イスラム教徒でなければ、最近のサウジアラビアとイランとの対立についてすぐには理解できないだろう。両国の対立はスンニ派のリーダーであるサウジが、シーア派の聖職者を処刑したことから始まった。これに対してシーア派の側はリーダーであるイランの最高指導者ハメネイ師が「サウジは神の復讐(ふくしゅう)を受けるだろう」とサウジを強く批判し、またイラン国内でもデモ隊がサウジ大使館を襲って火を付ける騒ぎに発展した。
このようにアラブ諸国は宗派ごとのグループに分かれている。シーア派のイラクとレバノンのヒズボラはイランの側で、スンニ派のバーレーン、スーダン、アラブ首長国連邦(UAE)などはイランとの外交関係の断絶あるいは格下げを行った。他国で行われた処刑をめぐり、このように複数の国が対立するのは、現代人の常識ではにわかに理解し難いことだ。
ちなみに国際社会は戦争さえ起こらなければ、あるいは世界の原油供給に影響さえなければ、スンニ派とシーア派を代表する両国が争ってもさほど大きな関心はない。しかし今回、国際社会が慌てて仲裁に乗り出した理由は、両国の対立がスンニ派の過激派組織イスラム国(IS)問題やテロ、あるいは難民問題に悪影響を及ぼしかねないからだ。
一方でイラン国内でも今回の対立を心配する人物がいる。他でもないイランのロウハニ大統領だ。ロウハニ大統領は2013年の就任直後から、イランを正常な国にすることを目指してきた改革主義者だ。ロウハニ大統領は昨年7月、米国、英国、フランス、ロシア、中国、ドイツの6カ国と核開発をめぐる交渉で妥結にこぎ着けた。10年以上にわたりイランと国際社会に対立をもたらしてきた最大の障害が取り除かれたのだ。これに対して米国と欧州連合(EU)はイランに対する経済制裁の解除を約束した。イランは昨年、シリア内戦の停戦に向けた国際会議にも参加し、国際社会における発言力も取り戻し始めている。英国紙ガーディアンはこれを「核交渉の妥結でロウハニ大統領が受け取った最初の配当」と評した。