3日前に起きたスキーツアーバスの事故。
12人の大学生が亡くなりました。
4年生の阿部真理絵さんは希望の会社への就職が決まっていました。
なぜ、事故は起きたのか。
事故を起こした運転手の同僚が取材に応じ、ドライバーの技量が低下している実態を証言しました。
突然奪われた若い命。
事故は防げなかったのか検証します。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
国谷キャスターが取材のため私、高井がお伝えします。
この30年で最も多くの犠牲者を出した今回のバス事故。
国際的な仕事をしたい。
学校の教師になることが夢。
人の役に立ちたい。
希望に膨らむ12人の大学生の未来を一瞬にして奪い去りました。
事故後に行われたバス会社への立ち入り調査。
運転手の健康管理をないがしろにしたり不当に安い運賃で受注したりするなど次々と、法律や法令の違反が見つかっています。
ずさんな実態の背景にあるといわれているのが激しい競争です。
貸し切りバスの会社の数は平成12年の規制緩和以降急増。
それ以前の2倍近くとなり競争が一気に激化しています。
こうした中、平成19年には大阪・吹田市で1人が死亡し26人が重軽傷を負うスキーバスの事故が。
また平成24年には関越自動車道でバスが道路脇の壁に衝突し7人が亡くなり、38人がけがをする事故も起きています。
事故が起きるたびに、国は運転手が1人で乗務できる距離の短縮をしたりバス会社が適切な運賃を得られるよう規制を強化してきました。
しかし、悲惨な事故はまたも繰り返されたのです。
事故で亡くなった小室結さんの告別式。
小室さんは、大手不動産会社への就職が決まっていました。
得意の語学を生かし世界中で仕事がしたいと周囲に語っていました。
小室さんが所属していた国際交流サークルの友人杉嶋瞭子さんです。
イギリスに留学するなど行動的な小室さんに、いつも刺激を受けてきたといいます。
法政大学教授の尾木直樹さんです。
ゼミで指導していた3人の教え子を突然失いました。
12人の若者の命を奪った今回の事故。
その背景に何があるのか。
おわび申し上げます。
おととい行われたバスを運行していたイーエスピーの会見。
法令に違反する行為を重ねていたことが明らかになりました。
運転手の健康状態を確認する出発前の点呼を行っていなかったばかりか出発前に業務終了の確認印まで押していました。
事故を起こし、死亡した土屋廣運転手、65歳。
先月、イーエスピーに契約社員として雇われたばかりでした。
土屋運転手をよく知る人物に話を聞くことができました。
先月までおよそ5年間勤めていたバス会社の社長です。
土屋運転手はこの小型バスで日中に近距離を送迎する仕事を主にしていました。
しかし土屋運転手は大型バスを運行するイーエスピーに雇われました。
イーエスピーの同僚が匿名を条件に、取材に応じました。
ベテランドライバーのこの男性は研修で土屋運転手に付き添い技量に不安を感じたといいます。
それでも土屋運転手が雇われることになったのはなぜなのか。
背景にあるのが深刻な運転手不足です。
平成12年の規制緩和で貸し切りバスの会社が2倍に増える一方、大型バスの免許を持つ人は年々減少。
ドライバーの奪い合いになっているのです。
イーエスピーは、土屋運転手の経験不足を認識していました。
しかし、運転しやすい高速道路中心ならと採用を決めました。
そして今回、土屋運転手は補助ドライバーとして入社後、4回目の大型バスの運転に臨むことになりました。
メインのドライバー役はベテランの勝原恵造運転手でした。
午後11時、39人の乗客を乗せ東京の原宿を出発。
長野県の斑尾高原に向かう計画でした。
主に高速道路を担当するはずだった土屋運転手。
しかしこの日は一般道の峠道でもハンドルを握っていました。
人手不足の中、早く経験を積ませようとしたのではないかと同僚は考えています。
事故はどのように起こったのか。
自動車工学が専門で交通事故の解析も手がける日本大学の景山一郎さんです。
ガードレールの破損状況などからスピードの出し過ぎが惨事を招いたと考えています。
ここの位置から今、S字に入りますから。
さらに一見、緩やかに見える現場のカーブにも危険性が潜んでいると指摘します。
下り坂のこのカーブ。
視界が狭まる夜間では特に道が狭くなっているように見え急カーブだと錯覚しやすいというのです。
景山さんが推測する事故の状況です。
スピードを落とさずカーブに進入してきた運転手が急カーブだと錯覚しハンドル操作を誤ります。
ハンドルを大きく切ったことで重量のある大型バスには強い遠心力がかかります。
重心が高い車体はバランスを崩しそのままガードレールに突っ込んだと見ています。
亡くなった12人の若者たち。
バス会社の安全意識の欠如と国の規制の在り方が問われています。
スタジオには、バス事故など、交通機関の安全対策に詳しい関西大学の安倍誠治教授と、社会部の宮原記者です。
よろしくお願いします。
まず安倍さん、私も現地に取材に入ったんですが、あのカーブに立ったとき、これまでも繰り返し、バス事故のニュースというのを伝えてきたんですけれども、またかと、やるせない気持ちになったんですが、どうして、また繰り返されてしまったと?
