多くの魔導師たちが集まる中、ワシは万雷の拍手を浴びていた。
頭を垂れるワシの前にいるのは魔導師協会の偉いさんである。
「魔導師ゼフ=アインシュタインよ、汝の素晴らしき魔導に敬意と賞賛を評し、ここに緋系統魔導師最高位の称号、フレイムオブフレイムを授ける」
「はっ、有り難く頂戴します」
「この名に負けぬよう精進せよ」
――――と言ってもワシはもう結構なジジイなのだがな。
緋系統魔導師、最高位の称号「フレイムオブフレイム」
若き頃から緋の魔導の修行に励み、老年になった今、ついにこの称号を得ることが出来た。
来る日も来る日も魔導の研鑽に明け暮れ、酒、女、金、あらゆる誘惑に目もくれず人生の全てを緋の魔導に捧げてきたのだ。
まさに感無量である。
万雷の拍手の中、手を降りながらゆっくり講壇を降りていく。
観客に見送られながら花道を往くワシ、それを見送る若い魔導師たちの羨望の目が心地よい。
この後は記者の前で会見、協会で偉いさん方と交流、スケジュールはみっちりと詰まっている。
くっくっ、人気者は辛いな。
ワシは目立つのは嫌いではない。
人は賞賛され、持て囃される事でより成長できる。
貶められ、馬鹿にされる事で憤慨し、それでもまた成長できる。
どちらにせよ目立つということは、非常に効率的な成長方法なのだ。
というワケだ、また目立たせて頂こうではないか、ワシの更なる成長の為に!
花道を渡り終えたワシは振り返り、魔導師協会皆の前で腕を振り上げ、叫ぶ。
「ワシは更なる高みを目ざす! フレイムオブフレイム、その中でも歴代最強の座を手に入れてみせよう!」
ワァァァァァァァァァァ!!
拍手と歓声の渦に包まれながらワシはマントを翻し扉を出ていくのであった。
ワシの言葉は魔導師協会配布の新聞にも掲載され、世界中に広がる事となる。
――――翌年、一人の魔導士がスカウトスコープなる新しい魔導を持って魔導師協会を訪れる。
これは魔導師の才能を測る魔導、念じることで自分の得意な魔導の系統を知る事が出来るというものだ。
魔導というものは基本的に5つの系統に分かれている
「緋」
炎に干渉する魔導で、優秀な念唱速度、攻撃範囲、威力を持ち五系統で最も攻撃性能に優れるワシの得意魔導である。
「蒼」
水に干渉する魔導で、攻撃力は低めだが特殊効果が付与されていたり、補助、回復など様々な効果を持つ魔導が存在する。
「翠」
大地に干渉する魔導で、極めれば地形や空間を変動させる事さえも可能だ。
射程距離が短いなど、色々と制限が多いが一撃の威力なら最強である。
「空」
大気に干渉する魔導で、風や雷を自在に操る事が出来る。
攻撃範囲と射出速度が非常に優秀で躱すのは困難を極めるが、気まぐれな天候の影響を強く受ける為、融通が利かない点も多い。
「魄」
異界に干渉する魔導で、悪魔や天使、極めれば神や魔王の力を借りる事が出来る……らしいが、この魔導は秘匿とされている事も多く、ワシも専門ではない為よくわからん。
魔導にはこの五系統がありその成長には非常に時間がかかる為、魔導師はこのいずれか一つに絞って修行を続けるのが現在の主流である。
ワシはこの中で緋を選び、一生をかけて励み、そして最強の称号『フレイムオブフレイム』を勝ち取ったのだ。
――――しかしふむ、 スカウトスコープによる魔導の才能測定か。
当然ワシも興味はある。というか興味のない魔導師などおらんだろう。
先輩方は何故か遠慮していたが、ワシは当然スカウトスコープを習得し、自身の才能を測定した。
どれ、フレイムオブフレイム様の「緋」の才は……。
ゼフ=アインシュタイン
レベル99
魔導レベル
緋62/62
蒼49/87
翠22/99
空22/89
魄19/97
思わず目が点になる。
ワシのもっとも得意とする「緋」の魔導、その才能限界が一番低いと……いうのか……?
「ばかなっ!?」
思わず叫び声を上げ、もう一度、いや何度もスカウトスコープを念じるがその数値は変わらない。
魔物などを倒した時などに力を大きく力を得ることがあり、ワシらはこれを『レベルが上がった』と言うのだが、ある一定を超えるといくら魔物を倒してもレベルが上がらなくなる。
これを才能限界と呼び、そこが修行の終着点とされていた。
ワシもかなり前に、成長の限界を感じた事がある。
思えばこのレベル99というのはそういう事なのだろう。
しかし使いにくいので殆ど修行しなかった「翠」や「魄」が一番才能限界が高いだと……?
他のも大して修行していないが、軒並み「緋」より才能限界が高い。
完全に選択ミスである。
しかももうワシはジジイ、先は長くはない。
このまま魔導を極められぬまま……死ぬなどと……こんな結末が認められるはずがないではないか!
「なるほどな……先輩方がスカウトスコープを使わなかったのはこれが理由か……」
年老いた身体、もはや成長の見込めない状態で自分の今までの修行の成果を完全に否定されるなど、死ぬ前に死ぬほどの悔いが残るに決まっている。
知ってしまったからには、死んでも死に切れないだろう。
それから暫くして、ワシより緋の才能限界が高いどこぞの馬の骨がワシからフレイムオブフレイムの称号を奪い去って行った。
魔導師協会の方針としてはフレイムオブフレイムにワシの数値が低すぎる、ふさわしくないとの事である。
その言葉にワシは反する言葉を持たなかった。
もはや成長の終わったワシと、これからさらに伸びる若者。
どちらにその称号を与えるか、考えるまでもあるまい。
しかし才能が高いとはいえ、大した実戦経験もない若造にこの称号を渡す。
屈辱ではあるが、魔導師の限界を知ることが出来るスカウトスコープが生まれた今、その考えはわからんでもない。
魔導師協会の有する塔を追い出されたワシは、それを仰ぎ見ながら叫ぶ。
「だがワシは諦めない、ワシは死ぬまで魔道を歩み続けて見せるぞっ!」
空が裂ける程の大声、くすくすと嘲笑するような声が聞こえてくる。
それでいい、ぐつぐつと煮えたぎる様な想いを胸に、ワシは塔を去るのであった。
――――それから十年後、ワシは足掻き、苦しみ、そして修行につぐ修行の末、死を目前にして新しい魔導に辿り着いた。
自分の無駄にした時間、それをやり直したいという強い想いによって編み出した時間を遡る魔導、タイムリープ。
言うなれば過去の自分に現在のワシの精神を上書きする魔導である。
とはいえ魔導を覚える前の身体に憑依するのだ、もう一度修行し直す必要があるがそれでも構わない。
ワシ、修行好きだし。
「この知識とスカウトスコープ、そして有り余る時間をフルに活用して今度こそ効率的に魔導を極めて見せる」
決意を胸にタイムリープを念じると、意識はどんどん遠くなり、昏くなっていく。
どれほどの暗闇を漂っていただろうか、ワシは何処からか聞こえてくる声に呼び起された。
「ゼフ、早く起きちゃいなさい!」
目に映るのは見覚えのある天井と白いベッド。
聞こえてくるのは懐かしい母親の声。
微かに香るスープの匂い。
「あ、あーあー……」
そして少し高い声、小さなつるつるの手足。
――――ワシの身体は少年に戻っていたのである。
「くっくっ、どうやら成功したようだな……流石はワシと言ったところか」
ベッドから飛び起きて少し身体を動かすが、その動作一つ一つが軽快だ。
ジジイの身体から少年の身体に戻ったワケであるから当然だが……何とも感動だな。
「お次は……っと」
窓を開けて人差し指を外に向け、緋系統初等魔導であるレッドボールを念じる。
しかし発動しない。
「む……やはりまだ魔導は使えぬか」
体内に意識を集中するが、やはりどうも体内に流れる魔力線が上手く働いていないようだ。
これは早急に何とかしなければならないだろう。
「ゼフーっ! 学校遅刻するわよーっ!」
下から聞こえる母さんの声。
……ま、腹が減っては戦は出来ぬというしな。
とりあえずは朝飯を食べてから考えるとするか。
「あぁ今いくよ、母さん」
階段を駆け下り、久しぶりの母親の顔を見ると、少し涙が出てしまった。
母さんは不思議そうな顔でワシを見て優しく笑う。
その懐かしい笑顔に、また涙がこぼれた。
「どうしたの?ゼフ、怖い夢でも見た?」
「いや……ワシ嬉しくて……」
「変な子ねえ……」
不思議そうにワシを見る母さんだが、「変わった」ワシに違和感を覚える事はない。
タイムリープにより生じる空間の波が小さな違和感を打ち消してしまうのだ。
涙をぬぐい、ワシは母さんを強く抱きしめる。
「あらあら……早く食べないと冷めてしまうわよ?」
「……うん」
返事をしてワシは食卓につく。
ワシはジジイまで生き、今まで修行した全てを無駄にしてきた。
