(坂井田昇)荒さんよう…ほんとに誰もいねぇのか?
(荒勝明)ああ。
(時山次郎)行くぞ。
(少年A)時さん俺も行く!ダメだ。
お前はここで見張りだ。
頼むよ行かしてくれよ!見張りなんてかっこ悪いよ。
おい!こっちだ…!手貸してくれ!
(気良社長)てめえら何やってんだこんなところで!?どけ!おらぁ!!お前…荒じゃねぇか!なんて事するんだ!
(うめき声)早くしろ!行け外へ…!・
(女性の叫び声)・
(時山)やばいぞ!
(爆発音)
(クラクション)
(滝中守年)はい終わりましたー。
はい次の人ー。
はいそこに座ってー。
辻!何やってんだよ!?
(辻薫平)何って免許の更新に決まってるじゃないですか。
まぁまぁお前たちが暇だってのは結構な事だよ。
ほら真っ直ぐ向いて!はい。
ちゃんと撮ってくださいよ。
あ〜あ撮っちゃったよ。
え?どうですか?お仕事のほうは。
お前に関係ないだろう。
そんな事ないですよ。
俺だって心配してんですよモリさんの事。
お前に心配なんかされたくないよ。
前よりよっぽど楽しくやってるよ。
定時で帰れるだろう?泊まりはないだろう?いいなぁ。
毎日毎日健康的な…。
(咳払い)それってストレスじゃないですか。
ストレスじゃないって!いやぁストレスですよそれは。
やっぱりモリさんは刑事課に戻ってくるべきですよ。
嫌だ!もう…ちょっと刑事部長に頭下げればいいだけなのに。
冗談じゃないよ誰があんな奴に頭なんか下げられるか。
余計な事言ってないでとっとととっとと帰れ!はいわかりました…。
あっそうだ!課長から伝言があったんでした。
えー…あ…荒勝明が仮出所したそうです。
荒が出てきた?はい。
誰なんすか?それ。
(争う声)
(悲鳴)あれは嫌なヤマだった…。
岐阜市みどり町に「気良興業」って会社があってな。
そこに4人組のタタキが押し入った。
狙いはもちろん金だ。
ところが…社長に気付かれて刺した挙げ句に放火した。
社長夫婦は焼死。
辛うじて助け出された息子も大やけどを負って重体。
主犯として逮捕したのが…荒勝明だ。
奴は気良興業の従業員だった。
それに荒の遊び仲間の2人。
あと1人は中学生でまぁこいつはただの見張り役だった。
荒っていうのはとんでもない悪ですね。
仮出所なんかさして大丈夫なのかなぁ…。
どうしたんですか?モリさん。
なんでもない。
いやでも…。
俺の事はもういいから早く戻ったほうがいいぞ。
…はいじゃ失礼します。
(坂井田)すいませんまだなんですが。
しばらくだなぁ坂井田。
俺だよ。
荒さんか!?いつ出たんだ?先月だよ。
随分やつれたんで一瞬わかんなかったよ。
そうか出てきたのか…よく出てきたな。
とにかく座ってくれ。
(カメラのシャッター音)
(滝中朱音)すいません直しちょっと入ります。
(湯本弘和)すげぇいいんだけどもうちょい柔らかい感じで。
(2人)はい。
オッケーです!はい!
(シャッター音)
(携帯電話)
(携帯電話)もしもし…?何よ〜なんか用!?今仕事中なの!え?結婚式!?行けないわよ!忙しくて帰れない!わかった…。
じゃあ欠席っていう事でハガキ出しとく。
なぁ朱音…。
(不通音)
(ため息)
(湯本)はいオッケーじゃあ今日はこれで。
(2人)はいお疲れ様でした!
(湯本)お疲れ様っす!お疲れ様でした!またね。
お疲れ様でした。
悪ぃ!ちょっと片しといて。
朱音なんかあったのか?別に…ただ実家からくだらない電話があっただけ。
実家か…。
そういやぁお前ん家の実家って釜ヶ滝近かったよな?釜ヶ滝?うん。
ああ…そんなところもあったわね。
それが何?いや写真撮りに来ないかって誘われててさ…これ。
俺前にスクールで教えてた事あんだろ?あん時の生徒。
これさ…写真展の素材にバッチリだと思わない?いやだけど写真展つーのは金かかっからなぁ〜!やりてぇなぁ写真展!私…バイト増やしてもいいけど?マジで!?ほんとに?さすが朱音!ありがたい!そういえば今日このあとバイトだよな?終わったら俺ん家来いよ。
うん。
じゃああとでな。
結婚か…。
また朱音の同級生が結婚するってさ。
あいつどんな奴と一緒になんのかねぇ…。
悪かったと思ってるよだけどよ…あん時は時山に逆らえなかったんだって!俺だってさ…少年院でそれなりの苦労はしてきたんだって。
恨むんならあいつ恨んでくれよな。
よしっ!もう1本いこう!
(荒)言われなくてもそのつもりだー!荒さん…あんた…!
(テレビ)「はいこちら事件のあった現場です」「岐阜北署による現場検証もほぼ終わり一時の喧噪はもうありません」「今朝岐阜市桜田町のスナックで男性の刺殺死体が発見されました」「被害者はこの店の経営者坂井田昇さんで店内にあった包丁で殺害された模様です」「なお警察では昨夜11時頃その店から出て行った帽子を被った40歳ぐらいの男性が事件のなんらかの事情を知っているものと見てその行方を追っています」
(吉井刑事)凶器の包丁に付いていた指紋には前科がありました。
名前は荒勝明36歳。
目撃者に写真を見せたところ店から逃げていった男に間違いないとの事でした。
(段林刑事部長)で被害者との関係は?2人は15年前に起きた放火殺人事件の加害者です。
ほう…庄村課長は当時の担当か。
(庄村利光)はい。
主犯の荒は20年の懲役。
それにしちゃ随分早く仮出所したもんだな。
はい模範囚だったと聞いております。
ふ〜ん…。
でその荒っていうのはどういう奴なんだ。
(庄村)今度の事はお前が計画したんだな?違います…俺じゃないです!嘘をつくな!従業員のお前でなきゃあの夜金庫に大金が入ってる事を誰も知らないだろう!?他の連中はお前に話を持ちかけられたと言ってるぞ。
俺が話を持ちかけた!?覚えてないのか?覚えてないとは言わせないぞ。
そうだったのかもしれない…。
おい…はっきりしろ。
わかんないんだ…。
何がなんだか全然わかんないんだよー!
