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社説
10月4日付  鞆の浦判決  景観の価値 見直す契機に  
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 景観は公共事業より優先される場合がある-。そんな画期的な判決が広島地裁で出された。

 広島県福山市の鞆(とも)の浦の景観をめぐる訴訟で、同地裁は「文化的、歴史的景観は住民だけでなく、国民の財産というべき公益」とし、県の埋め立て免許差し止めを命じた。

 鞆の浦は、瀬戸内海の寄港地として奈良時代から栄えた景勝地である。万葉集に詠まれ、宮崎駿監督のアニメ映画「崖(がけ)の上のポニョ」の舞台にもなった。

 歴史的景観が住民に与える「景観利益」を重視し、景観保護への道を開いた判決として高く評価したい。

 問題となったのは、狭い道に代わって海を埋め立て、橋を架ける事業で、渋滞解消などを目的に県と市が計画。反対住民らが常夜灯の残る港や古い町並みを一体的にとらえ「良好な景観を享受する利益がある」として、2007年に県を訴えた。

 広島地裁は、住民の主張を認め、観光や生活面での利便性向上について、「景観を犠牲にしてまで必要かどうかは疑問」と断じた。

 さらに、住民が提案したトンネル建設などの代替案については「渋滞を解消できる可能性が大きい」と評価し、県の検討は不十分とした。

 地元では慢性的な渋滞に悩まされており、事業に賛成する人も多い。しかし、埋め立て架橋事業だけが解決策とは限らない。県は、貴重な景観を守る意識に欠けていたと批判されても仕方がないだろう。他の自治体も判決を機に、あらためて景観の重要性を認識する必要がある。

 景観保護については、「国民共通の財産」とする「景観法」が05年に施行されたが、その価値を客観的に判断する基準は確立されていない。

 求められるのは、景観と生活の利便性の両立だ。鞆の浦の問題でも、行政と住民が知恵を出し合いながら、解決策を探りたい。

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