時間の大事さを痛い程わかっている。
魔導の道は険しく一分一秒でも無駄には出来ない、効率よく魔導の修行を行わねばならないのだ。
――――だが、今くらいはいいだろう。
涙を拭き、腹いっぱいに懐かしい味を詰めこむと、拭いたはずの涙がまた零れるのであった。
「それじゃ、気をつけて行ってらっしゃい」
懐かしくも暖かい食事を終え、ワシは母さんに見送られ家を出る。
そう言えば最後に学校に行ったのは、首都で魔導師の卵たちに教鞭を振るうためであったかな。
ちなみにワシの授業はスパルタで、生徒たちからはそれなりに恐れられていた。
家を出るとこれまた懐かしい景色が眼前に広がる。
ここ、ナナミの街は田舎であるが良い街だ。
大人になって首都へ出た後も、懐かしくなって時々帰ってきたものである。
いかんな、懐かしくて涙が出そうだ。
とりあえず行くとするか。
(――――魔力線を解放しに、な)
ワシはニヤリと笑い、学校とは反対側、町の外れの小高い山へと踵を返す。
魔力線の解放はかなりの集中力と時間が必要となる。
人気のない所に行く必要があるのだ。
魔力線というのは魔導師の体内に張り巡らされた、魔力が通る文字通り線である。
魔導士の才能がある者程これが太く、身体中隅々まで張り巡らされているのだ。
しかし今ワシの魔力線は休眠状態で、これを解放しなければ魔導を使うことはできない。
魔導師を志す者は、他の魔導師に魔力線を手伝ってもらったり、自身で瞑想をしながら自身に巡る魔力線を感じとったりして解放していくのだが、ワシは既に一度通った道である。
二度目であれば問題なく魔力線の解放を行うことが出来るだろう。
一応、誰にも見られないように大木の上に登る。
太い幹の上で座禅を組み、目を閉じてゆっくり精神を集中させていく。
自分の身体が透けていくような感覚、そこから体内を巡る魔力線を一本づつ感じ取っていく。
繊細な作業に、額から汗が伝うが気にせず作業に専念する。
一本一本魔力線を解放していき、その全てが終わるころには身体中汗だくであった。
「おっとと……」
大きく息を吐いて身体中の力を抜くと、木の上からずり落ちそうになる。
そう言えば木の上でやっていたのを忘れていたな。
木から飛び降りて目を閉じ、体内へと意識を集中させると、体内に魔力線が通い脈々と魔力が通っているのがはっきりとわかる。
これで魔導が使えるようになったワケだ。
手を目の前にかざし、レッドボールと念じてみる。
すると小さな炎の魔力球が生まれ、目の前でふわふわと漂っている。
そのまま魔力供給を止め、レッドボールを消滅させた。
「ふむ……消費魔力は全体の一割と言ったところかな」
なりたて魔導師がレッドボールを使えるのは三回程度。
そう考えると子供のワシがここまで使えるのは大したものだ。
流石はワシと言ったところかな。
「とはいえまだ使い物にならんか」
こればかりは仕方があるまい。
気づくともう日が傾き始めていた。
腹が減ったと思ったらもうこんな時間か。
とりあえず母さんから貰った弁当を食べることにする。
ワシは時間遡行の際、魔導のスクロールを大量に読み漁り、当時公開されていたほぼ全ての魔導の使い方を頭に叩き込んである。
今はそれを使うだけの魔力はないが、レベルが上がり魔力が増えればなんとかなるだろう。
見た目的に少し物足りないかと思った弁当であったが、子供のワシには十分だったようで腹も膨れた。
ある程度魔力も回復してきたので、スカウトスコープを念じる。
ゼフ=アインシュタイン
レベル1
魔導レベル
緋1
蒼1
翠0
空0
魄0
体感的にスカウトスコープはレッドボールより消費魔力が大きいように感じる。
緋と蒼がレベル1なのは今しがたレッドボールとスカウトスコープを使ったからか。
魔導の才能値が見えない様だが、これはおそらくスカウトスコープのレベルが低いからだろう。
魔導は使えば使う程その性能は向上していく。
スカウトスコープで才能値を見るには、何度も使ってレベルをあげなければならないのだろう。
ともあれ何とか魔力線を解放し、魔導を覚えるに至った。
これでワシも魔導師の端くれ。今後の課題はレベルの向上だな。
山から降りようとすると、学校の方から子供たちがバラバラと散っていくのが見えた。
おっと課題はもう一つあったか……。
すなわち学校の対処である。
今日はとりあえずサボったが、どちらにしても今更あんな子供ばかりの所、行く気が起きぬからな……さてどうしたものか。
辞めてしまっても構わんが母さんがうるさいだろう。さてどうしたものか。
思考を巡らせながら山を下り、街の方へ帰ろうとすると、人影がこちらに向かって駆けてくるのが見えた。
長い黒髪を振り乱し、息を切らせながらこちらに近づいてくる。
眼鏡をかけ、セーターを着た女性が一歩踏み出すごとに、大きな胸が上下する。
中々の美人だ、そう思い見惚れていると、美人は泣きそうな声で叫んだ。
「ゼフ君!」
言葉と共にワシに思いきり抱きついてきた。
何か言葉を発しようとするが、その胸に顔を塞がれて声が出ない。
もごもごと顔を動かすが、思いきり抱きすくめられ、今のワシでは大人の力には対抗できず身動きもとれない。
観念して大人しくされるがままにその感触を楽しんでいると、女性の身体がふるふると震えているのを感じる。
「……心配……したんだからね……」
ぎゅう~っとワシの顔に胸を顔に押し付け、よかった、よかったと泣いている。
あぁ思い出した。
この人はワシの初等学校での担任、名前はクレア先生だったか。
男子女子問わず生徒に人気があった先生で、よく男子に告白されていた。
そんな美人の先生に抱きしめられ、胸を顔に押し付けられている。
(そう言えばここ数十年、こんなことはなかったな)
少しだけ頬が緩んでしまう。
学校か、時間の無駄だしあまり気は乗らないが、母さんやクレア先生を悲しませるのも気が引ける。
この時代に慣れる必要もあるし、暫くは通っても構わないだろう。
修行自体は学校に通いながらでも可能だしな。
頭の中で計画を立てながら、顔に当たる胸の感触を楽しんでいたのであった。
――――結局、ワシは翌日から大人しく学校に通っていた。
通いながら魔導の修行を続けていたのである。
順調にレベルを上げていたワシは、ある日盗賊に襲われる行商隊を見つけた。
「雇った傭兵の裏切りか」
もしくは最初から盗賊が傭兵に扮していたか。
やれやれ、謝礼をケチって身元の知れぬ怪しい傭兵を雇っていたな。
しかしこの状況、キャラバンの人たちには不幸だがワシにとっては幸いかもしれない。
ここで彼らを助ければ、謝礼として高価なアイテムを貰えるかもしれないからな。
とはいえ、盗賊の強さ次第だ。
魔導が使えるとはいえ、今のワシはまだまだレベルが低い。
どうしたものかと思案を巡らせていると、少女を乗せた馬がワシの方に向かって駆けてくる。
あの戦闘から逃げていたらしく、少女は血相を変えてワシの前に立ち塞がった。
「キミっ! 早く逃げなさい! 私は街へ知らせてくるから、どこか奴らの目の届かない場所へ……」
そこまで喋ったところで、少女の胸から一本の矢が突き出てくる。
血濡れの矢じりに目線を落とした少女は、直後に口から血をごぶりと吹き出した。
ゆっくりと、スローモーションのように馬から転げおちた少女はワシの方に手を伸ばし、向こうの方を指さす。
口がぱくぱくと動いていたが、すぐにその目からは光が失われた。
――――逃げろ。
唇の動きから察するに、そう言ったようだ。
最後までワシを心配していた少女の横に座り、その見開かれたままの瞼を閉じてやる。
「全く、ワシの心配より自分の心配だろうがよ」
視線を少女からキャラバンの方へ移すと、馬に乗った盗賊が持っていた弓を下ろし、ワシの方を見てニヤニヤと笑っているのが見えた。
背負った矢筒からゆっくりと矢を握り、弓に番える。
わざわざのろのろとした動作で狙いをつけているのは、ワシが怯える様を見たいのだろうか。
――――だがお前の思うようにはなるまいよ。
ゆっくりと弓を引き絞る盗賊目がけ念じるのは、空系統初等魔導ブラックショット。
魔力で生まれた風の弾丸は盗賊の頭に命中し、その拍子にあらぬ方向へ飛んだ矢は仲間の背中に突き刺さった。
二人の盗賊が馬から落ち、他の盗賊もそれに気づいたのかワシの方を見る。
子供の魔導師、倒れた二人の仲間、その事実に大いに動揺しているようだ。
大してこちらは冷静だ。
先刻はつい感情的になって攻撃してしまったが、今はひどく落ち着いている。
この手の外道は掃いて捨てるほどいる。
それこそ前世ではいくら狩ったか憶えていない程に……!
