「あとは僕が勝つだけだった」と悔しさ露わ新城幸也の決死の追走も実らず、日本は銀と銅 アジア選手権ロードレース・男子エリート詳報
ラスト3周からの追走劇。アジアタイトルをかけて気迫の走りを見せた新城幸也(ランプレ・メリダ)だったが、タイムトライアル(TT)アジア王者のチェン・キンロー(香港)にあと一歩及ばなかった。伊豆大島(東京都大島町)で1月20日から開かれてきたアジア自転車競技選手権大会ロードレースは、24日に最終種目の男子エリート・ロードレースを実施。日本は国内外で活躍するベストメンバーで臨んだ結果、新城が銀メダル、別府史之(トレック・セガフレード)が銅メダルを獲得した。強い寒風が吹き荒れる中で行われたレースを、選手や監督の声を交えながら振り返る。
序盤はアタックが散発、畑中勇介が落車
男子エリートのロードレースは当初、大島支庁前を発着点とする11.9kmの周回コースを14周する166.6kmで争われる予定だったが、前日の23日の時点で、レース当日の悪天候が予想されたため、1周回減らして13周・154.7kmに変更された。日本から出場したのは新城、別府と畑中勇介(チームUKYO)、内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)の4人。実力、経験、コンディションを含め、現時点で最高のメンバーがナショナルチームに結集した。
午前8時の号砲で出発したプロトンは、序盤から逃げと吸収を繰り返す。1周目の後半に2人が飛び出し、メーン集団は容認。その直後、5人が絡む落車が発生し、畑中が巻き込まれてしまう。ヘルメットが割れ、腰を強打するほどの激しい落車。何とか再出発してメーン集団に復帰したが、痛みに顔をゆがめながらのレース続行となった。
逃げる2人とメーン集団の差は2周目に1分50秒まで広がったが、3周目以降はイラン勢がメーン集団を積極的にけん引。間もなく2人をキャッチし、代わってイラン勢が次々にペースアップを繰り返して集団をふるいにかけ始めた。この動きに日本勢では内間が対応し、力のあるイラン選手の飛び出しを阻止していった。
強風の影響でレース距離を急きょ変更
コース上は強い風が吹き付け、海沿いのルートでは波しぶきが舞う。その影響で1周あたり20分ほどのスローペースで進行したことから、主催者は急きょ、レース距離を10周・119.0kmに変更した。レース中の異例の事態となったが、35.7kmのコース短縮が決定された時点で残りの周回数は5周に。このとき、イランのガーデル・ミズバニとミルサマ・ポルセイェディゴラコールが飛び出しており、日本勢はタイム差が広がらないよう早めの対応を迫られた。
6周目に入ると、展開は激しさを増す。新城とフェン・チュンカイ(台湾)が追走グループを形成。今シーズンからUCI(国際自転車競技連合)ワールドチームのランプレ・メリダでチームメートとなる2人が協調し。先行するイラン勢を追う。やがて合流し、先頭グループは4人に膨らんだ。
しかし、メーン集団を形成する約10人も力のある選手ばかりで、4人の逃げを許すわけにはいかない。韓国やモンゴルがペースを上げ、7周目に入った段階で先頭に追いつき、レースを振り出しに戻した。
独走力のあるチェンが単独アタック
レースが決定的な局面を迎えたのは7周目の後半。1つになったメーン集団から、チェンがカウンターアタックを決めた。21日のTTで金メダルに輝いた独走力のある選手が、ゴールまで20km以上を残して早めに仕掛けたのだ。スピードのある選手だけに、逃げ切られる恐れもある。
日本勢はまず別府が対応し、チェンへの合流を図ったが、8周目に入った直後にメーン集団に吸収された。代わって、新城が上りを利用してアタックし、18秒先行するチェンを単独で追った。
そして、ここから長い長い追走劇が続いた。上りで新城が差を詰めると、今度は下りや海沿いの平坦路でチェンがペースアップ。互いの意地と意地のぶつかり合いは、10秒前後の差でラスト1周まで推移した。
最大で4秒まで縮まった2人の差だったが、最後の最後まで新城が追いつくことはなかった。ラスト1kmの上りをしっかりとした足取りでクリアしたチェンが、トップを譲らず最後の直線へと姿を見せ、右手人差し指を高々と掲げてフィニッシュ。ロード、TTの両種目を制し、アジアロード2冠を達成した瞬間だ。その6秒後、精根尽き果てた表情の新城が2番目にフィニッシュラインを通過した。
メーン集団は結果的にチェンから4分30秒以上遅れ、銅メダル争いのスプリントへ。ここは戦い方を熟知した別府がしっかりとものにし、日本勢が銀・銅2つのメダルを確保した。
