かつて、ロシア代表にも選ばれた陸上選手。
世界のスポーツ界を揺るがすある秘密を告発しました。
数々の栄光を手にしてきたロシア陸上界。
組織的なドーピングの実態が明らかになりました。
ロンドンオリンピック金メダリストをはじめ複数の選手やコーチ。
さらに、ドーピングを監視する機関まで関わり組織ぐるみで不正を行っていたことが判明。
ロシアの陸上選手が国際大会への出場資格を失う事態にまで発展しています。
NHKはドーピングを告発したロシア人選手の単独インタビューに成功。
夫と共に、驚くべき実態を赤裸々に語りました。
さらに先週ロシアの組織的ドーピングに国際陸上競技連盟の幹部が関与していたことも判明。
世界のスポーツ界を揺るがしています。
半年後に迫ったリオデジャネイロオリンピック。
そして2020年東京への影響は。
世界に衝撃を与えたドーピング問題。
その真相に迫ります。
こんばんは。
クローズアップ現代です。
国谷キャスターは取材のため、きょうは西東がお伝えします。
フェアでクリーンな選手が、極限まで戦う姿に感動を覚えるのがスポーツの世界。
しかし今、ドーピング問題が、スポーツへの信頼を揺るがしています。
そもそも選手の体をむしばむ危険があるのがドーピング。
指導すべき機関の幹部などがあろうことか、組織ぐるみで加担し、賄賂を使って隠蔽していた事実が明らかになってきました。
きょうは、スタジオには、陸上男子ハンマー投げ金メダリストの室伏広治さんにお越しいただきました。
よろしくお願いします。
よろしくお願いいたします。
室伏さんは今、世界アンチ・ドーピング機構のアスリート委員をされていますが、この問題については、どう捉えていますか?
これは本当に、大変許し難い事実だと思いますし、スポーツの信頼性を損なう、大変大きな出来事だと思っております。
非常に危機感を感じていらっしゃると思います。
こちらの映像をご覧ください。
これ、室伏さんが2004年、アテネオリンピックでの競技の映像なんですね。
当初、室伏さんは2位でありました。
しかし1位のハンガリーの選手が疑惑で、ドーピング疑惑で失格となりまして、後日、室伏さんが金メダルを取ったという経緯があります。
これ、今、振り返って、どのような思いがよみがえりますか?
アスリートとしては、オリンピックの期間中に表彰台で表彰をされるのが一番いいと思うんですけども、それはかなわなかったことが、まず残念だと。
ただ、私の場合は、帰ってきて、そういうセレモニーをしていただきましたのでよかったんですけども、あとは共に戦ってきた仲間が、まさかこういうことをするということは、考えられなかった。
大変ショックを覚えました。
一緒に食事をしたり、また一緒の所で宿泊も一緒だったり、ツアーやっていくわけですけども、そういう中から出てくるということは、本当に大変悲しい出来事だと思いました。
今回の問題、こちらご覧ください。
去年11月にロシア陸連の幹部やコーチ、検査機関などによる組織ぐるみのドーピングを認定したWADA・世界アンチ・ドーピング機構第三者委員会は、先週、新たに報告書を公表。
その中で、国際陸連の前の会長らが、隠蔽に協力する見返りに、賄賂を受け取っていたことが明らかになったんです。
国際競技団体のトップが関与するという、前代未聞の事態です。
今回の組織的な不正は、どのように行われたんでしょうか。
問題発覚の発端となる告発を行った選手を、単独取材しました。
その人物は滞在している国さえも明かさないことを条件に取材に応じました。
ロシア陸連によるドーピング問題を告発したユリア・ステパノワさんと夫のビタリーさんです。
ユリアさんは元ロシア代表の陸上選手。
夫はロシアのドーピングを監視する機関で働いていました。
キッチンに貼ってある英単語。
おととし、問題を告発して以来母国を離れ、8回の引っ越しを繰り返してきました。
中距離のロシア代表選手だったユリアさん。
2011年の世界選手権では女子800メートルに出場し8位に入賞しました。