――――さくり、と効率的に。
「狩ってやろう、ゴミ共……!」
ワシの言葉に呼応するように黒い雲の隙間から稲光が光る。
小雨が降りだし、風も吹いてきた。
「大降りになる前に帰りたいところだな」
盗賊共とワシの間にはかなりの距離がある。
先刻使ったブラックショットはブラックボールの強化版だ。
弾速の早い空系統、しかもその強化版とはいえこれだけの距離があれば大したダメージは与えられない。
しかもさっきの奴は油断していたからな、もう当たってすらくれないだろう。
盗賊共はバラバラと、左右に散ってゆく。
距離を取りつつ弓矢で攻撃するつもりだろう、魔導師相手の戦闘は距離を取っての遠距離合戦か犠牲を覚悟の突撃である。
盗賊共は前者を取ったというワケだ。
とはいえこちらもそれは想定の内、バラけられる前に連中に向けてレッドウェイブを念じる。
――――緋系統初等魔導、レッドウェイブ。
広範囲に熱風を走らせ、攻撃する魔導である。
範囲はかなり広いが威力は低く、敵の注意を自分に向けさせたり動きを止めたりと、様々な使い方が出来るのだ。
地面を走る熱風が馬の脚毛を焼いていく。
「ヒヒィィィン!」
突然の熱風に馬が脚を焼かれ驚き暴れ出した馬、それに乗っていた盗賊たちの動きが止まる。
この位置からの魔導では殺しきれない。
単体魔導では一人は倒せても、警戒をした三人相手に戦うのは厳しい。
今のワシが一撃で全員を仕留めるには――――、
「――――大魔導を使うしかないか」
いつの間にか黒雲が頭上を覆い、雨も風も、強くなってきた。
そろそろ頃合いだろう。
精神を集中させ、呪文の詠唱を開始する。
「あまねく精霊よ、嵐のごとく叫び、雷のごとく鳴け、天に仇なす我が眼前の敵を消し去らん……ブラックサンダー!」
魔導を解き放つと、空を覆う黒雲が突如裂け、そこから強烈な閃光が盗賊四人に降り注いだ。
眩しい光が辺りを包み、少し遅れてから轟音が鳴り響く。
盗賊たちの立っていた場所にものすごい土煙が上がるが、雨と風で徐々に収まっていく。
「さて、ちゃんと倒せたかね……」
一応、雷の落ちた場所を確認しに行く。
雷が落ちた後の地面は抉れ、土は黒く焼け、盗賊共は跡形もなく消滅していた。
ほっと一息ついた瞬間、意識を持っていかれそうな眩暈に襲われる。
ギリギリの所で踏みとどまったワシは、目を瞑り深呼吸を繰り返した。
大魔導の消費魔力はかなり多い。
今のは恐らく魔力の限界を少し超えてしまったのだろう。
ごろりと大の字に寝転び、目を閉じた。
瞑想により少しずつだが身体が楽になっていく。
――――空系統大魔導、ブラックサンダー。
他の大魔導に比べ消耗は少ないが、曇り空でしか使えない欠陥魔導である。
ただしその効果は凄まじく、対象を全てサーチし不可避の強力な一撃を繰り出すのだ。
まぁ使いにくいが強力な魔導では、ある。
長時間の瞑想によってある程度回復し、大分まともな思考力が戻ってきた。
だが未だ倦怠感はつきまとい、気分も悪い。
やはり魔力を使いすぎてしまったのであろう。
行商隊を助け、その礼にとワシはリーダーの男からテレポートを使用できるアクセサリー、そして魄の初等魔導をノーコストで使用できるアイテムを貰った。
これを得たワシはナナミの街近くにある非常に効率の良い狩場へと向かうのであった。
さらなる成長を続けるワシ、だがこの時は気づかなかったが遠くから一人の少女に見られていたのである。
「あれが……ナナミの街の少年魔導士ね」
そう言って少女はスカウトスコープを念じる。
ゼフ=アインシュタイン
レベル16
魔導レベル
緋12/62
蒼11/87
翠13/99
空12/89
魄15/97
「ゼフ=アインシュタイン……か、結構鍛えてるじゃない。でも……」
少女はゾンビの塊に手をかざし、ブルーゲイルを念じる。
――――蒼系統大魔導、ブルーゲイル。
強力な竜巻を生み攻撃する魔導である。
ゾンビたちは竜巻に巻き込まれ、空中に舞い上げていく。
「にひひ♪ この程度で尻尾巻いて逃げるようじゃあね」
得意げに嗤う少女の横を、黒い魔力球が掠る。
直後、真後ろで炸裂した魔力球に小さい悲鳴を上げた少女が竜巻の方を向くと、中から死者の王が少女に向かって突撃してくるのが見えた。
「――――な、死者の王っ!?」
大魔導であるブルーゲイルを使った直後、集中力のいるテレポートはすぐには使えない。
少女は即座に後ろに飛び、ブルーボールを放つが死者の王の進行を止めることは出来ない。
無表情で少女の足を掴み捻り砕く……そうなる一瞬前、ギリギリで少女はテレポートで回避する事が出来た。
「はあーっ……はぁーっ……や、やばかった……っ!」
獲物を見失い、また辺りを徘徊する死者の王の様子を荒い息を吐きながら伺う少女。
壁に寄りかかり、額をぬぐう少女は死者の王をちらりと横目で見つつ、精一杯強がったように笑う。
「た、たまにはボスと戦ってみるのも悪くはないかな! 彼みたいに逃げてばっかりじゃいざ強敵と出会っても狼狽えるだけだし……ま、まだまだってところかしら! あはっあはははっ!」
朽ち果てた教会の片隅で、苦しい笑い声が響いたのだが、それを聞くはゾンビのみであった。
少女の名はミリィ、仲間の魔導師を求めてここまで来たのである。
ワシ自身強い仲間を求めていた事もあり、半ば騙されつつもワシはミリィと行動を共にする事になった。
連日のように朽ち果てた教会で二人して効率的修行を行っていた最中、朽ち果てた教会のボス『死者の王』を見つけたミリィはヤツに戦いを挑もうと言いだす。
止めるがミリィは言う事を聞かず、勝手に戦いを始めあわや殺されかける寸前であった。
だがそこにワシが割って入る。
「ちっ、馬鹿者が……」
テレポートで飛んで来たワシはギリギリでミリィの前に立ちふさがり、錫杖を左腕で受ける。
みしみしと腕がへし折れる感触。
直後地面に叩きつけられ、バウンドした身体はミリィと共に後ろにぶっ飛ばされてしまった。
気が遠くなりそうな一撃、しかしまだ意識を切る訳にはいかない。
ミリィの腕を掴み、ワシは死者の王の前からテレポートで離脱する。
獲物を逃した死者の王がカラカラと歯を鳴らし、またフラフラ徘徊し始めるのをワシは遠目で確認していた。
――――そしてまっすぐミリィの部屋に帰ってきたワシはミリィに怒鳴りつけていた。
「だから戦うなと言っただろうがっ! ワシが間に合わなかったら確実に死んでいたのだぞっ!」
「ひっく……ぅ……ごめ……なさいぃ……」
涙でぐしょぐしょな顔のミリィを叱り飛ばす。
ミリィは部屋に帰ってからずっと泣きながら謝っている。
――――先刻、ワシは自分にセイフトプロテクションをかけていた。
詠唱が長く戦闘中に使える魔導ではないが、一度だけ相手の攻撃を九割カットする防御用の魔導だ。
それでも腕が砕ける威力。
ミリィもボスの恐ろしさがよくわかっただろう。
「ボスの恐ろしさ、わかってくれたか?」
「うん……もう私、ワガママ言わないから……ごめんなさい、だから……て……ないで……」
泣きながらワシにすがりついてくるミリィ。
うーむ、トラウマになったかもしれないな。
ミリィは将来的に使える人材。
ボス狩りを目的の一つとしているワシにとって、それをトラウマにされてしまうのは非常に困る。
早めに払拭させねば根は深くなり、回復にも時間がかかる。
くそ……面倒事ばかりだ。
だから効率的でないと行ったのに……。
先ほどからずきずきと左腕が痛む。
完全に折れているな……。
ヒーリングは自己治癒力を強化する魔導、骨が折れたり深い傷によるダメージの回復はかなり時間がかかる。
うまい事いかないことだらけだ。
くそ、だんだん腹が立ってきたぞ……死者の王め。
よし、決めた!
「ミリィ」
「は、はいっ!?」
何故か敬語になっている。
精神的ダメージは大きいようだ。
やはりやるしかあるまい。
「七日後だ。準備をし、計画を立て、死者の王を倒す」
きょとんとした顔とミリィの肩を掴み、ワシは自信満々に笑いかける。
「何を呆けている、ワシら二人で倒すんだよ」
だがそのためには準備が必要だ。
というワケでワシはミリィを連れ近くの大きな街、ベルタへと来ていた。
そこで商人の少女、レディアと出会う。
「君、お父さんの手伝い? えらいね~」
声の方を見ると、大きな幌付きのカートを引いた背の高い少女がこちらを見ていた。
長い青髪を後ろで括り、短めの白いシャツはその豊かな胸元を隠しきれていない。
さらに短いホットパンツからは、すらりとした長い足を惜しみなく晒し出し、全体的に肌色多めの服は道ゆく人の目を惹きつけている。
花柄でペイントされたカートの中は、大量のレアアイテムが整理整頓して入れられており、中にはかなり高価な物もあった。
少女はカートを止め、ワシの前に座り、話しかけてきた。
「でもこの値段じゃ売れないと思うな~? 相場を調べて出直した方がいいんじゃない?」
相場……!
