January 24, 2016
「フォードの内部メモ」をめぐる資料
フォードピントの「内部メモ」は技術者倫理教育でどう語られているか
という記事で、現在の教科書でピント事件で有名になった内部メモの現在の語られ方を確認したが、それを正当に評価するには、「元ネタ」を確認する必要もあるだろう。以下、基礎文献の関連箇所を紹介していく。とりわけ、「メモ」の本体である「グラッシュ=ソーンビー報告」の原文を確認することは非常に重要である。また、これが証拠として提出された裁判の判決文も見ておいた方がいいだろう。ということで、簡単にそれらの文献をまとめる。
1 『マザー・ジョーンズ』の記事
ピント事件に関連して「フォードの内部メモ」を有名にしたのはなによりも『マザー・ジョーンズ』誌に掲載された以下の記事にある。『マザー・ジョーンズ』は当時まだ創刊まもない市民運動系の雑誌だった(現在も発刊が続いている)。
Mark Dowie (1977) "Pinto Madness," Mother Jones, September/October 1977 issue.
この記事は現在オンラインで読むことができる。
http://www.motherjones.com/politics/1977/09/pinto-madness?page=2
以下、この記事中でメモに直接関連する箇所を抜粋して翻訳する。文脈としては、規制当局がコストベネフィット分析を利用するように説得したのがフォードの関係者(フォードの社長からケネディ政権の国防長官になったロバート・マクナマラ)だと主張したあとで、コストベネフィット分析の批判を展開する中でメモの存在や内容が言及される。(原文でいうとAs a management tool~ 以下を訳している。)
引用はここまでとするが、以下、ダウィーはこれらの数値がそれぞれ問題を含むという指摘をする。火災負傷のコストは67000ドル以上だし、燃料タンクの安全対策については1台5.08ドルで実現できる効果的な方法が研究されているというフォード内部の資料を紹介している。さらに、この文書が燃料系の頑丈さについて規定する連邦自動車安全基準301号をめぐって何年にもわたって展開されてきたNHTSAと自動車産業の攻防の一環だということも指摘する。
この記事がこれ以後の「フォードの内部メモ」に関するさまざまな書籍における記述の基礎となってきた。ここでの記載を丁寧に読むならば、これが直接ピントに関して計算されたメモではないことはわかる。また、20万ドルが社会的コストを計算したものであることも(『科学技術者の倫理』にも再録されている)細かい計算式を示して非常に詳しく紹介しており、それが規制当局によって設定された数値であることを紹介している。そして、その数字自体が自動車産業の圧力の下で設定された、という背景の部分に非難を向けている。さらに、このメモがNHTSAに送られている(つまり純粋な内部資料ではない)こともダウィーの記事を読めば明らかである。
ただ、この記事は、この計算式の出てくる文書を「フォード内部メモ」(internal Ford memorandom)と呼び、さらに「当然だが、「焼死者」や「火災負傷者」についてそんなに気軽に語るメモは、公衆に対して公表はされなかった。」という言い方をすることで、これが秘密文書だという印象を与えている。誤解が広まっていく上でダウィーにまったく責任がないというわけではないだろう。
2グラッシュ= ソーンビー報告
エコールドがNHTSAに送ったとされる文書は、ピントの追突炎上をめぐる裁判の一つであるグリムショー対フォードの裁判において証拠の一つとして提出された。
このメモの原文と思われるものがネット上に公開されている。
http://lawprofessors.typepad.com/tortsprof/files/FordMemo.pdf
タイトルは各所で引用されているとおり「衝突によって引き起こされる燃料漏れと火災による死亡事故」だが、著者はE.S.グラッシュとC.S.ソーンビー(肩書はふたりともImpact Factors)となっており、ディレクターのエコールドは文書の作成自体には関わっていないことがわかる。
冒頭の「結論」では「火災を伴う自動車衝突での死亡事故が毎年2000から3500に及ぶというNHTSAの見積もりは火災の問題の深刻さを過大評価しているように見える」「修正された基準[引用者注:基準301号のことだと思われる]の横転に関する部分を実装するためのコストは、利益を非常に大きめに見積もっても、ほとんど利益の3倍に達する」「提案された規制の他の部分についての分析も低い利益-コスト比を生むことが予想されるだろう」などといった記述が見られる。この2つめの結論につながるのが問題の計算式だということになる。
レポートを読み進めていくと、「静的な横転(static rollover)に関する要件のコストベネフィット分析」と題するセクションがある。この節の冒頭ではこれが連邦自動車安全基準 (FMVSS) 301号の横転に関する要件についてのものであると述べたあとで、計算の意図を以下のように説明する。
