WEDGE REPORT

シリア和平協議は“失敗確実” ロシアの空爆効果でアサド氏強気に

佐々木伸 (ささき・しん)  星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

WEDGE REPORT

時間軸の長い視点で深く掘り下げて、世界の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

»最新記事一覧へ

 戦況がこのように政権軍に大きく優位に傾いている中でシリア和平協議が始まろうとしているわけだが、このままでは「失敗が確定したのも同然」(ベイルート筋)という見方が強まっている。第1に、協議直前になっても、反体制派の出席メンバーをめぐって、米国とロシア・シリアの調整が全くついていない。

 12月に採択された国連安保理決議は、シリアの内戦当事者が1月から直接協議を開始、半年以内に移行政権を樹立し、1年半後に自由選挙実施・新政権発足というシナリオだ。しかし反体制派やサウジアラビアが移行政権にはアサド氏が入らないとしているのに対し、シリア政府、ロシア、イランは同氏の役割を排除していない。

 アサド氏やロシアは今や、「内戦に勝利しつつあるのに、なぜ退陣する必要があるのか」と主張し始めており、協議が始まってもアサド氏の退陣を巡って両派が罵り合いをするのは目に見えている。アサド氏を強気にしているもう1つの理由は、米国が来年3月まで同氏の政権保持を容認していると伝えられていることだ。

モスルに紙幣舞う

 こうした中で、有志国連合とロシアによるIS攻撃は続いているが、ISの劣勢がさらに明らかになりつつある。中でも米国によるISの石油密輸タンカーへの攻撃が資金源を断つ上で有効になっており、米国防総省がこのほど映像を公表したところによると、米軍機が11日、ISに占領されているイラク北部モスルのISの倉庫を空爆し、貯蔵されていた現金の紙幣が宙に舞った。

 この紙幣が米ドルなのか、イラク・ディナールなのかは明らかではないが、米CNNによると、数百万ドル相当の現金だったのは間違いないという。中東を統括する米中央軍司令官のオースティン司令官は「素晴らしい攻撃だった」と自賛し、米軍が今後も資金源を断つ攻撃を継続する方針を強調した。

 ISが軍事的にも、資金的にも追い詰められる中、開催されるシリア和平協議。不調となれば、それだけIS壊滅は遅れる。ケリー米国務長官とラブロフ・ロシア外相は協議に参加する代表団をめぐり、20日に話し合いを持ったが、対立は解消されなかった。和平協議が開催されるかどうかも含め、ここ数日がシリアの将来にとって大きな岐路になる。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

previous page
2
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
「WEDGE REPORT」

著者

佐々木伸(ささき・しん)

星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

ウェッジからのご案内

Wedge、ひととき、書籍のご案内はこちらからどうぞ。

  • WEDGE
  • ひととき
  • ウェッジの書籍