(庄村)荒は根は小心者なんですが追いつめられると自分をコントロール出来なくなるところがありました。
まぁ最終的には素直に容疑を認めたんですが…。
なるほどそんな奴だったら衝動的に刺してもおかしくないな。
よし!全員で荒の行方を追ってくれ!
(一同)はい!辻!辻…。
ああモリさん…。
なんかわかったか?ホシは荒です。
おいホシが荒だって?モリさん…。
お〜滝中巡査部長!君には関係ないよ。
それよりどうだ?新しい職場慣れたか?快適ですおかげさんで。
う〜んそりゃ結構な事だ。
で?今日は?部長滝中もあの事件の捜査員だったんです。
それで?それだけです!お忙しいところお邪魔しました。
失礼します。
モリさん…。
手を貸してくれないか?刑事部長。
滝中を出向扱いにしていただけないでしょうか。
いやいや…現場に荒の事をよく知ってる人間がどうしても必要なんです。
どうかお願いします!この私に時限爆弾を抱えさせる気か。
ま課長が責任を取るっていうなら許可してやってもいいがその代わり一刻も早く荒を逮捕しろ。
但しこれだけ言っとく。
警察は組織で動くもんだ。
命令に従わん行動は認めないから。
手続きはやっとく。
ありがとうございます!そういう事だ…よろしく頼むよ。
まったく現場の苦労ってもんが全然わかってない人だからな。
すまんなぁ…自分にもう少し力があったら刑事課に戻してやるんだが…。
庄さん…。
謝んなきゃなんないのは俺のほうだよ。
あんな奴のために頭下げさせて。
気にするなそれよりモリさんが加わってくれて俺はうれしいよモリさん!え…なんで?嫌なのか?俺じゃ。
いやぁそういうわけじゃないんですけど…。
だったら出せよ。
わかりました。
相変わらずだな…。
信号左。
え?荒の実家張るんじゃないんすか?いいから左!はい。
モリさん何してんですか?ここどこなんすか?行きゃわかる。
・
(ノック)・
(時山)お待たせしました。
お久しぶりです滝中さん。
その節はお世話になりました。
元気そうだな時山。
仕事も順調なようだし今や優良企業の社長さんか。
よしてくださいよからかうのは。
ただ親父の会社を継いだだけです。
福祉関係にも熱心らしいし…。
昔の事がありますからね。
社会に対する罪滅ぼしとでも言うんでしょうか。
まぁ今思えばバカな事したもんですよ。
で今日は何ですか?坂井田殺られたのは知ってんな?その事ですか…ニュースで見ました。
驚きました。
それだけか?お前の感想。
は?まぁいいや。
荒訪ねてこなかったか?荒?ああ…いえ。
あの人まだ刑務所でしょ?ひと月前に出てるよ。
そうですか…懐かしい名前だなぁ。
今は実家ですかね。
会いたいなぁ…。
なら会いに行ってこいよ。
次殺られんのはお前かもしれねぇぞ。
私が?なんですかそれ。
坂井田殺ったのは荒だ。
信じらんねぇか?証拠が揃ってるんだ。
・
(ノック)・
(秘書)社長そろそろ大石様がお見えになる時間ですが。
わかった。
申し訳ありませんが大事な商談があるんでお引き取り願えますか。
命より大事な商談か。
冗談はよしてください。
東京の大手商社も絡んだ大口の取り引きがあるんです。
社運がかかってるんですよ。
身辺に気を付けろ。
荒が接触してきたら…必ず連絡しろ。
念のためにパトロール強化するように言っとけ。
はい。
でもモリさん荒が時山を殺るって本気で思ってんすか?勘だよ俺の勘。
勘…。
モリさん!!ちょっと待ってください…!ちょっと待ってください…!荒はいません。
姉の知子1人です。
さっき確認しました!荒がいねぇのは知ってんだ。
用があんのは姉貴のほうなんだ。
どけよほら。
いや…無茶言わないでください。
弟をかくまってるかもしれないんですから!かくまってる?んな事ねぇよ。
とにかく本部から様子を見るようにと言われてるんです。
だったらお前ここで様子見てろよ!あん時はすいませんでした。
お母さん心臓悪かったなんて知らなかったもんですから。
(荒知子)いえ…悪いのは勝明ですから。
私は弟が母を殺したと思っています。
今日はまたあの子の事ですか?出所してから顔出しました?はい。
でももういませんよ。
迷惑をかけたくないからってすぐに出て行きました。
母の写真が欲しいって言って…渡してやりました。
行き先に心当たりはないですか?私は何も知りません。
あの…誰か会いに来ませんでした?いいえ。
ただ…刑務所にいた頃よく面会に来てくれた人はいたみたいです。
面会?あの子…また何かしたんでしょうか?当時の仲間の1人が殺されたんです。
じゃあ勝明も危ないっておっしゃるんですか?いやあの…そういうわけでは…。
あの…念のためにご自宅警備させてもらっていいですか?いいんですか?何が。
だってあんな嘘…。
あとから恨まれても知りませんよ。
実の弟憎むより刑事を憎んだほうが楽だろうが。
モリさん…。
早く車出せ。
見張らなくていいんですか?あいつがいんだろう!早く出せ。
どこ…行きましょうか。
バカかお前。
(係官)ああありました。
これが荒勝明の面会者の記録です。
山田裕二…名古屋文化大学?誰です?これ。
ああ犯罪心理学の研究者だそうです。
おいこの勤務先と住所洗え。
わかりました。
これ半年に1度来てますね。
どんな話してましたか?さぁ最近は仮出所の予定なんかを話していたようですが。
最初の頃は?最初…。
もう3年にもなりますからね。
申し訳ありません。
記憶にないです。
モリさん変です…。
名古屋文化大学に山田裕二っていう人物いないそうです。
住所はどうだった?今調べてもらってます。
(無線)「捜査本部より岐阜北6」はいこちら辻です。
「森倉町12番地には現在住居はない模様」えぇ!?ない…?まぁとりあえず行け。
モリさん。
10年ほど前ここに確かに山田っていう家があったそうです。
転居先は?近所の人知らないみたいですね。
なんか夜逃げだったらしいんですよ。
夜逃げ?どういう事?
