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直接顔を合わせているようなコミュニケーションを可能に

マイクロソフトリサーチは、拡張現実(AR)を使って人の姿を別の部屋に等身大で投影し、直接顔を合わせているかのようなコミュニケーションを可能にする技術の開発を進めている。

直接顔を合わせて話すことに勝るコミュニケーションはない。そこで、離れていても直接会うのに近い接触を可能にしようと、人の姿を等身大で投影し、目の前の椅子に座っているかのように見せる技術が研究されている。

マイクロソフトリサーチが手がけるこのプロジェクト「Room2Room」(ルーム・トゥ・ルーム)は、「Kinect」の奥行き検出カメラとデジタルプロジェクターを用いて、3次元でとらえた人の姿を通信相手がいる別の部屋の椅子などに、等身大かつリアルタイムで投影するというもの。

投影は相互の部屋で可能だ。これにより、お互いが遠近感のある相手のデジタル画像をさまざまな視点から見ることができ、適切なコミュニケーションを図ることが可能になる、と研究チームは述べている。

同プロジェクトの研究論文は、2月末にサンフランシスコで開催されるカンファレンス「Computer-Supported Cooperative Work and Social Computing」(コンピューター支援共同作業とソーシャルコンピューティング)で発表予定だ。

デジタル画像を現実世界と組み合わせる拡張現実(AR)のアイデアは何年も前から存在するが、その技術が本格的に研究され始めたのはごく最近のことだ。

拡張現実プロジェクト「RoomAlive」を使った研究

ARの普及を目指す企業のひとつであるマイクロソフトは、仕事にも遊びにも使えるツールとして「Microsoft HoloLens」ヘッドセットを手がけている。また謎に包まれたフロリダのスタートアップ「マジックリープ」も同様のヘッドマウントデバイスを開発中だ。

研究チームはRoom2Roomを実現する手段として、マイクロソフトリサーチの既存の拡張現実プロジェクト「RoomAlive」(ルーム・アライブ)を利用している。

RoomAliveは、Kinectの奥行き検出カメラとデジタルプロジェクターを使って部屋全体を拡張現実のゲーム空間に変えるものだ。Room2Roomでは、このハードウェアを一部屋にのみ設置するのでなく、同様のものをふたつの部屋に設置することで、それぞれの部屋にいる人物の姿をスキャンし、もう一方の部屋に投影できるようにする。

筆者は、そのデモンストレーション動画を見せてもらった。座っている男性の向かい側に置かれた椅子に、もうひとりの男性の姿が投影される動画だ(Room2Roomでは、人物の画像をオープンスペースに投影する。人物が座った姿勢をとっている場合は、部屋にある椅子などの位置を選ぶ)。

この方法でどれだけ円滑にコミュニケーションをとれるか調査するため、研究チームは7組の被験者に依頼して、ブロックと拡張現実を使って3次元の形状を構築してもらった。

一方の部屋にいる被験者は実際のブロックを使って組み立て、もう一方の部屋にいるパートナーは、組み立てる形状について相手に指示を出す。ふたりの姿は互いの部屋に投影され、共同作業ができるようになっている。

その結果、直接顔を合わせて作業した場合、この種の課題はわずか4分ほどで完了するのに対し、拡張現実システムを用いての作業は約7分、また「スカイプ」のビデオ通話を介した作業では9分の時間を要した。

今後、さらに没入感の高いテレビ会議の技術が登場

Room2Roomのような技術が、実際の会議室や家庭のリビングに登場するには、まだほかにも多くの解決しなければならない問題がある。奥行き検出カメラやデジタルプロジェクターなど、技術の実現に必要なハードウェアは広く普及しているが、これらは場所をとる上に設置の手間がかかる。

さらには、生成される画像の解像度も高くない。そう語るのはマイクロソフトリサーチのインターンとしてRoom2Roomプロジェクトに携わり、今回の研究論文の筆頭著者となったトミスラブ・ペイシャだ。画像の解像度が低いと、投影されている人物の視線の向きがわかりにくいという問題がある。

拡張現実を研究するカリフォルニア大学サンタバーバラ校のトバイアス・ヘレラー教授は、解像度を上げるのは容易なことであり、数年後にはRoom2Roomのようなシステムが実用化されると見ている。

オキュラスVRなどの企業がコンシューマー向けヘッドセットのリリースを控え、仮想現実の人気が盛り上がっている現状が推進力となり、この種のVR技術もあわせて発展する可能性がある、と同教授は考えている。

「振り返ってみれば、テレビ電話の最初のデモンストレーションが行われてから、現在のスカイプその他の技術が実用化されるまでには50年、60年という時間がかかっている。今後は、現在の技術が先駆けとなって、さらに没入感の高いテレビ会議の技術が登場するだろう」とヘレラー教授は述べた。

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Rachel Metz、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:proZesa Tecnología)

This article was produced in conjuction with IBM.