〜誰だこんな企画考えたの。
ああ俺だ…。
先生。
あっ烏丸桂子!お久しぶりでございます。
なんだよ新しい編集長オメエかよ…。
なんだはないでしょう?また仲よくさせてくださいね昔みたいに!やめろよなんか関係あったみてぇじゃねえかよ。
あら何もなかったとは言わせないわよ。
よせってそういう悪い冗談は。
これからはもっと深〜い関係に。
ウフフフフフ!どうぞ!どうぞどうぞどうぞ!はいはい!では次のお仕事!ええ…川シリーズにかわってですね先生にはこれから世界遺産を巡っていただきます。
その第1弾がこれ。
富士山!富士周辺の自然や景観そして世界遺産登録に尽力した人物を取材してまわるっていうのはどうです?ダメ!ボツ!ありきたりだし。
第一お前こんなの今更古いだろう?お言葉ですけどねそれだけ多くの人に親しまれてるってことでしょ?裾野が広〜いの!読者がたくさ〜んいるの!相変わらずだね。
その読者に媚びる卑しい心根ね。
う〜ん…じゃあ他になんかあります?だからさそうやってすぐふくれるだろ?そういうとこがお前みんなに煙たがられるんだよ。
そういうことここで言います?ちょっと…。
向こうの部屋で打ち合わせしましょう。
なんだよもう…。
あっちにいい部屋ありますから。
おいちょっと待て!えっ…ここでそういうことしますぅ?そうじゃないよ!浮世絵!ん?んじゃねえ!その中でも北斎!『富嶽三十六景』!あの葛飾北斎がいろんな場所から見た富士を描いたっていう?そうそう。
だからその『富嶽三十六景』を巡る旅ってのはどうなのよ?それ乗った!相変わらず軽いなお前。
いやそうよね。
それだと彼女にもぴったり!え?いや今度ね先生の助手を頼もうと思ってた人浮世絵にも詳しいのよ。
う〜ん助手はいらないの!いえいえ…。
やっぱ富士山はいいわ。
あっ…。
すみません。
お待ちしておりました。
茶屋先生ですね?はい。
藤尾の秘書をしております香坂と申します。
助手の方がお先にお着きになられてますが。
助手?はい。
どうぞ。
はぁ…。
社長茶屋先生がお見えになられました。
あら!遅かったわね。
茶屋先生!藤尾です。
ようこそお越しくださいました。
はじめまして息子の憲之です。
さあどうぞ。
いやしかし別れた奥様と一緒に取材旅行だなんて茶屋先生もお心が広い!あっいえいえ…。
失礼します。
なんでお前がここにいるんだよ?お前って呼ばないで。
いいから帰れよ。
うちのお得意様とお話ししてちゃまずい?えっ?銀座の画廊にはちょくちょく寄らせてもらってるんですよ。
ああ…。
浮世絵に詳しい助手って…。
烏丸編集長とはねワインスクールのお友達。
あのババア!茶屋先生。
はい。
早速ですがぜひお二人に見ていただきたいものがありまして。
どうぞ。
まあ!これは…。
葛飾北斎の『富嶽三十六景』ですね。
ええ。
私は子供の頃から富士山に見守られて育ったようなもんでしてね。
特に北斎の描く富士と江戸の風景にはなぜか強く惹かれるんです。
おかげで僕まで影響受けちゃって。
そもそも『富嶽三十六景』は全部で36枚ではなかった。
さて本当は全部で何枚?はい!46枚!正解!当時あまりに人気が出たんでのちに10枚追加した。
それを俗に裏富士とよぶ。
さすが博識でらっしゃる。
ウフフフ…。
あの…。
社長は富士山の世界遺産登録にも尽力されたとか?ああ地元の皆さんの代表として動いただけです。
またまたご謙遜を。
あと富士山の自然を守る会の会員もやってらっしゃいますね?はい。
そもそも富士山が世界遺産に登録されたのは自然遺産としてではありません。
信仰の対象と芸術の源泉という文化遺産としてです。
さまざまな理由から自然遺産としての申請は断念せざるをえませんでした。
だからこれ以上富士の自然を壊してはいけないんです。
なのにこの周辺の開発に熱心な人たちもいましてね。
本当に悩ましい問題です。
なに企んでるの?あの編集長と…突然現れて。
連絡したくてもあなた携帯電話持ってないじゃない。
持たない主義ですから。
不便でしかたないわ。
だからあなた一人じゃ心配だって頼まれたからしかたなく来てあげたのよ。
あっそりゃどうも。
あっ当然だけど部屋別々ですからね。
いらっしゃいませ!あっ茶屋ですが。
お待ちしておりました。
茶屋様お二人様ひと部屋でのご予約を承っております。
烏丸だ!あの…もうひと部屋お願いしたいんですけども。
あいにく本日は満室でございまして。
私はいいんですけど。
なに言ってんだよ!今更照れる歳でもないでしょ!そういう問題じゃないんだよ。
あらじゃあどういう問題?お前は…いやあなたさしょっちゅうガミガミガミガミ言うじゃない。
そういうとこねなんか一緒にいて落ち着かないの。
あら!それで家にはあんまり帰ってこなかったんだ?ほらそういうところがさ…。
あの!ひと部屋でよろしいようですね?ただ今用意しておりますので少々お待ちください。
あらすごい!あの…。
部屋に忘れ物をしたのでこの子ちょっと見ててもらえませんか?あら!ええええ!まあかわいい!女の子ね?はい。
すぐ戻りますから。
はいはいどうぞ。
おい!預かっちゃった!えっ?〜ここで待っててください。
はい。
ああ。
(ぐずる声)しかしどこ行っちゃったんだろうな。
大丈夫じきに戻ってきますよ。
えっ?あらあらあらあらどうしましょう。
(赤ん坊の泣き声)
(英恵)あら?あ…。
「もし私が戻ってこなかったらしばらくこの子を預かってください」。
どうしましょ!?
