今回のインタビューは、ビットコイン2.0プロジェクトであるNEM(New Economy Movement)のリード開発者の武宮誠氏。国際電子マネーを開発しているDragonfly Fintech社のCEOで、国内のプライベート・ブロックチェーンであるmijinを提供するテックビューロ社ではチーフ・ブロックチェーン・オフィサー(CBO)も務める。現在武宮氏は東京大学博士課程に在籍しながらブロックチェーンのプロジェクトに数多く携わり、最近では野村総研と住信SBIネット銀行のブロックチェーン実証実験のプロトタイプ構築を担当している。
今取り組んでいるのは、「次世代電子マネー」
編集部(以下、編):最初に、ご自身でCEOを務めるDragonfly Fintech(ドラゴンフライ・フィンテック)社はどんなサービスを提供するのか教えてください。
武宮氏(以下、武):簡単にいうと、ブロックチェーンを利用した次世代電子マネーをつくろうとしています。一般の通貨、仮想通貨の境なく、通貨をブロックチェーン上で保管し、VISAやマスターカードのようにいつでもどこでも使えるようにしようという取り組みです。銀行口座でも保管できて、店舗でも使えるものになることを想定しています。
編:日本円や米ドルなどを、ビットコインと連動させることなくそのままブロックチェーンでやり取りするということですね。これにはまず銀行や店舗の協力が必要だと思いますが?
武:はい。現在交渉中ですが、話は進んでいます。ビットコインを使える場所はまだ少ないですが、この方法であれば使用可能な場所が大きく広がるのではと期待しています。
編:このサービスにはNEMを使われるのですか?
武:今のところ、NEMのプライベート版であるmijinを使う方が早いかと思っています。NEMとmijinは同一のAPIですが、違う点はNEMはパブリックなもので、mijinはプライベートなネットワークである事です。
NEMは、新しいエコシステム(循環システム)構築を目指す
編:少しお話を戻して、NEMについて伺います。ビットコインのブロックチェーンとNEMのブロックチェーンの違いはなんでしょう?
武:そもそもビットコインのエコシステムの課題を解消し、全く新しいエコシステムを構築するためにNEM (New Economy Movement)が開発されました。違いはたくさんありますが、最も重要なのはコンセンサス・アルゴリズムです。ビットコインはプルーフ・オブ・ワーク(PoW、Proof-of-Work)といって、取引の承認作業を多く行うことが重要視されますが、NEMはプルーフ・オブ・インポータンス(PoI、Proof-of-Importance)といい、システム内での経済活動の貢献度が重要視されます。
「お金持ちがさらに豊かになる流れ」を変えるシステムを
武:重要な点は、NEMのシステムでは経済活動の貢献度と通貨の保有量は無関係であることです。これは、「お金持ちがよりお金持ちになる」という循環を変えられる可能性を意味します。
ユーザーの重要度の高さを測るための計算式は複雑なので簡単にご紹介するにとどめますが、計算式に含まれるのは取引履歴や残高、レピュテ―ション(信用)などで(図1)、この計算の結果貢献度が高いユーザー(重要度が高いユーザー)により多くの通貨が支払われます。NEMのシステムの中でビットコインにあたる仮想通貨はXEMといいます。その重要度は図2のようなグラフに表すことができます。大きな点になっている人ほど重要度が高いことになります。
このシステムはこれまでのどのシステムよりも平等であることを目指しています。NEMの通貨であるXEMは、ボラティリティがとても小さい点も強みです。
日本初、銀行がブロックチェーン実証実験
編:12月に野村総研と住信SBIネット銀行が提携してブロックチェーンの実証実験を行うことを発表しましたが、そちらのプロトタイプ構築も担当されていらっしゃいますね。
武:はい。今回の実証実験では、NEMとmijinを併用して評価・実証を行うことが想定されています。先ほども話したように、NEMはパブリックなブロックチェーン、mijinはプライベートなブロックチェーンなので、使い方も変わってくると思います。
ブロックチェーン利用に向いている領域は
編:武宮さんは、ブロックチェーン技術はどのような用途に向いていると思いますか?
武:ファイルサイズが小さく、かつ非常に重要なデータを扱うにはブロックチェーンが最適だと思います。お金の取引データなどがその良い例ですね。ですから、一番向いているのはやはり金融です。他にも、物流にも向いていると思っています。
実は、どこの国かは明かせませんがいくつかの中央銀行もブロックチェーンの技術に非常に関心が高く、話をする機会が増えています。個人的にも、ブロックチェーンは政府のシステムに役立つ技術であると思います。
編:2015年は日本の銀行としては初めて住信SBIネット銀行がブロックチェーン実証実験を行うことが決まり、Mijinが国内の企業との提携を発表したりと目覚ましい動きをした一年でしたが2016年以降もNEMとMijinの動向から目が離せませんね。ありがとうございます!
NEMのHP
Dragonfly FintechのHP
NRI、住信SBIネット銀行のオープンイノベーションを支援