しかし、トップアスリートとして活躍する裏で代表チームのコーチや医師から10年近く日常的にドーピングを勧められていたといいます。
ユリアさんが疑問を抱くようになったきっかけは夫、ビタリーさんとの結婚でした。
ロシアのドーピングを監視する機関RUSADAで働いていたビタリーさん。
不正をチェックする組織そのものが腐敗していることを知り現状を変えたいと思っていました。
夫婦は、子どもが生まれたことをきっかけに問題を告発することを考えるようになったといいます。
ユリアさんはドイツのテレビ番組を通じて問題を告発。
その際に隠し撮りした映像です。
練習後にロシア代表のコーチに呼び出され、大量の注射器と錠剤を手渡されました。
錠剤は筋肉を増やす効果のある禁止薬物でした。
夫婦の告発がきっかけとなり明らかになったロシアの組織的ドーピング。
ロンドンオリンピック女子800メートル金メダルのマリヤ・サビノワ選手など5人が永久資格停止の勧告を受けました。
さらにロシアのすべての陸上選手がオリンピックも含めた国際大会への出場資格を停止されたのです。
ドーピング検査は本来どう行われるのか。
国際的な基準では各国のドーピング監視機関が厳格な規定に沿って尿などのサンプルを選手から採取します。
サンプルを入れた容器は厳重に封がされます。
容器は一度閉めると検査のときまで開けられない仕組みになっています。
選手の個人情報は性別と競技種目以外は分からないように塗りつぶされます。
サンプルの採取は抜き打ちで行われることもあります。
それを検査する機関は独立した組織。
どの選手のものか分からないまま分析するため恣意的
(しいてき)な検査を防ぐことができます。
なぜロシアではドーピングが横行していたのか。
ドーピングの監視機関RUSADAで働いていたビタリーさん。
組織どうしの独立性は保たれていなかったといいます。
一方、RUSADAから送られたサンプルを検査する機関では、陽性反応が出たサンプルをすり替え見返りにロシア陸連から賄賂を受け取っていました。
さらに影の検査機関の存在も明らかになりました。
ドーピングをしている選手のサンプルを秘密裏に検査。
陰性反応が出たものだけを公式の検査機関に送り陽性反応が出たものは廃棄していました。
RUSADAとロシア陸連そして検査機関が水面下で癒着することで組織的ドーピングが繰り返されてきたのです。
ビタリーさんはロシアのスポーツ界には好成績を残し国の威信を高めようという古くからの考えが根深く染みついているといいます。
発覚しにくい組織的ドーピング。
世界の陸上競技を統括する国際陸連も手をこまねいてきたわけではありません。
2009年にはWADAと協力して生体パスポートと呼ばれる新たな仕組みを導入しました。
選手一人一人の血液や尿のデータを蓄積し僅かな数値の変化を捉えより厳格にドーピングを見抜くことができるのです。
しかし先週、この監視機能を悪用した国際陸連の不正が明らかになりました。
国際陸連のディアク前会長らが生体パスポートによって判明したロシア選手のドーピングを隠蔽。
その見返りにロシア陸連から賄賂を受け取っていたのです。
報告書には国際陸連のほかの幹部もドーピングの広がりを知らなかったはずはないとして組織の隠蔽体質を指摘しました。
さらに、第三者委員会はほかの複数の国でも組織的なドーピングが行われていた可能性を指摘。
しかし、調査はこれ以上行えなかったと報告しました。
問題を告発し祖国を離れたユリアさん。
今もアスリートとして練習を続けています。
設備もなく、コーチもいない。
それでも練習を続けるのはもう一度自分の力で陸上競技と向き合いたいと考えているからです。
スタジオは、早稲田大学教授でスポーツ倫理学がご専門の友添秀則さんにも加わっていただきまして、進めていきます。
よろしくお願いいたします。
まず、室伏さん、今、VTRにもありましたように、調整の一部として、薬を服用していたと。
今は悔やんでいらっしゃるユリアさんですけれども、アスリートとして、この気持ち、どのようにご覧になっていましたか?
