アジア女性基金を考え直す/10 在外研究者らの声明
毎日新聞
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国内論争を経て低調になっていた「慰安婦」を巡る歴史家の議論に転機が訪れた。
米国などを拠点とする日本研究者ら187人が、5月に歴史認識についての声明を発表したのである。安倍晋三政権批判との臆測も流れたが、ようやく冷静な議論が始まりつつある。
声明の日本語訳は、米ウィルソンセンターに研究員として滞在中の浅野豊美・早稲田大教授(51)が担当した。戦後の地域再編・賠償を専門とし、アジア女性基金資料委員会で「『慰安婦』関係文献目録」を手がけたこともある。
「署名者がアルファベット順に並んでいるように、当初は誰が主導者か分からない形にするはずでした。公表後に混乱が生じたためジョージタウン大のサンド教授とコネティカット大のダデン教授が『呼びかけ人』になったのです」
一時帰国した浅野さんに声明の意味を尋ねると、翻訳に関わった経緯を説明してくれた。
浅野さんは3月初旬、旧知のサンド教授から月末にシカゴで開かれるアジア研究の学会で、声明について関係者が話し合いの場を持つ、と相談された。その後、最初の英文声明案を受け取ったのが4月初め。サンド教授の仮訳を基に2人で翻訳したのが5月2日であったという。
「声明のテキストを練りに練った分、それ以外はすべて個人の意見です。報道ではその区別がなされていないところがあります。運動体に参加している先生のみならず、普段は授業と研究に集中し、政治活動とは距離を置いている先生も今回は多く署名しています。若手などではなく、米国でしっかり日本研究をしている永続ポストの教授が中心になったことが重要です」
浅野さんがみる声明のポイントは次の通り。
第一に、声明は日本を「第二の故郷」とみなす海外の日本研究者が日本社会と政府に宛てたものだが、歴史研究の自由については、韓国・米国を含むあらゆる政府に呼びかけている。
第二に、歴史が東アジアで「民族主義」の手段となっている状況に警告している。歴史研究の成果こそむしろ民主主義を強化し、国家間の和解を進めるものと位置づけている。
第三に、米国でも黒人の公民権回復までに、奴隷解放から1世紀を要したことを例示して、世界の帝国主義と植民地支配清算の先頭に日本が立つことを期待している。それを前提に日本政府が「慰安婦」問題に取り組むよう求めた。
さらに浅野さんは言葉を継いだ。「声明は、日本人の謝罪疲れを意識しつつ、日本の保守層と安倍政権に向けて戦後日本の功績をたたえ、真剣に説得を試みたメッセージと言えます」<文・岸俊光 写真・徳野仁子>=次回は7日掲載
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