以下、180人という数字を導き出すプロセス(焼死事故700件に対して横転事故の比率をあてはめている)を論じたあと、有名な表が出てくる。表のタイトルは「FMVSS208における静的横転テスト部分とむすびついた燃料漏れと関わるベネフィットとコスト」である。FMVSS 208号は衝突時の乗員の保護に関する規制を定める基準だが、なぜそれがこのタイトルで言及されているかはよく分からない。すでに何度も引用した表だが、せっかくなのであらためて訳しておく
表3 FMVSS208における静的横転テスト部分とむすびついた燃料漏れと関わるベネフィットとコスト
ベネフィット:
救われるもの(savings) 180人の焼死、180人の深刻な火傷、2100台の炎上車両
単位コスト 死者一人あたり $200,000 、負傷一人あたり $67000, 車両一台あたり $700
合計ベネフィット 180×($200,000)+180×($67000)+2100×($700)= 4950万ドル
コスト:
売上: 1100万台の乗用車、150万台の軽トラック
単位コスト: 乗用車1台$11 、トラック一台$11
合計コスト 11,000,000 ×($11)+1,500,000 ×($11)=1億3700万ドル
表のあとでもさらに、死者一人あたり20万ドルなどの数字について「この値は他の資料で同様に定義されたコストよりも一般的に高く、また、フォードがこれらの値を受け入れているということを意味するものではない。むしろ、関連する利益を過小評価しない努力と整合するように、NHTSAの値が使われている。」と断り書きがなされている。
11ドルという数字は「小売価等価量」(retail price equivalent)、つまりフォードの利益を含めず小売価格に反映される金額を表す。この値は静的横転に対する要件を満たすような変更を加えた場合について「フォードによって、平均して乗用車一台11ドル、軽トラック一台11ドルになると決定された(determined)」。ただし、他社の車についてもフォードの値を準用している)。販売台数の統計は具体的に何に依拠したかは記載されていない。
以上のような細部をみることでわかってくる面もある。まず、このレポートが静的横転時の燃料漏れを防ぐような対策に話をしぼっていることはまちがいなく、あたかもこれがピントの追突についての計算であるかのように書くのはまちがいである。また、このような大きなコストーベネフィット比になっている理由も見えてくる。炎上による死亡事故自体の中でも、横転による燃料もれによって炎上というパターンはそれほど多くなく、そのためそのシチュエーションに特化した対策は割高になってしまいがちなのである。
ただ、ダウィーを弁護できるとすれば、このレポートは最後に「他の衝突の様式におけるベネフィットとコスト」という短い節を設けている。全文を訳す。
つまり、追突炎上についても似たような計算ができそうだ、ということを含意として書いているわけである。
3 グリムショー対フォード控訴審判決
さて、この文書はグリムショー対フォードの裁判に証拠として提出されたのだが、最終的には証拠として採用されなかった。
これについてはカリフォルニア州控訴裁判所の控訴審の判決文がインターネット上にあがっている。
http://online.ceb.com/calcases/CA3/119CA3d757.htm
これを読むと、グラッシュ=ソーンビー報告自体は証拠として却下されているものの、それが立証しようとした内容は事実上裁判所によって受け入れられていることがわかる。主な証拠となっているのがフォードの安全試験技術者であったハーレイ・コップ(Harley Copp)の証言である。
コップは、ピントの追突試験の結果を受けて、ピントの発売に反対する内部メモを作成していた。しかし彼の提案は受け入れられず、コップはフォードを自主退職するような形になった。裁判の中で、コップはグラッシュ=ソーンビー報告を持ちだしただけでなく、その他のコストベネフィット分析も行われていたと証言した。
判決文はこの箇所について以下のようにのべている。
また、判決文は、問題となっている事故での死傷をさけるために実際に必要だった対策のコストを計算しており、結論としては15ドル30セントという値を導いている。
1 『マザー・ジョーンズ』の記事
ピント事件に関連して「フォードの内部メモ」を有名にしたのはなによりも『マザー・ジョーンズ』誌に掲載された以下の記事にある。『マザー・ジョーンズ』は当時まだ創刊まもない市民運動系の雑誌だった(現在も発刊が続いている)。
Mark Dowie (1977) "Pinto Madness," Mother Jones, September/October 1977 issue.
