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海上護衛と護衛空母
それから約二か月立ったある日、陸軍において事件が起こった。
「先輩、聞きましたか?例の事件。」
「『相沢事件』のことだろ?新聞で見たよ。」
この事件は史実の相沢事件で、事件の概要はほぼ史実と同じだが、杉野少尉の未来情報によって事件を知った林大臣は、永田少将の身辺強化を行っていた。これにより永田少将は犯人である相沢中佐に襲われたものの、軽傷で済んだのである。
「永田少将が無事でよかったですね。」
「ああ、でも二二六事件は起こっちまうかもな。」
「起死回生を狙ってってことですか?」
「たぶんな。」
緋村は味噌汁をすすりながら答えた。
「もう、朝からそんなそんな話しないでください。ご飯がおいしくなくなります。」
そう言って薫は茶碗一杯のご飯を頬張っていた。
「ハハハ、すいません。しかし相変わらずよう食べますなあ。」
「私、食べてもそんなに太らないんですよ不思議と。」
(世の女性たちの怒りを買いそうだな...)
神谷家での朝食を終えた後、二人は海軍省へと向かった。
「お、杉野、何で海軍省にいるんだ?」
「林陸軍大臣が海軍大臣と会談をするんで俺もついてきたんだよ。」
「ああ、今日だったな、会談は。」
そして緋村たちは大臣室へと向かった。部屋には大角海軍大臣と林陸軍大臣、そして山本中将と東條英機少将も出席していた。なお東條少将は満州から一時的に本土へ戻ってきている。
「相沢事件は何とか済んだな。」
「ええ、永田少将も無事ですし、犯人の相沢も捕まりましたしね。ただ、問題の二二六事件は絶対に起こさせてはなりませんね。」
史実では二二六事件を機に軍部の力が強まり、やがて満州事変から戦争の道へと進んでいった。それを防ぐために二二六事件を防ごうとしているのである。
「しかし、杉野少尉の資料やそこの海軍の緋村少尉たちの情報で首謀者の名は分かっているのだし、今捕まえれば防げるのではないかね?」
「いえ、東條閣下。もし今捕まえても、また別の皇道派が反乱を起こすやもしれません。ここはギリギリまで粘って事件を起こす直前で捕まえれば、反乱を起こしても無駄だと分からせることができると私は考えています。」
「ふむ、確かに。林大臣、どうでしょうか?」
「彼の意見に賛成だ。それに、皇道派にも見せしめになる。」
「そうですな。」
「ではこの件は決定ということで。よろしいですかな、大角大臣。」
「ええ、そういえば緋村少尉から聞いたのですが、軍用車両の開発を行っていると。」
「ええ、杉野少尉の資料に乗っていたM1ジープやM3ハーフトラックといった車両を基に開発を行っています。先日試作車両が完成したところです。」
杉野は陸軍の機械化の促進を図るため、パソコンに入っていたM1ジープ等の資料とタイムスリップした際に持っていた戦車名鑑を陸軍に提供していた。
また、開発中の九七式中戦車も九〇式野砲を戦車用に改良したものを載せるように指示するなど戦車の強化をしていた。後にこの改良型チハは日本戦車の代表格として大活躍するのであった。
「どうでしょう?我が海軍にもその軍用車両を譲ってもらえませんか?」
「それはもちろんです。陸軍だけで独占なんてのはもったいないくらいの物ですからな。」
「ありがとうございます。」
それから数日後、ドイツの工作機械を積んだ輸送船が横浜に到着した。
「やっと来たか、待ちくたびれたぜ。」
港の桟橋から見ていた緋村は一人呟いた。これらの工作機械は、全国の工場に運ばれていくことになっている。また、陸軍に徴兵されていた技術者や熟練工は除隊させ、さらに徴兵令を一部改正させ、技術者等の兵役を免除させる等の改革が行われた。
なお、議会でこの案件がでた際、一部の陸軍将校が反対したが、昭和天皇がこの案に賛成したためしぶしぶ賛成したのであった。
「工作機械も届いたし、大角大臣を通して岡田首相に頼んで朝鮮の予算を減らしたりして予算もできた。次はドイツだな。」
ドイツへの艦艇輸出は海軍内部から反対も出たが、最終的に青葉型巡洋艦、球磨型軽巡洋艦二隻に決定した。なお、軽巡の穴埋めとして、阿賀野型軽巡洋艦の設計が進められている。
また、海上護衛隊の設立により、松型駆逐艦の設計も進められているのであった。さらに海防艦も対潜、対空能力に重点を置いた艦艇の開発を進められていた。
「海上護衛隊も来年の三月には設立されるし、頑張っていかんとな。あ、そうだ。今日は艦政本部に呼ばれてたの忘れてた。」
数時間後、艦政本部に向かった緋村は急いで中村中将のいる部屋へと向かっていた。
「遅いぞ、緋村君。」
「すいません。横浜をブラブラしていまして...」
部屋には中村中将と神谷中佐、そして村田少尉が座っていた。
「まあ良かろう。次からは気を付けたまえ。」
「はい。ところで今回はどのような件で?」
「うむ、実は護衛空母の設計が完了してね。それを見せようと思ったのだよ。」
そう言って机の上に置いてあった図面を広げた。
「性能は搭載機数約30機、武装は12.7センチ高角砲二基、25ミリ三連装機銃十基。最高速度18ノットを予定している。もちろんカタパルトも装備させる予定だ。」
この護衛空母は、史実のカサブランカ級空母やコメンスメント級空母と同じように輸送船から改造できる様に設計されたものである。また、この空母は日本空母として初めて開放型格納庫やギャラリーデッキを採用するなど実験的な面も備えていた。
「今は実験的にタンカーを改造して試験する予定だ。」
「いやあ素晴らしいですよ。こんな良いものを設計してくださるなんて。」
「なに、すべては日本の敗戦を防ぐためだよ。」
中村中将は緋村たちの話を聞いた際、輸送船団の損害に衝撃をうけていた。これを知った中村中将は、護衛空母をはじめとして、海防艦や高速タンカーの建造を進めていた。
「史実では輸送船団の護衛を軽視したために物資が枯渇し、航空機すら動かすこともできなくなった。この世界ではそんなことは絶対にさせんよ。」
のちに海上護衛隊司令長官に任命された中村中将は、新見提督とともに、『海上護衛の第一人者』として後世に伝わるのであった。
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