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矢口高雄氏“釣りキチ”最終章にこめた「語り掛けたかった」こと

「釣りキチ三平」の作者・矢口高雄氏
「釣りキチ三平」の作者・矢口高雄氏
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 戦後70年企画で、漫画界の巨匠を取材している。人気漫画に描いた時代の空気と、未来への提言を聞く不定期連載。第2回で「釣りキチ三平」の矢口高雄氏の話を聞いた。最終章に込めた矢口氏の思いを連載に盛り込めなかったので、ここに紹介したい。

 同作は三平少年を主人公とする釣り漫画の名作。1973年から少年マガジンで10年間連載された。現実の釣りのリアルな魅力と、美しい自然描写に支えられた世界観に、少年漫画らしいアイデアが加わり大ヒット。今日に続く釣りブームの基礎を作った。

 それだけに、三平の祖父一平の死を描いた最終章は異色だ。物語の幕引きにキーパーソンが死ぬことは珍しい手法ではないが、少年漫画で葬儀をここまで丁寧に描いたのは珍しい。

 舞台は矢口氏の故郷をモデルとする山村の家屋。三平と一平が暮らしたわらぶき屋根の家に村人が集まって葬儀を準備、運営する様子はドキュメンタリー番組を見ているようだ。

 矢口氏は、最終章に題材に葬儀や死を選んだ思いを「当時、子供たちの自殺が社会問題になった。自分の命を断つのはやめてほしいと、少年少女に語り掛けたかった」と明かした。

 連載終了の前年には、1982年のクリスマスイブ。横浜市磯子区で女子中学生の集団飛び降り自殺があった。中学3年の女子生徒が次々にビルの屋上から飛び降りた。遺書はなかったが、1人は学業不振を苦にしていたと言われた。あとの2人は同情して飛び降りたとの推測もあった。

 内閣府の調査によると、自殺者数は83年と98年に急増。原因は分かっていない。80年代に増えた子どもの自殺については、校内暴力やいじめの増加、受験戦争の激化を要因とする分析が多い。

 矢口氏は「若い子たちが何を思い詰めたかは分からない。ただ、1人の命が失われることでどれだけ周囲が悲しむか、どれだけ自分が愛されているか知ってほしかった」と当時を思い出した。

 葬儀後、三平は一平が注いだ愛情の深さを知る。ちなみに三平は、生後間もなく母を亡くし、父は行方不明。兄もいたが、三平の生まれる直前に死んでいるという設定だ。

 矢口氏のモットーは「漫画作品は世の情報と密着し、時代の流れで生きるもの」。釣りキチ三平でも、環境破壊や地方の過疎など、社会問題を数多く描いている。

 連載終了自体は、以前から10年をメドにと考えていたという。「作家として次のステップを踏むためだった」という。「10年間やって、描き切った思いがあった」とピリオドを打った。

 だが連載終了18年後の2001年には「平成版 釣りキチ三平」を始めている。当時の思いを「世の中、何も変わらなかった。学校のイジメはひどくなるばかりで、犯罪の若年齢化も進むばかり。三平の出番が再び来たかなと思った」と語った。

 巨匠が描くべき問題の多い時代は不幸かもしれない。だが、ファンとしては作品を読めることが嬉しくもある。(記者コラム)

[ 2015年10月25日 10:00 ]

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