フランスのパリの古いアパート。
誰も住んでいないけれど家賃が払われ続けている部屋がありました。
借り主はかつて女優として活躍した美しい女性、マルト・デ・フロリアンさん。
彼女は部屋を離れててから70年間、一度も部屋を訪れることはなかったといいます。
91歳で亡くなられるまで、家賃を払い続けた彼女。
どうして彼女は無人の部屋に家賃を払い続けたのでしょうか。
2010年に遺族がその部屋を訪れると・・・。
部屋をあけると、70年前にタイムスリップしたかの空間が広がっていました
第二次世界大戦勃発後、ナチスの侵攻によってフランスがドイツに降伏すると、
街ではドイツ兵が市民を監視し、あちらこちらにハーケンクロイツの旗がかけられるようになった。
食うや食わざるやの時代、配給制となったパリの食料事情も厳しくなり、
猫のスープからカラス料理まで登場したという。
そんな戦火から逃れるためにフロリアンさんはパリを捨て南仏へと移住したが、
思い出のたくさん詰まったパリの部屋だけはどうしても手放すことができず、
70年もの間、亡くなるまで家賃を払い続けたそうだ。
戦争のさなかどうしてもこの部屋を出なくてはならなくなったフロリアンさん。
でも思い出のたくさん詰まったこの部屋をどうしても手放すことができなかったと言います。
そのため70年もの間家賃を払い続けていたのです。
美しく存在感を見せる遺留品たち
数々のアンティーク家具、化粧品、鏡、香水、本、絵画…
当時のパリジェンヌの生活がそのまま残されたその部屋は70年前にタイムスリップしたかのような感覚になります。
当時から手つかずの部屋は、ほこりがまっていました。
部屋の端に座り込むぬいぐるみ達、ご主人様の帰りを待っていたのかもしれません。
一つ一つの遺留品がとても価値がありそうなものばかりです。
しかし、その中でもひときわ目をひいたのが一枚の肖像画でした。
ピンクのイブニングドレスを着てソファーに座る女性、
24歳の時のフロリアンさん自身の肖像画でした。
なんて美しいんだろう・・・と思わず引き込まれてしまいますね。
なんと、この絵を描いた人はとんでもない人だったのです。
肖像画を描いたのはジョヴァンニ・ボルディーニ氏。
ボルディーニ氏は、イタリアの印象派画家で、
ベル・エポック時代のフランス・パリ社交界の肖像画家として時代を代表する画家です。
1889年のパリ万国博覧会ではイタリア館の総監督を委ねられ、
その功によってレジオンドヌール勲章将校級勲章を授与されるなど輝かしい功績の持ち主です。
「同行していた鑑定士が一目で『これはとんでもない発見に違いない、あのボルディーニの未発表作だ!』
というほど美術的に価値あるものだったのだ。」
この作品は一度も展覧会に出品された記録がなく、
ボルディーニ氏本人の作品かどうか正式な鑑定に困難と想定されました。
しかし、同じ部屋からフロリアンさんへの愛のメッセージが込められた
ボルディーニ氏からのラブレターが発見され、
そのラブレターによって間違いなく肖像画がボルディーニ氏の作品であることが判明しました。
フロリアンさんがこの部屋を引き払えなかった訳とは、
ボルディーニ氏との素敵な思い出が詰まっていたからだったのですね。
70年の時を超えて当時のフロリアンさんの大切な思い出がよみがえり、
遺族の方々も胸がいっぱいになったことでしょう。
その後、この147cm×114cmの大きな肖像画はオークションにかけられ、
210万ユーロ(日本円にして約2.6億円)で落札されました。
異例の高値で取引されたということで、
これはボルディーニの作品の中で最も高額な作品となり、
それだけ人々の心に響いた作品であったことが伺えます。
ずっとフロリアンさんの心の中にしまわれていた大切な二人の思い出が、
70年の時を超えてよみがえった瞬間でした。
このロマンティックな実話は日本ではあまり知られていませんが、
フランスでは大きく報道され人々に感動を与えました。