しまったな。ワシの知識は何十年も後の物、この時代のアイテムの相場など知る由もない。
ちっと舌打ちをするワシを見て優しく微笑む少女。
「よかったら色々教えてあげよっか?」
にっこりと、人懐っこく微笑む少女の瞳の奥に光る鋭い眼光を、ワシは見逃さなかった。
……油断しすぎない方がいいだろうな。
「私は武器屋をやってるレディアっていうの。っていっても今は修行中でお父さんの仕事を手伝ってる駆け出し商人だけどね。武器を作れる程の、腕もお金もないのよ」
考え込むワシにレディアは構わず話しかけて来る。
「あ、相場って言ってもわかんないかな。相場っていうのはね……」
「知っている。現在の市場での適正価格だろう」
あら詳しいね、と驚いた表情を見せるレディア。
「それにワシらは親の使いで来たわけではない。これでも冒険者の端くれだ」
「へえ、その歳で? すごいじゃない」
フレンドリーに話しかけてはいるが、このレディアとか言う女、ワシを狙っているな。
相場を知らないワシから安く買い叩こうとしているのだろう。
だが時間がもったいない。
次にベルタの街に来るのはいつになるかわからんし、少しだけなら買い叩かれてやるのも悪くないかもしれん。
「レディアと言ったか。ワシは回りくどいのは苦手だから少しならカモって構わん。魔力回復薬を持っていないか? あとそれを入れる袋が欲しい」
袋とは大量のアイテムを収納できるよう魔力が込められた小さな袋だ。
魔導師協会の偉大な発明品の一つで、持ち主の魔力に応じた収納空間を袋の中に発生させると言うモノである。
その性質上、一人一つしか持つことが出来ない。
ただし魔力が全くない人間でも体中に通った魔力線からある程度の収納空間が確保出来る為、冒険者必須アイテムなのである。
ちなみに相当高く、恐らくアクセサリーの代金七割はこれで持って行かれるだろう。
「あっはは、カモっていいか。キミ面白い事言うね~」
「急いでいるのでな」
「交渉下手だねぇ。そんな事言ってたら足元見られちゃうよ?」
「だから少々カモられても構わん」
「あっはは、正直だね~キミみたいなの珍しいよ」
そういいながらレディアは立ち上がり、カートの中をごそごそ漁り始めた。
「魔力回復薬は一杯あるけどさ、袋は相当高いよ~」
「だろうな」
ふーむと考え込み、ワシの顔と寝ているミリィを交互に品定めしている様だ。
……カモるなら出来るだけ控えめに頼むぞ。
「コレとアレと……あとついでにソレをつけてくれるなら袋と魔力回復薬50個、交換してもいいかな?」
うーむ持ってきたアクセサリーの丁度七割か……高価ではあるが、袋と魔力回復薬50個なら悪い交換ではないだろう。
「まぁいい、それでオーケイだ」
「交渉成立ね」
カートから袋と魔力回復薬を取り出し、袋に50個詰めて渡してきた。
うむ、確かに。
ワシの方もアクセサリーの束をレディアに渡す。
「ありがとう、助かったよ」
「カモられたかもしれないよ?」
「だから構わんと言っただろう?」
にやり、と笑うレディアにこちらもにやりと笑って答える。
レディアは毒気を抜かれた様な顔をして、握手を求めて来た。
「こっちこそ、良い交渉だったわ。これ名刺、私の武器屋の場所書いてあるから、今度遊びに来てね」
「あぁ」
そう言ってワシはレディアの手を握り返すと、カートを引きながらレディアは去って行った。
袋と大量の魔力回復薬、だがこれでは目的は半分だ。
もう一つ、死者の王を倒すには武器がいる。
それはワシの固有魔導『タイムスクエア』。
これは時間を停止させ、その間念じた複数の魔導を同時に発動させることが出来る魔導である。
その際の威力は乗倍に膨れ上がり、とてつもない威力を発揮するのだ。
ただしその分魔力消費量は膨大、だがレベル的にもそろそろ使用可であろう。
死者の王との再戦、タイムスクエアを利用したマジックアンプダブルによりワシとミリィは死者の王を追い詰めていく。
そしてついに、トドメの瞬間が訪れた。
「あと10000……!」
ミリィが呟く。
次もあの程度で落ちるだろうが、念には念をいれて次は全力で撃つ。
魔力回復薬を飲みながら、瞑想を始める。
突進して来た死者の王をテレポートで避けるミリィに魔力回復薬を渡すと、露骨に嫌そうな顔をしてきた。
困った奴だな……。
「ミリィも飲んでおけ、いざという時に少しだけ魔力が足りませんでした、では泣くに泣けないからな。確実に仕留める為だ。……まぁ子供には少々苦いかもわからんが」
ミリィを挑発するように煽る。
バカにされたのが分かったのか、ミリィは顔を真っ赤にしてワシから魔力回復薬をひったくってきた。
「そ、そんなの別に難しくないしっ!」
そう言って魔力回復薬を一気に飲み干し、ぷはぁ、と息を吐く。
……眼に涙を浮かべながら。
なんかミリィの動かし方がわかった気がする。
飛んで来たブラックボールはホワイトウォールで防ぎ、薙ぎ払う鎌はミリィがテレポートで躱す。
丁度死者の王がワシらを見失う距離、位置取りは完璧。
ミリィがドヤ顔でワシを見てくるので、少し吹き出してしまった。
――――だがその行動には応えねばなるまい。
タイムスクエアを念じ、時間停止中にマジックアンプを二回念じる、そして。
「緋の魔導の神よ、その魔導の教えと求道の極地、達せし我に力を与えよ。紅の刃紡ぎて共に敵を滅ぼさん……レッドゼロ!!」
――――全力のレッドゼロ。
死者の王に向かって伸びた刃はその身を貫き、焼き、焦がし……ボロボロと死者の王はその身を崩してゆく。
さらさらと砂になってゆく死者の王を見て、ミリィがワシに問う。
「や……やったの……?」
「あぁ、ワシらの勝ちだ」
死者の王が完全に消滅すると同時に、身体に力が溢れていくのを感じる。
どうやらレベルがあがったようだ。
恐らくミリィも。
「……っやったぁああああああああああああああああああああ!!」
「やった! やった! やった!」
ミリィがワシに飛びつき、ぴょんぴょんと跳ねる。
緊張していたからか、その喜びもひとしおの様で目の端に涙が浮かんでいるのが見える。
落ち着けとばかりにミリィの頭をワシの胸に顔を埋めてやる。
まぁワシも初めてボスを倒した時は、討伐パーティの皆で一晩飲み明かしたモノだ。
気持ちもわからんでもない。
「――――さて、と」
ミリィに抱きつかれたまま死者の王が消えた場所へ歩いてゆくと、その消滅した跡にキラリと光るモノが見える。
小さな輪を拾い上げ見定めると、それは見覚えのある指輪であった。
「……蛇骨のリングか」
ボスは他の魔物と比べ強力な魔力で構成されており、普通の魔物がドロップするアイテムとは比べ物にならないほど高価なアイテムを落とす事がある。
蛇骨のリングはベルタの街でレディアと交換したアクセサリー数個分の価値がある。
「わ! 蛇骨のリングだ!」
ワシが拾い上げた蛇骨のリングを見て、ミリィが嬉しそうな声を上げる。
「どうするの? それ?」
「売る。二つも同じモノはいらないしな」
袋を取り出し、蛇骨のリングをしまおうとすると、ミリィがワシの手を両手でつかむ。
「私、それ欲しい!」
言うと思った。
さっきからすごいキラキラした目でこれ見てたしな。
「……うーむ、しかしあまり金がないしなぁ」
「じゃあこれと交換でいいからっ!」
そう言ってミリィが差し出したのは青い水晶が先端についた短い杖。
――――水晶のロッドである。
蒼系統の魔導の効果が増幅する杖で、まぁ結構高い。
蛇骨のリングの軽く三倍はする値段である。
「ミリィ、それの価値わかってるのか?」
「いいからっ! はいっ!」
そう言ってミリィはワシの胸にぐいぐいと水晶のロッドを押し付けてくる。
……ははぁ成程、ワシと同じものが欲しいのだろう。
全く子供だな。
「……ダメ?」
断られるのを恐れているのか、また目を潤ませ始めたミリィ。
ため息を一つ吐いて、差し出したミリィの手を取り、握らせてやる。
「構わんよ、ほら受け取れ」
「わぁ~っ……ありがとっゼフっ♪」
ワシの言葉にミリィは花のような笑顔を咲かせる。
蛇骨のリングを小指にはめ、うれしそうな顔で手を動かして様々な角度からその輝きを見つめている。
「あまりお揃いとかそういう感情で装備を選ぶなよ、性能重視が基本だからな」
「~♪」
……聞いてないし。
まぁいいか。
孫におもちゃを買ってあげるジジイはこんな心境なのだろうか。
ワシは孫どころか子供もいなかったが、中々に悪くない気分だ。
ご機嫌なミリィの頭をぽんと撫でてやると、えへへとだらしない顔で笑った。
死者の王を倒してしばらく、ワシらはずっと朽ち果てた教会でレベルを上げていたが流石にそろそろ飽きてきた。
特にミリィはよく集中力が散漫になっている。
そろそろ別の事をすべきだろう、そう考えたワシはミリィに修行の意味を込めて新たな狩場を探させる事にした。
その間ワシは資金繰りである。
もう一度ベルタの街に行き、レディアと会ったワシはベルタの街の洞窟にいるニッパを倒す計画に参加する事にした。
ニッパは高額で売れる海神の涙というアイテムをよくドロップするのだ。
順調にニッパを倒していたその時である。
巨大なニッパ――――キングニッパがあらわれた。
「キングニッパーか!」
海辺の洞窟のボス、キングニッパー。
いや、厳密にはキングニッパーはボスではない。
ヤツを構成する魔力は他の魔物よりはかなり高いが、ボスと比べると全然低い。
普通の魔物とボスの中間……中ボスとでも言うべきか。
先刻の四倍ブラックストームが上に潜んでいたキングニッパーに当たり、怒って降りて来たのだ。
強力な打撃は死者の王と遜色ないレベルだが、動きが鈍いので歩きながらでも簡単に逃げ撃ちが成立する木偶の坊ある。
――――ただしそれは広いスペースがあればこそだが。
この空間、キングニッパーが来ただけで一気に狭くなった感じがする。
まずいな……とりあえず距離を取り、逃げ道を探しながら瞑想を続ける。
不意打ちなどに備えて、ワシは普段からセイフトプロテクションはかけてある。
これがあれば一撃で死んでしまう事はないだろう。
キングニッパーがハサミを振り上げる。
デカいモーションだ。
こんなものバカでも避けられる。
(こんな狭い場所でなければな……!)