やはりスポーツは、自分の力の限界にチャレンジすることがおもしろいんであって、それを不正をして勝つことによっても、本当の喜びっていうものは得られないんじゃないかと思います。
そういう意味では、不幸というふうに思えますね。
そして今、自分の力でチャレンジしていこうとされているわけなんですが、この問題の真相を見ていきたいんですけれども、具体的にいいますと、ドーピングの検査日をずらして事前に知らせたりとかですね、あと検体を破棄したりというようなことも行われていたんですが、組織ぐるみの不正について、友添さんは、どう見ていますか?
そうですね。
言語道断という事態だと思っています。
特にアスリートの体と、それから何よりも競技の公正さを守らなければいけない機関そのものが、実はこの不正に手を染めて、組織ごとこのドーピングを隠蔽しようとしてた。
あるいはその中で、金権体質を持って賄賂の授受をやった、これは許し難い行為だと思うし、かつての東ドイツにあったような、国家ぐるみ以上の、それ以上の大きな問題だというふうに思っています。
国家ぐるみよりも、大きい問題だと思います。
この組織ぐるみのドーピングですけど、これが生まれてしまう、その背景というのを知りたいんですが。
そうですね。
今、なぜ東ドイツ、旧東ドイツが大きいかということをお話しなければいけないかと思いますけれども、これ、IF、つまり国際陸連も協力してやってたふしがなきにしもあらずというところが1点ですね。
そこに、1980年代ぐらいまで、例えばスポーツっていうのはビジネスの上で、お金になるようなコンテンツじゃなかったわけですね。
ところが80年代以降、急激にこれが大きなマネーが動くようなマーケットを構成していったわけですね。
そこにまあ、絶大なお金が動き出す、そして組織自体が非常に牧歌的な愛好者団体だった組織が、急激に大きくなってきた。
そういう中で、具体的には、どういうようにこれを倫理的に扱っていったらいいのか、そういうルールも確立しないままに、こういう問題が起こったことが一点と、もう一つは、実は…の中では、ドーピングっていうのは、頻繁に行われてきたわけですけれども、冷戦構造が崩壊してからはなくなったというふうに思ってたわけなんだけれども、どうやら2000年以降、またそれぞれの先進諸国が自分たちの国の優位さを示すためにドーピング、あるいはこういうことを国家的にやり出した可能性があるのではないかという意味で、非常に悪質だというふうに申し上げたということです。
冷戦構造時代は、政治的な要因から、そういうことがあったということでありますが、また再びそれが再発していると?
そうですね。
2000年ぐらいを境にそれぞれもう、冷戦下が終わったあと、それぞれの国の優位さをどこで示すのかっていったら、またそのスポーツの中で、自分たちの国家のプレジデンスを示すと、それはもうメダルの獲得だというふうな短絡的な発想だと。
メダルを獲得するには限界がありますので、ドーピングに手を染めるという、こういう構造的な問題があると言わざるをえないというふうに思いますね。
そして室伏さん、今回、大きな点が、国際陸連のトップが関わっていたということについては、競技者としても所属していらっしゃいます、どうご覧になりますか?
まず監督する立場である国際陸連が、こういうことになると、選手やコーチからは、やはり怒りの声が出ていますし、本当に安心して試合に出れるのかという事態になっている状況だと思いますね。
今回、本当にそういう意味では、信頼回復をしていくには、本当に大変な道のりだとは思います。
そしてWADAの第三者委員会ですけど、ロシア以外の国や組織でも、このドーピングが組織的に行われていたかについては、調査を行えなかったっていう発表がありましたけれども、この組織的なドーピング、世界ではどうなっているのか、友添さん、どうですか?