(庄村)住所は本籍地だったのか。
はい山田裕二というのは実在の人物です。
10年ほど前までこの住所に住んでた事も確認されてます。
ただ身寄りもほとんどなくて現在の居所はわかりません。
何かわかったか?あ刑事部長。
実は荒の周辺に山田という不審な人物が浮かび上がりまして。
不審…何が不審なの?面会者記録の現住所と勤務先がでたらめでした。
ただ戸籍上は存在していて…。
荒をかくまってんのかもしんない。
かくまう?なんの理由があってそんな事するんだ。
それはわかりません。
しかし今回の殺し…山田は荒から聞いて前もって知ってたのかもしれない。
荒は初めから坂井田を殺るつもりだったっていうのか?そうです。
それはないな!いいか?凶器は坂井田の店の包丁だ。
おまけに指紋まで残してる。
どう見たって荒の衝動的な犯行だろう。
ベテランの勘ってやつか?いいだろう…荒を捕まえればわかる事だから。
じゃあ山田捜索していいですか?ああ好きにしたまえ。
それより課長スナック現場周辺の聞き込みのほうどうなってんの?モリさんどこ行くんすか?便所!モリさん初めから気付いてたんですか?何が。
衝動的にやったんじゃないって。
考えてみたら荒だけ15年ですからねいくら初犯とはいえ他の連中が少年院に2〜3年じゃそりゃあ荒だってむかつきますよ。
モリさんトイレ。
帰る。
免許係は残業なし。
こんな事だと思ってました。
荒は来ますかね。
さぁどうかな?来たとしても近づけるかどうか…。
おぉ〜警戒厳しいなぁ〜!時山だって気が気じゃないだろう。
最初に自分が殺られなかったのが不思議なぐらいだよ。
どうして強盗なんかやった!?お前金に困ってねぇだろう!?荒さんに手を貸せって言われて断れなかったんすよ。
あの人キレると怖いから。
放火殺人だぞ?自分のやった事わかってんのかおい!?あんな…大変な事になるなんて思ってなかったんですよ。
留守で誰もいないから大丈夫だって荒さんが言うから。
だから俺湯本も連れてった…。
ところで湯本はどうしてますか?少年課に回したよ。
(時山)そうですか…。
刑事さんあいつ詳しい事は何も知らないんです。
ただ見張りしてただけなんで。
だから…厳しい取り調べは勘弁してやってください。
お前随分人の心配してる余裕あんな。
当時は時山の後輩思いに感心する捜査員がいた。
でも俺にはそうは見えなかった。
時山は湯本が本当の事をしゃべんじゃないかって気になってたんじゃないかと思うんだ。
今んなって思えばな。
本当の事って?本当の主犯だよ。
まさか…時山が!?声がでかいだろう。
すいませんちょっとびっくりしちゃって。
時山はな世間舐めてるようなところがあるずる賢くて…未成年の自分が罪は軽いだろうっていう事も計算してたんだろう。
モリさんの言う事がほんとなら荒は絶対時山を狙いますよ。
荒にもこれ以上殺しさせたくねぇんだよ。
あいつ人殺しなんか出来るような奴じゃねぇんだよ。
自分をはめた連中に対する思いが荒の性格を変えたって事ですか。
・
(エレベーターの到着音)・じゃあお先に失礼します。
遅くまで悪かったな。
(北見宣之)辻君随分遅いんだね。
事件?あ…こんばんは。
あ紹介します。
隣に住んでる北見宣之さんです。
俺の上司の滝中さん。
初めまして北見です。
じゃあ俺帰るわ。
はい。
ああ!これ。
飯。
忘れてました。
ゆっこ…また現場に戻る事になったよ。
どうでした?あるにはあったが10年以上前のものだこれが山田裕二ですか…。
ヤマさんに似てんだけどな…。
うん間違いない。
これヤマさんだよ!モリさん。
おたく山田さんだよね。
(山田裕二)え?そうだけど。
似てますよ…ホームレスなら現住所はないし当然無職です。
おたくたちは…誰?あぁ。
ちょっと訊きたい事あってさ。
警察に話す事なんか何もねぇけどな。
あなたの本籍地教えてもらえますか?本籍…えーっと岐阜県…。
どうしたよ!?忘れちゃったよ。
これあなたですね山田裕二さん。
荒に会いに行った理由を教えてもらいたいんだよ。
え…?刑務所に面会に行ったろうが。
俺はそ…そんなとこ行ってねぇよ。
面会記録にこの住所書いたろう?嘘つかないほうがいいぞ。
嘘じゃねぇって…。
あの…刑事さん。
実は…戸籍は売っちゃったんだよ。
5年前に…。
売った!?男が声かけてきてよ20万で戸籍売ってくれって。
俺はその時金欲しかったからつい…。
どんな男に売ったんだ。
そんなのは…覚えてねぇって。
お前のやった事見逃してやるから思い出せ。
本当に…覚えてねぇんだよなぁ。
俺よりほんの少し若かったみたいだったけど顔は…帽子でろくに見えなかった。
奴は他人にならなきゃならない理由があった。
そうですね…。
でもその事と荒は関係あるんでしょうか?わからん。
これだけは間違いない…。
奴は荒が昔の仲間を恨んでたって事を知ってた。
もしかしたら…奴が荒に復讐を唆したのかもしれない。
この事時山に教えといてやるか。
またあの話ですか。
新しい情報が入ったから教えといてやろうと思ってな。
それはどうもご親切に。
荒には山田裕二って仲間がいた。
山田裕二。
もちろん本名じゃない。
歳は40前後。
心当たりねぇかな。
さぁ…。
あら?滝中さん…実は情報が欲しいんじゃないんですか?荒をかくまってそうな人物の。
だったらそう言ってくださいよ。
警察の捜査に協力するのは我々市民の義務ですから。
お前昔と変わんねぇなぁ…。
何がですか?心に不安がある時は…わざと余裕見せる。
邪魔したな。
(ノック)社長お茶でもお持ち…。
塩まいとけ!塩!臆病者の荒がこの俺を殺りに来るだと?バカも休み休み言え。
滝中の野郎も老いぼれたもんだぜ。
うわぁ!大石様がお見えになりました。
あ…お通しして…。
はい。
もうお帰りですか?
