若松真平
2016年1月21日08時48分
東京の小さな印刷所が手作りした方眼ノート。特許まで取ったのに全く売れずに在庫の山となっていたこのノートが突然、注目を浴び始めた。きっかけは制作者の孫娘がつぶやいた元日のツイッター。7千~8千冊あった在庫に対し、3万冊を超える注文が入り、大手文具メーカーからは提携話も持ち込まれている。
方眼ノートを作っているのは、東京都北区の「中村印刷所」。長年つきあいのある取引先からの受注生産がメインの、家族で営む小さな会社だ。
ノート作りを始めたきっかけは3年ほど前、近くで製本業を営んでいた男性(79)が店をたたんだことだった。「印刷と製本は関係が深い。うちを手伝ってくれないか」と社長の中村輝雄さん(72)がこの男性に声をかけた。男性はアルバイトとして働くことに。
そして中村社長とこの男性が2年間かけて完成させたのが、方眼ノート。どこのページを開いても真ん中がふくらみにくく平らになる。手で押さえなくてもきれいに開き、コピーの時などに真ん中が黒くならないのが特長で、製造方法に関して会社で特許も取った。
2014年10月に発売を開始。東京都の機関が試験的に購入・評価して普及を応援する「トライアル発注認定制度」にも選ばれるなど性能は評価されたものの、販売のノウハウを持たない印刷所にとっては、なかなか売れなかった。大量発注の話があって作ったが実際の注文には結びつかず、7千~8千冊の在庫を抱えていた。
「使ってもらえば、良さがわかってもらえるのに」。男性は専門学校に通う孫娘(19)にノートをまとめて渡した。「これ、学校の友達にあげてくれ」
受け取った孫娘は、こう思った。
「学校じゃノート必要そうな人いないしなー。そうだ、ツイッターでやりとりしてる絵描きさんとか喜ぶかも」
今年の元日に軽い気持ちでツイートした。
「うちのおじいちゃんのノート、費用がないから宣伝できない」「欲しい方あげるので言って下さい」
すると、たちまち多くの反響が寄せられてきた。
「私が欲しかったのコレや」「建築とかしてる方には需要ありそう」「工業系の息子も欲しいと言っています」「どこで購入できますか」
使い方を指南してくれる人も現れるなど多くの人たちからコメントが寄せられ、販売している大手通販サイトなどでは続々と在庫切れになった。
社長も男性も、そして孫娘も「まさか、こんなことになるなんて」と口をそろえる。
注文の多さに喜ぶ一方、小さな印刷所にそれをさばき切る能力はなかった。すでに3万冊以上の注文が入っているが、今は販売を一時中止しているという。
「この技術を受け継いでくれる会社が現れて、一人でも多くの人にノートを使ってもらえたら、というのが私の願いです」と社長の中村さん。
ツイートから約半月後の1月中旬には、大手文具メーカーの担当者が印刷所を訪れ、提携に向けた話も始まった。銀行からは融資の申し出まで来た。
孫娘は「ノート自体がよかったのと、使いたい!って方のたくさんの声で実現したものだと思っています。私は懸け橋になっただけ。広めてくださった方々には感謝の気持ちでいっぱいです」。(若松真平)
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朝日新聞社会部
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