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飛行機乗りと機関銃
それから数か月間、緋村は訓練を続け、二か月後には三式初歩練を乗りこなせるようになり、教官の前で宙返りをして見せたこともあった。(後日教官から大目玉を食らったが)
そして、緋村は九三式中練での中等教育を開始し始めた。この頃は搭乗員育成強化のため、飛行訓練の時間を三時間に増やす分、訓練期間をわずかに短くするなどしていた。
「おーい、緋村。」
「お、トシ。お前同じ班になったのか?」
「ああ、一緒にやれるな。」
緋村と土方は、訓練を通して親友となっていた。今では自由時間では一緒に酒を飲んだり、外出許可が出た際には一緒に出掛けたりするような仲になっていた。
「この中等教育が終われば高等教育。それが終われば晴れて飛行機乗りだ。」
「どれになるかは適正次第だがな。」
「絶対に戦闘機乗りになってやる。」
「俺もだ。」
若い闘志に火を燃やす緋村たち訓練生が、戦闘機乗りを目指し訓練を重ねているころ、普段会合を行う料亭では、村田と杉野、そして東條中将や杉山大臣が会合を行っていた。
「チクショー緋村のヤロー、俺には何も言わずに霞ケ浦行きやがって。」
「まあまあ杉野さん。落ち着いてください。」
緋村の航空隊入隊に少々杉野はご立腹であったが、それを村田がなだめる。
「ところで東條閣下。今回はどのような要件でしょう?」
「うむ、実はブローニング機関銃のことなのだが...ライセンス生産の許可が下りなかった。」
「えッ!?何でですか!?」
「どうやらアメリカは満州事変で難色を示しているらしくてな...」
「ああ、それでですか...」
アメリカは日本がブローニングM2のライセンス生産の申請をした際、警戒心を持ったらしく、申請を却下したのである。
「まさかこうなるとは...」
「どうするかね?」
「・・・・一つ手はあります。」
杉野はしばらく天井を見上げていたが、杉山大臣に顔を向ける。
「中国の国民党と武器の取引をするのです。」
「何?国民党だと?」
杉野の言葉に杉山大臣は驚く。
「国民党ではアメリカやドイツ等から武器を給与されています。おそらくその中にブローニング機関銃もあるでしょう。そこで国民党と取引するのです。」
「だが何と取引するのかね?」
「旧式の三八式野砲です。中国に野砲と引き換えにアメリカの機関銃をくれといえばどうにかなるでしょう。それに中国は共産党との内戦状態ですので、武器が手に入るのなら了承するでしょう。」
「うむ、その手があったな。それで行こう。」
杉山大臣はそう頷いてすぐに国民党と交渉を行った。そしてこの交渉は見事成功した。
国民党は当初は欺瞞かと疑っていたが、上海に野砲を積んだ四隻の輸送船が到着すると、中には三八野砲百門と砲弾が搭載されていた。日本側は要請があればさらに百門追加すると伝えた。
これにより、提供が真実だと悟った国民党は、ブローニングM2重機関銃、M1919、ドイツのMG34を五丁ずつとその弾丸を提供した。
「まさかMG34とM1919のオマケつきとは...」
「ラッキーでしたね。」
杉野は報告を聞いてにやりと笑う。
「早速徹底的に調査してコピーさせよう。」
「ええ、あとは追加の工作機械が到着すれば完璧ですね。」
ドイツ とある工場
「おいロスマン。ここにある精密機械全部ヤーパンに送るのか?」
ドイツ人の工員が近くにいた同僚に輸出の紙を見ながら聞いた。
「確か昨日も一昨日も輸出されてたよな?」
「ああ、どうやらそうらしい。」
「ふうん、しっかし、何考えてんだろうなヤーパンは...」
「なんでも所長の話じゃ、今まではアメリカの精密機械を買ってたらしいが、壊れかけや中古の物ばかりだったから、ドイツやイギリスの精密機械を輸入するようになったらしいぞ。」
「中古の機械を使うヤーパンが目に浮かぶな...」
「まあ、所長も儲かるからって上機嫌だったな。」
「だったら俺たちの給料を上げてくれ。」
「ハハ、そうだな。」
そう言って二人は作業の手を進めた。
一方、神谷家では・・・
「はあ...」
薫は一人台所で夕食の準備をしながら、ため息をついていた。
「緋村さん、今どうしてるのかなあ...」
薫は緋村が霞ケ浦に行って以来、いつもそのことばかりを考えていた。手紙が何度か届いたりするものの、寂しい気持ちは変わらなかった。
「はあ...どうしちゃったんだろ私...」
父がよく仕事でいなかったりしていたため、寂しいのは慣れていたはず。それに緋村さん達が来てからは一人でいることはめっきり減った。なのになぜ寂しいのだろう...
(くよくよしてても仕方ない。とにかく早くご飯作らないと。)
そう思い薫は米を炊く準備を始めた。
それから二年後、緋村は無事飛行学校を卒業し、佐伯航空隊での延長教育を終えた緋村は、ついに念願の戦闘機乗りになった。そして緋村は二年ぶりに神谷家へと戻った。のちに緋村は、訓練生時代を振り返って、「自分の人生でもっとも素晴らしい時だった。」と語ったのであった。
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