(大石)あ…。
(ノック)
(秘書)失礼します
(悲鳴)
(無線)「本部より岐阜北管内。
殺人事件入電中」「現場は泉山町1丁目近い局応答せよ」岐阜北6泉山町2丁目。
「岐阜北6臨場せよ」「現場は泉山町1丁目47番地。
美濃建設工業」「被害者は同会社社長の時山次郎」了解!!Uターン!はい!
(パトカーのサイレン)
(カメラのシャッター音)待て。
なんてこった…サンキュ。
荒の仕業でしょうか?俺たちが帰った直後に殺られるなんて…。
凶器は?出てません。
ただ鑑識はでかいスパナか何かで殴られたんだろうと。
スパナか…。
凶器は犯人が持ち込んだんですかね?ああ…恐らくアタッシェケースに入れて持ってきたんだろう。
アタッシェケース?アタッシェケースって言ったな!?ああ…はい。
秘書が犯人を目撃しているんです。
「大石」という男だそうです。
ああっ!モリさん…。
半年だぞ!?たった半年で…ここまで勘が鈍ってる!どうしたんすか?お前よく平気だな。
はい?いいか?俺たちずーっと追っかけてた奴とここですれ違ったんだぞ!?おい…。
じゃあさっきの男が…。
目の前にいるのに気が付かなかった。
見事にあざむかれた…。
あいつは…荒かくまってるだけじゃない。
共犯だよ!それに…こっちの動きまで見事に読んでる。
モリさん…。
大石というのは偽名です。
会社の名前も住所もでたらめで大手商社の絡んだ取り引きの事実もありません。
山田裕二になりすました奴と同一人物かもしれんな。
いや!坂井田殺しと関連付けるのは時期尚早だ。
おい!それより大石の似顔絵出来たのか?それが…目撃者が動転していて作業が進まないんです。
フンッ!そういえばそこの2人も大石を見てるんだったな。
ああ…あのほんの数秒ですが。
例え数秒でも面は覚えてるだろう。
だてに長く警察官をやってるわけじゃあるまい?はぁ…あんなの無理ですよ。
ちょっとすれ違っただけですもん。
言い訳すんなよ。
似顔絵作れなかったのは俺たちの責任だよ。
でもモリさんに苦手があるなんて知りませんでした。
俺昔から面覚えが悪いんだ。
30年経っても全く進歩しねぇ…。
刑事部長の言った事気にしてるんすか?あんなのただの嫌みですよ!自分に腹を立ててるんだよ。
第二の殺人を防げなかった事が許せないんだろう。
モリさんってのはそういう男だ。
(チャイム)誰だよこんな時間に!どうも!ちょっとお邪魔していいすか?どうぞ北見さん上がって。
お邪魔します。
あ…どうぞお構いなく。
ねぇ?汚いでしょう。
こっちもあっちももっとすごいんだよ!くだんねぇ事言ってないで手伝え!はい。
ああそっちいいっすよ。
ああいえあの…こちらは奥さんですか?ええ。
娘さんにはねぇ逃げられちゃったんだ。
くだらない事言うな!っていうか余計な口きくな!あ…すいません。
滝中さん思ったとおりの人だったんで。
さぁ肝心な用事片づけてしまいましょうか!あそうだ。
あ…これは仕事道具です。
北見さんはゲームのキャラのデザイナーをしてるんです。
キャラ?登場人物の事です。
何しに来たの?北見さんは仕事柄絵を描くのがうまいんです。
なんとか大石の似顔絵を作りたいって言ったら協力してくれるって。
俺なんか何言われても構わないんですけどモリさんがあんなふうに刑事部長に言われんの俺悔しいっすから!辻。
問題は誰が描くかじゃなくて2人の記憶力の悪さだぞ!あそれは違うと思いますよ。
記憶をどれだけ引き出せるかは描く側の責任です。
見事なもんだなぁ…。
あぁ…これで一気に事件解決出来ますかね?だといいなぁ…。
才能ですね。
(歌)似顔絵を専門に勉強したんですか?いえ自己流です。
ただ人間の顔に興味があって少しだけ研究した事あります。
顔の研究?でなんかわかんですか?いや大した事はありません。
ただ1つだけわかった事は顔なんてものはしょせん世の中を渡っていくための認識票にすぎないんだって事です。
認識票?ええ。
素顔でも化粧でも整形でも都合のいい顔を選べばいい。
それよりも大切なのは表情です。
人が人に嫌悪感を抱くのは顔そのものじゃなくて表情だと言ってもいい。
無愛想な顔見せられて喜ぶ人はいませんよ。
モリさん耳痛いんじゃないんすか?うるさいお前。
逆に言うと笑顔は人を幸福にするって事です。
お父さん!私は…明るく笑顔で生きてきたいの。
お父さんの前だとそれが出来ない!
