ます。
(シャッター音)・かわいい。
カメラが女優井川遥に向けられた。
今売り上げナンバーワンを誇る女性ファッション誌の表紙撮影だ。
・ちょっと…強い。
・風?
(笑い声)30〜40代に人気の雑誌「VERY」。
思わず手にしたくなる大胆なキャッチコピーで新しい時代をつくり出してきた。
出版不況の中で売り上げを伸ばし続けている。
編集長を務めるのは物静かなこの女性。
雑誌の世界に新風を巻き起こすすご腕編集長。
これまでにない斬新な企画で読者の心をつかんできた。
自らも1歳の娘を育てる一人の母親。
(主題歌)主婦が消費の鍵を握る時代。
あらゆる企業が今尾の力を求めて殺到する。
編集長に抜擢された35歳。
今妻たちの心に響く新たなメッセージとは。
主婦に圧倒的な支持を受ける雑誌はどうやって生まれるのか。
華やかな仕事の舞台裏に密着!朝9時半。
今尾は毎日保育園に娘を送ってから出勤する。
会社に着くとすぐに打ち合わせが始まる。
あっ!あっあっあっ…あ〜。
ごめん…ごめんなさい。
落ち着いて見えるがこんな失敗も結構あるらしい。
今尾のもとで働くのは13名の編集者と記事を書くライターたち。
幼い子を持つ母親も多い。
今尾は編集者が提案した企画のどれを採用するか判断し全ての原稿と写真をチェックする総責任者だ。
中でも腕の見せどころは特集とタイトル。
そのよしあしが雑誌の売り上げを決める。
今尾は主婦が思わず目を留める斬新な特集でヒットを連発してきた。
例えばこの「スーパーマーケットで浮かないファッション」の特集。
ファッション誌で王道のよそ行きの服ではなく身近な日常でのオシャレに目をつけた。
すぐにまねできる手軽なファッションから少し背伸びした憧れの姿までを具体的に紹介。
これこそ知りたい情報だと反響を呼び昨年ナンバーワンの売り上げを記録した。
編集長として今尾が大切にしている事がある。
物静かで穏やかな今尾だが決断は素早く決して妥協しない。
この日新人編集者が新しい企画を持ってきた。
企画の内容は新しい化粧品のトレンドについて。
SNSでうまく情報を集めている人を取り上げるのはどうかという。
今尾は新人編集者の取材に対する姿勢が気になった。
(笑い声)頭の中だけで考えていては読者に響く企画は生まれない。
常に心に置く信念がある。
斬新な企画を次々と繰り出し売り上げナンバーワン雑誌を作った今尾さん。
その企画の源は読者調査と呼ぶ主婦への地道な取材にある。
通常はアンケートや座談会など大勢の人を対象に調査を行う。
しかし今尾さんたちは街ですてきな人をスカウトし少人数で聞き込む事にこだわる。
生い立ちや夫婦関係まで掘り下げて本音に迫るためだ。
後ろ姿もかわいい。
登場するモデルも主婦を多く起用している。
読者から絶大な支持を受ける専属モデルの滝沢眞規子さん。
もともとは編集部員が街でスカウトした専業主婦だった。
すごいすてきです。
かわいい。
実際に3人の子供を育てている事が魅力だと抜擢した。
こちらでいいと思います。
ありがとうございます。
主婦のリアルに徹底的にこだわる事で作り物ではない説得力を生み出す。
これが毎号30万部を発行する大ヒットの秘密だ。
最新号の特集作りが始まっていた。
子供の成長とともに変わる母親のファッションを提案する特集。
徐々にオシャレの幅が広がっていく楽しさを伝える企画だ。
今尾がこの特集を任せたのは澤辺麻衣子。
デザインセンスに優れた編集者だ。
お願いいたしま〜す。
2週間後。
澤辺が誌面の構成案を作ってきた。
子供の年齢に応じてヒールの高さやバッグの種類が変化していく姿を具体的に紹介するという。
最後のページが話題になった。
子供が大きく成長したあとの親子の関係を描く部分だ。
澤辺は写真に架空のモデルを起用する事で親子のイメージを表現したいと考えていた。
架空のモデルを使うのであれば圧倒的なエピソードが必要ではないかと今尾は指摘した。
どうしよっかな…分かりました。
(今尾)すいませんはい。
ありがとうございました。
ありがとうございます。
今回の特集は35ページにも及ぶ。
しかも取材から撮影記事の完成までほぼ1か月で終えなければならない。
今尾は澤辺にこの特集を任せる事で大きく成長してほしいと考えていた。
最後のページを撮影する日がやって来た。
澤辺は架空のモデルではなく実際の親子を選んでいた。
スタイリストとして働く竹村はま子さんと中学生の息子。
移動中も親子の具体的なエピソードを取材し続ける。
(澤辺)へぇ〜!言った時があって…。
今回の撮影は息子の顔は写さないという条件付き。
その中でどう撮れば読者の気持ちに響くか。
翌日。
(澤辺)なんかこれあれですねいい。
撮影した写真を今尾にプレゼンする。
お願いします。
はい。
澤辺は写真を2枚にまで絞り込んでいた。
一枚は息子と母の背の高さの違いがよく分かる写真。
もう一枚は息子を見つめる母の表情が見て取れるものだ。
(今尾)どっちが…?
