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高齢運転手のバス事故 10年で2倍以上に
1月22日 17時56分

高齢運転手のバス事故 10年で2倍以上に
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乗客乗員15人が死亡した長野県軽井沢町のバス事故を受けて、警察庁が調べたところ、今回のような高齢の運転手による大型の貸し切りバスの事故が10年で2倍以上に増えていることが分かりました。
今月15日、長野県軽井沢町で、65歳の運転手が運転するスキーツアーの大型バスが道路の下に転落し、この運転手を含む乗客乗員合わせて15人が死亡、残る乗客26人全員が重軽傷を負いました。
この事故を受けて、警察庁はおととしまでの10年間に、事業用の大型の貸し切りバスが全国で起こした人身事故を調べました。その結果、平成17年は354件でしたが、年々減る傾向で、おととしは280件と、平成17年の時より、件数で74件、率にして20%減少しました。
その一方で、バスの運転手を年代別にみますと、今回のような65歳以上の高齢の運転手の事故はおととしは38件と、平成17年の16件より2.3倍に増え、事故全体に占める割合も3倍の増加となる13.5%になりました。20代から50代ではいずれの年代も平成17年の時より減少していて、特に、30代は30件と、半分以下になりました。
高齢の運転手による大型の貸し切りバスの事故が倍増していることについて、警察庁は、社会全体の高齢化で、バスの運転手の高齢化も進んでいることが背景にあるのではないかとしています。

規制緩和で運転手の賃金大幅減

貸し切りバスの規制緩和が行われた平成12年と比べると現在の民間のバス会社の運転手の賃金は大きく下がっています。
日本バス協会によりますと、30台以上所有する民間のバス会社の運転手の所得は貸し切りバスの規制緩和が行われた平成12年は577万円でした。この年まではバスの運転手の所得は全産業の平均を上回っていました。
ところが、規制緩和によってバスの会社が大幅に増え競争が激化したことにより人件費の抑制が行われ、平成26年には444万円と100万円以上減少しました。全産業の平均536万円と比べても92万円低くなっています。
こうした状況のなか、複数のバスの運行会社によりますと運転手のなり手が減っているといいます。日本バス協会によりますと、20代の運転手の割合は全体の僅か2.7%、その一方で60歳以上の運転者の割合は17.1%となっていて、このままの状況が続けばさらに高齢化するということです。

値段を下げることで悪影響の連鎖

事故を起こしたバス会社と規模が似たような中小のバス事業者2社に現状や安全対策について取材しました。
事故を起こしたバスを運行していた東京・羽村市の「イーエスピー」はツアー会社から国の基準を下回る安い価格で運行を受注していました。これについて関東地方のバス会社の経営者は「基準の運賃を守っているのは一部の大手だけだと思います。旅行会社側に基準内の運賃で見積もりを提示しても、その時点で『結構です』と断られてしまいます。値段を安くしないと仕事がとれません。基準内の運賃で契約した場合でも旅行会社側から多額の仲介料を支払うよう求められることが多くあり結局、自分たちの取り分は増えていないです」と話しています。
また、こうした安い運賃は人材確保に大きな影響が出ているとして「いま本当に運転手が不足しています。結局運賃が安いから、もちろん人件費も安くなる。人件費が安いから運転手も集まりづらくなってくるという悪循環になっていると思います」と話していました。
また、運転手の技能の向上について別の小規模なバス会社の代表は「大型バスの運転手は30人、40人もの乗客の命を預かるのだから本来は、3年くらい研修が必要だと思っている。身を削ってでも育成しなければこの業界から運転手がいなくなってしまいますが法律の基準の運賃が守られない状況ではどこの会社も育成する余裕がありません」としたうえで「バス会社だけでなく旅行会社側の指導や監督をしっかり行わなければいつまでたっても繰り返し、また同じ事故が起きる」と話していました。

規制緩和後の競争と安値受注が背景

交通政策に詳しい早稲田大学の戸崎肇教授は、今回の事故について「バス業界が抱える課題が一気に噴出した」と問題提起しています。
問題の根源には規制緩和以降の安値受注があるといい「2000年に入ってからの規制緩和で、バス業界は零細業者でも事業を行えるようになった反面、激しい価格競争となり、少しでも値段を下げようとしている。規制緩和をする際には、きちんとルールを守って競争しなければいけませんが生き残るため現実にはルールを守らないバス会社は多い」と指摘しています。その結果、「安全に対するコストまで削減して仕事をとろうとする事業者が増え、そこが事故につながってくる大きな背景になっている」と安い運賃での受注を改善しなければ安全は確保できないと指摘します。
そして今後の対策としては、「現在は強い立場にある旅行業界との関係を見直し、適正な運賃にしていくことが大切です。ルール違反の会社は市場から追い出すなど公正な競争をさせなければいけない。われわれ消費者も安いツアーはありがたいが『こんな価格で本当にできるのだろうか』と疑問をもつことが必要ではないでしょうか」と話していました。

大手バス会社は運転技能の研修施設

乗客が多い大型バスは、事故が起きると甚大な被害となるおそれがあります。多くの乗客の命を預かる運転手の技能の向上にバス会社ではどのように取り組んでいるのか、3年前、専門の研修施設を開設した大手バス会社を取材しました。
東京と各地を結ぶ「ジェイアールバス関東」は、およそ750人の運転手が勤務し、夜行を含む高速バスを運行しています。この会社では、衝突軽減装置の付いた新しい車両の購入やドライブレコーダーの設置などの安全対策に3年間で30億円余りを投資しているほか、3年前には、栃木県佐野市に専門の研修施設を開設しました。およそ6000万円をかけて導入された全長およそ12メートルの訓練専用車があり、日本バス協会によると、このサイズの訓練車は日本に1台しかないということです。
特徴は運転の様子を分析したデータを基に不足している技術や直すべきポイントを映像やグラフで示すことができる点です。たとえば、運転手の目線を記録する機能では、運転中に前後左右すべての方向に気を配り、ミラーを見ているかなどを確認できます。また、ブレーキなどの踏み具合を数値で示す機能は、揺れなどを可視化することで乗客の乗り心地が分かります。運転手に自分の運転の癖や弱点を知ってもらうことで改善につなげようと導入されました。
さらに、研修施設の一角には大型バスの過去の大事故を伝えるパネルを展示した「事故の歴史展示室」も設置しました。過去の事故から人の命を預かる重責を改めて理解させるねらいです。この会社では、すべての運転手に研修を受講させることにしています。
ジェイアールバス関東の秋葉松美安全整備部長は、「安全運転には技術面だけでなく人間的な教育も必要で、そのためにはある程度の資金が必要になります。安全に100%はないので、事故を少しでも減らすために対策をしていきたいです」と話しています。

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