振り下ろされるハサミを見切り少し横に走ると、ワシが今立っていた場所に轟音が響き、衝撃で吹っ飛ばされた。
「うおっ!?」
破片がパラパラ当たる。
この狭い場所ではとても避け切れん。
倒すのは当然無理だ。
何とか端まで引きつけて、テレポートでもと来た穴に潜り込むしかない。
流石にそこまでは追ってこないだろう。
穴の反対側にゆっくりと歩く。
キングニッパーもワシにピッタリついてきて、時折ハサミを振り回す。
おう怖い怖い。
キングニッパーから付かず離れずの移動を繰り返し、なんとか奴を入って来た穴の反対側まで、おびき寄せる事に成功した。
「全く手こずらせおって……だがさらばだ」
テレポートを念じ、入ってきた穴まで飛ぶ。
キングニッパーの丁度反対側。
奴が向き直って追いかけて来る前に余裕で離脱できるだろう。
海神の涙も幾つか手に入ったし、ここらが潮時だろう。
奴が気づく前に穴に潜るべく素早く頭を穴に突っ込むと、ごちん、とワシの頭が何かにぶつかった。
「いったぁ~っ!?」
声の主はレディアだ。
小さな穴を覗き込むとレディアの顔とその潰れた胸が見えた。
というか隙間が全くなく、それしか見えない。
こんな体勢でどうやってここまで進んで来たんだろうか。
「よいしょっ……と」
うねうねと、身体をくねらせながら穴から這い出るレディア。
まるで蛇かナメクジのような軟体である。
「ふいーなんとか通れたねぇ」
ポンポンと膝を払い、立ち上がったレディアはやはりワシよりかなりデカい。
この身体であの小さな穴を抜けてきたというのか……。
「……軟体動物か何かなのか?」
「失礼だな君は! ていうか私何があったの? 気を失ってたみたいだけど」
「あ、あぁ……いきなりふらっと倒れたからな。岩陰に寝かせておいた」
「……ふーん、そっか。ありがとっ」
「そんな事よりキングニッパーが……」
言い終わらぬうちにズズ……と、ワシの後ろで地響きが鳴る。
キングニッパーがこちらを向き直ったのだ。
焦るワシと裏腹に、のんきな声を上げるレディア。
「おっ、キングニッパーじゃん。降りて来たんだね、ここ狭いから戦いにくいでしょ」
あっはは、と笑うレディアはキングニッパーの存在を知っていたかのようだ。
というかまるでここで戦った事があるかのような口ぶりだ。
「……戦った事があるのか?」
「まぁたまに、勝った事はないけどね」
キングニッパーの甲羅は凄まじい程の防御力を誇る。
まともな物理攻撃でダメージを与える事は不可能だ。
「でも今ならゼフ君の魔導があるから勝てるかも……!」
「……本気か?」
確かにレディアの身のこなしなら、キングニッパー程度、楽に前衛出来そうだが……。
考え込むワシの両肩を掴み、顔を近づけてくるレディア。
「やろうよ!」
「う、うむ……」
押し切られてしまった。
ついレディアのペースに乗せられてしまうんだよな……。
レディアの驚異的な身体能力のおかげでそこまで苦労する事無くキングニッパを倒す事が出来たのだが、その時使用した合成魔導の消費が激しく、魔力回復薬を多く使用した為金は稼ぐことが出来なかった。
しかしレディアは使える、彼女を仲間に推薦すべくナナミの街へと戻ったワシはミリィと再会した。
だがミリィも新たな仲間を見つけており、ワシへと推薦してきたのである。
何ともまぁタイミングがいいのか悪いのか。
ミリィの部屋に入ると、床に一人の少年が礼儀正しく座ってる。
白銀に赤のラインが入った軽装の鎧に身を包み、傍には片手剣とシールドが置かれている。
整えられた金髪が部屋から入ってきた日の光に照らされ、きらきらと光っていた。
年はワシらよりそこまで変わらないか、少し上くらいか?
こちらに気付いたのか、綺麗な金髪を揺らしながら立ち上がる。
「ミリィさん、おかえりなさい!」
大きく元気な声だ。
真正面から見つめる視線が眩しい。
ワシに握手を求めてきたので応じてやる。
「初めまして、ボクはクロードと申します」
ふむ……どこかで見た顔と名前だな。
思い出せないが、よく考えればワシは人生2回目。
元知り合いなどいくらでもいるだろう。
いろんなギルドにも入っていたから、顔見知り程度なら多いしな。
気にせずこっちも挨拶をする。
「ワシはゼフ、魔導師だ。いきなりだが、何故ウチみたいなしょぼいギルドに入ろうと思った? 他にもっといいギルドがありそうなモノだがな」
「しょぼくないしっ!」
ミリィの抗議の声を無視して続ける。
「見たところ駆け出しの様だが……人の多いギルドの方が見るべき物も多いぞ?」
「ボクはとある騎士の家の末子です。でも何年か前に家がお金に困ってボクを養うことは難しくなり、冒険者にならざるを得ませんでした。ですがこれでも騎士の末端、冒険者として日銭を稼ぐだけでなく、騎士として自らが仕えるべき主人を探す事も目標としていたのです」
「成程な……」
何とも世知辛い話だ。
騎士は重装備なので、武具を揃えるにもそのメンテナンスにやたらと金がかかる。
正面切って戦うことが多いため、体力回復薬にも金がかかる。
騎士とは金があってこそ映える華。
ゆえによい装備を与えられるのは、年長者、または実力者から順番ということになる。
そしてクロードは末子、装備を与えられるどころか家から追い出されたようだ。
しかし別に、ぐれたり家を恨んだりとかはないらしい。
見上げたものである。
「しかし未だ若輩故、コボルト共に囲まれて窮地に陥っていた所をミリィさんに助けて頂いたのです。凄まじい魔導で全ての魔物を倒すミリィさんの姿はまるで戦乙女……気が付けばボクはミリィさんに弟子入りを頼んでいたのですっ!」
キラキラと目を輝かせるクロード。
戦乙女と来たか……少し夢見がちな少年のようだ。
が、駆け出しの冒険者はこんなものだろう。
強い者に憧れ、その者を習い励む。
ワシが前世で師匠に惹かれたように。
「我が剣を捧げるに相応しい主人をミリィさんと認め、迷惑とは思いながらもここまで押しかけてしまいました」
「えへへ……それほどでも……」
頭を下げるクロードに、照れながら腰をくねらせるミリィ。
まぁミリィの方も、クロードがいればワシにべったりと言う事もなくなるだろうか。
悪い奴じゃなさそうだし、それはそれで悪くはない。
だがこのクロード=レオンハルト、一見少年のように見えるが実は女だったのである。
クロードを仲間に加え、ワシとミリィ、三人で新たな狩場でレベルを上げていた。
一人で戦っていた時期の長い二人の連携はまだまだで、慣れるにはかなり時間が必要だろう。
だがそれでも、二人ともそれが新鮮なのか楽しそうであった。
クロードも順調にワシらに馴染んでいったのである。
ある日の狩りの帰り、街に戻り休んでいたワシらは一人の男に遭遇する。
「おおっクロードではないか!」
街の中心、繁華街の方から馬に乗った男があらわれる。
高価そうな鎧と剣の鞘、短い金髪を後ろで括り、整えられたあごひげを指でなぞる。
「ケイン兄様!」
クロードがケインとやらのところに駆けてゆく。
この二人、兄妹だったのか。
「どうしてここに?」
「遠征の途中で寄ったのだ。まさかこんなところでクロードに会うとは思わなかったが……ん? 彼らは友達かい?」
クロードと共にいるワシらに気づくと、鋭い視線を向けてきた。
ケインはワシらを見定めているようだ。
なんかムカつくのでこちらも見定めてやろう。
ケインにスカウトスコープを念じる。
ケイン=レオンハルト
レベル45
魔導レベル
緋0/0
蒼0/0
翠0/0
空0/0
魄0/0
魔力値39
魔力値39かよ。
半端にあるくらいなら0の方が潔い。
そしてやはりスクリーンポイントなる魔導も持っている。
恐らくはレオンハルト家に伝わる固有魔導と言ったところだろうか
くそっ気になるな。
「彼らを紹介してくれるかい?」
「あ、すみません。ゼフ君にミリィさんです。ボク、彼らのギルドに入れてもらったんですよ」
「蒼穹の狩人、ギルドマスターのミリィ=レイアードと申します」
「これはこれは、礼儀正しいお嬢さんだ。私はケイン=レオンハルト。妹がお世話になっております」
ミリィが余所行きの顔で会釈をし、ケインもそれに応じて礼を返す。
「君は……君たちは魔導師だね? それもかなり強いと見た。クロード、よいギルドを見つけたね?」
「えと……はい」
ワシらが魔導師という事に気づいたか。
それにしても先刻からクロードはどこか浮かない顔だ。
兄の事が苦手なのだろうか。
「それじゃあ私は宿に帰るから、君たちも早く帰りなさい。もう遅いからね」
そう言ってケインが行こうとするのは繁華街。
あそこの宿は観光客用の高級宿が多く並んでいる。
それを見たミリィが何か思いついたように声を上げた。
「そうだクロード、お兄さんと同じ宿に泊めて貰えばいいじゃない!」
ナイスアイデア、といった顔でミリィが叫ぶが、ケインは首を振る。
「残念だがそれは出来ない……レオンハルト家は名声高き騎士の家系。実の妹とはいえ、下賤の……冒険者と同じ宿に泊まるわけにはいかぬ。そうだな、クロード」
「はい……」
とある騎士崩れの冒険者から、騎士の家は序列に厳しいと聞いた事がある。