(澤辺)う〜んどうしよう。
今尾は何も言わない。
どちらの写真を選ぶかあえて澤辺に任せる。
締め切り前日。
記事のデザインが出来てきた。
澤辺が選んだのは竹村さんの顔が大きく写った写真だった。
(一同)よろしくお願いします。
この日今尾さんは大手飲料メーカーを訪れていた。
炭酸水を主婦に買ってもらうためにはどうすればいいかコンセプトを考えてほしいと頼まれたのだ。
こうした依頼が引きも切らない今尾さんの雑誌。
広告費はおよそ5億円とファッション誌の中で群を抜く。
今や売り上げナンバーワンの雑誌の編集長を務める今尾さん。
しかし当初は孤独な闘いを強いられていた。
幼稚園から大学までずっと女子校で育ってきた今尾さん。
好きだったファッションに関わりたいとフリーのライターを経て25歳の時編集者になった。
当時編集部にいたのはほとんどが男性社員。
女性の方が読者の気持ちは分かるはず。
そう意気込んだがいきなり言われた。
実際当時のヒット企画であった「シロガネーゼ」は男性社員からの提案だった。
自分もヒットを生み出したい。
今尾さんは朝から晩まで仕事に打ち込んだ。
すぐに頭角を現し読者アンケートで毎回上位に入る実力を身につけていく。
そして35歳の時今尾さんに大きな転機が訪れる。
社内で初の女性しかも当時の最年少で編集長に抜擢されたのだ。
しかし雑誌の状況は厳しいものだった。
創刊して12年。
立ち上げからのコンセプトである優雅でハイクラスな主婦像を引きずっている。
売り上げも伸び悩んでいた。
現実の主婦と雑誌がかけ離れているのではないか。
今尾さんは記事の作り方を一から見直そうと決めた。
しかしその方針転換に部下の編集部員たちが猛反発。
今尾さんと一切口をきかない者さえいた。
更に掲載する洋服も一新しようと考えたがそこでも壁にぶつかる。
新しいブランドに洋服を紹介させてほしいと頼んだが何度も断られた。
どうすればこの現状を変えられるか。
頼るものは一つしかなかった。
読者である主婦に正面から向き合おう。
今尾さんは保育園を回っては母親たちに話を聞いた。
そして街に出かけ子連れの女性に声をかけた。
主婦は今どんな暮らしをしているのか。
話を聞くうちに浮かび上がったのは仕事や趣味を生き生きと楽しむ主婦たちの姿。
今尾さんは最初のタイトルを決めた。
これまでの雑誌で描いてきたかわいらしい主婦像からの大転換だった。
更に半年後。
思い切った勝負に出た。
企業から否定された「主婦」という言葉をあえて前面に押し出した。
この特集が大ヒット。
その後も売り上げはどんどん伸びていった。
すると周りの反応も変わり始めた。
バラバラだった編集部員にいつしかまとまりが生まれていた。
そして主婦のイメージがつくのを嫌がっていたブランドも雑誌の方針に賛同するようになった。
読者の姿をまっすぐ見つめそれを信じて勝負する。
その姿勢が新しい時代をつくり出した。
夕方6時前。
女性編集者で唯一子育てをしている今尾。
この時間には仕事を切り上げ娘を保育園に迎えに行く。
仕事の量も責任も出産前と全く変わっていない。
帰る道すがら打ち合わせが続く事も度々だ。
働く母親となった今一筋縄ではいかない現実に直面していた。
11月下旬。
編集部は新年最初の号に取りかかっていた。
特集の担当は…今尾が全幅の信頼を置くチームのエースだ。
考えたテーマは「働くママのマイルール」。
新たな働き方を見つけ出した女性を紹介する。
1週間後今尾は藤田から呼び出されていた。
特集の事で相談があるという。
藤田がこの特集で取り上げたいと考えていたのは「子育てのために働き方を見直した女性たち」。
仮のタイトルは「働き方をゆるくして幸せになったママ」。