(係官)う〜んこの面会者に眼鏡と口髭を付けても…こういう顔にはならないんじゃないかと思います。
違う?ええ違いますね。
えぇ!?モリさん別件なんじゃないんすか?2つの殺しは。
そんなはずない!面会者の似顔絵作りに協力していただけますか?あ…いやそれはちょっと…自信がないです。
大丈夫です!プロが絵を描きますから。
はぁ。
モリさん。
また北見さんに頼んでみますよ。
帰りました。
モリさん。
時山の部屋の灰皿から荒の指紋が出た。
荒は出所してから時山を訪ねたって事だな。
荒の奴恐らく時山を殺しに行ったんだろう。
でも自分の手には負えないとわかって共犯者に頼んだ。
どうした?モリさんの説が有力になったんだぞ。
山田を名乗った男イコール大石説はなしです。
なんだって!?こっちは?刑務所の係官から聞き取った対象者の似顔絵です。
(庄村)おいおい別人じゃないか!ええ。
相変わらず正体不明。
マル対です。
マル対か…。
2つの事件には関連がないというわけだな。
待ってください。
荒の面会に行ったのは大石じゃなかった。
だけど別件と決めつけんのは早いでしょう。
それじゃ何か?荒には共犯者が何人もいるっていうわけか。
君はどうしても荒の計画的犯行にしたいみたいだな。
捜査陣を2手に分ける!大石を追う班の責任者は吉井!荒のほうは課長が直接指揮をとってくれ。
はい。
自分出向の身ですから遊軍でいいですか?いいだろう。
マル対を捜したければ捜せばいい。
荒をかくまってる可能性があるからな。
そうさせてもらいまーす。
モリさん…マル対に心当たりはないのか…。
15年前の事件の関係者といやぁあとは気良の息子と湯本だな。
気良はなぁ…。
顔に大やけどの痕があるし年格好も合わないでしょう。
うん…。
湯本とは…顔つきが違うし。
(庄村)一体なんだこんなとこへ呼び出したりして。
15年前連中取り調べたのもこの部屋だった。
確か季節もちょうど今頃だ。
ああそういやぁそうだったなぁ。
あん時の2人が死んだ…。
残ってんのは湯本だけだ。
東京に行こうと思う。
奴今向こうに住んでるらしい。
東京か…。
人手が足りないのはわかってんだが…。
止めたって無駄だろう。
さてはそのつもりで遊軍なんて言い出したんだな?
(チャイム)誰だあんた。
湯本弘和さんですね?警察…?湯本久しぶりだな。
あ?俺の顔忘れたか?ま15年経ってるからな。
坂井田と時山が殺られたのは知ってるな?え…!?お前ニュース見ねえのか?どうしてトキさんたちが…。
荒の復讐だ。
…荒さん!?3人で口裏合わせて荒主犯にしたろうが。
確かお前保護観察で済んだんだよな。
荒15年くらったんだぞ。
俺は関係ねえ!関係なくねえだろう!
(衝立の倒れる音)どうしたの?ヒロ。
朱音さん!おい!何しに来たのよ!お前なんでこんなとこにいる!いいじゃない!よくない!どういう関係だよ!離して!私の勝手でしょ!いいから答えろ!お父さんバカじゃないの!?見ればわかるでしょ!付き合ってんのよ彼と!湯本てめえ…!モリさん…モリさんダメです!ダメですモリさん!ダメですって!お前の親父なのかよ?わけわかんないわよこんなの。
湯本…所轄に警備頼んどいてやる。
何かあったら駆け込め。
いいか油断すんな。
荒に仲間いる。
こいつらいつのまにか近くに来てる。
朱音に愛情あんだったら…巻き添えにしないでくれ。
マジかよ…。
お前の親父が刑事だったとはな。
なんなのこれ…。
どって事ねえよ気にすんな。
(泣き声)ゆっこ!ゆっこ…。
ちょっと待てって!東京で自立するなんてそんな甘いもんじゃないぞ!世間知らずのお前なんかボロボロにされるぞ!東京でメイクの勉強したいのよ!ここにいたってボロボロにされる…お母さんみたいにね!誰が殺したと思ってんの?もっと早くに手術すれば助かったのに…。
俺のせいか!そうよ!お父さんがお母さんを不幸にしたのよ。
仕事ばっかして家の事はほったらかして!私はお母さんみたいに我慢なんてしないから!私は…明るく笑顔で生きていきたいの…。
お父さんの前だと…それが出来ない!朱音!朱音!モリさん免許係は残業なしなんじゃないですか?あ?それに女をマークするってのは捜査の鉄則ですよね?何わけわかんない事言ってんだい。
もうすぐ所轄が来ますから早く行ってください。
なんだこれ…。
(ドアを開ける音)いらっしゃいませ。
ああの…。
ちょっと人を捜してんだけど…。
入って入って。
(歌声)お前…!はぁ…言いたい事はわかってる。
私はこういう格好好きでやってんのよ。
仮面をかぶればどんなキャラにでもなれる。
自分を変えられるの。
キャラって言ったって…ゲームと現実とは違うぞ!お前自分ごまかしてる!結局金のためか?だったらなんなの?まさか…湯本に貢がされてんじゃないだろうな。
そうなのか?湯本って奴は…。
昔の話でしょ!聞いたわ全部ヒロは見張りしてただけだって。
今はねカメラマンとしてちゃんとやってるの!ちゃんとした男が女に金貢がせるか!写真展やるのにお金がかかるのよ!お前信じてんのか?お母さん泣くぞお前のこんな格好見たら!お父さん…自分の言ったようになって満足でしょ?私がボロボロになって「そらみろ」って思ってんでしょ。
何すんの!帰る!仕事中なの!辞めろ!モリさん俺車取ってきますからちょっとここで待っててください。
ああ。
どこ行く?友達んとこ。
ダメだ。
離してよ!離し…。
あっすみません。
北見さん…。
あ滝中さん。
娘です。
どうも。
ありがとう。
僕急ぎますから…じゃまた。
誰?辻の隣に住んでる北見って絵描き。
そう…。
ちょっと。
線香あげろ。
お父さん仕事に出かける。
この家で我慢しろとは言わない。
友達んとこがいいなら友達んとこでいい。
だけどお母さん泣かせるような真似だけするな。
無理矢理連れて帰って…悪かった。
戻りました。
ああご苦労さん。
湯本を脅しときました。
まああいつはただの見張りだったからなぁ荒も殺らないとは思うが…。
うん…。