4年前に、関越自動車道で、大きな事故が起こって、それを契機に、国のほうも安全面の規制の見直しを図ったんですね。
ドライバーの労働条件を緩和するような、緩和するというのは、要するに安全規制を強めることになりますが、それとか運賃が適正にもらえてないと、安全のための投資ができませんので、運賃で基準運賃というのを作ってですね、この範囲でやりなさいよということをしたんですね。
規制を強化したということですね。
ところが、業界4500社くらい今、貸し切りバス会社があるんですけれども、中にはですね、こういう規制そのものを守らないような会社が一部にあるんですね。
どれぐらいあるんですか?
それね、数的にはっきり申し上げることはできないんですけれども、4500社あってですね、その中でバス協会というところに入っているのが約半分なんですね。
それはどういう?
バス協会っていうのは、バス会社で作っている業界組織があって、ここで安全なんか、安全に対していろんなアドバイスをしたり、国の基準が出ると、それを加盟会社に徹底をしたりするような、役割を果たしてるんですよね。
約半分が入ってなくて、アウトサイダーというふうに言っていいと思うんですが、アウトサイダー、全部悪いということはないんですけれども、その中のまた一部に、もうこういう規制を守らずに、バスの運行をしている会社があって、かなりその実態が今回、明らかになったんじゃないかというふうに思います。
宮原さん、ルールを守らない、規制を守らない背景にあるのは運転手不足ってことなんですね?
そうですね。
今回の土屋運転手のケースはある意味、象徴的だといえると思うんですけれども、バス業界を取材していますと、同じように技量に不安を感じながらも、そういった運転手を雇用しているという経営者は複数いました。
その理由はおっしゃるとおり人手不足なんですけれども、その人手不足を生んでいるのはやっぱり就職の先としての人気の低迷なんですね。
人気がない?
一つはやはり、賃金含めた労働環境があまりよくないというのが挙げられます。
それから事故のあとの規制の強化ですね、一定の距離を超えると、必ず2人乗務しなければいけないというルールがあるんですけれども、これ事態は安全にとっては大切なんですけれども、一方で人手不足を招いてしまっています。
規制が逆に人手不足を招いてしまっていると。
そうですね、現場からはそういう声が聞こえています。
さらに外国人観光客が急増していますので、彼らはバスを利用しますから、ここでも人手不足というのは拍車をかけているという現状があります。
今回、私たちはその事故を起こしたバス会社とは別の会社も取材をしました。
そこからは、安全対策とコストのはざまで悩む厳しい実態というのも見えてきました。
20人の運転手を雇うバス会社の社長です。
安全運行の要である運転手の質に悩まされています。
この日も、運転手の一人が問題を起こしました。
事故を隠そうとした運転手。
社長は処分をためらっていました。
結局、運転手が辞めてしまうことを恐れて処分には踏み切れませんでした。
会社では運転手の安全意識を高めようとさまざまな取り組みを行ってきました。
社長は、給料を上げて質の高い運転手を確保したいと考えていますが難しいのが現状です。
背景には、バス会社が置かれた弱い立場があるといいます。
バス会社は本来、旅行会社から国が定めた適正な基準運賃を受け取ることになっています。
しかし客を集める旅行会社が優位にあるため、バス会社が基準運賃を大幅に下回る額で運行を請け負うケースが少なくありません。
その結果、安全対策や運転手の待遇改善にお金をかけづらいのです。
社長はこの日も、旅行会社からの依頼に頭を抱えていました。
ツアーの距離や時間をもとに基準運賃を計算すると最低でも13万円余り。
ところが、提示されたのはその半分以下の5万円でした。
それでも引き受けることを決断しました。
一方、赤字覚悟で安全対策にコストをかける会社も出てきています。
社長の天野正幸さんです。
おととしから340万円を投じて導入してきたのがGPSを使ったこのシステムです。
運転手がルートを勝手に変更していないか。
決められた休憩を取っているか。
いつでも確認できます。
