ライフハッカー編集部 - アイデア発想術,ニュース・コラム,仕事術,科学,趣味 10:00 PM
アインシュタインのひらめきのソースはSF小説?複雑な考えを身近なものに変える発想術
Inc.:今日はまだSFの世界の出来事も、明日にはそこからイノベーションが起きることもよくあるものです。ホバーボード、自動運転車そして網膜認証も実現化されるずっと前にその構想がSFの物語の中に登場しています。
そうしてみると、アルバート・アインシュタインの理論にも、物語に登場するアイデアからインスピレーションを得たものがあるのかもしれません。さらに、アインシュタインは複雑なコンセプトを人々にわかりやすく説明するために物語を利用していました。特に頼りにしたのがFelix EbertyとAaron Bernsteinという2人の作家のフィクションです。
アインシュタインは、特にBernsteinの作品を「息をつく暇も無いほど」むさぼるように読み、それが特殊相対性理論につながる彼の推論を導いた可能性はあります。
こう書いているのは「The New Yorker」のJimena Canales氏です。
1846年に書かれた小説『The Stars and World History』でEbertyが描いたのは、「人類が光より速く移動できるようになったらどうなるか」ということです。また、彼は「地球で展開される出来事は遠いかなたの星からどのように見えるだろうか」と思いを巡らし、「地球がこの瞬間もまだ旧約聖書のアブラハムの時代であるように見えるのではないか」とも記しています。一方、Bernsteinが描いたのは広大な宇宙での郵便サービスの物語。そこでは過去や現在という概念はすでに時代遅れで、光より速く移動すれば歴史上の人物に郵便を届けることも可能でした。
1946年、アインシュタインは「Ebertyが描いたような想像力あふれる空想」を利用してその偉大な理論を広く人々に説明したとCanales氏は書いています。興味深いのは、その当時、時空のゆがみを解説するのに、有名な小説を利用するという手法をとっていた人がすでにいたことです。フランスの物理学者のポール・ランジュバンはジュール・ヴェルヌの宇宙小説、特にヴェルヌ自身が「投射物」と呼んでいた宇宙旅行用の装置を、すでに特殊相対性理論の講義に利用していました。「アインシュタインはそれより身近な乗り物を選びました」とCanales氏は書いています。「彼が選んだのは"古き良き鉄道客車"の出てくる話でした」
世界中の人々はアインシュタインの理論によって実現可能となる物語に魅了されました。相対性理論の考え方に基づく面白い話を求めたメディアが天文学者の元に殺到しました。Canales氏によると1919年、天文学者のアーサー・エディントンがケンブリッジ大学のトリニティカレッジで講演をしました。それを報じた『The New York Times』の見出しは、「エディントン教授、実際は3フィートのものがいかにして6フィートに見えるかを解説」でした。
エディントンの魔法は続きました。1920年のエッセイでは光速の90%の速さで移動するとはどのようなものかを読者に示しました。Canales氏によるとその中身は「地球上の観測者の目にはパイロットが着けている腕時計が地上の2倍遅く進み、吸っているタバコも地上の2倍長持ちするように見える」となっています。
相対性理論と、それを取り囲む想像力豊かな物語は、高い人気を誇りましたが、同時にアインシュタインは中傷にさらされることになります。フランスの哲学者、アンリ・ベルクソンはアインシュタインの才能について「相対性理論が行ったことというのは、小説『タイムマシン』で時間を四次元だと見なしたH. G. ウェルズと大きな違いはない」と言及していた、とCanales氏は記しています。「どちらも科学として、というより上質なフィクションとして大衆を魅了したということではないか」と。ベルクソンの主張は重要視され、1922年になってもアインシュタインの相対性理論はノーベル物理学賞を取れずにいました。
アインシュタインは反撃します。1923年、Ebertyの『The Stars and World History』が再版されると、その冒頭部分を執筆します。彼はEbertyについて「型にとらわれない独創的な人」と言い、アインシュタイン同様Ebertyも「一見変わらぬ真実だと思えるものも、決して一方向的なものでも絶対的でもない」ということを理解していたのです。
アインシュタインの苦境は、複雑なコンセプトも、巧みな物語を使用することで身近なものに変える方法に気づかせてくれます。先日、私は連続起業家のDavid Norris氏と話しました。彼が最近立ち上げたベンチャー企業のMD Insiderは、患者が事前に外科医のデータを比較できるスタートアップですが、彼はそう説明するのではなく、「自信が下手な手術を受けてしまった経験」から話し始めました。医者に行ったあと、後悔した経験を持つ人なら誰もが共感できることを会社のコンセプトにしました。彼は無味乾燥になりがちなデータの領域から一歩飛び出したのです。
アインシュタインの話からさらに学べることは、どれほど深遠で優れたコンセプトを生み出しても、それを人々が理解できるように説明するという課題があることです。しかもコンセプトが人気を得るやいなや、ベルクソンのように、人気があること自体を中傷してくる人が出現してくるのです。
The Surprising Source of Inspiration for Albert Einstein | Inc.
Ilan Mochari(訳:コニャック)
Photo by Akimov Igor/Shutterstock.
- アイデアが枯れない頭のつくり方
- 高橋晋平CCCメディアハウス