辻から聞いたよ朱音ちゃん連れて来たんだって?まさか湯本となぁ…。
すいませんつい私情挟んで…。
当たり前だ。
モリさんだって人の親だ。
そんなところへ置いておけるか。
(庄村)こっちは一向に進んでない。
さすがの刑事部長もすっかり落ち込んでるよ。
出世に響くのが心配なんだろう。
おい。
(吉井)はい。
どうせ時山はあくどい商売やってたんだろ。
動機持った奴いねえのかい?いや…殺すほどの者はいません。
動機はやっぱり荒か。
(庄山)そうなんだ荒の指紋も出てるしな。
指紋か…。
指紋か…荒の指紋で顔が別人。
おい…整形すんのにどのぐらいかかんだ?うーん…1か月ぐらいじゃないっすか?1日じゃ無理か?荒が整形して大石の顔に?まーさか!やっぱ無理か…。
(高校生たちの話し声)そういえば朱音さんどうしてます?うん…一応夜には帰ってる。
あーよかったっすね。
湯本の方は…?利用されてただけだからな。
あのガキども…親にもらった顔いじくり回してどうすんのかね。
人は誰でも変身願望があるんじゃないですかね。
変身願望?そのお前の小汚い髭もそうか?いや…僕の場合は顔が子供っぽく見えるもんで…。
子供っぽい…。
化粧か…。
そういえば朱音の奴元の顔がわかんねえような化粧しやがって…。
化粧…。
俺は一瞬朱音の顔がわかんなかった。
親の俺がだぞ!どうしたんすか?あれだあれ。
あれほら映画で猿の…猿の…猿の…。
ああ特殊メイクの事ですか?それだそれそれ!誰か特殊メイクの事詳しい奴知らない?北見さんどうだ?北見さん。
あっ北見さんならわかるかもしれないっすね。
携帯の番号知ってるから一応連絡取ってみますよ。
あーけどそういう事なら朱音さんの方が詳しいんじゃないっすか?帰ってたのか。
お風呂沸いてる。
ああ…。
あー朱音…お前特殊メーキャップって詳しい?…なんで?いやちょっと知りたいだけ。
本持ってたけどヒロのとこに置いてきちゃった。
そう…ならいいや。
(電話)はい。
もしもし?もしもーし。
(不通音)ちっなんだよ。
郡上八幡か…。
そこの柳町の「平賀工房」です。
モリさーん平賀敢児さんいないようです。
いない?ええ北見さんが電話でアポ取っといてくれたはずなんすけど…。
あの人に訊いてみるか。
ちょっとすいませんお訊きしたい事あるんですけど。
どなたかな?あ失礼しました。
岐阜北署の滝中っていいます。
同じく辻です。
警察…なんの用ですか?特殊メーキャップについてお訊きしたいんですが…。
息子は今留守ですけれど私でよかったら案内しましょう。
はいどうぞどうぞ。
はいどうぞいらっしゃい。
本来の顔をかたどったライフ…ライ…ライ…ライ…。
(女性)ライフマスクです。
ええそれに作りたい顔をデザインして出来上がったらそこに石膏流し込ん…。
(咳)ここに発泡ゴムを流し込むんです。
でこのライフマスクを押し当てて2時間ほど待つとベースになるマスクが出来上がるんです。
そうそう…で難しいのはここからだ。
いかに人の皮膚に近づける事が出来るか…そんなにま難しい事…。
(痰を切る音・咳)見事なもんですねぇ…。
これを顔に張っつけるわけですか?そうです。
表情が伝わるように専用の接着剤でしっかり張り付けるんです。
あのはがす時はどうするんですか?よくドラマなんかだとベリベリってはがしちゃってますけど。
そんな事は不可能だよ。
なあ?はがす時には時間がかかるんです。
専用のリムーバーを使います。
ま見ててください。
はぁ…失礼しました。
平賀敢児です。
取ってもあまり変わりませんか?いやぁビックリしました。
腕も技術も演出も一流です。
いやそんな事ありませんよ。
ハリウッドにはこの程度の技術を持ったアーティストがいくらでもいます。
あっ先生ちょっとお尋ねしたいんですが…。
この人物がこの男になるのは可能ですか?これは簡単ですね。
眼鏡と髭がありますから。
先生この男に心当たりは?いや…ありませんね。
そうですか…。
先生のお弟子さんの内の1人かと思ったんですが…。
いやハリウッドには日本人がたくさん学んでます。
そちらをあたってみたらいかがですか?ああ…。
動機指紋の点から荒が大石に変装してたとすれば辻褄合います。
ですが荒にはそんな技術ありません恐らくこのマル対が協力したんでしょう。
奴はハリウッド帰りってわけか。
はい。
5年前に山田裕二の出入国記録が残っていました。
マル対が山田から戸籍を買ったのは偽名で渡米するためだったと思われます。
でマル対の足取りは?ハリウッドの工房にも問い合わせております。
まだ大分時間がかかりそうですが…。
うん。
荒が大石に化けたのは時山を油断させるためか?だと思います。
荒はいいとしてマル対の目的ってのは一体なんだ?ま恐らく自分の力試したかったんじゃないですか。
警察への挑戦か。
(ざわめき)なんとしてでも2人を逮捕しなきゃなりませんな。
当然だ!捜査を一本化する!
(一同)はい!よろしく頼む。
すーごい変わり方…。
ああ保身のためだったらなんだってする人だよ。
で結局モリさんにすがりついたってわけだ。
調子よすぎだよ。
(携帯電話)はい滝中。
庄さん?たった今通報があった。
山田裕二という名前で家を借りに来た人物がいるらしい。
顔は?顔は似てんのか?ああ。
似顔絵を見てピンときたそうだ。
辻の友達は表彰もんだな。
辻行くぞ!はい!山田はひと月前からこの家を借りてるそうです。
周囲固めろ。
荒が一緒かもしれない。
絶対逃がすな!はい!
(チャイム)うっ!
(吉井)おい見ろこれ!なんだこの匂い!?開けてみますか?この箱。
(知子)母の写真が欲しいっていうんで渡してやりました。
山田裕二名義の借家で発見された腐乱死体は検視の結果…荒勝明と断定されました。
死後約1か月鼻と口を接着剤で塞がれた事による窒息死です。
死後1か月?はい。
荒は出所後数日中に殺害された事になります。
殺しは不可能じゃないかっ!!そうなんです。
どういう事だ滝中っ!!話が違うじゃないか!
