Hatena::ブログ(Diary)

Commentarius Saevus このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter




電子書肆 さえ房」開業!電子書籍『共感覚の地平』を無料公開中

2016-01-21

シェイクスピアはこうでなきゃ!〜カクシンハン『ジュリアス・シーザー』(ネタバレあり)

| シェイクスピアはこうでなきゃ!〜カクシンハン『ジュリアス・シーザー』(ネタバレあり)を含むブックマーク シェイクスピアはこうでなきゃ!〜カクシンハン『ジュリアス・シーザー』(ネタバレあり)のブックマークコメント

 カクシンハンによる『ジュリアス・シーザー』を池袋シアターグリーンで見てきた。非常に荒削りな演出でまだいくぶん完成してないところもあるのだが、それでも「シェイクスピアはこうでなきゃ!」というようなキレッキレの演出で大変に面白かった。絶対おすすめできる。

 とにかく素晴らしいのは、日本舞台としては非常にきちんとシェイクスピア現代政治リンクさせていることである。『ジュリアス・シーザー』は大変政治的な芝居で、英語圏ではオールフィメールでやるとか、サブサハラのアフリカの国家という設定でやるとか、とにかく現代政治リンクさせた演出にすることが多い。私も、基本的にこの芝居においてシーザーローマで殺される偉人ではなく現代に生きる政治家であり、ローマ過去ではなく生々しい現実として表現されるべきだと思っているのだが、このカクシンハンの『ジュリアス・シーザー』はまさに現代日本に生きている観客のための舞台である

 まず、観客は全員、開演前にマイナンバーを書いた紙を渡される。最初市民ナンバーを読み上げさせるなどの客いじりがあり、お客はこの時点で全員、ローマ市民にさせられる。このマイナンバーを使って日本のお客とローマ市民を近づける演出は良かったと思う。詩人シナのところでもこのマイナンバー検問で読み上げるなどのやり方で使われるのかと思ったが、再活用が無かったのが残念だ。

 さらにこの演出面白いのは、ジュリアス・シーザー安倍首相であり、ローマ元老院無能日本国会であるというところだ。この演出では原作にない元老院での討議の場面があり、シセローが議長をつとめて「○○君」などと議員を呼び、それぞれの議員消費税とか少子化について提案をし、それをシーザー安倍首相に似たやり方でのらりくらりとかわすという日本国会を痛烈に諷刺した場面がある。ここではシーザーが繰り出す日本政治薄っぺらい(かつ安倍的な)言葉と、壮麗なシェイクスピアの詩がグロテスクな対比をもって示されており、我々がふだん政治の場で聞いている言語がいかに軽薄なものかということをイヤというほど思い知らされる演出になっている。さらシーザーを単なる偉人ではない汚いところのある政治屋独裁的傾向を垣間見せる人物として提示する効果があり、芝居全体に複雑さを与えている。そして国会でつかみ合いの乱闘中にシーザー背中からどさくさまぎれに刺されるという、まるで日本国会を悪くデフォルメしたような暗殺場面が続く。この場面のスピーディで辛辣な流れは本当に面白い

 このプロダクションではキャシアス(石橋直也)が緑っぽい髪の毛に目つきの悪い奇抜な服装の男で、かなり子どもっぽく癇癖の強い人物として描かれているのだが、後半部分ではキャシアスのみならずブルータス(河内大和)も悪意は無いがいささか大人げないところのある男であることが強調され、暗殺を行った側にも無能政治家という側面があることがうまく描かれている。前半ほどの辛辣さはないが、この独裁者を殺してもその後は無能政治家たちの小競り合いが続くばかりという不条理劇のような状況は、『ジュリアス・シーザー』を『リア王』みたいな悲劇や『尺には尺を』のような問題劇に近づけていると思う。この芝居においてはアントニーやオクテーヴィアスも含めて有能さと美徳を兼ね備えた政治家はひとりもいない。血で血を洗う政治抗争が続くばかりだ。

 全体としてはちょっとできあがっていないところもあり、とくにブルータスの白い軍用天幕を設営する時に布が舞台奥のドラムセットブースに引っかかってしまってもたついたり、ちょっと台詞のタイミングがあわなかったりするところもある。真以美が男性であるアントニー役という配役は素晴らしいと思うが、声を枯らして男性っぽくするのはちょっと失敗ではないかと思った(アントニーは朗々たる弁舌が特徴なので、わざと男っぽくせず流れるように話したほうがいいと思う)。しかしながら生演奏ドラム舞台に響き渡る中でひたすら生々しい政治が展開するこの『ジュリアス・シーザー』はとにかく私の超好みである。まだチケットとってない人はどうぞ!

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/saebou/20160121/p1