その者もクロードと同じ末子であったが、家族でテーブルを囲む事など一度もなく、16歳になるとすぐに家から追い出されたと言っていた。
クロードはそれより明らかに幼い。
今、14かそこらだろうか。しかも何年も前から一人で旅をしていたと言っていた。
レオンハルト家は財政難だとクロードは言っていたが、件の騎士崩れより財布事情は厳しいらしい。
しかしその恩恵を受けている兄は高級宿には泊まるわけだ。
――――くそったれめ。
「金がないならお前も安い宿に泊まればいいではないか」
ワシの言葉にケインとクロードの動きが止まる。
しばし沈黙の後、ケインはクロードを睨みつけ、胸ぐらを掴んだ。
「かはっ……!?」
苦しそうに息を吐き、歯を食いしばるクロード。
ケインの目は怒りに満ち、クロードを睨み殺さん程の勢いだ。
「クロード……他人に家の事を喋ったのか……!」
「……っ! すみませんケイン兄様……」
「黙れっ! この裏切り者がっ!」
拳を握り締め、腕を振りあげるケイン。
放たれた拳は顔を歪ませ、歯をへし折り、身体を思い切り地面に叩きつける。
――――ま、それを受けたのはワシなのだが。
「っ……てぇ」
口の中が切れ、鉄の味が充満していく。
奥歯もかけたな。
なんつー力でぶん殴りやがる。
クロードは仮にもお前の妹だろうが。
「ゼフっ!」
「ゼフ君!?」
ミリィとクロードがワシに駆け寄ってくるのをケインが苦い顔で見ている。
先刻、ケインがクロードに殴られる前にワシが間に入ったのだ。
不容易な発言をして、ケインの怒りを買ったのはワシだしな。
「すまんな、ケイン殿。別に言いふらすつもりも馬鹿にするつもりもないのだ。――――ま、これ以上ワシらに手を出さないのであれば、だがな」
ケインを睨みつけ、くっくっと笑う。
行き交う人たちが足を止め、ワシらを遠巻きに眺めている。
子ども相手に拳を振るう騎士殿を見て何事かと思い見ているようである。
人の目を気にするケインにはさぞかし屈辱であろう。
「……チッ! クロード、後で俺の宿に来いよ」
舌打ちをして、宿の方へ消えて行くケイン。
周りの目が相当気になるようだ。
やれやれ、人目を気にするのも、度が過ぎると非効率的だな。
「あの……ありがとうございます、ゼフ君」
「気にするな、あれはワシが悪い。それに決闘の時、ワシの早とちりでクロードには迷惑かけたしな」
「あれはもう気にしてないですから」
あはは、と笑うクロード。
「全く無茶するんだから……」
ミリィがヒーリングをかけてくれている。
こんなもの大した事ないんだがな。
黙って、されるがままになっていた。
「すみません、兄も昔はもう少し優しい人だったのですが……いつからでしょうね。やはり貧乏というのは嫌なものです」
クロードの兄か、貧乏だからと言って妹を殴っていい理由にはならないのだがな。
その日を境に、クロードは徐々に明るさを失っていった。
ある日の狩りの帰り、少し遅くなった時の事である。
真っ青になっているクロードの後をつけていったワシはとんでもないものに遭遇してしまった。
ボロ宿から出てくるクロードの兄、ケイン。
恐らくあそこにクロードが泊まっているのであろう。
自分は高級宿に泊まり妹はあんなボロ宿か、いいご身分だな全く。
右手には紙幣を握り、顔には笑みを浮かべている。
――――それを見てワシは理解した。
クロードがあんなに焦っていた理由、それが。
そういえば先日、ケインは別れ際にクロードを自分の宿に呼んでいたのを思い出す。
馬鹿正直にケインの元へ行ったクロードからその居場所を聞いていたのだ。
遊楽街に消えるケインを一瞥し、クロードの宿に急ぐ。
ケインの出てきた宿はボロボロで、カウンターには受付も居ない有様だった。
立て掛けた木札にクロードの文字がしたためられていた。
それによるとクロードの部屋は五号室らしい。
「いらっしゃい、ここは旅人の……ってちょっと待ちなって! 勝手に中に入っちゃいかんよ! ボクぅ!?」
奥から聞こえる受付の声を、無視して宿の中に入る。
ぼろぼろの廊下、歩くたびにぎしぎしと音を上げながら進むと、五号室を見つけた。
ドアノブを回すと木の軋む音と共に扉が開いた。
カギすらついてないのかよ、なんつー宿だ。
――――部屋にはいると、鼻を突く様な異臭。
据えた臭いの中、クロードはうずくまり、嗚咽していた。
身体には乱暴されたのだろうか、赤いアザが見える。
顔や腕など、見える場所は無傷なのが外道らしい。
そのあまりに悲惨な姿に、ワシは言葉を漏らす。
「……クロード……っ!」
ワシの声に気づき、こちらに向けたクロードの顔は涙と涎でまみれている。
驚いたように服で顔を拭い、後ろを向いたまま言葉を返してくる。
「……っゼフ君じゃ……ないですか……えへへ……な、何か……用ですか?」
無理に笑おうと、普段通りに喋ろうと、繕うような声。
あまりにも痛々しい。
無言で駆け寄り、クロードの服を脱がした。
「ちょ……やめてくださいよ! ゼフ君の変態!」
「うるさい! 黙っていろ!」
「ぁ……ぅ……」
ワシの迫力に気圧されたのか、黙ってされるがままになるクロード。
上着をはぎ取ると、白い肌に浮かぶのは赤く滲んだ暴力の痕。
クロードの身体は全身傷だらけ、アザだらけというひどい有様であった。
――――絶句する。
何度も何度も暴行を受けたのだろう、隠すように両手で覆っているが、その両手すらアザだらけである。
すぐさまヒーリングを念じてクロードの身体を癒すとするが、ワシの精神が乱れているのか、上手く回復してくれない。
元々ヒーリングは古い傷には効果が薄いのだ。
「くそっ!!」
「……裸……見られちゃいましたね……恥ずかしいなぁ、もう……」
「あの男、宿を出るとき金を握っていた。クロードの金か……?」
「騎士は着飾り、見栄を張るのも仕事ですから……ボクのお金も必要みたいです……あはは……」
「見栄を張るのも仕事だと!? こんなボロ宿に泊まっている妹から! 金を巻き上げるのが許されるものか!」
「ボロ宿って……ひどいなぁ……」
あはは、と笑うクロード。
いつものさわやかなイケメンスマイルの面影は全くない。
こんな惨めなクロードの笑顔など、見たくはない。
上着を脱ぎ、クロードに被せた途端、嗚咽し震え出す肩。
もはやクロードにかけるべき言葉はない。
向き直り、クロードの部屋を出ていく。
ドン、と肩に何か当たった気がする。
どうやらワシを追いかけて来た受付にぶつかったようだ。
「おいおいボクぅ? 勝手に入ったらいけないよ?ここは旅人の――――」
それ以上受付は何も言葉を発しなかった。
発せなかったのだ。
青ざめ、黙り、ワシへ道を譲る。
道の空いた廊下を、ワシはぎしぎしと音を立てながら進んでいく。
宿を出ると遊楽街に向け、真っ直ぐ歩みを勧める。
夜の街、子供の姿のワシの歩みを止める者はいない。
途中声をかけてきた酔っ払いはワシの発する魔力に当てられ、一瞬で酔いが醒めたようで飛んで逃げていった。
たくさんの灯り、何件もの酒場を素通りして街で一番大きな建物に入ろうとすると、ワシの前に立ちはだかる黒服の男が二人。
「お坊ちゃん、ここは子どもの来るところじゃありまちぇんよ~」
「パパを呼びに来たのかい? 名前を教えてくれたら呼んできてやるぜ?」
強面の男二人に呼び止められた。
見た感じそれなりに使えるようだ。
ワシを魔導師と知り、それでも声をかけてきた。
「ケインだ。ケイン=レオンハルト。派手な鎧を着ている騎士を呼んでくれ」
正直に答える。
正面から行くのは非効率的だが、今更考えて行動できるほどワシの頭は冷えてない。
「悪いけど坊ちゃん、子供とはいえ客に殺気を向ける様な奴を店には入れられねぇなぁ」
「ケインさんは上客だ。どうしてもというなら力づくで通るんだな」
やはり簡単に通してはくれないか。
やれやれ、ワシは二人の男を睨みつけ魔力を練り上げていくのであった。
――――高級酒場、黒猫のしっぽ。
その中央で何人もの騎士が女を侍らせ、酒を酌み交わしていた。
高級な酒瓶がいくつも散らばり、酔っ払っているのか男たちの顔は真っ赤である。
その中心でケインは女を両腕に侍らせていた。
「みなさん今日は遠征お疲れ様でした。この席は皆をねぎらう為、設けたものです」
ケインは気分が良さそうにぐいと酒を飲み干すと、空のグラスを掲げた。
皆もそれに応じるように、グラスをケインへ向ける。
「今日は私の奢りです! 好きなだけ楽しんでください!」
「おお~っ!」
「流石ケイン様!」
「ありがとうござま――――」
ごうん、と店内に響く強烈な衝撃音。
壁に叩きつけられ白目を向いた男が階段からずり落ちていくのを、酒場の者たちが皆、注目していた。
かつ、かつと響く足音の主はワシである。
歩みを進め、楽しげにしているケインたちを見つけると、魔力がさらに昂ぶっていくのを感じる。
激昂が収まらない。
――――まずいな。
クロードの兄だから殺しはすまいと思っていたが、加減は全く出来そうにない。
ケインたちが座る椅子の前に立ち、連中を見下ろす。
部下たちが立ち上がろうとするのを止め、ケインが話しかけてきた。
「君は……確かクロードの友達だったかな?」
「妹の金で奢り酒か、いい気なものだな」
