「こ れ は ス ト ッ プ ・ モ ー シ ョ ン の ク ラ イ シ ス だ !」

去年の夏、中国の株式市場が急落したとき、政府は「売り禁止」を含む、ありとあらゆる応急措置を繰り出して、株式の下落を食い止めました。

下は当時の中国A株市場での売買成立状況を示したグラフです。

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黄色は、通常通り円滑に取引が行われていた銘柄数です。

するとクライシスのピークでは、そもそも商いが成立している銘柄が上場全銘柄の1割にも満たない日が何度もあったわけです。

そうやって「時間を止めて」置いて、その間に悪者探しをし、疑わしい証券関係者をブタ箱に放り込む、まことにブリリアントな采配で危機を食い止めた……というわけです。

こうすることで、政治としては「いま、対処してますから!」という、ある種、ソバ屋の出前みたいな言い訳が成立することになります。

でも相場的には「アク抜けた!」と感じられる、コツンと来るアノ感覚が、いつまでたっても到来しないという困った副作用が起きているわけです。

中国政府のやっていることは、一事が万事、この例に代表されるような危機の先送りであり、根本的な解決ではありません。

日本でバブルが崩壊したとき、住専の問題をほぐすのに何年も必要とし、それが「失われた10年」の一因になりました。

この調子で行けば、中国でのバブル処理は、日本より、ずっと時間がかかるかも知れません。いや、その初動があまりにもノロいので、これはミンスキー・モーメントなのだという正しい認識すら、出来ていない市場関係者が、この期に及んでも、沢山居ます。



リーマンショック以降、中国企業は新たに10兆ドルもの負債を背負込みました。このうち1兆ドルはドル建て負債です。下のグラフ「新興国」のうち、少なからぬ部分は中国です。

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比較のために言えば、米国の住宅ローン残高の総額は13兆ドルですから、いかにこの10兆ドルという金額がバカに出来ない大きさか? ということがわかると思います。

因みに2014年の石油・天然ガス企業へのシンジケート・ローンの総額は2400億ドルでした。つまり乱暴に比較すれば中国企業は米国のシェール業者の42倍ものスケールで借金しているというわけです。

かつて中国は「民主主義じゃないから、対応のスピードも速い」と評価されていました。でも政策の失敗にまつわる事象に関しては、あたかもそれが起こっていないように取り繕うことで、逆に超スローな対応になってしまっています。

一例として先日、オフショア人民元市場を支えるために中国政府が「Show of Force」の介入をし、金利を67%に吊り上げました。

通貨防衛のために金利を吊り上げるのは、ロシアやブラジルみたいな二流の国がやることです。それは映写機を止めることで「脱線事故を防いだ」と主張するような愚行に他なりません。

このような危機の先送りは、二つの点で問題です。

まず行政のスピードより市場(あるいは市民)のスピードの方が速ければ、政策は常に後手に回るリスクがあるという点です。

たとえば庶民が(人民元は、いずれ安くなるぞ)と思えば、急いで国外におカネを出します。中国の外貨準備は3兆ドルにも達していたわけだけど、過去半年間は年率換算で1兆ドルもの資本逃避がありました。いま国名を隠して、この比率だけを見せてクイズを出せば「これはアルゼンチンだ!」と識者は答えると思います。

おカネを外で消費できるうちに消費してしまうという意味では、銀座辺りで起きている中国人の爆買いだって政策の歪みがもたらした「あだ花」的な現象に過ぎません。

「せっかく中国人観光客を見込んでエアビーをはじめたのに、突然、需要が消えた!」なんてコトになるのは時間の問題です。

いま世界で危機の震源地だと思われている中国とサウジアラビアが、どちらも「最後のドル・ペッグ国」である点は、偶然にせよ興味深いと思います。

危機の先送りのもうひとつの問題点は、ミルトン・フリードマンなどが論ずるところの「価格シグナル」が雑音に歪められ、「見えざる手」による自然な均衡の発生を妨げる点にあります。

もっとざっくばらんにトレーダー的な表現に直せば「もう出動していいのか、これじゃ判断のしようがない!」ということです。

最近の相場の、どうしようもない残尿感は、こういう背景で生まれてきているのです。

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