(赤ん坊の泣き声)あの…市内のタクシー会社全部教えてください。
はい!キミは私を恐喝するのか?失礼します。
ちょっと待ちなさい!待ちなさい!うわ〜っ!〜本当にここで降りたんでしょうか?はい。
ここでそのお客さんを降ろしたそうですよ。
ああ…こんなところで何してたんだ?あっちょっと待っててくれますか。
はい。
〜北斎…。
(サイレン)
(勝又)はいご苦労さん。
ああ…コイツが致命傷か。
(吉村)勝又さん。
おう。
被害者は松金不動産社長松金耕一63歳。
免許証で確認しました。
あちらが所持品です。
携帯電話は?それがどこにも見当たらなくて。
ふ〜ん。
何なんだ?この絵は。
(吉村)被害者が握っていたものです。
あっそれ。
北斎の『富嶽三十六景』のうちの1枚です。
あの…右下破けてますよね。
第一発見者の方です。
ふ〜ん。
あのね第一発見者の人。
はい。
もう少し待ってて。
はい。
しかしなんで被害者はこんなものを…。
う〜ん…何かのダイイングメッセージかもしれないな。
だとしたらやはり殺人…。
うん。
いやでもそう決めつけるのは早いんじゃないでしょうかまだ。
あ?あ…。
事故と事件の両面から捜査するのがまあ常道ですよね。
第一発見者を疑うというのも捜査の常道ですな。
あなたこんなとこで何をなさってたんですか?あ…ちょっと話すと長くなるんですがね。
どうぞ。
はあ…あの…私物書きでたまたまこちらへ取材にきてたんですけどもそしたら旅館で若いお母さんから赤ん坊預かってくれって言われましてね。
そのうち彼女いなくなっちゃったもんですから。
でまあ彼女捜してここへ来てそしたらたまたままた崖の下に…。
署のほうでじっくり話聞かせてもらいましょう。
いやいや本当なんですって。
いいかげんに信じてくださいよ。
(英恵)刑事さん。
この人人を殺せるほど度胸のある人じゃありませんから。
何だそれでかばってるつもりなのか?勝又さん。
宿泊者名簿には鈴木美知子という名前で1泊していますが住所も名前もでたらめでした。
タクシー会社に連絡してその女の足取り調べろ。
はい。
あの…この子はどうなるんでしょう?いったん警察のほうで保護させてもらいます。
いったんってそのあとは?親か身元引受人が現れなければ施設送りでしょうな。
いやそんな…。
(広瀬)失礼いたします!地域課広瀬巡査部長。
赤ん坊の保護に参りました。
ご苦労さん。
ああこの子がその赤ん坊ですか?かわいいです…。
あ〜っ!あっ…あっ…。
どうした?もしかして…茶屋次郎先生ですか?そうですけど。
あ〜っ…いや光栄です茶屋先生にお会いできるなんて。
私ファンなんです!川シリーズ全部読みました!そりゃどうも…。
この人はそんなに有名な人なのか?知らないんですか!?茶屋次郎の行く先には事件あり。
それがどんな難事件であろうとも優れた洞察力と推理力によってみごとに解決。
そしてその事件を詳細に記した推理小説がまたおもしろい!一応あれ旅行記なんですけど。
あっ!?茶屋先生がここにいらっしゃるということは今度の事件も無事に解決ですよ!あの…この赤ん坊のことなんですけど。
はい?しばらく私たちに預からせてもらえないでしょうか?えっ?おい。
この子の母親きっと戻ってくると思うんです。
しかしその母親が犯罪者かもしれないんですよ?ああ…だったらあの母親この子が警察に保護されると余計に出てきづらくなるんじゃありませんか?あっそうですね。
(英恵)ね?私たちが一時的な身元引受人というわけにはいかないでしょうか?う〜ん…。
わかりました。
3日間だけですよ。
3日待って戻ってこなかったら警察のほうで保護させてもらいますいいですね?ありがとうございます!ちょっとあなた。
例の絵のことは誰にも言わないように。
(勝又)では。
ホントに手のかからない子。
ねぇ?ウフフ。
う〜ん!おいしい。
なんで預かろうなんて言いだしたの?こんなかわいい子見ず知らずの私に預けるなんてよほどせっぱ詰まった事情があるとしか思えないでしょ。
その子と母親に会ったような気がするな。
いつ?どこで?富士ヶ嶺で富士山撮ってたとき。
あら…そういえばこの子どことなくあなたに似てるような…。
まさかあの母親と。
そういう冗談やめろよ。
どこ行くの?小便。
まあもう無理よねあっちのほうは。
ウフフねぇ?無理無理。
ウフフフ。
茶屋先生ですね?どなた?『山梨日報』の黒川といいます。
ブン屋さん?松金社長が亡くなった事件の現場に先生がいらっしゃったと小耳に挟んだものでして。
ああたまたまですから。
やっぱりあの事件殺人なんでしょうか?どうして政治部の記者があの事件のこと調べてらっしゃるの?普通社会部でしょう。
『富嶽三十六景』って何のことです?じゃ亡くなった松金社長の会社と藤尾開発ってのはライバル関係にあったんですか?地元じゃ有名な話ですよ。
はあ…。
松金不動産と藤尾開発は古くから地元の二大企業でしてね。
観光協会のイベントなんかにも必ず松金親子と藤尾親子が競うように参加して。
県の議員さんたちも松金派藤尾派に分かれてるんですよ。
はあ…。
そういえば遺体が見つかった大蔵山だって開発するしないでもめてたそうなんです。
もめてた?自然を守りたい藤尾社長と開発一辺倒の松金社長じゃそりゃぶつかりますよね。
(英恵)あなた!これを見てよ!これ。
えっ?写ってんじゃないのよ。
何が?これ赤ん坊の母親でしょ?撮ってるんじゃないあなた。
お忙しいところ連日すみません。
少々お聞きしたいことができましてね。
正直父親の行動をすべて把握していたわけじゃないんですよ。
では昨日大蔵山で誰とお会いしてたかはご存じないと。
ええ知りません。
ではこの絵に見覚えないですか?さぁ…父は浮世絵には興味なかったと思いますけど。
そうですか。
それとお持ちになってたスマートフォンどこを探しても見つからないんですけどね。
ご存じありませんかね。
知りません。
あの…。
あらアンタどうしてこんなとこいるの?いやあの…赤ちゃんの母親がここに写りこんでたんですけども…。
興味ないんだったらいいですいいです。
いやいやちょ…ちょっとそれ見せなさい。
えっ?見せなさいよそれ。
見ますか。
うんどれ?ちっちゃいな大きくならないのこれ。
ああ…この女性に見覚えないですかね。
もしかしたら松金社長と会ってたかもしれないんですけど。
いや見たこともありません。
あそうですか。
すみません葬儀の打ち合わせがありますのでこれで…失礼します。
大蔵山の土地を巡って松金社長ともめていたのは事実ですがあの土地は何年も前にうちが買い上げたものです。
それを開発推進派の彼らには絶対渡せませんよ。
なるほど。
では失礼ですが昨日の午後2時半から3時半の間どこで何をしておられました?私も疑われてるわけですね。
形式的なものですから。
香坂君。
はい。
昨日の午後は2時から5時までここ本社の会議室で富士山の自然を守る会のメンバーの方々と会議をされていました。
ということです。
ああ最後にもう一つだけ。
この絵についてはご存じでしょうか?ご存じも何も『甲州伊沢暁』ですよ。
このようなA4サイズにコピーされたものをお持ちですか?
