らんちゃあ・でっど  コタツに説明書はない。あっても保証書が精々で、ついていたとしても読みはしない。 「どうだ、こっちはフラッシュ」 「甘いね、バニラのフォーカード! これ以上の贅沢はない!」 「バニラ! チョコチップの方がエライし!」  ところが自宅のコタツで冷凍庫の中に蓄えていたダッツを惜しげもなく並べて取り合いをされると、 説明書が読みたくなってくる。  片方は死んでる。片方は目が死んでる。  サポートセンターには生きていて欲しいと思う。  ――うちのアパートのコタツには幽霊が出る。  名前はいれぶん。特に害はないけども、出来ればセブンにご登場願いたい。光の国から。  自宅の鍵を開ける所から始めなおそうかと思った。 「じゃあガチ勝負で決着をつけようじゃん。バニラかチョコか」 「チョ・コ・チッ・プです。圧倒的チョコチップですぅ。死んだ人間が言うくらい」 「あんた他の死んだ人間見たことある? スーパーカップ見て泣く奴とかいるよ?」 「そのスーパーカップのチョコチップを見たら成仏すると思う」 「ないない。よりにもよって死ぬ前にウジ入りチーズが食べられなかったからってフラフラしてる奴 だし。知ってる? 今アレ輸入出来ないんだよ税関で引っかかって」 「申し訳ありませんがまずチーズにウジを入れる発想がある事を今知りましたが」 「お食事の際は念の為、一度加熱したうえ発酵に使ったウジとチョコチップを取り外してからお召し 上がりください」 「チョコチップは腐ってないし!」 「そこそこ。そこをハッキリさせようってワケよ。あ、裏返しても意味ないわダッツ。どうやって山 をつくろう」 「こちらにコタツが」 「でかした!」  しでかした。  今にも愛するアイスを曖昧な液体にしそうな幽霊の方に「溶ける!」とツッコミを入れて止める。  はたいたついでで幽霊でお馴染みの頭のアレが取れた。  涙目のいれぶんを見ながら、それ取れるものなんだって感心する破目になった。アイスの安全は、 そうして守られたのである。 「それで、いれぶん」 「何か」  言いながらいれぶんは頭のアレを懐にしまう。しまっちゃうんだソレ。  どうやら停戦協定は成立したらしく、バニラを口に運んでこちらを伺っている。 「こちらはどなたと心得ますか」 「突撃となりの晩ごはんです」  どう見てもヨネスケじゃない目が死んだ病院着の人が答えてくれた。明らかに違うやつを。 「急にボールが来たので」  いれぶんの答えもなんか違う。それからふと目を見開いて聞いてきた。 「えっというか知らないのこの人」 「生憎」 「ダッツ持ってきたから新手の補給兵かと思ってた」 「ヨネスケです」  やたらヨネスケを押してくる謎の人。 「あーわかった」  いれぶんがぽんと手を打つ。 「何ではたかれたか」  そっち。 「誤解からくる傷害罪の賠償で SEPTEMBERを買ってきて貰おうかと思ったのに」  唐突なアースウィンド・アンド・ファイヤーのCD要求だった。違うかも知れないが自分にはそれ しか思いつかなかった。 「ここはいっせーの、で言ったらはっきりするんじゃない?」  当の本人の提案に仕方なく乗るカタチになった。 「泥棒さん!」 「新手の幽霊」 「馬鹿め、そっちは残像だ!」  当の本人にどうもやる気がない。 「お困りですか? でも大丈夫! タウンページがあるじゃない!」 「どうやって入ってきたか判る?」 「知りません。補給兵かと」 「補給兵だったとしても唐突には現れないからね」  タウンページを取り出した謎の人を無視してアリバイを固めていく。 「いやさ」  謎の人がすかさずブロックに入る。 「ここの家の人でしょ? この幽霊ハナシになんないんだけど」 「貴方もハナシにならないと思うけど」 「この人探しをしているのが明石家涼日」  目的と本名を一言で説明する斬新な自己紹介だった。 「生きてます」  的確な補足もついた。 「つまり、人探しをしていた結果、人の家に上がり込んでダッツをガメていたと」 「判りやすく言うとそれね」  それが一番判りやすい説明なんだ……。 「タウンページも完璧じゃないからさ。電話してみたらピザの配達頼まれたり」 「それ絶対最初に「ピザいります?」って訊いたでしょ」  電話を受けてピザを注文しだす人がこの世に存在するとは思いたくなかった。 「あんた幽霊見えてんでしょ」 「幽霊の方が視界に入ってくるって方が正確かなって」 「ちょっと通りますよ」  ダンボールの中のミカンを取ろうとしたいれぶんが横切る。 「最近はプライバシーというモノに気を配ってる感じだから細かくは言わないけど」  はい。 「千円」  えっ。 「テレビのカードが買える。これで一つ手を打とう。ちょっと一緒に来て」 「ミカンが見っかんない……」  すごすごと戻ってきたいれぶんを見て、答える。 「買い物のついでなら」 「したらバニラも買おう」  契約関係はスパゲティになった。  こうして、人を探しているという涼日と一緒にお外に出戻りする事になったのだ。 「で、なんで電気コード持ってる訳」 「よく壊れるから。同型があったら確保しておこうと思って」 「律儀」  答えながら仕舞うと、いれぶんが塀にぶら下がりながら言う。 「猫だ! 鍋だ! 白線だ! 来い――来てくださいお願いしますお猫さま」  猫に夢中でらっしゃる。通りかかったお姉さんが小さく笑う。まあこっちの方見たらぎょっとして 早歩きになったけど。 