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予科練入隊と戦友との出会い
それから数か月後、緋村は霞ケ浦航空隊にいた。緋村が霞ケ浦にいる理由は、予科練に入隊したためである。なぜ緋村が予科練に入隊しているのか、話は一か月前にさかのぼる...
一か月前、空技廠
その日、緋村は空技廠に向かっていた。理由はその日視察に来ていた山本中将に会うためである。
「山本中将、お忙しいなか時間を取らせていただきありがとうございます。」
空技廠の応接室で緋村と山本中将は話をしていた。
「いやいや、それで緋村君、話というのは何かね?」
「はい、実は...頼みがありまして...」
「なんだね?」
「実は...航空隊に入隊しようと思ってまして。」
「航空隊に?急にどうしたのかね?」
「はい、戦争になれば多くのパイロットが必要になります。ですので一人でも多い方がよろしいでしょう?」
「ううむ...しかし、君がいない間はどうするのかね?予科練でも最低二年以上かかるぞ?」
「自分がいなくても村田や陸軍にいる杉野がいます。ですので大丈夫のはずです。」
「ふむ...分かった。ただし条件がある。訓練期間は二年、しっかりとやっていきたまえ。」
「ありがとうございます。」
こうして、霞ケ浦訓練学校に入学した緋村は、基本的な座学を学び、三式初歩練での飛行訓練へと向かった。
三式初歩練の後席に乗り込んだ緋村は、伝声管を通じて前席の教官に準備完了の報告をする。
「よーし、準備できたな。出発するぞ!」
「はい!」
教官の声とともに、整備員が駆け寄り、チョークを取り払い機体が動き始める。やがて離陸位置についた機体は、ゆっくりと滑走し始める。
強烈な風圧が機体を包み込み、ふわりと宙に浮いたと思った時には、機体は空高く飛んでいた。猛烈な風圧に顔をしかめつつ、緋村は周りを見渡した。ごうごうと鳴り響くエンジンの爆音、強烈にかかるG、そして360度全方位に広がるその光景は、まさに戦闘機に乗った証拠である。
「よし、感覚をしっかり掴んでおけよ!」教官はそう言った。
「今から手を放すから、一人で水平飛行をやってみろ!!」
教官の指示を受け、緋村は緊張と興奮を覚えつつ、右手に操縦桿、足をフットバーに置く。慣れない手つきで舵を取るが、安定性の高い三式初歩練がカバーしてくれる。
「よーし、手を離せ!」
無意識のうちに、操縦桿とフットバーから手足が離される。再び操縦を行う教官は急旋回して霞ケ浦飛行場へと針路を向けた。
「なかなか筋がいいぞ。」
「ありがとうございます。」
「なーに、そんなに緊張するな。二、三か月あれば十分だよ。」
その言葉に安心した緋村は笑みを浮かべ、伝声管越しに感謝を伝えた。こうして、緋村の初飛行は無事成功に終わったのだった。
その夜、訓練を終えた緋村は、自由時間を利用して村田と薫宛てに手紙を書いていた。部屋には同室の仲間が談笑したり、本を読んでいたりと、思い思いに過ごしていた。
「ええと、拝啓薫様...」
「お前さん何やってんだ?」
緋村が後ろを振り向くと、そこには同室の訓練生がいた。
「ええと、確か名前は...」
「土方敏郎だ。トシでいい。」
「俺は緋村隆一。よろしくな。」
「何の手紙を書いてんだ?」
「ダチと居候先でお世話になってる所の娘さんにだよ。」
「ふうん、お前惚れてんじゃないか、その娘さんに。」
「な...」
「ほれやっぱり。」
カカカと切れ長な目を細ばせながら土方は大きく笑った。
「わざわざ手紙を書くんだから、よほど大事な人か好きな人だろうと思ったんだよ。」
「へえ、そうか。すげえなおまえ。」
「それで、緋村はその子をどう思ってるんだ?」
「その...何ていうか...俺が一方的に惚れてるだけだよ。あっちはどう思ってるか分からん。」
「ふうん、そうか。」
「トシは家族とかいるのか?」
「・・・おふくろは俺を産んですぐ死んだ。俺は六人兄弟の末っ子で、一番上の姉貴が母親代わりだった。家にいても無駄飯ぐらいだし、どうせ徴兵されるんだったら夢だった飛行機乗りになろうと思ったんだよ。」
「...なんかごめんな。」
「いいよ別に。気にしちゃいない。」
そう言って土方はにっこりと笑った。
「まあ、とにかくお互い頑張って、無事立派なパイロットになろうや。」
「そうだな。そろそろ就寝時間だ。さっさと寝ようぜ。」
「そうだな。お休み。」
「お休み。」
これがのちに緋村にとっての戦友であり、親友となる土方との出会いであった。
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