「(ダムや堤防など)施設の能力には限界があり、大洪水は必ず発生する」

 「(避難など)ソフト対策は必須の社会インフラだ」

 そんな危機感と警鐘が盛り込まれた報告書を、国土交通省の有識者審議会がまとめた。

 きっかけは昨年秋、茨城県を中心に大きな被害をもたらした鬼怒川の氾濫(はんらん)である。

 様々な誤算や準備不足が重なったが、起点となったのは想定を超える集中的な豪雨だった。「気候変動により、今回のような施設の能力を上回る洪水の発生頻度が全国で高まることが予想される」という報告書の指摘には、多くの人がうなずくだろう。

 ハード(施設)整備よりソフト面の備えが強調されて久しいが、行政から企業、住民まで、意識が切り替わったとは言いがたい。一方で、温暖化との関係が疑われる豪雨が頻発し、財政難から既存の施設の維持更新もままならない状況が続く。

 「時間もカネも足りない」中で、防災・減災をどう強化するか。報告書が副題に掲げる「社会意識の変革による『水防災意識社会』」を目指し、できることを着実に実行していきたい。

 まずはソフト面の具体策だ。

 鬼怒川の氾濫は、行政による避難勧告の遅れや市町村を超えた広域避難への準備不足など、多くの課題を浮き彫りにした。住民がとるべき行動を読み取れるハザードマップへの改良、携帯端末を生かした洪水警報の発信や河川の水位監視カメラ映像の提供をはじめ、知恵を絞る余地はまだまだありそうだ。

 街の中で想定される浸水深を表示し、洪水で家屋が流される恐れがある家屋倒壊危険区域を公表するなど、不動産評価に響きかねない情報の開示も避けて通れまい。

 鬼怒川の氾濫では堤防整備が不十分な箇所が決壊したため、報告書も「ハード整備自体は不可欠」との立場だ。ただ、巨大なダムやスーパー堤防の建設を優先しがちな発想からはそろそろ抜け出すべきだろう。

 国は施設整備を進め、避難を中心とするソフト対策は市町村任せ――。これまではそんな役割分担が色濃かった。治水対策のかじ取り役である国交省は、ハードを偏重しがちな自らの意識を改めつつ、ソフト対策でも一歩前へ出る必要がある。

 自治体には、今回の報告書を先取りしたとも言える滋賀県流域治水推進条例など、様々な取り組みがある。それらを参考にしつつ、「現場」を預かる自治体との連携を深めてほしい。