速く泳ぐ腕のかき方 「I字」か「S字」か
筑波大や東工大などの研究チームまとめる
クロール(自由形)で泳ぐ時の腕のかき方は、50〜100メートルの短距離なら直線的な「I字」が、中長距離なら曲線的な「S字」が有利との分析結果を、筑波大や東京工業大などの研究チームがまとめた。水をかく際に生じる渦の違いが、二つの泳法に推進力の差をもたらしているという。
水に入れた手を、胸とおなかの下を通すようにかく「S字ストローク」と、体の軸と平行に後ろへ真っすぐかく「I字ストローク」。クロールでどちらが速く効率的に泳げるのか、長年、競泳選手や市民スイマーの間で論争が続いてきた。
最適な泳法を確かめようと、高木英樹・筑波大教授と中島求・東京工業大教授ら水泳の流体力学を専門とする国内外の5人の研究者が協力。コンピューターシミュレーションやロボットを用いた水流解析など、異なる手法による分析結果を持ち寄って検証した。
検証結果によると、少ない力で効率よく泳げるのは、肘を曲げて泳ぐS字ストローク。おなかの下辺りで手のひらを外側に返す際に渦が一瞬発生し、大きな揚力を生むことが分かったという。
一方、I字ストロークは揚力を生む渦ができず効率で劣るが、S字より速く泳ぐことができるという。泳ぐ速さは水をかく頻度に比例するためで、S字の場合、肩周りの筋力の限界で1.3〜1.5秒につき1回の頻度が最高。これに対し、I字は1.0秒前後につき1回の高速でかくことができ、パワー勝負の50〜100メートルの短距離で有利という。
クロールの泳ぎ方をめぐっては、古くは肘を曲げないI字が理想とされた。だが、1972年ミュンヘン五輪7冠のマーク・スピッツ選手(米国)の影響でS字が主流に。2000年代に入るとI字で通算5個の五輪金メダルを獲得したイアン・ソープ選手(オーストラリア)の活躍を機にI字が復権した。
高木教授は「S字かI字かの二者択一でなく、距離や筋力に応じてどちらかを選んだり、両方取り入れたりする泳ぎ方が良い」と話している。【阿部周一】