(香坂)弊社では社長の方針で社員全員に『富嶽三十六景』のレプリカを持ち歩くようにしています。
このように山梨側から見た富士をセットして営業先などに配るためです。
富士山への愛と自然保護を訴えるのが目的なんですが…。
これが何か?いえ…。
これって何枚くらいコピーされてます?もう何年も前から配ってますから…。
相当な数だと。
大蔵山の土地に関しては私が担当するように父…。
いや社長から言われました。
何度も松金社長とはお会いしていた?ええ。
でも先週県の会合で会ったのが最後です。
では失礼ですが昨日の午後2時半から3時半の間どこで何をしておられました?昨日は体調が悪かったんで午後からは家に帰って寝てました。
それを証明してくれる方はいますか?それは…嫁が3時過ぎに帰ってきました。
3時過ぎ。
でも本当なんです。
信じてください。
お巡りくん。
ああこれは茶屋先生。
そんなところで何してるの?署からの命令で赤ん坊の護衛をしております。
ああ護衛ね。
本当は赤ん坊の母親が現れるの待ってるんでしょ。
えっ…うわ〜茶屋先生には嘘つけないです。
それでさその母親のその後の足取りってわかったの?それがですね大蔵山の入り口に待たせていたタクシーに乗って石和の駅まで行ったそうなんですがその後の足取りがつかめてなくて。
タクシー待たせてたのか。
えっあ…。
独り言であります。
あそうだ広瀬君タクシーの運転手さんの名前わかるかな?もう勘弁してください。
独り言でいいからさ。
そうすると大蔵山の入り口でその女性降ろしたの何時頃でした?2時15分。
お客さんが戻ってきたのが2時50分。
それから石和の駅でお客さんを降ろしたのが3時5分。
ずいぶんスラスラ覚えてるんですね。
ちゃんと日報に書いてますから。
ああなるほど。
そうすると2時15分から50分…35分間は彼女いなかったわけだな。
やっぱりあの女が殺したんですかね?えっ?あ…。
〜それにしてもなんで『富嶽三十六景』なんだ?ねぇ…。
まさか彼女が殺したなんてことないわよね?そんな理由がないもの。
勝手に決めなさんなよ。
まだ何もわかってないんだから。
もっと松金社長を殺す強い動機を持った人物がいるんじゃない?それを言うならあなたのお得意様の藤尾社長。
松金社長となんかもめてたらしいですよ。
それはありえないわよ。
(泣き声)あ〜ごめんごめん大きな声出しちゃってごめんね。
大丈夫大丈夫…。
もしもし。
『山梨日報』の黒川です。
何の用でしょう?先生明日の朝ちょっとつきあってもらえませんか?おもしろいものが見られるかもしれませんよ。
おもしろいものって何があるんですか?藤尾社長のそばにいる人誰だか知っていますか?さあ。
県会議員で守る会の名誉会長宍戸大二郎です。
ああなるほど。
アンタの狙いはそっちですか。
あの若い女性は?宍戸議員の一人娘美香さんです。
あの2人婚約してましてね。
ほう…。
守る会の名誉会長の娘が開発推進派の松金不動産の跡取り息子と結婚を控えている。
どうです?少しおもしろくなってきたでしょ?紹介しますよ。
『山梨日報』の黒川です。
このたびはご愁傷さまでした。
こんなところまで取材ですか。
こちら旅行作家の茶屋次郎先生です。
昨日は失礼なことを聞いてすみませんでした。
ああいえ。
作家さんだったんですか?三文文士です。
智也君いろいろと大変だったね。
お父さんのことは本当にお気の毒だった。
お気遣いありがとうございます。
ほう政治部の記者さんがボランティア活動まで取材ですか。
今日は守る会の活動をPRしてくださる作家の茶屋先生をお連れしただけです。
おおそれはそれは。
こんな地味な活動まで取材していただけるとは。
いやいや…。
宍戸です。
よろしくお願いします。
こちらこそ。
先生ひと言お願いできますか?ああ構いませんよ。
すみませんこちらでお願いします。
ねぇTシャツをズボンの中に入れないでって。
こうじゃないとね落ち着かないんだよ。
ダメ。
若い支持者の方に笑われるでしょ。
いや…ハハハッ。
早くに奥さんを亡くして娘さんとずっと2人暮らしなんだそうです。
あぁそうですか。
では宍戸会長お願いします。
はい。
え〜富士の自然を守ると同時にその美しさを世界中の人々に伝えていきたい。
そのために我々は日本を代表する浮世絵北斎の『富嶽三十六景』を使ってPRしていきたいと考えております。
『富嶽三十六景』…。
ではこの中で宍戸会長がお気に入りのものがあれば教えてください。
え?あっそう。
え〜そうだな。
え〜とあっ…。
あぁこれなんか好きだな。
はい。
え〜。
漁師が岩にのぼって高波に向けて網を投げる姿と富士山の稜線がみごとに同じ角度を成しているすばらしい作品です。
あっ…先日はありがとうございました。
英恵さんはご一緒じゃないんですか?ちょっと手の離せないことがありまして。
それは残念。
しかしすごい後ろ盾がついてるんですね。
後ろ盾になってくれればいいんですけどね。
押し寄せる波が岩にぶつかり激しく泡立つ。
自然の厳しい一面がこの人物を引き立たせているんですな。
茶屋先生おかえりなさいませ。
ハハハッ。
あっどうもご苦労さま。
何か変わったことなかったですか。
いえ何事も。
そうですか。
はい。
あっそうだ。
そろそろ松金社長の解剖結果出てる頃じゃないのかなぁ。
やっぱり死因は右後頭部の頭蓋骨陥没。
もしくは脳挫傷というとこですかね。
それが…。
え?違うんです。
違うの?違うんですよ。
直接の原因は頸椎骨折。
右後頭部の傷は死亡後につけられたそうで…。
死亡後?えぇ。
あっ!今の独り言ですから。
独り言。
はい。
まぁこれからもよろしくね広瀬ちゃん。
〜
(チャイム)父さん。
おはようございます。
父さん!父さん!私も連れてってくださいよ。
いや例の崖のところ行くから赤ん坊がいたら危ないだろ。
でもこの子とずっと部屋にいるとなんだか育児ノイローゼになりかけてたあの頃のこと思い出しちゃって…あのときもずっと1人だったわ。
まったくもう…。
えっ!?どうしました?広瀬君。
藤尾社長が殺されたそうです。
えっ!?今朝いつもどおりに迎えに来たんですがチャイムを鳴らしても返事がなかったんで合鍵を使って中に入ったんです。
そしたら父が床に倒れてて…。
あなたが藤尾社長と最後に会ったのはいつですか?昨日の3時くらいに会社で見かけました。
そのあと父は香坂さんと一緒だったと思います。
わかりました。
またあとでゆっくり話を聞かせてもらいます。
ずいぶんと情報が早いですな。
あっ妻…いやこの人が社長と知り合いだったものですから。
お気の毒なことで。
死因は何ですか?まだ何もわかっていません。
勝又さん。
えっまた絵を握って亡くなってたんですか?これで連続殺人の可能性が出てきましたな。
連続殺人?じゃあ松金社長も殺人事件だとおっしゃるの?
