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2012年2月27日 (月)

週刊文春の甲状腺癌記事が話題に

週刊文春に掲載された福島の小児甲状腺癌を巡る記事が大きな反響を呼んでいますが、これが文春側が当初意図しただろうところとは別方面で騒ぎになっているようですね。

郡山の4歳児と7歳児に甲状腺がんの疑い!?チェルノブイリと同じ健康被害か(2012年2月23日J-CASTテレビウォッチ)より抜粋

    「『今までにこんな例は見たことがありません
       超音波の画像を診た医師はそうつぶやいたという。七歳女児(検査当時・以下同)の小さな喉にある甲状腺に、八ミリの結節(しこり)が、微細な石灰化を伴ってみられたのだ」

   「週刊文春」の巻頭特集「衝撃スクープ 郡山4歳児と7歳児に『甲状腺がん』の疑い!」は、こうした書き出しで始まっている。

原発事故のあと3か月以上福島暮らし

 北海道へ自主避難している親子309名(子供139名、大人170名)を対象に、昨年末から地元の内科医がボランティアで甲状腺の超音波検査を行っている。郡山から夫と離婚して避難してきた母親の7歳の姉に結節が見つかり、2歳の妹にも2ミリのものが見つかったのだが、妹のほうはがんの疑いはないという。

   小児甲状腺がんはチェルノブイリ原発事故で、唯一公的に認められた被曝による健康被害である。旧ソ連のベラルーシでは、事故までの10年間で7人だった子供の甲状腺がんが、事故後は508人に上っている。札幌で甲状腺エコー検査を実施した内科医はこう言っている

    「しこりのあった七歳女児と四歳男児の二人に加え、十九歳以上の『大人』九人の計十一人に、甲状腺がんの疑いがありました。うち成人女性一人はすでに甲状腺がんが確定、切除手術を行うことも決まっています

   1月25日(2012年)には福島県で第五回「県民健康管理調査検討委員会」(以後=検討委員会)が行われ、十八歳以下の甲状腺エコー検査の結果が発表された。1765人のうち26人に結節や嚢胞(のうほう)が見つかったが、「すべて良性」とされた。さらに福島県立医大の鈴木眞一教授は会見で、「二十六名はいずれも六歳以上。五ミリ以上の結節、二十ミリ以上の嚢胞が五歳以下で見つかることはありえない」と明言している。

 先の内科医は年間2000人ほど甲状腺の手術を行うが、鈴木教授がいうように、小学生に上がる前の子供にできる可能性はほとんどないという。だが、発見されたのである。避難してきた子どもたちはいずれも原発事故のあと、3か月以上福島で暮らしていたのだ。7歳の女児はその後の血液検査の結果、「良性」と診断されたが、将来に不安が残ると母親は語っている。

    「診てもらった北海道大学の先生も、今までに十四歳未満でがんになった子供を二回しか診たことがなく、『いつ、がんになるかわからない』と。でも、しこりを切除してしまうと、今度は一生ホルモン剤を飲み続けないといけなくなるというのです」

福島県の健康管理調査検討委員会座長「自覚症状なければ追加検査必要なし」

   福島県で行っている甲状腺検診は3年かけて一巡するが、甲状腺学会の関係者はこう疑問を呈している。

    「動物実験ではたしかに被曝しても一年で発がんすることはないという結果が出ているが、チェルノブイリでは事故直後のデータをフォローしていないので、放射能に対して感受性の強い一歳や二歳の子どもが、事故後一~二年後まで受診しなくても大丈夫だといいきれるのか

   しかも、福島ではエコー写真を見せてもらうこともできないし、県内でセカンドオピニオンを仰ぐことも困難なのだ。それは「検討委員会」の座長・山下俊一福島県立医大副学長が、全国の日本甲状腺学会員あてに「次回の検査を受けるまでの間に自覚症状等が出現しない限り、追加検査は必要がない」というメールを送っているからだ。こうしたやり方に一人の甲状腺専門医は批判的だ。