今大会、ロード種目で圧倒的な強さを発揮したチェンは、1991年生まれの24歳。トラックでは昨年の世界選手権でポイントレース、スクラッチの中距離2種目でともに5位の好成績を残した。ロードではUCIアジアツアーを主戦場とし、昨年12月のジェラジャ・マレーシア(UCI2.2)で総合3位に入っている。
21日にTTを制した直後、「ロードレースでも結果を出し、3月にロンドンで行われるUCIトラック世界選手権で活躍したい」と力強く語っていたチェン。ビッグレースに向けて、トレーニングが順調に進んでいることを証明した。
前半に集団内でアシストに努めた内間は、ゴールしたもののタイムアウトにより順位がつかず。畑中は序盤の落車のダメージが大きく、5周目にバイクを降りてリタイアした。強風と寒さ、そして激しいレース展開により、出走した50人中完走は11人というサバイバルレースとなった。
最後までハイペースを維持したチェン
フィニッシュ直後、2位と3位でレースを終えた新城と別府は握手で互いの健闘を称え合いながらも、悔しさを隠すことができなかった。2人がそろって口にしたのは、「チェンは本当に強かった」。ヨーロッパを主戦場にするワールドクラスの2人を軸に戦うというチームのミッションは十分に果たされたが、今大会勢いに乗る香港人ライダーの走りに屈し、その強さを素直に認めた。
チームを指揮した浅田顕監督はレースを振り返り、チェンについて「独走力があり、1人で行かせてはいけない選手だった」と悔やんだ。今大会で勝利したTTに限らず、アジアのレースで実績を挙げているだけに、マークすべき選手として認識していたという。
別府と新城を長年にわたって指導し、2人の走りや力量を熟知している浅田監督。2人が相次いでチェンの追走を試みた際には、追いつけるはずだと信頼して見ていたという。チェンと新城の差が4秒にまで縮まった際には、追いついてからの勝負を計算していたとも。
ところが、思わぬ誤算が生じた。それは、チェンの最終・10周目のラップが、前の周とほぼ同じタイムを刻んだことだ。8周目の後半にカウンターアタックで独走へ持ち込んだ後、9周目、10周目と勢いを維持してペースを落とさなかった底力が、金メダルを引き寄せた。
また、トラックで鍛えられたチェンのコンパクトなライディングフォームも、強風で多くの選手が苦しむ中でハイスピードの維持に貢献したと浅田監督は分析する。
新城「望んでいたメダルの色でなかった」
レース直後に悔しさを露わにした新城は、表彰式後、改めて「望んでいた色のメダルではなかった」とキッパリ。レース展開そのものは、「前半から動くであろうイランを抑え、後半勝負に持ち込むという狙い通り」だったという。別府がメーン集団で銅メダル争いを制し、内間も前半からイランの動きを抑えていたことを評価し、「あとは僕がトップに追いついて勝つだけだったのに、それが果たせなかった」と反省の弁。
あと少しに迫りながら追いつけなかった点について、新城は「チェンと自分とのストロングポイントの違い」と説明した。今大会のコースは上りよりも下りや平坦の比重が大きかったため、チェンの方が得意とするレイアウトだったと感じたようだ。
一方、レース展開が動いている中でのレース距離変更に対し、苦言も口にした。新城は「約160kmと119kmでは全く異なるレースになる」と指摘した上で、「(イランの2選手が先行する)逃げが発生している段階でレース距離が変わると、それまでの戦術から大きな変更を余儀なくされる。せめて集団が1つになっている状況で決定してほしかった」と話した。
そして、会場へ詰めかけた多くのファンへの感謝も忘れなかった。悪天候で交通が混乱する中、「あらゆる手段で伊豆大島へと渡り、日本ナショナルチームを応援してくれたことはうれしかった」と謝意を示して笑顔を見せた。
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アジア選手権は伊豆ベロドローム(静岡県伊豆市)へ舞台を移し、1月26日からトラック種目がスタートする。3月にロンドンで開かれるUCIトラック世界選手権や、8月のリオデジャネイロ五輪への出場枠獲得に向けて、各国ともUCIポイントを獲得するための重要大会に位置づけており、ハイレベルな戦いが予想される。
■アジア選手権ロードレース第6日 リザルト
男子エリートロードレース(11.9km×10周=119.0km)
1 チェン・キンロー(香港) 3時間25分34秒
2 新城幸也(ランプレ・メリダ) +6秒
3 別府史之(トレック・セガフレード) +4分38秒
4 パク・サンホン(韓国)
5 フェン・チュンカイ(台湾)
6 キム・オクチョル(韓国)
DNF 内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)
DNF 畑中勇介(チームUKYO)
出走50人、完走11人