たまに聞く言葉で「女の人はお金に困っても、いざとなったら身体売れるからいいよね」っていうのがある。それを聞くとだいたい僕は「男でも売れるよ」と返す。時々そういう認識が無い人がいる。こんな話を厳密に言ってしまえば、女だとしても買い手が付くかどうかは人によりけりで、女だったら誰でも身体が売れるわけではない。具体的な個人の例を別にしても、男より女のほうが売春しやすいかっていうと、それも一概には言えない。もし本当に身体を売りたければ男でも売れる。それは何も変態のババアやモテない女の人に売るという意味ではない(そういう例もあるが)。男を買うのもまた、男である。ゲイの男性や変態のジジイが男を買うのだ。それでもまだ「女の人はお金に困っても、いざとなったら身体売れるからいいよね」なんて言えるだろうか。僕は言えない。男も女も同じだと思う。
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娼婦の男版を男娼と呼ぶ。この男娼という言葉は古典文学で知ったから、知っている人も多いだろう。男娼は昔からあり、今でも存在する。日本にもあり、外国にもある。性風俗という意味であれば新宿二丁目なんかは誰でも知っている代表的な場所になる。二丁目のような場所は全国に無いかもしれないけれど、いわゆる「ハッテン場」はおそらく全国にあり、そこで売ったり買ったりすることもできる。こちらの方がより男娼に近い。僕は行ったことないけれど、タダだったり有料だったりするのは場所で違うのだろうか、よく知らない。
大学時代の友人の一人が、学費を稼ぐために二丁目でバイトをしていた。彼はストレートだ。学費のためでもあり、尚且つ自分でも性風俗の店を持ちたいという勉強も兼ねてバイトに勤しんでいたらしい(彼が開業しようとしていたのはゲイ用の風俗ではなかったが)。僕は彼と友人だったから、勤務内容のことなどを当時詳しく聞いた。彼は当時大学生で若かったものの、特別かっこいいわけでもなかった。国立大学の医学部生だった。男でも、現代でも、そんな風に身体を売ってお金を稼ぐことはできる。
僕が好きな映画である「マイ・プライベート・アイダホ」は男娼で生計を立てている男性が主人公の話だ。昔の話ではなく現代のアメリカ、ポートランドが主な舞台になっている。ここに出てくる人たちは街灯で立ちんぼをするようないわゆる男娼そのままであり、映画はフィクションだけどファンタジーではない。この映画はリヴァー・フェニックス扮するマイクがハゲで太ったおっさんに口でされるシーンから始まる。
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北野武の映画の座頭市にも男娼が出てきた。これは女に扮した男娼だったが、そういうのも多いらしい。
男娼ではないけれど、昔の日本では側小姓が性の対象だったことは有名であり、マンガのベルセルクにも子供の頃のガッツが金で売られたシーンがあったり、ゲイ・カルチャーと密接に関わってはいるが、そこには買う側にも売る側にストレートがいる少し違った男娼の世界。そういう世界は、足を踏み入れたことがなければ知らないだけで、身近に、奥深く、連綿と存在する。