(咳払い)持っていけ。
ちょちょっと待って。
その絵それ…。
『富嶽三十六景』の『甲州三坂水面』ですよ。
ちょうどそこの御坂峠から河口湖を望む富士を描いた作品です。
えっ?絵と同じ場所…。
私赤ちゃん心配だから帰ってるわ。
うん。
それじゃあまた。
勝又さん県警から無線が入ってます。
おい。
あっちょちょっとアンタ!しようがないな。
アンタ困るな。
あのお酒に毒でも入ってたんですか?まだ何もわからんと言ってるでしょ。
グラスやボトルの指紋だってきれいに拭き取られていたんだから。
勝又さん。
ん?秘書の香坂が来ました。
よし。
さぁアンタも帰った帰った。
ゆうべは社長と私と取材に来た記者で甲府の和食店で食事をしました。
その記者というのは?『山梨日報』の黒川という記者です。
黒川?でそのあとは?私と黒川記者で社長を自宅まで送り届けました。
ちょうど8時半でした。
黒川:どうも社長ありがとうございました。
こちらこそ
(香坂)明日の予定のことで少し話をしましたが黒川記者を待たせていたので私はすぐにタクシーに戻りました。
そのあと石和に戻って2人で飲み直しました。
店に着いたのが9時3分でそれから結局閉店の午前零時まで2人で飲んでました。
ずいぶんはっきり時間を覚えてるんですね。
秘書という職業柄でしょうか。
まぁ性分ですけどね。
黒川記者とは親しいんですか?えぇ実は大学時代の同級生なんです。
昨日は久しぶりだったんで旧交を温めてつい飲み過ぎてしまいまして…。
まさか自分まで事情聴取されるとは思いませんでしたよ。
香坂さんとは大学の同級生だったそうですね。
えぇ。
当時からアイツは上昇志向が強くて何でも一番にならないと気がすまないような男でした。
俺は富士山になるんだって。
ほう。
けど今は社長秘書。
藤尾開発には中途入社だそうです。
その前はどこにいたんでしょう?東京のたしか…ワシダコーポレーションとか言ってましたか。
あの夜香坂さんと一緒に藤尾社長を自宅まで送っていきましたよね。
そのとき彼何分くらいでタクシーのところへ戻ってきました?5〜6分だったと思いますよ。
そうですか。
今度はこっちから質問です。
今回の事件松金社長殺しと何か関係あるんですか?『富嶽三十六景』がどうしたとかどういうことです?協力したんだから教えてくださいよ。
(ドアが開く音)解剖結果出ました。
死因はやはり毒物か。
死亡推定時刻は?昨夜の9時から11時の間だ。
となると藤尾開発の香坂記者の黒川のアリバイは成立しますね。
松金不動産の松金智也のアリバイはどうだ?昨夜は8時から11時まで宍戸議員と婚約者の宍戸美香と3人で食事をしていたそうで。
裏も取れました。
そうするとあとは藤尾憲之か。
ゆうべは家で家族と一緒にいたとしか話していません。
たしか松金社長の事件のときも…。
昨日は体調が悪かったんで午後からは家に帰って寝てました藤尾憲之の周辺を徹底的に洗え。
それから例の赤ん坊の母親との接点もだ。
ねぇやっぱりこれって連続殺人事件なの?どうも引っかかるんだよな。
何が?この石和の事件のときには伊沢の絵。
うん「イサワ」の漢字は違ってたけど同じ場所よね。
で河口湖の藤尾社長のときには御坂峠から見た河口湖の絵。
犯人はなんでこんな手の込んだことをする必要があったんだ?そうよね。
しかもさ…。
こんなふうに破けてた。
犯人からの何かのメッセージかも。
どんなメッセージ?さあ…。
なんだよ。
浮世絵に詳しいんじゃないの?じゃあ例えばこれ。
この『甲州三坂水面』は北斎の特徴がよく表れてる1枚なの。
ほら見て。
実際の富士はこのとおり夏の富士山が描かれてるけど湖面に映ってるほうの富士は雪をかぶった冬の富士なのね。
なるほどね。
第一あの目線で言うとさ富士山の位置ずれてるもんな。
そのとおり。
北斎はね目で見たまんまのそのままの風景を描いてたわけじゃないのよ。
自分で感じた風景や他で見た風景を頭の中で再構築してアートとして表現してるのね。
つまり目に見えるものだけが真実じゃないってことよ。
やっぱりそう持つよな。
ちょっと!人の話聞いてる?はい。
先生やっぱり茶屋次郎伝説は不滅だったわね。
なんだよ伝説って。
茶屋次郎の行くところに事件あり。
ニュース見てないんですか?大きく報道されてますよ。
えっ!?富嶽三十六景殺人事件。
いけるわよこれ。
お前さ人が2人死んでるんだよ。
失礼。
でもね今回は私にとっても試されてるのよ。
だから何が何でも事件解決して売れる記事書いてくださいね。
あっだったらさちょっと調べてもらいたいことがあるんだけどな。
殺害された松金耕一さんと藤尾泰三さんはいずれも『富嶽三十六景』の絵を握って死んでおり2枚の絵にはそれぞれ遺体が発見された場所の景色が描かれていました。
この2つの殺人事件に共通する特殊な状況から…。
〜しかしずいぶんと違うな。
まあ当たり前か。
「目に見えるものが真実とは限らない」か。
広瀬:右後頭部の傷は死亡後につけられたそうで…死亡後ね。
死んでるの気がつかなかったのかな。
お客さんが戻ってきたのが2時50分しかし7分であそこまで戻れるか?藤尾社長が殺された現場の状況からあの夜藤尾社長には来客があったと我々は見ています。
藤尾社長はその来客とガウンを着たまま一緒にウイスキーを飲んでいました。
つまり着替える必要のない身近な人間が相手だった。
別の役員の方から伺ったんですが藤尾社長はご自分の後継者に香坂さんをと考えていたそうですね。
ええ。
でもそれが何か?それを知ったあなたは藤尾社長への恨みを募らせて後継問題が公になる前に藤尾社長を殺してしまおうと考えた。
そんなわけないでしょ!僕は殺してなんかいません。
