国や地域社会の課題を研究し、将来を担う人々を育てる。そんな大学の役割には、地元の期待も厚い。

 20日に武装集団から襲撃されたパキスタン北西部チャルサダの公立バチャ・カーン大学は、そんな大学だった。銃乱射の前に、学生や教師ら20人以上が死亡した。

 パキスタンでは、一昨年12月にも軍運営の学校が襲われ、約150人もの児童や生徒らが犠牲になった。武器も抵抗手段も持たない弱者を狙う暴力の続発に強い怒りを禁じ得ない。

 悲劇が繰り返されないよう、パキスタン政府や地元当局、支援する国際社会は協議を重ね、十分な対策を取る必要がある。治安の確保はもちろん大切だが、武装集団の活動を抑え込むだけでは、その場しのぎの対応に終わりかねない。

 学校や教育が自分たちのものであり、自分たちこそが支えるのだと、広く社会に理解してもらう努力が欠かせない。

 今回の事件では、過激派の反政府組織「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」の一派が犯行声明を出した。TTPはかつて、ノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイさんを銃撃したことがある。マララさんは、今回の事件を強く非難する声明を出した。

 一昨年の学校襲撃にかかわったのも、TTPである。その事件以降、パキスタン当局は掃討作戦を本格化させ、凍結していた死刑の執行も再開した。過激派の多くは隣国アフガニスタンに逃れ、封じ込めがある程度成果を上げたとみられていた。

 しかし、他方でこうした厳罰主義は反発も生みやすい。事件の背景にそんな事情があるのなら、人権に配慮し、人々の支持を得ようとする姿勢が政府には求められる。困難な道だけに、国際社会との連携が不可欠だ。

 欧米諸国は、これまでもパキスタンに多大な支援を続けてきた。核兵器を事実上保有するパキスタンの混乱は、世界の秩序に影響する。インド、イランといった大国の間に位置するこの国への影響を保とうとする思惑も絡む。

 しかし、パワーゲームの論理を超えて、市民社会の形成を促す地道な協力を拡充できないか。生活に密着した社会基盤を整備し、教育体制を充実させてこそ、子どもや若者も安心して学ぶことができる。その過程で日本が果たせる役割も大きい。

 長い目で見れば、そうした努力が国家の安定につながるだろう。危機感を国際社会で共有し、支える態勢を築きたい。