    「従来の理論では、一~二年ですぐに嚢胞やしこりは大きくならないかもしれない。しかし、あくまでもそれは『これまで普段見てきたもの』を基準にした場合です。原発事故が起こった今、『今まで見たことがないもの』を見ている可能性がある。従来の基準が絶対とはいえないのでは

   この記事は重要な問題を告発しているのだが、残念ながら取材が緩いために読んでいてインパクトが弱い。母親が仮名なのは仕方ないとしても、郡山の子どもに甲状腺異常を発見した北海道の内科医の名前が出ていないのはどうしたことなのか。こうした記事を書く場合、信憑性を担保するためには実名が必須である。内科医は実名を出すことで何か不都合なことでもあるのだろうか。他にも甲状腺の専門医も匿名なのは解せない。何はともあれ、こうした報道は継続していくことが重要である。続報に期待したい。
(略)

幾つかのマスコミも取り上げるようになっていますけれども、この記事にはそもそも当初から医療関係者を中心に多数の突っ込みがあったところで、口の悪いネット住民からは「『今までにこんな例は見たことがありません』ってw甲状腺見たことない医者かw」なんてことまで言われていましたけれども、案の定ボランティアで甲状腺検査を行ったという「北海道の内科医」とは消化器科の先生であったようなのですね。
ちなみに同じ話を取り上げた北海道新聞の記事によれば170人の「全員に問題がなかった」とされていて、「超音波による画像診断で、4人にしこりが確認されたが、精密検査の結果、全員良性だった」という、ごく当たり前と思える結果だったと言いますから、いかにも異常な事態が起こっているかのような文春の記事のニュアンスとは随分と食い違いがあるようです。
甲状腺の結節というものはかなりありふれたものですし大多数が良性ですが、当然ながら精密検査をしなければ白黒つけようがない以上は「癌の疑いがある」という言い方をせざるを得ないわけで、どうも文春が妙な具合に医師のコメントを誤解(あるいは、曲解?)して書いた記事なのかなという印象も拭えないのですが、案の定当事者の医師からこんなコメントが飛び出しているのですね。

週刊文春に「言ってないこと書かれている」 「甲状腺がん疑い」記事に医師が反論(2012年2月24日J-CASTニュース)

  福島県から札幌に避難している人に対して超音波(エコー)検査を行ったところ、甲状腺に異常が発見されたなどと報じた週刊文春の記事をめぐり、波紋が広がっている。検査を行った医師と弁護士が記者会見を開き、記事には「事実と違うことや、言ってはいないようなことがある」と反論したのだ。これを受け、文春側も会見を開いて改めて説明する予定だ。

「児童にはほとんどないことですが、がん細胞に近い。二次検査が必要です」

   問題とされているのは、首都圏では2012年2月23日に発売された週刊文春3月1日号に、「衝撃スクープ 郡山4歳児と7歳児に『甲状腺がん』の疑い!」と題して掲載された記事。それによると、

    「7歳女児(検査当時)の小さな喉にある甲状腺に、8ミリの結節(しこり)が、微細な石灰化を伴ってみられた」

といい、記事の筆者は、このように連絡を受けたという。

    「4歳児で10ミリと4ミリの結節がある子がいる。郡山から来た7歳の女の子や、その他にも異常が出ている。みんな、福島からの自主避難者だ

   また、超音波の画像を見た医師は、女児の母親に対して、

    「児童にはほとんどないことですが、がん細胞に近い。二次検査が必要です」

と発言したという。

エコー検査行った医師、「甲状腺がんの疑い」の根拠を否定

   この記事を受け、エコー検査をした「さっぽろ厚別通内科」の杉澤憲医師と弁護士が12年2月23日夕方に会見し、記事の内容に反論した。杉澤医師によると、甲状腺の検査を受けた18歳以下の人は170人おり、そのうち「5.1ミリ以上の結節や20.1ミリ以上の嚢胞」が確認され「B判定」だとされた人が4人いたが、精密検査の結果、いずれも良性だと判定された。「甲状腺の状態等から判断して直ちに二次検査を要する」とされる「C判定」の人はいなかった