すみません。
お待たせいたしました。
あっ…。
どうかしました?あっいやあの実は…。
松金社長が亡くなられた日のことなんですけども。
はい。
あの日の午後2時半から3時半あの…あなたどこにいらっしゃいました?私のアリバイを尋ねていらっしゃるんですね。
いやいやそうじゃなくてただたまたま私あの…。
現場にいたもんですからね商売柄気になっちゃって。
なるほど。
あの日は午後2時過ぎに役所へ書類を提出してそれから会社へ戻ろうとしたんですがお恥ずかしい話車を側溝へはめて脱輪しちゃいましてね。
あらあら。
自分でなんとかしようと頑張ったんですが無理でロードサービスに電話したのがちょうど3時頃ですね。
3時頃。
あ〜。
あっその場所どのあたりですかね?え〜このあたりですかね。
あっここです。
あ〜。
意外と近いんですねあの崖から。
そうですね。
車だとこれ5分くらい?いや10分くらいですかね。
それが何か?あれホントに殺しだったのかな。
えっ?いやまあマスコミじゃあ連続殺人なんて騒いでますけどもホントにそうだったのかなぁ。
さあ?私にはわかりかねますが。
あっいや忘れてください。
まさか藤尾社長まで亡くなるなんてね。
私のところにも刑事が来たのよ。
あなたのアリバイを確かめに。
それは悪かったね。
あなた大丈夫よね?事件には何の関係もないわよね?当たり前だろ。
ごめんなさい。
心配だったから。
ちょっとごめん。
もしもし。
お金は用意できた?私本気だから。
お前が親父と藤尾社長の2人殺したのか?そんなわけないじゃない!でも警察はお前を疑ってるぞ。
とにかくあの子の認知と養育費の1,000万それが条件。
できないならあなたの婚約者とその父親に全部話すから。
おいちょっと…ちょっと待ってくれよ。
そんな金急に用意できない…。
チッ。
(通話が切れる音)茶屋先生。
どうしたんですか?そんなところで。
いやちょっと…あっそうだ。
あの〜手伝ってもらいたいことがあるんですがね。
あっお父様のご遺体を発見されたときにこの窓の鍵は開いてたんですよね?はい。
それで玄関の鍵は閉まってた?ええそうですけど。
お父様の死因については何か聞いてらっしゃいます?毒物による中毒死だそうです。
父が飲んだウイスキーに毒物が入っていたそうで。
たしかボトルもグラスも指紋がきれいに拭き取られてたんですよね。
そう聞いてますけど。
だとすると少々おかしな話だな。
何がです?いや指紋拭き取ったってわかるのにわざわざ置きっぱなしにするってのはね。
確かにそうですね。
お父様毎晩寝酒なさるの?はい自分にとっての儀式みたいなもんだそうです。
飲みながら今日1日の反省と明日の予定を確認するそうで。
そのこと知ってる人は?父と親しい人たちはたいてい知ってますが…。
お父様はいつもこの銘柄のウイスキーをお飲みになるんですか?はいこれじゃないと嫌だそうでいつも買い置きを。
あれ?1本足りないな。
え?どういうことです?3日前に半ダース買ったばかりなのに1本足りないんです。
1本は鑑識にいってますよね。
実は少し困ったことがあってね。
はい?キミのお父さんの貸金庫に私とキミの会社の関係がわかる書類が保管されてると思うんだが知ってるね?ええまあ。
葬儀が終わればキミも社長に就任するわけだし美香との結婚も控えている。
その前に…。
わかるね?最近私の周囲を嗅ぎ回る輩がいるんでね。
念のためだ。
乗っ取り屋?最初は普通に会社に入社して対等合併や経営支援を申し出る。
M&Aを仕掛けたあとで経営権を奪う。
香坂高文はそのスペシャリストよ。
それだけじゃないの。
裏で松金社長ともつながってたみたい。
えっじゃあ香坂は松金社長とも?ええどうしま…。
おいミルクどうしたのよ?いやいやちょうどいいところに来たわ。
紙おむつとミルクが旅館の裏口に置かれたの。
私がちょっと目を離した隙に母親が来たみたいで。
それからねこんな手紙も。
あっはいはいは〜い。
大丈夫でちゅか?近いうちにって…。
あの…細かいことを言うようですがもう4日も経っておりまして約束は3日ではなかったかと。
あのねこの人約束は守らない人だから。
そんな…。
わかった明日警察へ行きます。
えっ!?やだよねもう。
〜香坂?藤尾開発の秘書の。
はい松金社長の事件も藤尾社長の事件も彼が関わってた可能性があるんですよね。
動機は?藤尾開発の乗っ取りです。
乗っ取り?彼の目的は最初から藤尾社長だったんですよ。
あっそれと松金社長の事件なんですがう〜ん殺しじゃなかったような気がするんですが。
う〜ん…あのね小説と違って想像だけでは警察は動けんのですわ。
勝又さん!たった今静岡県警から連絡がありまして香坂高文の刺殺体が沼津の海岸で発見されたと。
あぁ!?それにまた『富嶽三十六景』の絵を握っていたそうです。
茶屋先生今回ばかりは先生の推理もはずれましたな。
あっちょちょ…すみません。
どうしました?私も連れてってください。
何言ってるんですか?え?いや乗ってもらいましょう。
ご自分の目で確かめてください。
作家先生の推理が正しいかどうか。
よし行くぞ。
はいはいはい。
お願いします。
はい。
すみませんねこれ書類が多くて。
またこれも?お願いします。
あっあとこれ母親の置いてったおむつとミルク。
はいじゃあお預かりします。
おむつとミル…。
この子の母親この店の近くにいるんじゃないですか?調べます。
ええ。
〜これでもまだ香坂が犯人だと?松金耕一藤尾泰三に続いて『富嶽三十六景』の絵を握って死んでいた。
連続殺人です。
犯人は他にいます。
あのその被害者が握ってた絵っていうのを見せてもらえませんか?