「てっきりあの幽霊の首に巻くんだと思ってた」 「巻かれに行くことはあっても巻くことは無いかな。巻くとピテカントロプスが発生する」 「エレクトゥス? そりゃまずい。あの幽霊がコタツから出てくるなんて」  涼日がいれぶんを見て続ける。 「今くらい珍しい」  うん。 「あんたさ、開いてるよね」 「何が」  不意にトーンを落として涼日が訊ねてきた。 「色々。チャンネル――っていうと正確じゃないけど、一番判りやすいかもね」  ファスナーじゃなくて良かった。 「私はハゲって呼んでる」 「ひどい」 「――普通、人っていうのは家とか、服とか、肌とかで閉じて成立してるわけ。そのバランスが崩れ ると――」 「コタツに幽霊がついてくる?」 「そういう事もある。そっから、一度開いても普通は間に一枚かませるモンなの。包帯とか、十本の 鍵とか、忘れっぽさ、ひょっとした言葉――私の場合は、これか、これ」  病院着とタウンページを示して言う。 「それ、もしかしなくても探してる人と関係ある?」 「そ。ほっといても幽霊が寄ってくるから、うるさい奴の言うことは素直に聴くことにしてる。大体 が恨み言だね。バットマンみたいにアクションしたい」  唐突な願望。 「じゃあもしかしてウチに来たのは――」  いれぶんをちらりと見て訪ねた。 「そう」  タウンページを叩いてみせる。 「――コイツが悪い。幽霊繋がりで何か知ってるかと思ったら何も知らないし。何時か絶対、ミント アイス食わせて歯磨き粉って言わせてやる」  ひどい。 「でも、そっか。アパートの方が開いてるならパックされたあんたもそんな感じになるかも知んない か。あながち此処に来たのも間違いじゃないかもね」 「高い家賃だなぁ」  アパートに住むと冷凍庫のアイスをまるごとダメにされそうにされる。今知った。 「ま、そういう開いたままのってのは、人探しするのに都合がいいんだよね」 「バニラ買ってあげるのに」 「そのうち何か考えておこう。冷めた焼き鮭とか」  いらない。 「フランベって呼んでる」 「何を」 「開いた奴。全身を火傷なんかすると開きやすいんだ。逆に中身を抜くってのもアリ」 「そんな包帯が歩いてたら目立つと思うけど」 「そういうレベルじゃ収まらなくなる。知ってるのだと、ようそほほ? だったっけ、そんな名前の 歩かない死体なんかゴスロリ被せられてるし」 「可愛い」 「そのうえ脚が八本ある」 「ギリ可愛い」 「ギリか。まあ前提が逆な訳。包帯をしてる奴を見ないんじゃなくて、包帯をして目立つ奴のほうが 少ないって事。普通は出歩きたがらない。痛いし」 「そりゃ痛いだろうね」  いれぶんの方を指差して続ける。 「アレなんか特に痛そう」  包帯まみれの誰かに正面からぶつかっていた。 「こういうの、噂をすれば影っていうの?」 「残念ながら、関係はなさそ。あれじゃミディアムレア。半端な焼け方してるから多分死ぬ」 「死ぬんだ」 「すずぴー! ハムナプトラが死んだ!」 「知らない間に幽霊にアダ名つけられたわ。これは死ぬ」 「死ぬんだ」  倒れた包帯をちらちら見ながらいれぶんがオロオロする。 「ま、見てな。アレが開くっていう事――生きてても死んでても関係ない。順番からめちゃくちゃに なる。生きているものが死んで見えたり――」  タウンページを振り回しながら涼日が言う。  それは確かにおかしかった。倒れた包帯の人が見える。でも全身包帯の人間が往来で倒れているの を見ても、どうしてか不思議には感じない。街灯が灯ってるとか、空が曇ってるとか、そういう程度 の感じ方しかしない。どちらかというとAEDを探してるいれぶんがおかしい。 「巻き込まれ――てない。なんだあの幽霊あんな近くで」  タウンページを降ろして涼日が脱力する。 「まあでも判ったでしょ。どっちに転んでも目立たないワケよ」 「清掃中の看板に似てる」 「と言ってほっといておくのもダメ。まずうるさい幽霊が増えるし、それが私の所に来るし、言う事 はむちゃくちゃになるし、解決が面倒になる。よってこうする」  つかつかと歩み寄って、タウンページでパチン。  霧が晴れたみたいだった。何も残らなかった。いれぶんがはっとして言う。 「て、てじなーにゃ!」  古い。 「古い」  被った。 「じゃあ一通り終わった所で」  涼日がタウンページを肩に担いで言った。 「ジャイアントコーンを買ってもらおう」 「えっ」 「私の用事はまだ終わってないし、幽霊は便利かも知れないし、あんたのウチは使える」  今更だけどこれヤバい人だ。 「という訳で次もよろしく」 「次があるんだ・・・」 「金曜の夜には背中に気をつけな」  言うと涼日が消えた。 「超魔術……」 「古い」  ツッコんで思う。  高い家賃だ。 16/01/09(土)09:51:28 No.12575004 del ■設定■ いれぶん 幽霊の少女 アパートに憑いてるが夢はコタツの精霊の 主にやる気がない感じで脅かしてからみかんなどを盗っていく たまにさよなら人類を熱唱する(シャレではない) 11時にコタツの電気コードで絞殺されたのが原因だが本人は覚えていない 11時に比較的やる気が出るのでいれぶんと名乗っている 15/03/27(金)23:31:12 No.11616026 del ■設定■ 明石家涼日(あかしやすずひ) 頭の中がちょっとおかしな女の子 ボサボサな茶髪にイッた眼をしている 黄色い病院の一室で何事かをぶつぶつ言っている 金曜の夜になると消えたり増えたりするが 医者は何故か気にしない