送った。
シリーズはタイに戻った。最強の2人による真の戦いは第3局から始まる。(北野 新太)