この記事は現在オンラインで読むことができる。
http://www.motherjones.com/politics/1977/09/pinto-madness?page=2
以下、この記事中でメモに直接関連する箇所を抜粋して翻訳する。文脈としては、規制当局がコストベネフィット分析を利用するように説得したのがフォードの関係者(フォードの社長からケネディ政権の国防長官になったロバート・マクナマラ)だと主張したあとで、コストベネフィット分析の批判を展開する中でメモの存在や内容が言及される。(原文でいうとAs a management tool~ 以下を訳している。)
「利潤がなによりも大事なビジネスにおける経営ツールとしてはコストベネフィット分析もある程度意味をなす。しかし企業の利益以上のものを念頭に置かねばならない官僚がおもいつくかぎりあらゆる決定にコストベネフィット分析を当てはめ始めたなら、問題が生じる。避けがたい結果として、彼らは人間の命に何ドルという値段をつけずにはいられなくなるのだ。
自分の命が何ドルの価値があるか気になったことはあるだろうか?1000万ドルくらいだろうか?フォードはこれについてもっとはっきりした考えを持っている。20万ドルだ。
思い出してほしいのだが、フォードは連邦の規制当局に対して、コストベネフィット分析を使って自動車安全について語るということに同意させた。しかし、さまざまな安全対策のコストが利益より大きいと論じる上では、フォードはその「利益」にドル建ての値をつける必要があった。自動車産業は自分でその値札を提案するなどという野暮なことをせず、全米高速道路交通安全管理局(NHTSA)に値札をつけるように圧力をかけた。そして1972年のレポートで当局は人間の命の値段は200,725ドルの価値があると決定した[表1]。インフレのため、その値は最近は278,000ドルまで値上がりしている。
この便利な道具を手に入れて、フォードはすぐに、いろいろな安全対策の改善がなぜ高価すぎるのかをこれを使って証明する仕事にかかった。
この会社が一番熱心に、変更を加えるべきではないと論じたのは、裂けやすい燃料タンクの分野であった。政府が人命は一人あたり200,745ドルだという値にたどり着いてほどなく、この値は、切りの良い200,000ドルに丸められた形で、フォード社の内部メモ[別表]( an internal Ford memorandum) に登場した。このコストベネフィット分析は、一台あたり11ドルで年間180人の焼死を防ぎうるような改良について、フォードはそうした改良をするべきではないと論じている。(このマイナーチェンジによって、サンドラ・ギリスピー[引用注:この記事の前半で取り上げられている、フォード・ピントで焼死した一人]のような後ろからの追突で燃料タンクが壊れるのを避けてくれるだろうし、同じようなことがおこる横転事故でもお同様の効果が得られるだろう。)
フォードのコストベネフィット分析は、「衝突によって引き起こされる燃料漏れと火災による死亡事故」(fatalities assosiated with crush-induced fuel leakage and fires) という題の7ページの会社のメモ(a seven-page company memorandam)の中に埋もれている。このメモは、提案された安全基準が自動車火災、焼死者、火災負傷者の数を減らすことを認めた上で、その基準に従っても何の経済的利益もないと論じる。当然だが、「焼死者」や「火災負傷者」についてそんなに気軽に語るメモは、公衆に対して公表はされなかった。しかし、マクナマラ流のコストベネフィット分析を教えこまれた運輸省の官僚に対してはそうしたメモはとても効果的だった。
(中略。自動車産業と運輸省にとって具体例をイメージせずに焼死や火災負傷について語るのが日常になっているという指摘など。)
だからこそ、自動車安全ディレクター(これは要するに安全に対抗するロビイングの責任者ということだが)J.C. エコールド(J.C,Echold)が運輸省に手紙を書いたとき---今でも彼は長文のこうした手紙をしばしば送るのだが---かれは安心して以下のようなメモを添付することができた。そのメモが実質的に言っているのは、毎年180人を殺し、もう180人を火傷させることは---一台につき11ドルはらえば彼らの命を救える技術があるにもかかわらず--受け入れ可能だ、ということだった。