(八木)これですが。
どうしました?あの遺体の発見場所なんですが教えていただけませんかね?遺体はここに横たわってました。
死後硬直の状態からみて死亡推定時刻はおそらく昨夜の10時から12時の間かと。
先生。
いくらご自分の推理がはずれたからって…。
いやいやそうじゃなくてですね…。
なんでこの絵なんだろう?ん?どういうことです?この絵ねこれで「こうしゅうかじかざわ」って読むんですがね甲府盆地の鰍沢あたりから描いたものなんですよ。
なんでこの絵使ったのかな?これまでの2つの事件では…。
遺体が発見された場所と絵の場所が一致していたんですけどね。
きっとその絵が手に入らなかったんでしょう。
はい勝又。
おうわかったすぐ行く。
先生例の赤ん坊の母親居所わかりましたよ。
ご苦労さまです。
この宿にずっと宿泊していたのか?はいでも今は外出中だそうで。
よくここ見つけましたね。
母親が置いていった紙おむつの袋の中に薬局のレシートが入ってましてね。
その店の防犯カメラの映像調べたら映ってたんですよ。
赤ん坊の母親が。
あっ!バカ!待ちなさい!〜なぜ逃げるんだ?やっぱりアンタが松金社長を殺したのか?違う殺してなんかない!きちんと話しなさい!あの子に私のような惨めな思いをさせたくなかった。
だからお金が必要だったんです。
どういうことなの?私…。
富士山をきれいだって思ったことないんです。
幼い頃から貧しくて父は毎日働きづめなのにそれでも暮らしは全然よくならなくて。
つらくて惨めで…。
なのにあの山はいつも悠然とそこにそびえ立ってて毎日あの山に見下ろされてる気がしていました。
田舎の町から出られずあの山はいつも威圧的で私に立ちはだかる壁でしかなかった。
それでも…。
この町から出られなくて。
そんなときに出会ったのが彼でした。
彼?赤ん坊の父親…。
松金智也です。
彼とは観光協会のバイトをしているときに知り合いつきあい始めたんです。
すみません。
あいえ
(早紀)彼なら私をこの町から連れ出してくれるかもしれない。
そう思っていた矢先突然別れを切り出されたんです。
結婚したい人がいるって。
それは県会議員の娘だって。
だけどそのときにはもう私のお腹には彼の赤ちゃんがいたんです。
おろすように言われました。
でもできなかった。
むしろ赤ちゃんを産んで彼に顔を見せれば彼の気持を取り戻せるんじゃないかってバカなことまで考えて…。
あなたの子よそれでしかたなく彼の父親…。
松金社長にかけあってみることにしたんです。
それで我々に赤ん坊を預けて大蔵山に行ったの?松金社長からあの場所に呼び出されたんです。
赤ん坊は自分の子じゃないと智也は言ってますがね。
嘘です。
あの子は智也さんの子です。
親子鑑定してもらっても構いません。
なんでそんなことをしなきゃいけないんだ!アンタが勝手に産んだ子供だろ?わかりました。
じゃあこのこと智也さんの婚約者に話します。
お父さんの宍戸先生にも。
キミは私を恐喝するのか?失礼します。
ちょっと待ちなさい!待ちなさい!離してください!くっ!ちょっと待ってください。
じゃあ脅しはしたが殺しはしてないと言うんですか?だから松金社長が亡くなったって聞いてびっくりして…。
そんな話が通用すると思ってるんですか?でもホントなんです!警察でじっくり話を聞かせてもらいます。
いや彼女に松金社長を殺すことはできませんよ。
どういうことですか?実際に同じ場所へ行って試してみませんか?試す?広瀬君。
はい!松金社長が亡くなったのが何時何分だった?たしか2時43分です!じゃ彼女が展望台の下に待たせてあったタクシーに戻ったのは何時何分?えっあちょっと待ってください。
待ってくださいちょっと…。
あのときの運転手さんの話だと2時50分だそうです。
お客さんが戻ってきたのが2時50分アンタそんなことまで…。
だから彼女が松金社長を殺したんだとするとここからあそこまで戻るのにたった7分しかないんですがね。
え〜そんなことできますかね?う〜ん…。
じゃあちょっとやってみましょうか。
え?え〜っと…。
はい!よ〜いスタート!行きましょう行きましょう。
〜
(広瀬)失礼いたします!〜何分かかりました?え〜っとちょうど10分です!でしょう!そこを彼女が7分で戻ってこれると思います?じゃあ松金社長は勝手に滑り落ちたというのか?そう考えるしかないでしょう。
うわ〜っ!じゃあ『富嶽三十六景』の絵を握らせたっていうのは…。
はい。
あとから来た人物があれを事故じゃなく殺人に見せかけようとしたんでしょう。
そういえば松金社長が言ってました。
早く用件を言ってくれないかな。
3時にもう1人ここで待ち合わせてるんでねまさかそれが香坂?えぇ。
しかしなぜ香坂が松金社長と待ち合わせを?あんな場所で2人で会おうってんですから密談でしょう。
藤尾開発の乗っ取りの件で香坂は松金社長の力を借りたいとでも思ったんでしょう。
え?2人は裏でつながってたんですよ。
香坂が松金社長と?乗っ取りを企んでた香坂にとってみれば常々藤尾社長が邪魔だった。
そこであそこで松金社長と3時に会う約束をして…。
ところが偶然にも松金社長の遺体を発見してしまった。
その瞬間彼は松金社長の死を利用して藤尾社長を殺害し二つの事件を同一犯による連続殺人に見せかけようと思った。
松金社長の右後頭部についてた傷なんですがね彼としてはあれが事故として片づけられては困る…。
どうしても殺人事件に見せないと次の計画へ移れない。
そこで松金社長の頭を殴ったわけです。
はぁなるほど!しかし死体を見てすぐにそんなこと考えつくものか?私もそう思ったんですがねあの絵の右下の端が破けてたでしょう。
あれがどうも引っかかってたんですよね。
というと?あそこには香坂の指紋がついてたんじゃないでしょうか。
香坂はそれを思い出して…。
彼に計画性があればそんなミスはしないでしょう。
