(2016年1月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
中国の政策立案者は経済運営の質の高さで高い評価を受けている。しかし、それと同じことは30年前の日本についても言われていた。その後、貯蓄と投資が多い「キャッチアップ」型経済モデルからの転換は、日本にとって非常に難しいことが明らかになっている。実際、この転換はまだ完了していない。
今日の中国経済には、四半世紀前の日本よりもはるかに大きな成長余地があるものの、経済の不均衡はそれ以上に大きい。
また世間一般の見方とは異なり、新しい経済成長パターンへの移行は実はまだ始まっていない。
舵取りを誤り、評判ががた落ち
この移行を進めることは容易ではなく、すでに中国の政策立案者の評価を傷つけている。1980年代には、「バブル経済」崩壊の舵取りを誤った日本の政策立案者の評価が傷ついたが、今回は為替と株式市場の舵取りを誤った中国当局の評価が低下している。同様に、2007年と2008年の世界金融危機では西側諸国の金融機関と政策立案者の評価ががた落ちになった。信用が急拡大しているときには、誰もが天才に見えるのだ。
無理からぬことだが、外野からは、中国当局はもっと透明性を高めるべきだというもっともな指摘がなされている。「一番よく分かっているのは官僚だ」とされる政治体制であることを考えれば、その実行は容易ではない。しかし、これは最も重要な問題ではない。最も重要なのは、今よりもバランスの取れた経済への移行がどのように進められるのか、そもそも本当に進められるのかという2点が明らかでないことだ。
また、観測筋の間には製造業からサービス業への移行に注目する向きもある。こちらについては、まずまずうまくいっているようだ。中国の統計によれば、2015年1~9月期に工業(第2次産業)は年率でちょうど6%の成長を遂げており、サービス業(第3次産業)は同8.4%の成長を達成している。
ただ、一見成功しているこの数字の大部分は、金融サービス業の増益によるものだ。危機の前の西側諸国の場合と同じく、これはよりバランスの取れた「新常態(ニューノーマル)」への移行の兆候でもあるが信用増加の兆候でもある。
中国経済の形態の変化を示す基礎的な指標を挙げるとすれば、貯蓄および投資の減少と、消費の増加になるだろう。そのような変化が必要なのは、大半の投資がムダなものであるうえに、債務の爆発的な増加と結びついたものであるからだ。中国の国内総生産(GDP)に占める投資の割合は現在、東アジアのほかの高成長国が過去に経験したどの数字よりもはるかに大きくなっている。
さらに、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートによれば、中国全体の債務は額が極めて多いうえに借り手が非金融法人に集中している。その集中度は米国のそれよりも高いという。