(テーマ音楽)
(小鳥のさえずり)ああ金沢城。
おお兼六園。
ああ冬の金沢いいなぁ。
妻がね今女友達と金沢に行ってるんです。
私に気を遣っていろいろ送ってくれるんですよ。
どうせすぐに帰ってくるのにね。
これは何かなぁ。
わあ和菓子だ!わあこれはきれいだなぁ。
でも金沢って和菓子が名物だっけ。
ブリとかカニじゃなかった?ブリとかカニ。
ちょっと草刈さん。
え?金沢は菓子どころとしても有名なんですよ。
ブリとかカニじゃなくて?京都松江などと並ぶ和菓子の町金沢。
年の瀬になると町じゅうの和菓子店に人々が心待ちにしていた菓子が並びます。
梅の花をかたどった紅白の最中…金沢の正月の風物詩です。
私は金沢生まれですので。
金沢にずっと住んでおりますので毎年お正月はどこの家庭に行ってもお茶菓子は福梅が出てきますね。
加賀百万石の城下町だった金沢。
代々国を治めていた前田家の家紋がこの梅の花でした。
砂糖で覆われた福梅はある情景を写し取っています。
雪の中でかれんに咲く梅の花。
長く厳しい冬に一足早く春の訪れを告げます。
福梅には春を思う心が込められているのです。
正月の団らんの中で思い思いの福梅が咲きます。
町のいにしえの情景も和菓子に取り込まれています。
かつて柴や薪を運ぶ舟が往来していたという浅野川。
その流れに浮かぶ舟の姿をせんべいにしました。
積まれた柴にうっすらと積もる雪を表現しています。
暮らしの節目節目に和菓子は深く関わってきました。
江戸時代から伝わる…婚礼や家の建て前などのときに贈られる祝い菓子です。
白いまんじゅうは…赤く色づいたもちは…自然への畏敬の念を込めました。
北陸の風土の中で形作られた独特の姿です。
金沢は生菓子の消費量日本一。
日頃から気軽に生菓子を楽しんでいます。
こちらも梅をモチーフにした「ねじ梅」。
生菓子ならばもちろんお抹茶。
ではなくコーヒーと一緒に頂きます。
きょうは和菓子どころ金沢の知られざる美の世界に迫ります。
新年を迎えた金沢。
張り詰めた寒さの中新しい年にそれぞれの願いを託します。
市内で材木商を営む能木場さんご一家です。
ここでもやはりお正月といえば茶の間には和菓子が。
毎年菓子を用意するのは由紀子さんの役目。
金沢じゅうから選んだお気に入りの10種類です。
中でも孫たちに人気なのがこの福徳です。
打ち出の小槌から出てきたのは…砂糖菓子や土人形。
赤や黄色が茶の間を明るくします。
華やかなものやおいしいものが前にあると話も弾みますし子供たちも喜びますので。
なんかすごく…まさに雪国が育んだ色彩観です。
今日一つめの「壺」は…福徳に入っていた砂糖菓子。
金花糖と呼ばれ江戸時代から作られてきました。
犬や招き猫などかわいらしいモチーフです。
節句の飾りにもなって子供たちの目を楽しませてきました。
金沢で金花糖といえばこの人。
作り続けて50年になる…食紅と砂糖水で水彩絵の具のように塗っていきます。
色使いのコツは何でしょうか。
北陸の気候はね冬が寒いですからやっぱり部屋に飾っとってもね赤がね映えるちゅうか。
また赤は人間がね元気の出る色ですから。
ただ補助的に色を塗るちゅうことでね…金花糖の美しさは白さが決め手でした。
砂糖の中でも純度が高いざらめを煮詰めて糖蜜を作ります。
越野さんが長年の勘で見極めるのは糖蜜の粘り具合。
金花糖の大きさやデザインに合わせて変えます。
最適な粘りが出たら火から下ろし素早くかき回します。
これが白さの秘訣。
徐々に変わっていく糖蜜の色。
攪拌して空気を含ませより白くしていきます。
そして一気に木型に流し込みます。
糖蜜が固まらないうちに型から出します。
行き渡らせてはすぐ出すことで中を空洞にするのです。
待つこと3分。
真っ白の鯛の誕生です。
光を透かして雪のように輝く白。
その白があってこそ赤や黄色が鮮やかに映えるのです。
桃の節句を祝う頃金沢はまだ雪深い時期。
金花糖は雛人形と共に飾られます。
その優しい色合いは雪国の人々を暖めています。
これは辻占といって運勢を占ってくれるお菓子だそうですよ。
ふ〜ん。
おや?中に紙が入ってる。