部下らしき騎士たちがざわめき、ケインは一気に素面に戻る。
目を細め口元を邪悪に歪めるケイン。
なるほど、それが貴様の本性か。
「……根も葉もない言い掛かりはやめてもらおうかな……」
ゆっくりとソファにもたれかかり、グラスを傾けた。
そして大きく息を吐くケイン。
挑発するような仕草にワシの中の何かが完全にぶち切れる。
「貴様と下らん問答をするつもりはない」
手をかざし、レッドクラッシュを念じる。
ワシの右手から生まれる炎塊が渦を巻き、ケインに標準を定めている。
待機状態で発動させているのだ。
この状態からなら一瞬で直撃させることが出来る。
気づいた部下や女たちは悲鳴を上げ直ぐに離れて行くが、ケインはグラスを持ったまま微動だにしない。
――――上等だ。
ワシはにやりと笑い、昏い感情をそのまま解放する。
――――レッドクラッシュ。
だがケインには効果がなかった。
ケインの、レオンハルト家の持つ魔導師殺し『スクリーンポイント』
魔導の効果を大幅にカットする固有魔導である。
魔導師に対して絶大な効果を持つスクリーンポイントにワシは追い詰められていく。
ワシを助けるべく割り込んできたクロードだったが、実力差は大きくケインに負けそうになってしまう。
「ゼフ君っ! 早く逃げてください! 長くは持ちません……!」
「バカが! 逃すわけないだろう! レオンハルト家の面汚しがっ! そしてその秘密を知り! 私に恥をかかせたクソガキもなっ!」
ケインの重い剣撃が攻撃のたびにクロードの剣を削る、ぐらぐらと揺れる刀身、今にもへし折れそうだ。
「終わりだ……っ!」
そう言って放った一撃でクロードの剣がへし折れる。
くるくると舞い飛んだ刀身が壁に突き刺さり、ニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべるケイン。
「くっ……!」
「もういいだろう。勝負はついた。血縁のよしみだ、クロード……お前が今すぐそのガキを殺せば、許してやってもいい」
――――勝負は決した。
そしてこの勝負、これだけの実力差では何度やっても同じ結果だろう。
外野のワシにわかる位だ、相対しているクロードはそれを百も承知のはず。
それでも、クロードは構えを解かない。
折れた剣を握りしめ、かたかたと震えている。
「何故だ、クロード。そのガキ、所詮は赤の他人だろう?」
「赤の他人じゃありません。同じギルドの仲間です……!」
「同じではないか」
「違う!」
釈然としないケインを、泣きそうな顔で睨みつけるクロード。
声は震え、瞳からは涙がこぼれそうだ。
「ボクはずっと一人だった……家でも、家を追い出されてからも……女のボクは、最初は優しくされたこともあったけど、いつも最後は裏切られて……酷い目に会ってきたんだ……っ!」
少しは罪悪感もあるのだろうか、クロードの話に聞き入るケイン
「だから今度は男の格好をすればいいって思ったんです……男の格好をして、一人で旅をすれば誰にも裏切られることはない。……でも誰とも繋がることもなかった……」
成程、男の格好をしていた理由はそれか。
「寂しさを紛らわせるため、戦って、戦って、魔物に囲まれて、もういいやって思ってる時にミリィさんが助けてくれたんです……魔物を蹴散らし、微笑むミリィさん……あの姿をボクは一生忘れないでしょう。」
戦乙女とか言ってたか。
思わず笑ってしまう。
これもある意味、クロードの思い出と言えるのだろうか。
「ゼフ君もミリィさんも、会ってすぐのボクにすごく親身になってくれた……! 生まれて初めて、仲間と呼べる人に出会えた! だからボクは彼らの為に命を賭けることが出来る!」
咆哮するクロード、それを見てケインがにやりと笑う。
「ほう……いい顔をするようになったな、クロード。いつも家では俯いてばかりだったのに……そのガキに惚れたか?」
「ゼフ君は僕の為に、初めて怒ってくれた人です」
キッ、とケインを見据えるクロード。
そこにもう涙はない。
死を覚悟してでも止める、そんな決意を秘めた顔。
「だから、逃げてください。ゼフ君」
……全く、そんな顔をするヤツを見捨てて逃げれる訳がないだろうが。
クロードの背中をぽんと叩き、顔を近づける。
「クロード」
「ボクは大丈夫ですから……!」
勘違いしているなコイツ。
折れた剣を持つクロードの手に、ワシの手を重ねる。
「何を……?」
「いいからワシに任せておけ」
クロードの耳元で囁き、タイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのはレッドブラスターとレッドウエポン。
クロードの折れた剣から魔導の光が発せられ、それは剣を形成してゆく。
緋色に燃える魔導の剣。
「これは……?」
「クリムゾンブレイド、とでも名付けておこうか」
「炎の……剣……!」
燃える魔導の剣を仰ぎ見て呟くクロード。
レッドウエポンは武器に緋属性を付与する魔導。
タイムスクエアを使い、レッドブラスターと同時詠唱する事で魔力の剣を生み出したのだ。
色々試していた時に発見した魔導で、ワシは近接戦闘は得意ではないので使う機会はないと思っていたがこんな所で使う事になるとはな。
折れた剣から立ち上る炎の刀身、クロードがそれを少し振ると炎が軌跡を起こし、室内に漂う煙を切り裂いた。
「これなら……っ!」
裂帛の気合を込め、クロードがケインに斬りかかる。
ケインの剣は装飾が施され魔力が込められた剣、並の剣では歯が立たないハズだ。
――――並の剣では、だが。
「はぁああっ!」
「それがどうしたぁ!」
勢いよく振り下ろされたクロードの剣は、それを受けとめたケインの剣をまるでバターの様に斬り裂いた。
からん、と地面に転がる刀身。
「バカな……!?」
「兄様のスクリーンポイントはレオンハルト家で一番強い。一度スクリーンポイントを展開した兄様には、どんな魔導も効きません」
剣を破壊され呆けるケインに向け、にこりと笑うクロード。
「――――だから、大丈夫ですよね?」
言葉と共に振るわれる炎の剣。
ケインも剣無しでは避け切るのは難しい様だ。
が、しかしケインの身体には全く傷が付いていない。
クロードの振るうクリムゾンブレイドはワシのレッドブラスターの威力がそのまま乗っている。
そのレッドブラスターを完全に無効化するとは……スクリーンポイント、恐ろしい魔導である。
……というかそれより恐ろしい事が起こっているのだが。
クロードが攻撃するたびに舞い落ちていくケインの衣服、その素肌が露わになり、鍛えられた肉がその姿を覗かせていく。
……ちょっとこれはしゃれにならんだろ……。
「あはっ! あはははっ!」
クロードは何かが乗り移ったかのように、笑い声を上げながらケインの服を刻んでいく。
余程たまっていたのであろう。
「くっ……クロードっ! 貴様ぁぁぁぁ!」
パンツ一丁までひん剥かれたケインは、悔しそうな顔でクロードを睨みつけている。
……まぁほんの少しだけは同情してやらんでもない。
猥褻物を陳列するケインから思わず目を逸らすと、店の外から何やら物音が聞こえてくる。
「ケイン隊長! 我々だけ逃げてしまい申し訳ありませんでした!」
「助太刀いたします!ケイン隊長っ!」
どうやら先刻逃げ出したケインの部下たちが戻ってきたようだ。
何というタイミング……クロードへの怒りはどこへやら、ケインは呆然としている。
「ケ……ケイン隊長……?」
「い、一体何を……?」
ケインのあられもない姿を目の当たりにした部下たちが戸惑いの声を上げる。
何せケインは今、パンツ一丁で妹に剣を向けられているのだ。
……哀れケイン。
「なっ……お前たちっ……見るな! 見るなぁぁぁぁ!」
「し……しかし我々がいないとケイン様が……」
「私の心配など100年早いわっ! いいから消えろーっ!」
怒りと羞恥で真っ赤に染まったケインの顔を見て、ワシの怒りはすっかりと萎えてしまった。
クロードも十分に気が晴れたようで、爽やかな顔で額の汗を拭っている。
積年の恨みを晴らした、と言ったところだろうか。
一息吐いたクロードは炎の剣をケインに刺し構え、高らかに宣言した。
「ボクはもうあなたには、レオンハルト
家とは関係ない! ボクはクロード! ただのクロードだ!」
ざん! と言い放つクロード。
ケインも部下も、ワシさえもその気迫に飲みこまれていた。
――――だが頃合いか、ワシは合成魔導バーストウェーブで目くらましをし、その場から逃げ出す。
追ってくるがテレポートで追撃をかわし、クロードを慰めてやるのであった。
――――それから数日、繁華街で魔導師が暴れたという噂が流れたが、しばらくすると全く耳にしなくなった。
恐らく事の中心であるケインが公にしなかったからだろう。
ヤツの見栄っ張りな性格に助けられた、と言ったところか。
酒場にはクロードに無理やり連れられて謝りに行き、何かの為にと貯めていた金を差し出して事なきを得た。
これでレディアに預けているアクセサリーを除くと、完全に文無しだ。
しかし何とか派遣魔導師には追われずに済みそうだな。
前世で何度か協会の派遣魔導師の世話になったが恐ろしい連中だった。
