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働く“キラキラ女子”はかっこいい――Web業界のお仕事事情を描く“ITきゅんきゅん系”漫画「彼女のいる彼氏」

ITmedia ニュース 2015年12月25日(金)14時42分配信

 キラキラ女子とオラオラ男子に囲まれて――雑誌「ROLA」(新潮社)デジタル版で連載されている漫画「彼女のいる彼氏」がじわじわ話題を集めている。“キラキラ女子”が多いことで有名な大手Web系企業「サイダーエイジ ジャパン」で働く入社4年目のUIデザイナー・小泉咲を主人公に、業界のお仕事事情を描く“ITきゅんきゅん系”漫画だ。

【作中でもLINEやInstagram、Facebookなどが登場する】

 「仕事の描写が妙に生々しい」「全然違う業界だけど『分かる』と思ってしまう」「こんな華やかな世界、自分の知ってるWeb業界と違う!」――デザイナーとエンジニアの小さな衝突、社内調整を繰り返してクライアントの要望に応える広告プランナーの葛藤、日々チームを鼓舞しながら目標を追いかけ続ける自社サービスプロデューサーの奮闘など、さまざまな立場から描かれる仕事の描写のリアルさが好評だ。

 もう1つの要素は、咲を取り巻く恋愛模様。女性に優しくチャラい広告制作プランナー・徳永靖太郎、年下の才能あふれるデザイナー・佐倉直己の2人の男性の間で揺れ動く。読者の間では「徳永派」「佐倉派」がまっぷたつ。「こじらせている」と自称する咲を叱咤激励する“キラキラ女子”の同僚たちもストーリーを彩る。

 作者の矢島光さんは、Web系企業でエンジニアとして働いた経験を持つ経歴の持ち主だ。「正直、キラキラ女子が怖いんですよ。だからこそその憧れを描きたい」と話す矢島さんがこの作品に込める思いは。

●内定辞退するつもりが……? Web企業でフロントエンジニアを

――やはり読者の皆さんが気になるのは「これって、あの会社だよね?」ってところだと思うんですが……。

 あはは、いきなりですね(笑)。そうです、私が新卒入社した会社、サイバーエージェントで働いていた時の経験があの漫画の元にあります。2012年に入社し、アメーバピグのフロントエンジニアをしていました。当時書いていたのは、漫画でもイラストでもなくActionScriptです。

――不思議な経歴ですが、漫画はいつくらいから描いていたんですか。

 在社中は出勤前と帰宅後にひたすら描いていましたね……大学時代は山中俊治先生の研究室でメディアアートやプロダクトデザインを学んでいて、絵は独学です。

 「漫画家になる!」と決めたのは、小学生のころに「りぼん」で種村有菜先生の「イ・オ・ン」の見開きの表紙を見た瞬間です。そこから将来の夢はずっと漫画家と言い続けてきたのですが、手を動かしていたわけではなくあくまで「夢」でした。中高6年間はバトン部に捧げ、毎日部活部活。本格的に漫画を描き始めたのは結構遅くて、大学2年ですね。

 研究室の先輩に「光ちゃん、漫画家目指してるんだって? 絵見せてよ~」って言われて「そうだ、描こう」となって。……軽口を叩きながらこの後も何度も私を励ましてくれたこの先輩が、何を隠そう徳永のモデルの1人です。

――徳永にモデルが! 最初から描きたい漫画の方向性は決まっていたんですか。

 いやいや全然! むしろ「恋愛漫画は無理」くらいに思っていました。「りぼん」を愛読してきたけど私にはあの世界は無理だぞ! って。とか言いながら、最初に描き上げた漫画は「ハチミツとクローバー」の二番煎じみたいなもので――今思い返すと恥ずかしくて死にそうなんですけど――「マーガレット」の編集部に持ち込んでボロボロに言われた覚えがあります。

 そこからいくつか描き上げたものの、どうしても自分が何を描きたいのかしっくりこなくて悶々と悩んでいました。4年生になった時にもうこれで崖っぷちだと思って、高校バトン部を舞台にした作品をモーニングの新人賞「MANGA OPEN」に応募しました。経験も思い入れも十二分にある絶対に描きたいテーマ、これでダメならダメだ、と背水の陣でしたね……。その作品で、佳作を受賞したと連絡が来たのが卒業間際の1月です。研究室で泣きながら電話に出たのでよく覚えてます。