さらに質の高い運転手を確保しようと去年給料を2割引き上げました。
きのうこの会社が運行した那須高原行きのスキーバス。
事故の影響と見られる直前のキャンセルも出て利用者は16人にとどまりました。
片道およそ200キロの道のり。
国の基準では運転手1人でよい距離ですが会社では2人つけて交代しながら運転させるようにしています。
安全対策に投資してきた結果今年度の収支は赤字に転落する見込みです。
それでも取り組みを評価する旅行会社も出てきておりいずれ安全を基準に選んでもらえるようになると考えています。
安全にコストをかけるには、赤字も覚悟と。
驚く実態なんですが、その背景にあること、もういちどこちらで教えてください。
貸し切りバスのお客さんの数に対して、バス会社が過剰気味なんですね。
ですので、激しい受注競争になってしまうんですね。
そうすると、特に小規模の会社で経営悪化が進んで、そうなると、ドライバーの処遇改善ができないので人手不足、そうすると技能不足のドライバーも増えてくると。
一方で、ハード的、ソフト的な面で、今のVTRにあったような会社のようなことをやると、お金がないというようなことがあって、そういう構造の中で、安全が脅かされてしまうということにつながっていく。
よくない循環が起きているということですね。
ではどうしていったらいいかということで、国土交通省に取材をすると、バス事業者に対して、法令順守の状況をチェックを徹底し、監査の実効性の向上を講じていくとしているんですが、これ、どうご覧になりますか?
一部の事業者で、法令無視の事業者がいますので、そういう事業者が、やっぱり市場から出ていってもらう必要があるんですね。
監査は確かに一つの有効な手なんですけれども、国土交通省の監査に当たる人、三百数十人で、この自動車関係でいいますと、トラックとタクシーとバスとあって、トラックに至っては6万の会社があるんですよね。
そうするととても、監査で問題のある会社を見つけることが本当にできるかというと、限界があるんですね。
その人数に対して、見る?
あまりにも対象のバス会社、トラック会社、タクシー会社が多いということですね。
そうすると限界が?
限界がありますね。
じゃあ、どうしたら?
一つは、例えば新しい、関越の自動車事故のあとでですね、基準運賃制度が設けられましたので、このとおりやればかなりバス会社の収益回復をして、安全なバス会社になる可能性がありますから。
そういう法令を守らないバス会社を、除いていくことが大事なんですよね。
監査だけで、限界があるとすれば、入り口のところで少し参入してくる、そういうバス会社を認める時に、少しハードルを高くしてやると、つまり、例えばバスの台数ですとか、バスの古さ、新しさという、こういうものをもう一度見直して、なるべく体力のないバス会社は、そこではじいていくというようなことをしていく必要があるんじゃないかというふうに思います。
台数ではじくというのは、具体的には、もう少しいうと。
例えば、今、大型バス5台あれば入れるんですけれども、5台を見直して、例えば7台とか10台とかですね。
体力のある会社だけが残れる。
そういう仕組みにしていく、これが大きく規制緩和後で、見直しがされた結果、残ってる課題だというふうに思います。
やはり、今のこの過当競争の状態が、根本にあって、それを今、変えなくてはいけないということ2016/01/18(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「検証 スキーバス事故〜奪われた若い命〜」[字]
長野県軽井沢町で起きた、スキーツアーバスの事故。多くの若者が犠牲となった。事故はなぜ起こったのか。防ぐためにはどのような対策が必要なのか。検証する。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】関西大学教授…安部誠治,【キャスター】高井正智
出演者
【ゲスト】関西大学教授…安部誠治,【キャスター】高井正智
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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