そうですね。
ドーピングやってますって、自分から手を上げたり、公にすることはありえないわけですけれども、先ほどのビデオの中にもありましたけれども、氷山の一角だということと、もう一つは、独立委員会の第三者委員会のパウンド委員長が非常に不服そうな、あるいは不満足な形で苦々しい顔で言ってる。
つまり、調査も不十分だったんじゃないかと思わざるをえないことがなきにしもあらずというところですね。
なるほど。
さあ、そして今後、ロシアがどうなるのか、ロシアの陸上がどうなるのかなんですけれども、国際陸連は、ロシア陸連に対して、こういった条件、資格停止を解除する条件を、資格回復への基準をまとめております。
過去4年のすべての代表選手を調査を実施せよ。
そしてこういった基準が設けられているんですが、ロシア、リオデジャネイロオリンピックにはどうなるんでしょうか?
私は、これは室伏さんのほうが詳しいのかもしれませんけれども、これはなかなか私は出場っていうのは難しいのではないかというふうにまず思っています。
どういうことからですか?
その大きな理由の一つは、先ほど、いわゆるカルチャーだと、つまりロシアの社会に、あるいはロシアのスポーツの世界に、根付いている、いわば、この汚職だとかドーピングの隠蔽というのが一つの文化になってきていると。
それも長きにわたってですね、冷戦構造の崩壊から、その以前からずっとやってきたんだろうと思うんですね。
それをこの数か月で、例えばすべての選手から聞き取って、そしてなおかつこれをもう払拭する、撲滅する、根絶するということですよね。
これはまず時間的にまずありえないんじゃないか。
それからもう一つは、今、国際大会、禁じられていますけれども、復帰したあとでも、オリンピックに出るためには標準記録を突破していかなきゃいけない。
国際大会に転戦していかなきゃいけない。
その時期が、ことしのリオまでの時間を考えたときには、私は少し難しいんじゃないかというふうに思います。
友添さんはそうお考えになっていると。
室伏さん、ロシアができないオリンピックというのは、どういうものかはあれですけれども、今後、リオのあと、日本、東京で開催されるオリンピックがありますが、ドーピング問題にわれわれ日本としては、どう取り組んでいけばいいとお考えですか?
それに関しては、私はすごくポジティブに思っております。
それは日本という国が、不正に対して非常に厳しい目を持っています。
これ一般、みんながそういう目を持っている。
そういう中では、これまでも深刻なドーピングの問題をオリンピック期間中に日本の選手から出てないってことも含めて、世界の信頼性は非常に厚いものがあります。
そういった意味では、新しい東京から次のオリンピックにどんどんつながっていくわけですけれども、東京を基点に何かそういう新しい基準、不正が起こらないような基準であったり、そういった教育であったり、そういった新しい日本がリーダーシップを取っていくチャンスでもあるんじゃないかというふうに思っています。
あともう一つ、付け加えたいのは、今、ようすいがアジェンダ2020を打ち出して、不正に対しては許さないというスタンスをバッハ会長は取っていますので、そういう意味では今回の明るみに出てくるようなことになってると思うんですけど、僕は前向きに考えたいと思っているのも2016/01/20(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「ドーピングショック〜組織ぐるみの不正はなぜ〜」[字]
去年11月に明らかになったロシア陸連による組織的なドーピング。今月14日には、世界陸連の幹部も関わっていたことが判明した。深刻化する問題の深層を伝える。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】陸上選手・日本オリンピック委員会理事…室伏広治,早稲田大学スポーツ科学学術院教授…友添秀則,【キャスター】西東大
出演者
【ゲスト】陸上選手・日本オリンピック委員会理事…室伏広治,早稲田大学スポーツ科学学術院教授…友添秀則,【キャスター】西東大
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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