 サイバーエージェントには大学3年からインターンでお世話になっていて、肌が合ったのでそのまま新卒として就活もして。でも保険というか、当時の自分としては漫画家になることの優先順位の方がずっと高いわけですよね。受賞連絡の電話を受けて、やった! これで漫画家になれる! と先走って、当時の担当さんに「私、今決まってる内定辞退しますんで!」って意気揚々と連絡したら、絶対やめるな! って怒られました。「サイバーエージェントに内定決まってる漫画家なんていないから! 経験は武器になる、1回社会を見てこい」――まぁそう言うなら……と、当時はしぶしぶ決めました。今振り返るとすごく感謝してます、そう言ってもらえてよかったです。

●“キラキラ女子”はかっこいい

――ということは「いつか自分の仕事を題材に漫画を描こう」と決めていたんでしょうか。

 いえ、そんなネタ探しのような気持ちではなくて(笑)、全力で仕事した日々がシンプルにすごく楽しかったからです。

 正直言って、普通に生きていてどうしても描きたい、作品にしたいと心の底から思える題材やテーマって創作者であってもそこまでたくさんないと思うんですよ。私にとってその1つはバトン部、そしてもう1つがこの会社で過ごした日々だったんです。そのくらい、“2度目の青春”として振り返って語りたい対象になりました。

 サイバーエージェントって会社に対するみなさんのイメージって少しの揶揄も込めて「リア充」「キラキラ女子」じゃないですか? ……そうなんです、それは正しいんです、キラキラ女子は本当に道玄坂にいるんです!(笑)どんなに仕事が忙しくて残業続きでも、朝早くても、きちんとお化粧してヒールを履いて会社に来る。ピリピリした空気の中でもチームのみんなを笑顔で励ます。金曜の夜にはパーティーして、ハロウィンには仮装して……これまで近くにいなかったタイプの人たちがここにはたくさんいたんです。

 会社に入る前は「こんなキラキラした人たち、きっと仲良くできない……」とびくびくしてたんですけど、近くで働くことでそのかっこよさを知りました。チームメンバーの誕生日は欠かさず祝うし、「恋するフォーチュンクッキー」だって全力で踊る。だるく働いていたらいろんなことがどんどんだるくなってしまうことを分かっていて、まず自分からその場を明るくしようと努力する姿を尊敬していました。

 私は在社中、朝6時に起きて出社前に描いて、会社で働いて、日付が変わる前後に帰宅したとしても、夜中に2~3時間描いて倒れるように寝て――という生活を繰り返していて「よくそんな頑張って漫画描けるね」と言われてたんですが、キラキラ女子のみなさんはきっと私と同じくらいのエネルギーを「かわいくなりたい」に向けているんですよ。絶対に真似できないけどまぶしくて、いいなぁと素直に思いました。身を削って働くだけが「頑張ってる」じゃないなって。

 本当は働いてた当時も今も、キラキラ女子がある意味怖いんです。怖いというか……分からない? 「かわいい」に対する努力が圧倒的で、違う生き物みたい。そして同時にすごく憧れてるんです。そういう世界に触れたこと、新しい“かっこよさ”を知れた楽しさが今この漫画を描いてる原動力ですね。

●恋と仕事とSNSのリアル

――特に気をつけている部分はどのあたりですか。

 仕事に関する描写はなるべくリアルに、と思っています。自分が感じていた楽しさや難しさをきちんと伝えたい、憧れの仕事を取材して描くことで自分も“体験”したい、という思いで、いろんな人に実際に話を聞いて参考にしています。コンペの資料作りでどんなところを気にするか、ファッションショーの当日の朝はどんな言葉が飛び交うか――友人知人で現場にいる人に取材したり、これまで研究やバイトで潜り込んだ実際のシーンを思い返したりして作ってますね。

 それからスマートフォンやWebサービスの使い方ですね。Facebook投稿の「いいね!」の数に一喜一憂したり、LINEのスタンプの使い方に性格が表れたり、スマホから生まれる感情のリアリティーをきちんと描くことで関係の温度感を伝えたいなと思ってます。仕事で疲れた佐倉に彼女から「大丈夫?」と重たい長文LINEが届いた瞬間の「うわ」という感じ、きっとみなさん似たような経験ありますよね。

 最近、作中にも登場した徳永のInstagramのアカウントを実際にスタートしました。Twitterでひっそり告知した程度だったのですが3日で200人にフォローされてびっくりしました。作中で仕込んだ細かいネタにみなさん結構気付いてくれて面白かったので、もう一歩踏み込んで遊んでみよう! と。コメント欄やいいねで咲や佐倉とやりとりしてたり、地味にこだわっています。

 漫画はどうしても隔週更新になってしまいますが、SNSだともう少し小さい単位で更新できるので、本編と一緒に楽しんでもらえるような仕掛けをこれから入れていくつもりです。ぜひ観察して深読みして下さい。