二度と関わり合いになりたくないな。
……だが面倒事につい首を突っ込んでしまうワシの性格から言って、それは難しいだろう。
(やはりナナミの街からは離れた方がいいか……)
ここには母さんもいるし、いつか必ず大きな迷惑をかけてしまう。
レディアに預けているアクセサリーもそろそろ売れている頃だろうし、それでしばらく暮らしていけるハズだ。
一応女であるクロードをあんなボロ宿に住まわせておくのもよくないし、ミリィも一人暮らしには早すぎる。
何日か家に泊まった事があるが、ミリィの奴まともなものを食べていなかったぞ。
ワシもある程度強くもなったし生活費位は稼ぐ事は出来る。
そろそろ家を出て、本格的に魔導を極めるべく修行に励む頃合いだろう
ちなみに学校は既に卒業した。
ある程度社会適応能力アリと判断された場合は特殊卒業試験を受け、それに合格することで卒業する事が出来るのだ。
とはいえそれはやはりイレギュラー、ワシやミリィのように何かしら使える人間でないと試験の許可は下りない。
――――それより問題は母さんだ。
台所で洗い物をしている母さん。
機嫌は悪くなさそうだが……うーむ、明日にした方がいいかもしれない……ええい、悩んでも意味はない。
出たとこ勝負でいくしかあるまい。
「母さん、少しいいかな?」
「何~?」
作業をしながら答える母さん。
緊張に震える拳を握りしめ、真っ直ぐ母さんの方を向く。
「……ワシは冒険者になろうと思う。学校は既に卒業してきた」
「……」
母さんは何も答えない。
ワシはそれに構わず続けた。
「このままウチにいると、母さんに迷惑をかけてしまう……だからワシは、その……」
「ゼフ」
口ごもるワシの言葉を遮り、母さんはワシを見て微笑む。
そして優しい口調で語りかけてきた。
「私は気づいていたよ? ゼフがすっごく……もしかしたら私よりも、ずっと大人になってるって事を。……そして、それでもゼフはゼフのままだって事に」
タイムリープにより生じる違和感の緩和、それを無効化していたとでもいうのか。
全く魔力を持たない母さんだが、ワシにはそれが何故だか納得できていた。
――――何せこの人は、ワシの母さんなのだからな。
いつも間にか洗い物を辞め、母さんはワシの前に立つ。
「ミリィちゃんとクロード君も行くんでしょう? ……行っておいで」
ぎゅっと抱きしめられると、急に目頭が熱くなった。
ワシは返す言葉もなく温もりに身をゆだねる。
「でもね、二つだけ言わせてちょうだい。母さんはあなたに迷惑かけられても、ちっともそうは思わないからね。遠慮なく迷惑かけなさい」
目頭に溜まった涙がこぼれ、ぽたりと床に落ちる。
いつもそうだった。
母さんはワシの事を全て理解して、それでも全て許してくれる。
「それともう一つ……」
いかん、これ以上は我慢出来る自信がない。
情けなく大泣きしてしまうかもしれない、覚悟を決めるワシに母さんは続けた。
「……ミリィちゃんとの結婚式には必ず呼ぶこと」
「…………は?」
満面の笑みを浮かべる母さん。
何を言ってるか全くわからない。
「……母さん、ワシとミリィはそんなのではないぞ……?」
「え? 違うの? まさか他の女の子にも手を出してるとか?」
「違うわっ!!」
全く……全て理解したような顔をしながら、何もわかっとらんではないか。
さっきまでの涙が完全に引っ込んでしまった。
そもそも十歳そこらのガキに何を言ってるのやら。
――――その夜、ワシは部屋に戻ることは許されず、母さんにくだらない事を根掘り葉掘り聞かれたが適当に答えておいた。
旅立ちの準備を終えるまでの数日間、本当に色々と大変だったのだ。
そして旅立ちの朝、母さんに見送られミリィが振り返り手を振る。
「ではおかあさま、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
ワシもミリィも荷物は少ない。
とりあえずはベルタの街で宿をとり、住む場所を確保する予定だ。
「ミリィちゃん、ちょっとおいで」
「はい?」
母さんがミリィを呼び、耳元で何か囁いている。
どうせくだらんことを吹き込んでいるのだろう。
全くしょうのない人だ。
ため息を一つ吐いていると、ミリィがてってっと駆けてきた。
「おまたせっ」
「何を言われたんだ?」
「――――ってゼフが聞いてくるだろうから、秘密にしとけって」
にひひ、と笑うミリィ。
全く、妙な所で鋭いんだよな母さんは。
街の外へと向かうあぜ道をミリィと共に歩く。
これも最後だろうか。
いつもうるさい位におしゃべりなミリィも、今日は何か考えているのか黙ったままだ。
「……そういえばクロードは門のところで待っているんだったかな」
「うん、そっちのが近いからって」
そしてまた沈黙。
商店街を通り過ぎ、繁華街を抜け街の外に近づいてきた。
ミリィは外に近づくに連れ、何かそわそわしている。
出口の直前、角を曲がればすぐというところでミリィが立ち止まる。
「あーっ! 忘れ物しちゃった!」
「……全く仕方のない奴だな……じゃあワシはクロードと待っているからミリィは……」
と、そう言いかけたところでミリィはワシの手を取って駆け出す。
「おい、ミリィ!?」
「重いの! ゼフもついて来てよ」
ならクロードも連れて行けばいいではないか……と言おうとしたとき、ミリィがワシの手を引き寄せ、て自分の胸に押し付けて来た。
小さな膨らみが腕に押し当てられ、ワシの腕が丁度その小さな隙間に挟まれる。
自分の行為を意識してしまったのか、ミリィの顔が真っ赤になっている。
やれやれ、母さんが吹き込んだのはこれか。
「……わかったよ。ほら、早く行かないとクロードが待っているぞ?」
「そ……そうね! 早く行きましょ!」
ミリィはワシの腕にさらに強く抱きつき、小走りで自分の家に向かっていく。
結局来た時の倍の時間をかけて門に戻ると、待ちくたびれたクロードがうたた寝をしていたのであった。
以下挿絵
以下設定資料
――――魔導について。
緋、蒼、翠、空、魄の五つの属性に分けられている。
基本体内の魔力を消費し、念じる事で発動する。
魔導のランクに応じて初等魔導、中等魔導、大魔導があり、ランクの低い魔導ほど念唱時間が短く、消費魔力が低いがその分効果も低い。
大魔導は念唱時間も長く、呪文を唱える必要があるものもあるがその分強力である。
例外として魄の魔導は使用の際、媒体として高額なジェムストーンを使用する。
初等魔導はジェムにひびが入り何度か使うと壊れる。中等魔導は一回につき一個、大魔導は数個壊れてしまう。
あまりにもカネがかかる為、魄の魔導は使い手が少ない。
更に固有魔導というものがあり、これは個人が長い年月をかけて編み出した新しい魔導である。
五つの系統に収まらず何種かの属性が混ざったモノもあり、編み出した術者の個性や強い想いが色濃く反映される。
怒りや悲しみ、強い感情によって衝動的に固有魔導に目覚めるケースもある。
スクロール化する事で他の者にも固有魔導を伝えられるが、スクロール化にも長い年月が必要で術者の寿命と共に消えていく固有魔導も多い。
固有魔導は血筋が濃い者ほど習得度が高く、相性が悪ければ覚える事すら出来ない事もある。
衝動的に固有魔導に目覚めた場合、不完全な状態で習得してしまった事になりスクロール化は困難である。
ちなみに魔導師協会に持ち込めば一生遊んで暮らせる程の高額で買い取ってくれる。
現在スクロール化されている魔導は数百年の時間をかけて多くの魔導師が編み出し、出来るだけ覚えやすいように体系化したものなのだ。
(レッドクラッシュ等、それでも相性が悪く覚えられない魔導も存在する)
固有魔導の中には魔導師殺しと呼ばれるものもあり、これは魔導師によって苦汁を飲まされた者たちが編み出した、言うなれば対魔導師用固有魔導。
魔導師により仕事を奪われた騎士や職人などがその絶望を糧として生み出したもので対魔導師に特化した魔導である。
それ故、たとえスクロール化されているモノであっても魔導師が覚える事は難しい。
仮に覚えることが出来たとしても、魔導師殺しを覚えた魔導師はその才能を大きく減らしてしまう。
魔導は使えば使うほどそのレベルが上がり、効果範囲の拡大、威力の増加、消費魔力の低下、念唱時間の減少、付加効果の追加が望める。
魔導のレベルは本人の才能に左右され、例えば緋の魔導限界値が62であるゼフはレッドゼロレベル62までしか上がらないのである。
――――世界について。
この大地には魔力が満ちており、時折膿のように溢れ出た魔力が魔物となる。
魔物は近くにある物質を透過する事でその影響を受けて具現化するのだ。
(雨水、岩、泥、動物、人間やその死体、魔物はありとあらゆる形を真似るように具現化する)
魔物を倒すことで大地の魔力、マナと呼ばれるものが倒した者に還元され、その力となる。
魔物を倒し続けることでその者の体内に流れる魔力が増強されていき、一定以上となるとレベルが上がる。
それを繰り返す事で冒険者たちは強くなっていくのだ。
大地の魔力が特に溜まっている部分がダンジョン化して魔物の密集地帯となり、
ダンジョンにあらわれる魔物は湧く頻度、強さなどほかの地域とは明らかに異なる。