   杉澤医師が会見で配布した正誤表には、「明らかな事実誤認」6点が指摘されている。中でも、記事中の、

    「札幌で甲状腺エコー検査を実施した内科医が言う。『しこりのあった7歳女児と4歳男児の2人に加え、19歳以上の「大人」9人の計11人に、甲状腺がんの疑いがありました。うち成人女性1人は既に甲状腺がんが確定、切除手術を行うことも決まっています。いくら「5歳以下で5ミリ以上の結節ができることはない」と言われても、今回検査をして、これが出たことは事実です』」

という記述について、

    「そのような話はしておりません

全否定している。「甲状腺がんの疑い」だとされる、記事中の大きな根拠が否定された形だ。

   杉澤医師は、

    「僕自身は良かれと思ってやったことが、このように(記事として)出されてしまったことが多くの人を不安に陥れてしまったかもしれないと思うと、少し残念でならない」

と述べる一方、小児甲状腺がんは被ばくから4~5年で発症するとされていることから、出来るだけ多くの人について詳細に経過を観察できるようにする検査態勢づくりを訴えた

   なお、この文春の記事は、「自由報道協会理事おどしりマコと本誌取材班」とクレジットされている。自由報道協会の上杉隆代表は、記事について、

    「長期に亘る取材と綿密な裏取り作業があったことは証明できます

とツイートしており、自由報道協会は2月24日夕方、おしどりマコ氏と週刊文春の編集部が2月25日19時から記者会見を開くと発表している。

ボランティアで専門外の健診までやってくれたというのに思いも掛けず騒動に巻き込まれた杉澤先生もいい迷惑でしょうが、このコメントを見る限り文春の報道内容はよく言っても事実無根のデタラメではないかと思える一方で、当事者が話してもいない(癌があったとなかったでは全く話が違いますよね)トンデモ話がいったいどこからでっち上げられたのかということも気になります。
会見の様子は有志の方が取り上げていますけれども、杉澤先生としては一般論として甲状腺健診をもっと充実させるべきだといった話をしたつもりがこんな話になるとは心外でしょうが、どうもこの話によると健診の内容がマスコミ等で無用な不安を煽る取り上げられ方をすることのないよう被災者やNPO等も集めて相談していた席に、そうとも名乗らずに記者が参加して許可も何も得ずに記事にしたとも受け取れます。
そもそも元の文春の記事は「内科医が年2000件の甲状腺の手術をしている」だのと、一目で「は?何それどんな内科医?」と首をかしげるような内容が多く、どう見ても物の判った人間のチェックを受けているようには思えないのですが、素人が横から聞きかじった話を素人なりに解釈したまま勝手に記事にしていたと言うのであればそれも納得ですよね。
ちなみに文春の記事を書いた当事者の側からもコメントが出ていて、それによるとどうも杉澤医師側の話を真っ向から否定するような内容になっているようなのですが、コメントを見る限りでは少なくとも文春側では幾らでも物証があるような口ぶりですから、いずれそれらを元にきちんとした反論をしてくることになるのでしょうか。

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コメント

想像するに、おしどりさんに、記事に掲載されたようなことを語った人物はいるのでしょうね。
普通に考えると健診を受けて、医師から説明を受けた人でしょうか。

であれば、素人は医師の説明をどのように理解するのか、というサンプルとして私は興味をもちます。


ところで瑣末なことですが、工場千軒新×
                甲状腺健診○

投稿: JSJ | 2012年2月27日 (月) 08時41分

記事自体があまりに初歩的なミス?が目立つもので、ちょっと信用出来ないですね。
ただほんとにメールがあるなら医師の側も嘘をついているということになるんでしょうか?
記者が内輪の席に勝手に潜り込んだならメールも何もないはずですけど、誰の紹介で来たかくらいは判りそうですけどね。

