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緋村の帰還
その日、神谷家では緋村の航空隊入隊を祝った宴会が開かれた。
「それでは、緋村君の航空隊入隊に、乾杯ッ!!」
『乾杯ッ!!』
神谷中佐の音頭によって始まった宴会には、主役である緋村と、村田と杉野、そして薫が参加していた。
「そういえば先輩、先輩はどこの部隊に配属されるんですか?」
「ああ、横須賀航空隊だよ。多分山本中将が裏で手を回したんだろうな。」
「そうですよ。山本中将がすぐ連絡が取りやすいようにってわざわざ人事に口出ししたんですよ。」
「はあ...そんなことせんでもええのに。」
そう言いながら緋村はコップに入った酒を飲み干した。
しばらくして、宴会の終わった部屋から緋村が出てきた。部屋では神谷中佐と杉野がいまだに飲み続けていた。
「あー、ちょっと飲みすぎた。」
宴会を抜け出した緋村は、酔い覚ましのため、縁側に座っていた。
「しかし、みんな相変わらずだったなー。」
「ひむらさーん、ろうしたんれすかー?」
ふと後ろを見ると、そこにはへべれけに酔っぱらった薫が立っていた。
「ちょ、薫さん、大丈夫ですか?」
「らいじょうぶれすよー。」
そう言いながら薫は千鳥足でフラフラしながら緋村の横に座った。
「エへへへ。」
「ご機嫌ですな薫さん。」
「らってー、緋村さんが帰って来たんらもん。嬉しいれすよ。」
「え・・・」
緋村は薫の言葉に驚いた。
「薫さん、それってどういう...」
「ムニャ...」
薫の言葉の意味を聞こうとした緋村だったが、薫は宴会で疲れてしまったのか、緋村の横で眠ってしまった。
「ハア、全く世話の焼ける...」
緋村は眠ってしまった薫を部屋に運ぼうと薫を抱き上げた。
「よっと...結構軽いな...」
「・・・先輩、何やってんです?」
驚いて後ろを振り向くと、トイレから出てきた村田がこちらを見ていた。
「先輩...」
「誤解すんなよ!!」
疑いの目で見つめる村田に対し、緋村はそう叫んだのであった。
その翌日、二年ぶりに緋村は料亭での会合に参加した。
「緋村君、久しぶりだね。」
「はい、山本中将。お久しぶりです。」
会合には、山本中将や東条英機、杉山大臣といったいつものメンバーと、新たに海軍大臣に就任した米内光政が集まっていた。
「自分がいない間、どのようなことがありましたか?」
「うむ、盧溝橋事件は国民党との間ですでに収束に向かいつつある。付近に駐留していた第一連隊もすでに撤退している。」
盧溝橋事件は、杉山大臣の根回しによって事件は収束しつつあった。また、陸軍では秘密裏に進めていた大慶油田の採掘に成功していた。これは緋村や杉野の情報を基に採掘が行われていたが、詳しい場所を覚えていなかったため、油田の発見に二年かかった。
「質は悪いが、船舶用燃料として使えるそうだ。」
「なるほど、これで艦船の燃料には困りませんね。」
「それと戦車だが、九七式中戦車がようやく完成した。生産され次第満州を中心に配備させる予定だ。」
「来年にはノモンハンがありますからね。」
「うむ、準備は進めている。」
「海軍はどうですか?」
「艦上機は三菱に九六式艦戦の強化型の開発を指示した。また、扶桑型の空母への改装を先月から開始した。」
「扶桑をですか?」
「扶桑は旧式だからな。空母に改装した方がマシだと思ったのだよ。」
米内大臣はそう言った。
史実において扶桑型は、その誕生した瞬間から『欠陥戦艦』と呼ばれ、活躍の場もないまま、レイテ沖海戦において圧倒的多数の米艦隊によって撃沈された悲劇の戦艦である。扶桑の最後を聞いた米内は、扶桑の空母改装を決断した。
これには大艦巨砲主義者などから反対の声も出たが、米内の「扶桑型は速度や防御性能に難がある。それなら思い切って空母にして活躍できれば扶桑も喜ぶだろう。」という言葉を聞いて納得した。
「空母微動部隊も二年後には設立される。扶桑もその主力になるはずだ。」
「護衛空母はどうなってますか?」
「護衛空母は一番艦の『白鷹』と二番艦の『黒鷹』が竣工して訓練を行っている。完了次第、護衛隊に配備させる予定だ。」
この護衛空母は「白鷹型護衛空母」と名付けられ、海上護衛隊に順次配備されていった。『白鷹』は開放型格納庫やギャラリーデッキ、さらに試作の油圧式カタパルト等の新機軸を採用するなど、実験的要素を多く含んだ空母であった。また、艦政本部では防空巡洋艦の設計を行っていた。
「これからの戦は機動部隊が重要になる。それらをサポートする艦艇も必要だ。」
山本中将は力強くそう言った。
その翌朝、起床した緋村は朝食を食べ終え、出発する支度をしていた。
「緋村さん。」
「薫さん。どうしました?」
「その...昨日はご迷惑をお掛けしてすみません。部屋まで送ってくださったみたいで。」
「いえいえ...薫さん、昨日のことなんですが...」
「昨日?もしかして私、緋村さんに失礼なことしました?」
「あ、いや...そういうわけじゃありませんよ。それでは行ってきます。」
昨日の薫の言葉の意味を聞こうとした緋村だったが、覚えていないらしく、緋村は聞くのをあきらめた。
(まあ良いか。またいつか聞けばいい。)
そう思いながら緋村は、一路横須賀基地へと向かったのであった。
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