「離れない仲」かな。
いつまでも夫婦円満てことですね。
ではもうひとつ。
妻もしゃれたことをしますねぇ。
ん?「きるにきられぬ」。
離れん仲…切るに切られぬ。
なんだか嫌な予感がする。
城下町金沢には武家にゆかりを持つ和菓子が伝わっています。
紅白の落雁の…中国唐の皇帝が築いた宮殿の名が付けられています。
この不思議な文字篆書体という古代中国の書体で神を祀る際にも用いられた格調高いものです。
江戸時代篆書体は武士の教養でもあった中国文化を象徴するものでした。
そして通常の漢字では表現できない格の高さを表すために使われました。
梵鐘や石碑の銘文を研究する…篆書体は武士にとって特別な意味があったといいます。
中国文化に一番近い人は当時は武士。
武士階級です。
篆書というカチッとした文字これは特にそうです。
左右対称に作っていてその中で表現すべきものというのは…そういったものを表現したいんだと思うんですね。
切れ味鋭く彫り込まれた落雁。
線の一本一本に武士の風格が表れています。
今日二つ目の「壺」は…江戸時代百万石の強大な財力を誇っていた加賀藩。
歴代の藩主は茶の湯や能をはじめ武家文化の振興に努めました。
落雁は茶会で干菓子として用いられる大切な菓子。
城下ではさまざまなものが作られました。
中でも武家好みの落雁は風格を備えたものでした。
篆書体の持つ厳かな雰囲気に加えある工夫が施されました。
文字を文字として読めということではないんですね。
文字がこの立体彫刻が醸し出す雰囲気ですね。
茶室も片側から光が入ってくる。
そこに真正面から光が当たったんじゃなくて横から当たるところに文字の表現がされるんですよ。
ご覧ください。
光が当たることで文字の鋭さが際立ちました。
この表情を作り出すのが木型です。
直線と曲線が織り成す彫り。
底の部分が膨らんでいるのが分かりますか?この木型で作ると落雁は逆に内側が凹みます。
落雁を重ねても文字が欠けないようにする工夫。
淵より低く文字が収まっています。
さらに木型を使いこなすにも職人技が必要です。
型の隅々まで行き渡るように粉を押しつぶしながら粒子を細かく仕上げます。
そして木型の出番。
生地をたっぷりと詰めたらへらで力いっぱいたたき彫りの奥まで押し込みます。
出来上がるまでほんの数秒。
強くかつ均等に。
へら使いで文字をくっきりと浮き上がらせるのです。
かつて金沢の落雁のために数々の優れた木型が作られました。
創業380年あまりの老舗には1,000を超える型が大切に残されています。
その一つ一つから職人の意気込みが感じられます。
やっぱりねぇ…。
出来上がった物もきちんときりっとしてる。
力強いノミの跡。
1本1本が集まって蓮の花の重量感を見事に表現しています。
明治時代の名工谷内宅三郎の作です。
豪快な彫りは武士の気迫そのものなのです。
これは何て書いてあるんだ…。
「わかれがつらい」。
切るに切られぬ離れん仲。
別れがつらい惚れた仲。
何だか演歌の歌詞みたいだ。
え?これは私と別れるっていう意味かな。
そうだ…他に男がいるのかも。
雪の金沢。
男と女。
許されぬ恋。
逃避行。
別れがつらい惚れた仲。
ああ〜うそだ〜!うそだと言ってくれ〜!数々の美術工芸を育んできた町では和菓子を引き立てる器にも事欠きません。
極めつきはこちら。
高台がついたシャープな漆器。
シンプルですが菓子が添えられると…。
和菓子はもちろん漆の光沢まで堪能できます。
金沢の和菓子に加賀の器。
最高の贅沢です。
今日最後の「壺」は…和菓子や器になみなみならぬこだわりを持つ茶人の大島宗翠さん。
この日新春の茶会の準備をするということで伺いました。
ところが茶道具は見当たらないどころか絵を描いています。
どうしたらそれが表れるかなと思っていろいろやってるんです。
実は大島さん和菓子を自らデザインするのです。
一体どんな菓子が出来上がるのでしょう。
形にするのは菓子職人の仕事。
注文を受けた吉橋廣修さんが試作を持ってきました。
大島さんの絵をもとに吉橋さんが考えを巡らせて作った4種です。
どれを選ぶのか。