この「ゆるく」という表現がどうか意見を聞きたかった。
今尾にとってもタイトルや見出しは簡単に答えが出せるものではない。
編集者にとってタイトルは命。
妥協すれば雑誌全体を台なしにしかねない。
この企画のテーマは実は今尾の働き方そのものでもある。
今尾もまた出産を機に働き方を見直した一人だ。
(編集部員たち)お疲れさまです。
どんなに忙しくても夕方には会社を出る。
そのルールを自ら決めた。
しかし持ち帰った仕事に深夜まで追われる事も少なくない。
決してきれい事だけではない毎日を今尾は編集部員にさらけ出している。
今尾のように働き方を模索する母親たちをどう表現するか。
へぇ〜。
つらかったんですね。
藤田は取材をしながらタイトルの表現を悩み続けていた。
6日後。
藤田は「ゆるやかに働く」というテーマで紹介する人をリストアップしていた。
家庭のために仕事そのものを変えた女性も登場する。
仕事で家庭に支障が出るのはやむをえない。
そんな価値観に縛られない女性たち。
取材した女性たちに共通していたのは皆確固たる意志を持っている事。
それをタイトルに表現できないか。
編集者となって14年の藤田。
これまで数々の企画を手がけてきた。
一つの言葉が持つ力も怖さも十分に思い知っている。
原稿の締め切りまであと1日。
課題となっていたタイトルが決まっていた。
藤田は自分なりの答えにたどりついていた。
タイトルは「働く時間・時間帯は自分で決めたい」。
取材してきた人たちにはどうしても「ゆるやか」という言葉ははまらない。
企画の立ち上げからこだわっていた言葉を思い切って削った。
締め切り当日の夕方。
今尾が最後のチェックを行う。
今尾は「時間」という言葉だけにした方が分かりやすいと伝えた。
しかしまだ終わりにはしない。
更に良い表現を求めて粘ろうと決めていた。
締め切りまで時間がない。
40分後。
(主題歌)「いいね!その働き方」。
「『働く時間は自分で決める』そんなママたちって潔いい!」。
この言葉でいくと決めた。
一つ雑誌が完成してもまた次の号が待っている。
今尾はこの日も自分のルールに従って会社を後にした。
絶えない情熱。
私たちの仕事は締め切りがあるんですがでもこれでいいやって思っちゃったら終わりだしきれいに作ろうと思ってしまっても終わりなので情熱を絶やさない事が一番大事かなと。
すてきな夜に乾杯!ありがとうございました。
ありがとうございます。
お疲れさまでした。
2016/01/18(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「雑誌編集長・今尾朝子」[解][字]
井川遥が表紙を飾る売上ナンバー1女性誌。その編集長・今尾朝子に密着!主婦の本音を見事に捉えた企画で、ヒットを連発。雑誌の世界を変えたと言われるその秘密を探る!
詳細情報
番組内容
井川遥を表紙に起用し、女性から圧倒的な支持を受ける女性ファッション誌。その雑誌を、出版不況と言われて久しい中、売上ナンバー1に引き上げた編集長が今尾朝子だ。今尾は、「スーパーマーケットで浮かない服」を特集するなど、主婦の本音を大切にした斬新な企画で業界に新風を巻き起こしてきた。自らも一児の母として、子育てをしながら仕事をこなす今尾。今年はどんな企画で勝負するのか。華やかな雑誌の裏側の、闘いに密着!
出演者
【出演】雑誌編集長…今尾朝子,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
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