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構造的に言えば、ひょんなことから出会ってしまった男と女が再会し、お互いの立場が判明して別れるという体裁。雪女をモチーフにしているものの実際には北朝鮮の話であり、北朝鮮工作員の女が夫に自衛官を迎えて生活した結果、結局夫の暴露により愛が破られてしまう。バレありとしたもののラフカディオ・ハーンそのままであり、この話の肝要が表面上のプロットにないことは明白である。
絵面のしっとりとした静けさ(作者は編集から止められても薄墨を捨てきれなかったという)、展開の無理のなさやそこはかとなく寂しい匂いを感じさせる小さな幸せなど、十分に引き込まれる様に神経を行き渡らせている。しかし良さを引き立てているのはやはり比喩だ。この話は母の歌う童謡がテーマとなっており、そこを読み飛ばしてしまうとラストの意味が全くわからない。歌詞を追える人であれば童謡に込められた意味が母の北朝鮮への所在を意味し、同時に残した子どもたちを示すことを理解するだろう。世代を乗り越えられなかった不幸な話であり、世代を乗り越えた幸福な話でもある。そして時代を経た妻がいつまでも山奥で待ち続けたことも時系列を回想すれば理解できるように作られている。ラスト一コマの猟銃は世代を超えた銃の繋がりと銃でしか繋がれなかった親の悲恋を物語っており、作家としてかなりの集中力であると言わざるを得ない。追加で野暮を言えば、彼らは添い遂げられなかった恋心も継承しているのである。細やかでありながら語りすぎないところが難読度を上げているとも言えるし、読み込むタイプには適量配分だとも言える、良い意味で薄氷の上に載せられた天秤のような作品だと感じた。
ちなみに小屋の話は別段ファンタジーではない。女が北朝鮮工作員であることは明らかなのだから男は殺されずに拠点を移動させられただけだろう。しかしそんなことはどうでもいい。最後の子どもたちのパートでお互いの性別が入れ替わっている点もおもしろい構成である。