(ため息)振り出しだ。
(庄村)ほかの連中がお前に話を持ちかけられたと言ってるぞ。
俺が話を持ちかけた?覚えてないのか?何がなんだかわからねえんだよ!やっぱりここだったか。
頭の整理はついたのか?大石と同じように荒も変装してたと考えりゃいい。
ホシは…マル対か。
ああ。
最初から奴に目をつけてたもんな。
さすがはモリさんだ…。
単なる勘だよ。
大石とマル対が同一人物だと見抜いてたのもモリさんだけだ…。
しかし目の前で逃がしちまった。
仕方がない。
その時はマル対の顔すらわからなかったんだ。
マル対の顔か…。
しかしあれも偽りの顔だよ。
偽りの顔に偽りの人生…虚貌だよ。
それじゃあお手上げじゃないか。
そうでもない…。
ようやくわかった。
虚貌に隠された本当の顔が…。
(電話)
(不通音)あの頃随分よくここへ来たもんだ。
あの悲惨な事件で気良征彦は一人だけ生き残った。
気良は誰とも打ち解けなかった。
いつも無表情。
笑う事も泣く事も忘れてしまったんだ。
まああの子の受けた傷を思えば当然の事かもしれんが…。
半年以上経った頃だったか女房が法事でいなかったんで俺は朱音を連れてここへ来た。
今日はうちの娘も一緒だよ。
朱音。
何作ってんの?
(朱音)これあげる。
美味しいよ。
可愛い。
ありがとう。
あれは奇跡だった…。
きっと朱音さんの笑顔が気良の頑なな心を溶かしたんでしょうね。
親の俺が言うのもなんだけどあの頃の朱音ってほんと可愛かった。
今だって可愛いですよ。
そうだろうか…。
俺は朱音の笑った顔をもう何年も見てねえや…。
(ドアの開く音)
(園長)お待たせいたしました。
まあ…滝中さん?お懐かしゅうございます。
ご無沙汰してます。
(園長)あれは征彦君が17歳の誕生日を迎えた翌日でした。
いつものとおり学校へ行ったと思ったらそのまま姿を消してしまったんです。
その後の消息は…。
そうかあ…気良は姿をくらましてたか。
気良は当時17歳ですでに数千万の金を手にしてたわけです。
両親の生命保険火災保険。
それと翌年気良工業の跡地を売却している事もわかりました。
これは1億近い金額です。
なるほど…復讐につぎ込む資金は十分にあったわけだ。
おい!容疑者が浮かんだって?15年前に生き残った息子です。
うん。
どうしてもっと早く気付かなかったんだよ!申し訳ありません。
実は気良征彦の顔には大きな火傷の痕がありましてそれで容疑者から外しておりました。
で?奴はどこにいるんだ?行方不明です。
またそれか!
(平賀)はいご苦労さん。
(平賀)これは滝中さんの指紋とまったく同じです。
いいですか?どうぞ。
ここまで精巧に作るのは難しいでしょうねぇ。
そうですね。
いろいろ試行錯誤の末にやっとこの技術を完成しました。
これだけはハリウッドに負けません。
あ先生。
先生のお弟子さんで顔に火傷の痕のある名前気良征彦歳20半ばだと思うんですけど…。
気良という名前に記憶はありませんが顔に火傷のある男はいましたね。
えー小平…なんつったっけ?小平雅樹君です。
そうそうそう。
本名かどうかはわかりませんが…。
モリさん。
その人今どこにいるかわかりませんか?さあ…数年前にフラリと弟子入りしてきて1年程いましたか。
なかなか優秀だったんですがねまたフラリとどっかへ行ってしまいました。
あの写真かなんかないですかね?写真…写真は撮られるの嫌いだったなあ?あライフマスクならありますが。
ライフマスク?ああ…。
気良の野郎!これで決まりですね。
マル対は気良です。
でもライフマスクは悔しいですね。
あれが残ってれば捜査楽だったのに。
それはどうかな。
え?もしマスクを着けられたら道ですれ違っても気良だって気が付かないだろう。
まそれはそうですけどいくらなんでもマスクを着けっぱなしって事はありえませんよ。
近所の人とか職場の同僚とかそういう人まで騙すっていうのは無理ですよ。
どっかの山ん中で一切人とも関わらず一人で生きてるのかもしれない。
《15年か…。
つらかったろうに》《それでもまだ険しい道を行くのかお前は…》・
(足音)・あの…モリさん。
ん?訊きたい事があるんですけど…。
なんだよ?気良を逮捕したら免許係に戻っちゃうんすか?なんであとなんかつけたの?なんか声かけづらくて…。
あのさあ実はさ…俺狙われてるみたいなんだよね。
東京にいるとヤバそうなんだよ。
ほんとなの?ああ。
だからお前の親父さんに守ってもらおうかなと思って…。
それとなく話してもらえないかな?ねえヒロあの時言ったよね?「殺されるような事してない。
ただ見張りしただけだ」って。
いやそりゃそうだけど…。
何かあるの?別に。
とにかく…とにかく俺はもうお前だけが頼りなんだよ!頼むよ助けてくれよ!でさ…今日泊めてくんねえかな。
無理よ。
勝手に決めらんない。
だよな…。
しゃあねえ今日は知り合いのとこ泊めてもらうわ。
・
(ドアの閉まる音)・どうした?あお父さん。
ちょっと話がある。
何?ヒロの事なんだけど狙われてるらしいの。
お父さんに守ってもらえないかってさっき来た。
来たってここにか!?何やってんだよ!所轄に保護してもらえって言ったろう!わかった…今どこにいる?知り合いのとこだって。
じゃ必ず警察に出頭するようにって電話してやれ。
そうする。
いいか!お前がやるのはここまでだぞ!それ以上湯本と関わんな。
いいな。
(雷鳴)ん?今?ほら藤田ってアマチュアカメラマンのとこ。
ああ前ハガキくれた人?あのねヒロ。
お父さんに話したら警察来るように言えって…。
そっか…よかった。
朱音明日お前一緒に行ってくれるだろ?頼むよ。
お前の親父さん急に気が変わったら困るからさ。
(雷鳴)わかった。
朝そっちへ迎えに行く。
オッケー。
じゃあ明日ね。
・
(ドアの開く音)・
(藤田)すいません遅くなって。
そこのスタンド閉まってて国道の方まで行ったんで…。
藤田さん俺やっぱ明日警察行くわ。
朱音。
朱音!まーた出てっちゃったよ…。
懲りないのかねぇ…。
ゆっこ…どうすりゃいい?
