金曜ロードSHOW!の紹介ページには「誰もが共感できる成長物語」と書かれている。
全く正しい。ニシンのパイを届けるシーンは、何度見てもつらくなる。
とはいえ、彼女は幸せものだった。
「世間は思ったより冷たかった」かもしれない。
にしても作中に出てくるのは優しい人ばっかり。悪い人がいない。
特に、おソノさんの異常な懐の広さたるや。
ウルスラの生き方かっこいいけどやっていけるんだろうか。
うーん、やっていけるんだろう、この世界では。若い女子が安全にヒッチハイクできちゃうんだもん。
世界はやさしさに包まれすぎている。
「すごくみんなにかわいがられているでしょう。まわりはみんないい人だし、悩んでいても『どうしたの』ってまわりが聞いてくれる。自分からはたよろうと思ってなくても状況のほうが手をさしのべてくれる(中略)キキが明るくて素直ないい子だからだと思うのですが、現実はそんなに甘くないぞって(笑)。もっとも、でも主人公がボロボロにたたきのめされる映画だったら、見たくはありませんけどね」
(1989「ロマンアルバムエクストラ 魔女の宅急便 メモリアルコレクション」原画 大谷敦子)
キキは街中のみんなに愛される女の子になった。
ラストの飛行船のシーンと、エンディングを見れば、一目瞭然だ。
「娯楽映画」にするための苦闘
元々、この映画は宮崎駿が監督をする予定ではなかった。
児童文学の映画化に興味を持ちつつも、せっかくなので若手に任せよう、私はプロデューサーに徹しましょう、という話になる。
ところが宮崎駿、他の若手作家の脚本を見てどうもしっくりこない。
宮崎駿「いまの若い人が何を考えているのか、どういう作品作りをしたいのか、いまひとつぼくには理解できない」「今回はプロデューサーだけのつもりでしたが、シナリオまでやりましょう」
(「ロマンアルバム」)
気がつけば、プロデューサー、監督、脚本、絵コンテ、全部宮崎駿がやることに。
ザクザクと彼が手綱を握って進めていくうちに、ラストシーンをどうするか、メインスタッフの間で議論が起きた。
・キキが奥様からケーキをプレゼントされるシーンで終わる。
・デッキブラシで飛んだキキが、飛行船につるされたトンボを救って終わる。
後者は宮崎駿発案。スタッフは、前者がいいのではないか?と意見を出した。
鈴木敏夫「監督が宮さんじゃなかったら、僕も飛行船のシーンはないほうがいいと思う。…