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【社説】

首相「改憲」発言 改正ありきは慎まねば

 安倍晋三首相が夏の参院選で憲法改正を争点に掲げる方針を鮮明にしたが、どの部分の改正が必要か必ずしも明確ではない。国民の命運を左右する憲法である。改正ありきの姿勢は厳に慎むべきだ。

 首相は四日、恒例の年頭記者会見で「憲法改正はこれまで同様、参院選でしっかりと訴えていく。その中で国民的な議論を深めていきたい」と述べ、十日放送のNHK討論番組では「未来に向かって責任感の強い人たちと三分の二を構成したい」と語った。

 夏の参院選では憲法改正を重要争点に掲げ、与党と、おおさか維新の会など改正に前向きな「改憲派」と合わせて、改正の発議に必要な三分の二以上の議席を確保したいとの考えを示したものだ。

 憲法改正は一九五五年の自民党結党以来の党是だ。衆参両院で三分の二以上の議席を得て改正に道を開きたいのは、自民党総裁を兼ねる首相としては当然なのかもしれない。衆院では与党が三分の二以上を確保し続けており、夏の参院選こそ好機と考えたのだろう。

 現行憲法は改正手続きを条文で定めており、一般論で言えば、改正自体は否定されていない。

 しかし、今、改正しなければ国民の暮らしが脅かされるような条文がどこにあるというのか。

 首相自身も具体的な改正項目について「国会や国民的な議論と理解の深まりの中でおのずと定まってくる」と述べるにとどめる。改正自体が目的化してはいないか。

 自民党内で浮上しているのが、大規模災害や外国からの武力攻撃発生時の政治空白を避けるための緊急事態条項の追加だ。国民に根強い反発がある戦力放棄の九条改正ではなく、理解を得やすいとされる緊急事態条項を改正の出発点にしたいとの思いがあるようだ。

 とはいえ自民党がまとめた改正草案は、緊急事態の宣言時に、国会議員任期の延長に加え、内閣が法律と同じ効力を持つ政令を制定できることや、一時的な私権制限を認めることを盛り込んでいる。

 憲法は主権者たる国民が権力を律するためにある。いくら非常時とはいえ国会から立法権を奪ったり、基本的人権を侵害する憲法を認めるわけにはいかない。

 与党内では衆参同日選の可能性も取り沙汰されるが、その間「緊急事態」が起これば、国権の最高機関たる国会が機能しなくなる恐れがある。改憲派は、だからこそ改正が必要だと言いたいのだろうが、国民のことを考えるなら、そもそも同日選は理屈に合わない。

 

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