じゃあアリバイはどうなるんだ?彼はあの日車を側溝にはめて脱輪し3時にロードサービスを呼んでるんだ。
ケータイだったらあの崖の下からでもかけられますでしょう。
ロードサービスが脱輪した現場へ到着したのが午後3時35分と聞いてます。
ここから10分もあれば行ける距離です。
遺体に偽装工作をしたあとまあアリバイ作りをしようとしたんでしょうが…。
よく調べればわかることなんですがね。
じゃあ藤尾社長殺しのアリバイは?あっあれは藤尾社長をよく知る香坂ならではのトリックでした。
彼はね自分のアリバイ作りに黒川さんを利用したんです。
明朝9時にお待ちしております彼は藤尾社長が毎晩寝酒飲むことを知っていたんでしょう。
だから隙をみてウイスキーのボトルに毒を仕込んだ。
そして窓の鍵を外しあとで忍び込めるようにした。
それから黒川さんと石和に戻り一緒に飲んでいる間に…。
ぐわっ…うぅ…。
ぐわっ!その後黒川さんと別れた香坂は藤尾社長の家に戻り…。
毒が入っていないボトルと差し替えグラスをもう一つ用意した。
最初からボトルに毒が入っていたのではなく来客によってグラスに毒を仕込まれたように見せかけ最後に…。
憲之さんからあの買い置きしていたウイスキーのボトルが1本なくなってるということを聞かされなかったら気づかないところでした。
じゃあその香坂はいったい誰に殺されたんですか?あぁおそらく最初の2つの事件とは無関係な人間なんじゃないでしょうか。
香坂の遺体が握っていた絵だけが遺体の現場と場所が一致しないんですよ。
あっなるほど!茶屋先生あなたの推理はよくわかりました。
しかしそれが正しいかどうかを証明する物証が何一つない。
そこが問題なんですよね。
そうそういう事情だったの。
はい。
でもずっとあの子のことが心配で。
ホントにお二人には感謝してます。
(広瀬)お待たせいたしました。
のぞみ!おい!そんなに大事な子をよく何日も放っておけたわね!いい?この子があなたみたいな惨めな暮らしをするかどうかは母親であるあなた自身にかかってるのよ。
あなたがちゃんと生きないといけないの!もう二度とこんなことしないって約束して。
はい…約束します。
のぞみ…ごめんね。
ごめんねのぞみ。
しかし沼津の海岸でなんで石班沢なんだ?もしかしたら…。
えっ?海だと思ったのかもね。
勘違いか。
うん。
漁師が岩の上から高波に向けて網を投げる姿と…高波…。
(ノック)香坂さん残念なことになりましたね。
しかしどうして殺されたのでしょうかね。
前一緒に飲んだとき何か聞いてませんか?これは?宍戸議員の政治団体の資金に関する資料です。
えっ?今晩宍戸が帰ってきたら直接ぶつけるつもりでした。
松金不動産はおそらく宍戸の違法献金の窓口です。
えっ?しかし決定的な証拠がつかめなくて。
そんなときに藤尾開発に勤める香坂と再会したんです。
で何か情報を聞き出せないかと思いまして。
なぁ知ってるか?宍戸大二郎と松金不動産の関係。
さあ?何だよ教えろよこちらが話せばアイツも何か教えてくれるかもしれない。
そう思って喋ってしまったんです。
僕が持ってる宍戸の情報を。
もしそれが原因でアイツが殺されたんだとしたら。
ありえますね。
ケータイ貸してくれますか。
今の話警察にしてもいいですよね?ええ。
あっ番号言いますからかけてください。
あっ私が?はい。
誰がそんなでたらめを。
確かな筋からの情報です。
証拠はあるのか?それなんですがご自宅にある車を調べさせてもらえませんか?断ると言ったら?令状をとってもう一度うかがいます。
しかたなかったんだ。
許してくれ!ヤツに脅されてついカッとなって。
亡くなった松金社長のケータイです。
なぜお前が持っている?そんな細かいことどうでもいいじゃないですか。
まさかお前…。
ということは藤尾を殺したのもお前か?富嶽三十六景連続殺人事件。
確かに思いついたのは私です。
でも2人も殺してませんよ。
松金社長は事故だったんですよ。
嘘をつけ!事故を利用しただけ。
ああ警察に連絡しますか。
でもそれは無理。
どういうことだ?政治生命どころかすべてがなくなりますよ。
なに?松金不動産と先生の関係を示す資料がすべてここに入ってました。
違法献金の裏帳簿ですよ。
貴様この私を脅すのか?怖くなって車で遺体を運び沼津の海岸に捨てて富嶽三十六景連続殺人に見せかけた。
さあ逮捕してくれ。
ちょっと待ってください。
茶屋先生。
おっしゃるとおりあなたが香坂に脅されていたのは事実でしょう。
だから殺してやりたいと思ったのかもしれない。
ですが本当にあなた香坂をやったんですか?何をバカなことを。
現に私がこうして喋ってるだろ。
さあ逮捕しなさい。
あなたに香坂を殺すことはできません。
香坂が殺された夜私はあなたの家の前をずっと張り込んでいました。
しかし死亡推定時刻の夜10時から12時の間に香坂が現れた事実はなく宍戸先生あなたも外出されなかった。
つまり香坂を殺したのはあなた以外の人間だということです。
そんなわけがない!私がこの手で殺したんだ!犯人はあなたのようにこの絵のことをよく知らない人物。
何を言ってる!もういい!お父さんもういい。
もうやめて…。
美香!お前はここに来るなと言っただろ!お父さん…。
かばってくれてありがとう。
ごめんね。
私が香坂さんを殺しました。
私…見てしまったんです。
松金不動産と先生の関係を示す資料がすべてここに入ってました。
違法献金の裏帳簿ですよ。
貴様この私を脅すのか?いえお互いのためにご提案してるんですよ。
あなたの秘密は守ります。
その代わり事業に関しては私に従っていただきます。
まずは藤尾開発と松金不動産を合併させましょうか。
そして私が社長になります。
それからもう一つ。
お嬢さんと松金智也の婚約を破棄してお嬢さんが私と結婚するように仕向けてもらいましょうか。
バカな!そんなことできるわけないだろう。
いえいえ…先生はもうそうするしかないんですよ。
