伊藤唯行
2015年11月6日07時51分
神奈川県横須賀市が、独り暮らしで収入も少ない高齢者を対象に、生前に葬式の契約をしてもらう「エンディングプラン・サポート事業」を始めた。死後の遺体の引受先がなく、十分な葬式もできない人を救うのが目的だ。ただ、全国でも珍しい試みに波紋も広がっている。
横須賀市郊外の雑木林の中に、白い小さな建物がある。外の石碑には「無縁諸精霊」の文字。市内で亡くなったが引受先がなく、行政の手で火葬した遺骨を入れる納骨堂だ。
350柱を収容できるが、高齢者の孤立死が増え、ここ数年は常に満杯。新しい遺骨を入れるため、古いものは約3年で取り出して、市営墓地に他の遺骨とともに埋葬する。公費で行うが、行政では宗教的な葬式ができないため、仏教の戒名もないまま土にかえる。
実際には、生前に葬式の希望を残していた人も多い。1月に死亡した70代の男性は公費での火葬後に、部屋から「15万円あるので火葬、無縁仏にして下さい」という内容のメモが見つかった。だが事前に見つかったとしても、市の火葬では「仏」にする供養はできない。少ない収入から葬式費用を残す人もいるが、相続人でない市は勝手に使えない。
「生前の意思がかなわない人を少しでも減らしたい」。市生活困窮者自立支援担当の北見万幸(かずゆき)課長は、7月に始めた「エンディングプラン・サポート事業」の目的を語る。対象は原則として、独居で月収が16万円以下、預貯金が100万円以下程度の高齢者。生前に葬儀会社と契約を結んでもらい、望みの葬式をあげてもらう仕組みだ。
市は利用希望者に葬儀社を紹介。宗派や納骨先などを決め、公費火葬の場合の20万6千円を上限に契約を結び、自費で支払ってもらう。費用には葬式や火葬のほか、遺体の一時安置や搬送などが含まれる。契約内容は自宅に掲示し、カードも携帯。一人で亡くなっても発見者が契約に気づき、希望の葬式が行われるという流れだ。
対象を独居の生活困窮者に限った理由について、北見課長は「身寄りがあれば葬式をあげてもらえるし、収入の多い人は弁護士などに頼める」と言う。市内には約1万人の独居高齢者がいるが、2割が生活保護受給者。実際に市が昨年に火葬した60人の多くは、高齢の生活困窮者だった。
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朝日新聞社会部
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