さらに、エコールドがこのメモを添付した際に、明らかに、死亡や負傷の統計値が低いことやコストの見積もりが高いことについて、当局が異議を唱えたりしないということにも自信を持っていた。しかし、よく吟味すると、この両者がミスリーディングであることがわかる。」
引用はここまでとするが、以下、ダウィーはこれらの数値がそれぞれ問題を含むという指摘をする。火災負傷のコストは67000ドル以上だし、燃料タンクの安全対策については1台5.08ドルで実現できる効果的な方法が研究されているというフォード内部の資料を紹介している。さらに、この文書が燃料系の頑丈さについて規定する連邦自動車安全基準301号をめぐって何年にもわたって展開されてきたNHTSAと自動車産業の攻防の一環だということも指摘する。
この記事がこれ以後の「フォードの内部メモ」に関するさまざまな書籍における記述の基礎となってきた。ここでの記載を丁寧に読むならば、これが直接ピントに関して計算されたメモではないことはわかる。また、20万ドルが社会的コストを計算したものであることも(『科学技術者の倫理』にも再録されている)細かい計算式を示して非常に詳しく紹介しており、それが規制当局によって設定された数値であることを紹介している。そして、その数字自体が自動車産業の圧力の下で設定された、という背景の部分に非難を向けている。さらに、このメモがNHTSAに送られている(つまり純粋な内部資料ではない)こともダウィーの記事を読めば明らかである。
ただ、この記事は、この計算式の出てくる文書を「フォード内部メモ」(internal Ford memorandom)と呼び、さらに「当然だが、「焼死者」や「火災負傷者」についてそんなに気軽に語るメモは、公衆に対して公表はされなかった。」という言い方をすることで、これが秘密文書だという印象を与えている。誤解が広まっていく上でダウィーにまったく責任がないというわけではないだろう。
2グラッシュ= ソーンビー報告
エコールドがNHTSAに送ったとされる文書は、ピントの追突炎上をめぐる裁判の一つであるグリムショー対フォードの裁判において証拠の一つとして提出された。
このメモの原文と思われるものがネット上に公開されている。
http://lawprofessors.typepad.com/tortsprof/files/FordMemo.pdf
タイトルは各所で引用されているとおり「衝突によって引き起こされる燃料漏れと火災による死亡事故」だが、著者はE.S.グラッシュとC.S.ソーンビー(肩書はふたりともImpact Factors)となっており、ディレクターのエコールドは文書の作成自体には関わっていないことがわかる。
冒頭の「結論」では「火災を伴う自動車衝突での死亡事故が毎年2000から3500に及ぶというNHTSAの見積もりは火災の問題の深刻さを過大評価しているように見える」「修正された基準[引用者注:基準301号のことだと思われる]の横転に関する部分を実装するためのコストは、利益を非常に大きめに見積もっても、ほとんど利益の3倍に達する」「提案された規制の他の部分についての分析も低い利益-コスト比を生むことが予想されるだろう」などといった記述が見られる。この2つめの結論につながるのが問題の計算式だということになる。
レポートを読み進めていくと、「静的な横転(static rollover)に関する要件のコストベネフィット分析」と題するセクションがある。この節の冒頭ではこれが連邦自動車安全基準 (FMVSS) 301号の横転に関する要件についてのものであると述べたあとで、計算の意図を以下のように説明する。
「この議論はこの問題や似た問題を処理するのに利用可能なアプローチの概要を示す試みである。ベネフィット分析が決定的なものであるとか批判の余地がないとかいったことを意図したものではないものの、要件に従ったことで得られる可能な利益の上限(upper bound)を表したものと考えられる推定や導出値にもとづいている。」
以下、180人という数字を導き出すプロセス(焼死事故700件に対して横転事故の比率をあてはめている)を論じたあと、有名な表が出てくる。表のタイトルは「FMVSS208における静的横転テスト部分とむすびついた燃料漏れと関わるベネフィットとコスト」である。FMVSS 208号は衝突時の乗員の保護に関する規制を定める基準だが、なぜそれがこのタイトルで言及されているかはよく分からない。すでに何度も引用した表だが、せっかくなのであらためて訳しておく
表3 FMVSS208における静的横転テスト部分とむすびついた燃料漏れと関わるベネフィットとコスト
ベネフィット:
救われるもの(savings) 180人の焼死、180人の深刻な火傷、2100台の炎上車両
単位コスト 死者一人あたり $200,000 、負傷一人あたり $67000, 車両一台あたり $700
合計ベネフィット 180×($200,000)+180×($67000)+2100×($700)= 4950万ドル
コスト:
売上: 1100万台の乗用車、150万台の軽トラック
単位コスト: 乗用車1台$11 、トラック一台$11
合計コスト 11,000,000 ×($11)+1,500,000 ×($11)=1億3700万ドル
表のあとでもさらに、死者一人あたり20万ドルなどの数字について「この値は他の資料で同様に定義されたコストよりも一般的に高く、また、フォードがこれらの値を受け入れているということを意味するものではない。むしろ、関連する利益を過小評価しない努力と整合するように、NHTSAの値が使われている。」と断り書きがなされている。
11ドルという数字は「小売価等価量」(retail price equivalent)、つまりフォードの利益を含めず小売価格に反映される金額を表す。この値は静的横転に対する要件を満たすような変更を加えた場合について「フォードによって、平均して乗用車一台11ドル、軽トラック一台11ドルになると決定された(determined)」。ただし、他社の車についてもフォードの値を準用している)。販売台数の統計は具体的に何に依拠したかは記載されていない。
以上のような細部をみることでわかってくる面もある。まず、このレポートが静的横転時の燃料漏れを防ぐような対策に話をしぼっていることはまちがいなく、あたかもこれがピントの追突についての計算であるかのように書くのはまちがいである。また、このような大きなコストーベネフィット比になっている理由も見えてくる。炎上による死亡事故自体の中でも、横転による燃料もれによって炎上というパターンはそれほど多くなく、そのためそのシチュエーションに特化した対策は割高になってしまいがちなのである。
ただ、ダウィーを弁護できるとすれば、このレポートは最後に「他の衝突の様式におけるベネフィットとコスト」という短い節を設けている。全文を訳す。
「以上で論じた分析は横転の帰結とコストについてのみ関わるものである。他の衝突の様式についての同様の分析も、似たような結果を生むことが予想される。つまり、実装コストは期待されるベネフィットをはるかに超えることになる。」
つまり、追突炎上についても似たような計算ができそうだ、ということを含意として書いているわけである。
3 グリムショー対フォード控訴審判決
さて、この文書はグリムショー対フォードの裁判に証拠として提出されたのだが、最終的には証拠として採用されなかった。
これについてはカリフォルニア州控訴裁判所の控訴審の判決文がインターネット上にあがっている。
http://online.ceb.com/calcases/CA3/119CA3d757.htm
これを読むと、グラッシュ=ソーンビー報告自体は証拠として却下されているものの、それが立証しようとした内容は事実上裁判所によって受け入れられていることがわかる。主な証拠となっているのがフォードの安全試験技術者であったハーレイ・コップ(Harley Copp)の証言である。
コップは、ピントの追突試験の結果を受けて、ピントの発売に反対する内部メモを作成していた。しかし彼の提案は受け入れられず、コップはフォードを自主退職するような形になった。裁判の中で、コップはグラッシュ=ソーンビー報告を持ちだしただけでなく、その他のコストベネフィット分析も行われていたと証言した。
判決文はこの箇所について以下のようにのべている。
「フォードは、コップ氏が言及した文書---「グラッシュ=ソーンビー報告」---は不適当であり証拠から除外されるべきであると論じた。しかしながら、他の文書が、コストに関する配慮の結果として、フォードが、そうした改善が必要であるという知識がありながら、自動車の燃料タンクシステムに安全装置を組み込むことを遅らせた、ということを示している。さらに、コップ氏は、フォードが実際に、生命や負傷を会社の節約や利益と天秤にかけるコストーベネフィット分析を行っていたと証言することを許されている。」
また、判決文は、問題となっている事故での死傷をさけるために実際に必要だった対策のコストを計算しており、結論としては15ドル30セントという値を導いている。
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