決め手となるものが大島さんにはありました。
取り出したのは茶会で使う菓子器。
これなんですけど…。
へぇ〜。
そういう格好でいきたいなぁと。
うわあ…水色ってね私には怖い色なんですよ。
いやあでもきれいですね。
菓子器には珍しい水色。
いちばん繊細な姿のものが映えそうです。
器と調和するようにさらに色や形に修正を加えることにしました。
修正に取りかかった吉橋さん。
気がかりなことがありました。
そういうことも頭ん中あるんで。
同時に亭主がその器選んだっていうことは…その思いをくまなきゃいけないですからね。
まずは色をほんのわずか変えることにしました。
衣の内側部分のピンクの色味を薄くしてみます。
白あんと小麦粉を混ぜた生地に少しずつ原色を加えながら欲しい色を調整していきます。
一段と淡いピンクができました。
器の水色とけんかしないようにと考えたのです。
さらに形にも工夫を施します。
やや小ぶりにして繊細な印象を出しました。
一方四神を表すあんは目立たせます。
籐でできた目の粗いこし器を使います。
できたのは太くて荒い形のあん。
たっぷりと盛ります。
前と比べるとシルエットは細く色は淡くなりました。
対して四神のあんを荒々しく仕上げてバランスを取りました。
茶会当日。
いよいよ吉橋さんの作った菓子はあの青い器に盛られお披露目です。
大胆な器に優しい風合いの菓子。
修正を重ねてたどり着いた絶妙の取り合わせです。
客は器と菓子による最高のもてなしを楽しみます。
神さんを食べるんですからね。
そうですね。
おそれ多い…。
きれいなブルーですね。
(大島さん)この冬なかなかね青空というのは望めませんので。
早くねこういう青空が出るような春になりたいですね。
金沢には昔からね亭主八盃という言葉があるんですお茶の世界で。
お茶の会はもちろんお客さんも楽しんでいただけますけども亭主の楽しみ喜びが客以上だと。
だから今日はやってよかった。
また何かの機会にやりたいなと。
藩政時代から金沢に…そういうお茶の文化がもとを成していると思っています。
最後に金沢流器使いをひとつ。
旧家で生まれ育った直江由季子さん。
この日気の合う友人を自宅に招きました。
楽しい時間が過ぎ友人たちが帰ろうとすると直江さんは…。
菓子の下に敷かれていた半紙で残った菓子を包みました。
客に持ち帰ってもらうためです。
こうした光景は金沢では日常のこと。
さりげなくお土産を持たせる金沢のもてなしです。
ありがとう。
気をつけてね。
元気でね。
またね。
じゃあまたね。
金沢の和菓子は寒い冬でも心をほっと温めてくれるのです。
こうなったら腹を割って話そうじゃありませんか。
私もこれから金沢へ行ってまいります。
・あなた〜ただいま〜!お…おかえり…。
どうなってるの?「たんきハそんき」。
なるほど。
金沢寒かったでしょう?熱いお茶でもいれようね。
2016/01/17(日) 23:00〜23:30
NHKEテレ1大阪
美の壺・選「金沢の和菓子」[字]
身近なテーマを中心に、美術鑑賞を3つのツボでわかりやすく指南する新感覚美術番組。今回は「金沢の和菓子」。案内役:草刈正雄
詳細情報
番組内容
日本三大菓子処(どころ)に数えられる金沢。加賀百万石として栄えた城下町は、雪国が生んだ美しい和菓子があふれる。雪に映える砂糖菓子。その美を引き立たせる裏技とは? 武家が好んだ端正な落雁(らくがん)。究極の木型を彫り抜く技とは? 茶会に彩りを添える生菓子も魅力。北陸独特の風情を創り出す、菓子職人の試行錯誤に密着! 工芸の町・金沢ならではの器の技も紹介。金沢が一番美しい冬、「城下町スイーツ」に迫る。
出演者
【司会】草刈正雄,【語り】礒野佑子
ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
情報/ワイドショー – グルメ・料理
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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