投稿: ぽん太 | 2012年2月27日 (月) 12時12分

上杉隆と言えば原発事故にからんでデマをひろげてまわってるキ印
それに素人芸能人が絡んで適当な記事に仕立てりゃ無茶苦茶にもなるわな
↓こんなレベルの連中に何を期待するとw

>週刊文春「2名の方は細胞診を受けてない。ガンではないと厳密には確定してないというのが編集部の理解」
http://blogos.com/article/32785/?axis=b:80

投稿: | 2012年2月27日 (月) 12時34分

会見と言っても質問者の半分は上杉氏ら自由報道協会の身内というあからさまな出来レースだからなあ
そもそも甲状腺癌の成長速度考えてもこの時期癌が見つかったとしたら事故とは関係ないものと考えるべきじゃないのか

●参考動画/おしどりマコ氏・「週刊文春」編集部 緊急記者会見
http://youtu.be/2n7DCPBEP-k

●参考/togetter--おしどりマコ・週刊文春編集部緊急記者会見
http://togetter.com/li/263498

投稿: kan | 2012年2月27日 (月) 12時52分

仮に検査で癌が見つかったとして、それが原発事故による影響なのかどうかはきちんと対照群と比較検討してみないことには何とも言えないと思います。
ただチェルノブイリの場合も実は他国の子供の方が癌は多かったと言う話もありますし、スクリーニングのやり過ぎによる微小甲状腺癌への過剰な手術という悪影響も指摘されてますからね。
大部分の甲状腺癌は臨床的悪性度も低いですし、もともとさしてリスクが高くないと言われる日本の場合、甲状腺甲状腺と神経質になりすぎるのもいいのかどうか。

子どもの甲状腺がんはまれで,事故以前は100万人に1人といわれていたが,国連科学委員会
(UNSCEAR)のポーランド代表であるZ.Jaworowskiは,子どもの甲状腺がんは決してまれではないという
(私信,2006年6月)。
スクリーニングが行われる以前がまれだったのは,それらが“オカルト(occult)”で,通常,年をとって死ぬまで
臨床的に悪い症状を示さないからである。フィンランドの0歳から15歳の子どもについての死後のスクリーニングでは,
2.4%(Harach他)もあった。これに対して,毎年“汚染”地域の子どもの90%以上が受診した集団検診での
“チェルノブイリ甲状腺がん”の最大罹患率0.027%(1994年のロシアBriansk州)は,フィンランドの通常の
“オカルト”甲状腺がん罹患率の1/90にすぎないという。
http://www.aesj.or.jp/atomos/popular/kaisetsu200701.pdf

投稿: 管理人nobu | 2012年2月27日 (月) 13時15分

http://d.hatena.ne.jp/go1940529/20110523/1306157307

投稿: 文春の正体 | 2012年2月27日 (月) 14時42分

ヤ○○なみだよw

 那覇市宇栄原(うえばる)の学童保育で放課後を過ごす小学生ら約60人に28日、青森から
 運ばれた約250キロの雪がプレゼントされた。生まれて初めて雪に触る子もいて、会場は
 歓声に包まれた。

 海上自衛隊が17年前から沖縄県内各地に配っている。那覇市内では別の催しも予定されていたが、
 東日本大震災で避難して来た人たちから「被曝(ひばく)の不安がある」との声が上がり中止になった。
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 この学童保育施設にも「放射能をわかっているのか」といった苦情や無言電話が続いたという。
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 子供に雪を触らせていいか、施設側は保護者に確認して実施に踏み切った。

投稿: | 2012年2月29日 (水) 11時18分

こんなだからこそ沖縄まで逃げたわけで意外性はないな

投稿: aaa | 2012年2月29日 (水) 14時04分

こういう言いがかりはいただけませんね
ただ日本社会全体の傾向として、こういう手合いに厳しくなってきている気はします

投稿: 管理人nobu | 2012年3月 1日 (木) 11時12分

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