――“ITきゅんきゅん系”とありますが、“きゅんきゅん”の部分は……。

 色恋沙汰を描くのは常に恥ずかしいです、ファンタジーです。少女漫画です。妄想です! 大半がフィクションな中に、たまに実際言われた言葉を混ぜ込んでいるんですが、キラキラ女子の友人たちには「あのセリフが刺さった」「よかった」とピンポイントで指摘されてドキッとします。やっぱりその生々しさは伝わるものなんですねぇ……経験値の差を感じます。

 これまで描いたお気に入りのシーンは佐倉が雨の表参道に傘を持って迎えに来てくれるところ。これがリアルかどうかは……ご想像にお任せします。

――人当たりがよくて優しくチャラい徳永と、クリエイター気質のサブカル男子・佐倉、咲を取り巻く男性2人の読者のみなさんからの反応はどうですか。

 圧倒的に佐倉派が多いですね! 佐倉には、これまで出会った“制作系男子”のかっこいいところを集めました。ああいう細い体が好きなので、普段男性陣に着てほしいと思っている洋服を思う存分着せられるのが楽しいです。でも、これから徳永どんどんきますよ! 期待しててください。

 個人的な思い入れで言うと断然、徳永です。佐倉と違って徳永は先ほどあげた先輩と別に明確にモデルがいて、要するに私が過去に一悶着あった人なんですが……。いるんですよ、本当に、いいタイミングでこういうことを言う男は。いるんです!

 付き合っていたわけではないですし、露骨に言うと遊ばれてたんですけど、なんだろう、この人にちゃんと女扱いされたことで「こじらせ解除」できたなって思ってるんです。恋愛ってこんな風に人生に意味があるんだ! というか……幸せにはなってないんですが、ある意味自信が持てた。自分の内面とも相手ともちゃんと向き合ったことで、恋愛面だけでなく卑屈な気持ちが少なくなった気がします。

 読者の方に「咲、全然こじらせてないじゃん!」て言われますけど、そうなんですよね、自称してるけどこじらせてない。でも周りのかわいい子たちと比べちゃって「こじらせてる」って思っちゃう気持ちも分かる。と同時に、ここ最近の展開で「こんなに尻軽だと思わなかった!」ってお叱りの言葉を受けることもあって、それも「だよね」って(笑)。

 でも、毎日仕事頑張ってると誰かに頼りたくなったり弱ったりする瞬間ってあるじゃないですか。傍から見たら「おいおい」と思うことでも、捉え方は自分次第で、救う手段にもなるんだよってことを考えてますね。……咲ちゃんを救ってあげたい。君は君の頑張り方があるんだ! そこがこの漫画の今のところのゴールだと思ってます。どう終わるかはまだ全然決まっていないんですが。

●スマホで“気持ちがいい”絵を見せるには

――最新話以外はROLAアプリでの配信ですし、スマートフォンから見ている読者が多いと思いますが、制作する上で気をつけていることは。

 スマホで見た時の縦の目線の動かし方はすごく意識しています、絵巻物のような。例えば、表情や仕草のちょっとした変化を描くシーンは縦構図だと描きやすいし読みやすい気がしますね。今はフルデジタルで作画しているのですが、原稿用紙にアナログで描いていた時とはまったく違う感覚で、ディスプレイで見ることありきで描いてるなと思います。

 とはいえ、画面サイズが制限されている中でどうしたら“気持ちがいい”絵を作れるかは常に試行錯誤しています、もどかしいです。今は恋愛漫画なのでバストアップのショットも多いですが、もし自分がバトン漫画を描くとして、キメのアクションを見開きで「バーン!」とできないのはやっぱり厳しいな……とか。現状だとやっぱり題材によって「向いてる」「向いてない」があるなぁとは思いますね。

 でもだからこそ、もっともっと進化できる気がしますし、試してみたい表現はいろいろあります。指でスクロールに合わせてカメラの位置が動いて、構図が変化してぐわっと広がる、とかできたら楽しそう。

――これからの目標はありますか。

 目標は……書籍化して、サイバーエージェントの藤田晋社長に帯を書いてもらいたいです!(笑)それから、ファンの人が「ドラマ化したら」と妄想キャスティングしてくれてるのも楽しいので夢としては実写化も言っておきます。

 描き始めた頃想像していたよりずっと多くの方に読んでもらえている手応えがあるので、期待に沿えるよう、友達同士や職場で話題にしてもらえる漫画を描けるよう頑張ります。

最終更新:2015年12月25日(金)14時42分

ITmedia ニュース

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