あなたの地盤ならいずれ私が継いであげますよ
(美香)少し前から父や智也さんの様子がおかしいことには気づいていました。
だからその原因がすべてこの男のせいだって思ったんです。
このままじゃ父は破滅する。
私の生活も未来も何もかもこの男に壊されてしまう!そう思ったらあの男が許せなくて…。
ああこれは宍戸先生のお嬢さん。
どうしました?ねぇ私と組まない?ハッ何ですか突然。
私ねホントは松金智也みたいなお坊ちゃんと結婚なんかしたくないの。
どう?私と組んで父の権力を思いどおりにしない?美香さん本気で言ってるんですか?本気よ。
その証拠に父の悪事を全部バラす書類持ってきたから。
これよ。
うっ!う…
(美香)私は必死で松金さんのケータイを探しました。
そのあと死体を乗せて沼津まで移動しました。
そして…。
〜私が勝手にやったことなんです。
私が勝手に…。
美香…。
美香さんあなた香坂を殺して3件の連続殺人に見せかけようとした。
ですよね?でも『富嶽三十六景』のことをよく知らないあなたはどの絵を死体に握らせていいのかわからなかった。
で思い出したんですよね。
お父さんがテレビカメラに向かってこの『甲州石班沢』の絵のことを話していたのを。
漁師が岩の上から高波に向けて網を投げる姿と…この絵はね甲府盆地の鰍沢あたりを描いたものなんですがこれ海じゃなくて川なんですよ。
そのことをお父さんと同じように知らなかったあなたは甲府からわざわざ沼津の海岸まで捨てに行ったんですよね。
美香…。
お父さん…。
美香…。
ごめんね…ごめんね。
美香。
宍戸美香の車の中から香坂の毛髪と血痕が検出されました。
そうですか。
しかしあなたの推理がすべて証明されたわけではありません。
確かに。
まあほぼそうでしょうが。
あとはこちらに任せてもらいます。
のぞみちゃんは?親戚に預かってもらってます。
この土地離れるんですか?あの子があの山富士山をきれいだって思えるように頑張って育ててみます。
〜
(烏丸)「世界遺産富士山。
我々はその雄大で美しい姿に時を忘れてしばし見とれる。
しかしすべての人間が富士山を愛しているわけではなかった。
その大きさに威圧され息苦しさを感じて生きている者もいるのだ。
今回の事件は我々にそう教えてくれたのかもしれない」。
はぁ〜。
確かに。
そんな人がいるなんて考えもしなかったわ。
ホントね。
で?あなたのほうはどうするか決まった?えっ?元サヤに戻ろうかどうか考えてたんでしょう?老後のこと考えるとねそれもありかなと思ったけどやっぱり無理!ん?だってあの人全然変わってないんだもん。
ホントね。
全然変わってないわね外見以外は。
(笑い声)あの人はね富士山と同じなのよ。
遠くから眺めてるくらいがちょうどいい。
ハハハハ確かに。
ヘクシュン!あぁ…。
ヘックシュン!遅かったじゃないですか。
こんなものがね届いてたよ。
えっ?あら!情状酌量で起訴猶予になったって。
よかった!で今日は何の用?いやいや初仕事が終わったお祝いしようと思って1杯1杯行きましょう。
いや行きません。
いや私それに先約があるんだ。
へぇ〜やけに鼻の下伸ばしてますね。
私たちを断ってまでも会う相手ってどなたですか?私の生き方はほっといてください。
女の人でしょ?顔にそう書いてある。
そうじゃありません。
なんで…だからさ…。
(2人)誰なの!?
(2人)早紀さん!?なんかあの東京に出てきたんでちょっとお礼をしたいんだって。
あっじゃあ私も行くわ。
私も私も。
いやアンタたち呼ばれてないから。
またなんかよからぬこと企んでるんでしょ?さあ行きましょう!早紀さんをね危険な目に遭わせられない。
危険って何だよ。
とにかくさアンタたちは招待されてないからさ。
だまらっしゃいこのスケベおやじ!2016/01/20(水) 21:00〜22:48
テレビ大阪1
水曜ミステリー9「新・旅行作家 茶屋次郎 富嶽三十六景殺人事件」橋爪功主演[字][デ][解]
旅行作家茶屋次郎の新シリーズ登場!新たな旅行記を執筆するため富士山へ向かった茶屋(橋爪功)は、偶然崖下で男性遺体を発見する。男の手にはなぜか富嶽三十六景の絵が…
詳細情報
番組内容
旅行作家の茶屋次郎(橋爪功)は『週刊ロイヤル』の新編集長・烏丸(高畑淳子)から、富士山を巡る新企画を提案される。富嶽三十六景をテーマに、助手で元妻の英恵(宮崎美子)と取材を進める中、突然女性から赤ん坊を預かって欲しいと頼まれるが、女性はそのまま姿を消してしまう。行方を追った茶屋が、女性が降り立った山の入口へ向かうと、目にしたのは崖から落ちた男性の遺体。その手には富嶽三十六景の一枚が握られていて…。
出演者
茶屋次郎…橋爪功
袋田英恵…宮崎美子
烏丸桂子…高畑淳子
宍戸大二郎…佐藤B作
勝又哲郎…相島一之
藤尾泰三…石丸謙二郎
香坂高文…大浦龍宇一
女(小嶋早紀)…西原亜希
黒川治夫…加藤虎ノ介
宍戸美香…多岐川華子
出演者続き
松金智也…山口翔悟
藤尾憲之…草野康太
広瀬巡査…遠山俊也
旅館女将…元井須美子
松金耕一…志賀圭二郎
原作脚本
【原案】梓林太郎
【脚本】田辺満
監督・演出
【監督】鶴巻日出雄
音楽
【エンディング曲】
「月と月」
作詞・作曲:Yu
歌:城南海
(ポニーキャニオン)
放送形態
※解説放送あり
データ放送
データ放送では、作品の見どころやキャスト・スタッフ情報、次回予告などをご覧いただけるほか、前半までのあらすじもご確認いただけます。ぜひリモコンの<d>ボタンを押してチェックしてください!
ホームページ
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ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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