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二二六事件と緋村の恋
1936年(昭和11年)二月二六日
「今ッ!!日本が苦しんでいるのは、君側の肝がいるからであり、陛下のお言葉を自分の都合のよいように変えているからである!!」
「今こそ昭和維新を決行するときであるッ!!目指すは首相官邸、陸軍省、警視庁であるッ!!」
「全員進めェッ!!」
雪の降りしきる中、皇道派の青年将校は、昭和維新を決行するべく、近衛歩兵第三連隊、歩兵第一連隊、歩兵第三連隊、野戦重砲兵第七連隊を率い、攻撃目標へと進軍を開始した。
しかし、攻撃目標ではすでに迎撃態勢が整えられていた。
「首相官邸に海軍陸戦隊と第二十八連隊がいます!!更に八九式戦車隊も待機しております!!」
「陸軍省、警視庁でも部隊が展開しています!!」
「何!!何故だ、なぜ情報が洩れているんだ...」
首相官邸を包囲しようとしていた将校たちは、部隊が待ち伏せしていることに驚いていた。
その時、首相官邸から一人の男が出てきた。
「か、川島陸軍大臣...」
そこに現れたのはまさしく川島義之陸軍大臣であった。
「反乱軍につぐッ!!貴様らのしていることは陛下の御心に逆らうものであるッ!!直ちに武器を捨て降伏せよッ!!」
首相官邸から出てきた川島大臣は、反乱軍に対してそう一喝した。
「お、おのれぇ...撃てッ!!昭和維新を邪魔するものたちを撃ち殺せッ!!」
怒り狂った将校たちはそう命令するが、誰一人発砲する者はいなかった。
「どうしたッ!!さっさと撃たんかッ!!」
しかし、陛下という言葉に恐れをなした兵士たちは、将校たちの命令に従うことはなかった。
その隙に海軍陸戦隊が反乱軍の将校たちを取り押さえた。
「は、離せッ!!離さんか貴様らッ!!」
将校たちはそう叫びながら陸戦隊に連れていかれる。
他の部隊でも同じようなことが起こっていたが、陸軍省に向かった部隊では銃撃戦が発生した。
この銃撃戦で海軍陸戦隊所属の海兵十数名が負傷したが、陸軍の戦車部隊の威嚇砲撃によって沈静化した。
こうして、二二六事件は首謀者たちの拿捕によって終結した。また、事件に影響を与えたとされる北一輝も逮捕された。
のちに反乱軍を主導した将校たちは全員が死刑もしくは無期懲役とされ、またこの事件によって皇道派の発言力は低下し、皇道派の将校たちも多くが予備役に回され、皇道派は消滅したのであった。
「なんとか、終息させることができたな...」
都内の料亭に集まった大角大臣や山本中将と緋村たち、川島陸軍大臣と杉野は、そう呟いた。
「自分としては、誰一人被害が無ければ良かったのですが...」
「いや、緋村君。君たちの言った史実に比べれば被害は無い様なものだ。」
「左様。実際に高橋大臣や鈴木貫太郎侍従長は無事なのだから、要人の襲撃を防げたことは大きい。」
山本中将と川島大臣は緋村にそう言った。
「それもそうですね。ところで川島大臣、九七式はどうなってますか?」
「うむ、装甲は二倍の五十ミリに強化し、主砲は九〇式野砲を改造したものを搭載している。まあ、君たちの言う三式中戦車とほぼ同じだな。それと、アメリカのブローニングM2重機関銃のライセンス生産権を取得する予定だ。」
「なるほど。大角大臣、例のボフォース四十ミリ機関砲はどうなりましたか?」
「ボフォースの方はすでにライセンス生産の許可を得た。今のところは輸入だが、主力艦艇に順次配備させる予定だ。」
ボフォース四十ミリ機関砲は、史実において米軍艦艇に多く搭載された傑作機関砲である。太平洋戦争末期には数多くの特攻機を撃墜しており、その高い性能を発揮している。
「ボフォースがあれば、ドーントレスやヘルダイバーも相手じゃないですね。」
村田は嬉しそうにそう言った。
「ここからが、我々のターンだ。」
山本中将はニヤリと笑いながらそうつぶやいた。
それから数日間は事件後の処理に緋村たちも駆り出され、慣れない書類仕事などを片づけるのに数日費やした。
「アーもう疲れた。」
「やっと仕事終わりましたね...」
「三日ぐらい寝てない気がする...」
「蕎麦屋で飯食べましょうか。」
「そうだな。」
神谷家へと帰宅途中の二人は、近くにある蕎麦屋へと向かった。
「ここの蕎麦うまいですね。」
「確かにうまいな。」
蕎麦を食べながら二人は会話を行っていた。
「先輩って薫さんのことどう思ってますか?」
「どうって?」
「いや、なんか最近先輩、気づいたら薫さんのことよく見てますよね?」
「あぁ...まあな...」
「...もしかして薫さんのこと好きなんですか?」
「悪いかよ。」
「いや悪くはないんですけど...」
村田は少しばかり緋村のことを心配していた。なぜかというと、大体村田の経験上緋村が一目ぼれした相手はほとんどフラれてしまっているためである。こうなると緋村は一週間以上無気力状態になり、全く使い物にならなくなる。
(この大事な時期にフラれて使い物にならないなんて状態はヤバい...)
村田は緋村の恋の成就を祈りつつ、フラれないことも願いながら蕎麦を食べ続けるのであった。
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