15年に日本を訪れた外国人が前年から5割近く増え、2千万人に迫った。東京五輪の20年にかけて掲げた目標を、早々に達成しそうな勢いだ。訪日客が飲食や買い物、宿泊などで日本に落としたおカネは推計で年3兆円を超え、経済活性化や地方創生の観点からも「観光立国」は重要な政策課題になった。

 訪日客をさらに積み上げていくには、繰り返し訪れるリピーターを増やすことがカギになる。都市部のホテル不足や違法ガイドの横行など課題は山積みだが、外国人と日本側の双方から出る苦情やトラブルといった摩擦を解消していくことも不可欠なテーマだろう。

 無料で使える公衆無線LANの整備や多数の外国語表記による案内板の設置など、外国人からの要望に官民あげての取り組みが続く。イスラム教に特有の考え方である「ハラル」を学ぶ講習会も盛んだ。ただ、そうしたインフラ整備や宗教上の対応以上に、日常生活での振る舞いや習慣の違いにどう向き合うかが問われそうだ。

 例えば、中国人の団体旅行の一部に見られる、食事の際の問題である。

 「大声で騒ぐ」「料理を大量に残す」といったことに眉をひそめるお店の関係者や日本人客は少なくなく、入店を拒否する例も見られる。中国人に限らず海外に出かけると気分が高まり、つい羽目をはずしがちになるものだが、「楽しいからこそ騒ぎながら食べる」「お金持ちであることを誇示するためにわざと残す」といった解説を聞くと、文化や風習の違いが浮かび上がってくる。

 私たちの価値観とは異なる行動に出会ったとき、がまんするのでも拒否するのでもなく、受け入れながら「日本ではこうですよ」とはたらきかけることができないか。それがお互いの理解を深めていく出発点だろう。

 リピーター客になるほど旅行会社の出来合いのメニューに飽きたらず、ソーシャルネットワーク(SNS)を通じて仕入れた情報を頼りに、自分だけの旅行を楽しもうとする。SNSは中国人の「爆買い」の推進力でもあるが、「モノ」を巡る評判は移ろいやすく、人気商品の入れ替わりはめまぐるしい。

 ただ、文化や慣習への評判はそうではあるまい。「親切に道案内してくれた」「駅や店できちんと並んで待っている」といった点への評価は高いようだ。海外から称賛されることを守り、積極的に伝えていく大切さは、観光戦略にとどまらず外交全般に通じる。