(湯本の叫び声)
(悲鳴)・・はい。
朱音?どこにいる?何があった!?釜ヶ滝?お父さん怖い!朱音!朱音!?
(パトカーのサイレン)
(パトカーのサイレン)朱音!朱音!朱音!朱音ー!お父さん…助けて!・あなたでしたか。
こんなところでどうしたんです?これ向こうに落ちてましたよ。
すいません。
あなた…。
朱音さん君を…君の顔を触りたい。
君は変わってない。
だから君には虚ではないほんとの自分を見せる事が出来る。
どうしたの?北見さん。
怖がらないでくれ。
朱音さん…。
いやっやめて!助けてお父さん!朱音!お父さん!荒坂井田時山の3人殺したのお前だろ!それに湯本も…。
なんで僕が?懐かしかったろ?お前が見てたのは女房の写真なんかじゃない。
15年前朱音に渡したこの石だ。
君の名前は気良征彦。
ありがとう。
あなたあの時の…。
15年前の復讐か?そのとおりです。
坂井田の店に現れた荒も荒に面会に刑務所に行った山田と名乗るマル対も時山の会社に現れた大石という男も全部君だな。
何もかもすべて滝中さんの推測どおりです。
(北見)特殊メイクで僕があの3人を演じたんです。
特殊メイクには自信がありました。
絶対に見破られる事はないって…。
例え滝中さんにでも…。
そうやって偽りの顔…虚貌で生きる道を選んだってわけか。
僕には顔を変える必要があったんだ。
虚貌であろうと…。
しかしこの顔はマスクじゃありません。
アメリカで何度も最先端の整形手術を受けてようやく手に入れた顔なんです。
わかってる。
君のライフマスクを見たよ。
そうですか…。
確かに顔は本物だ。
しかし君は我々の前で北見という人間を演じた。
それは偽りの顔で生きるっていう事じゃないのか?なんのために北見を演じた?我々から捜査の情報を得るためか?朱音と湯本が付き合ってる事も知ってたんだな?ええ。
だから藤田と名乗って湯本に接近したんです。
どうしてヒロまで?ただの見張り役だったのに。
それは違う!
(時山)ヤバイぞ!早く外に出ろ!行け!行けよ早く!
(瓶の割れる音)
(北見)すぐ顔に…。
ずっと荒の仕業だと思ってました。
でも荒に面会に行って話を聞いたら荒じゃなかった。
だから坂井田にも探りを入れました。
荒に変装したのはそのためです。
それでわかったってわけか。
ええ。
押し込んできた3人じゃなかったんです。
だとすると残されるのは一人しかいません。
ヒロ…。
湯本には僕と同じ苦しみを与えたかった。
あの苦しみを…。
せっかく新しい顔を手に入れたのに過去を忘れて生きる事出来なかったのか?出来ればそうしたかった。
(北見)あの忌まわしい過去は僕の体を解放してくれなかったんです。
なのにあいつらは…過去を終わらせようとしている。
心から笑うためには4人を殺らなきゃならなかった。
笑う?そうです。
人を幸せにする笑顔…。
あの時の朱音さんのような…。
(北見)あなたの笑顔を見て僕の心にまた血が通い始めたんです。
もう一度あの笑顔を取り戻してください。
それを滝中さんに…お父さんに微笑んであげてください!気良…お前まさか…。
あの頃も滝中さんは無愛想だった。
でも心の中はあったかかった。
僕はそれが嬉しかったんです。
だから…。
それで捜査にまで協力を…。
お前何考えてんだ?後悔なんかしてません。
きっとこれでよかったんです。
気良…。
僕はもう顔を変える必要はないんです。
最後に一つだけお願いしたい事があります。
滝中さん朱音さんには今のこの僕の顔だけを覚えておいてほしい。
最後?僕はもう…本当の顔に戻りたい。
離せー!ダメだ!死んじゃダメだ!離してくれ!北見ー!朱音ー!ダメだって!ダメだって!死なせてくれ!死なせてくれ…!死なないと…死なないと自分に戻れない…!本当の自分に戻れない…!モリさん!気良は!?おい下だ!急げ!はい終わりました。
次の方ー。
お前…何やってんだ?免許証の更新に決まってんじゃない。
こっちに住所変更したの。
岐阜市東坂5の11の13。
私ねあの時あの人が言った事気持ちすごくよくわかった。
私もお父さんの側なら本当の自分を取り戻せるような気がする。
甘えてるかな?ねえ黙ってないでなんとか言ってよ!いや仕事中だから。
ほら撮り直しこのブス撮り直し。
可愛いじゃない!いやダメだって撮り直し。
ほら笑顔。
笑顔笑顔!はーい仲よく仲よく!ちゃんとさ写真撮りましょう?もうモリさんいつまでも怒ってばっかりいないでダメですよ!はいいきますよ!おい…何!?はいチーズ!よせよ早く!ほら早くよしなさい!
これまで数多くのテレビドラマ・舞台・映画などで幅広く活躍してきた名脇役
2016/01/18(月) 14:00〜15:51
ABCテレビ1
サスペンス特別企画 虚貌〜顔のない殺人者[再][字]
凶悪放火犯が出所した!共犯者達が次々と殺される!刑事の娘も狙われて…雫井脩介原作の本格ミステリー
詳細情報
◇番組内容
『虚貌』でしか生きられなかった犯人、その苦悩を理解し刑事生命を賭けて犯人を追い詰める刑事、そんな二人の生き様に自らを見つめ直す娘…連続殺人事件の果てにあった哀しい真実とは?
◇出演者
渡瀬恒彦、遊井亮子、菊池健一郎、林泰文、西岡竜一朗、秋野太作、金田明夫、嶋大輔、石橋蓮司、永倉大輔 ほか
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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