第十回 太平洋戦争時の日本海軍の徹甲弾の実力について
記念すべき第十回は(どこが?)久々の旧日本軍ネタ。なんでいきなりこれを書こうかと思ったかというと、久々にギャルゲなんぞやったせいか、先日宮内レミィが弓矢でF-16を撃墜する中マルチがモップ掛けをし、更に何故かその中で月宮あゆが鯛焼きを食べているフルカラー版の夢なんぞを見てしまい、これではいかんと思ったので社会復帰のリハビリとして書き始めた次第である(爆)。
閑話休題、今回の本題は「太平洋戦争時の日本海軍の徹甲弾は果たして言われる程の性能を実戦で挙げ得たか?」である。架空戦記なぞを読むと、どれも大和以下の主力艦群が放つ九一式徹甲弾が敵戦艦の水線下を打破り、続々と撃沈して行く様を飽きるほど読まされる羽目になるが、実際にそう言うことがあり得たのかどうか、少しだけ検証してみよう、というものである。
さて私はマニアではないので日本の戦艦の主砲砲弾がどれだけの貫徹性能を持っていたかの正確なデータは持っていない。仕方がないので撃たれた側の戦訓報告から考察するので信憑性に関しては多少割引いて置く必要がある事を先に明記しておく。
1,貫徹能力
アメリカの艦船局の報告によれば「日本の徹甲弾は水中弾効果を狙った設計の結果貫徹力が通常の徹甲弾に比べて劣り、また信管の調定秒時に問題がある」とされている。これはエスペランス岬のボイスとガダルカナル海戦のサウス・ダコタの損傷報告から類推された物だが、この際
(1)日本の8in徹甲弾は5000ヤードの距離からボイスの砲塔前面装甲(6in)を打ち抜くことが出来ず、
(2)日本の8in砲以上の弾を計19発喰ったサウス・ダコタは上部構造物に大損傷を受けたものの、重要区画は
一切貫徹されていない(この時最も重大な損傷は榴弾の炸裂によるソフトキルであったと評価された)。
事からの結論であった(なんで日本側の弾種が分かったかというと、日本の被帽平頭徹甲弾は弾着位置の周りに被帽による細かいスプリンター孔が出来るので識別が付くらしい)。彼等に言わせるとこの手の平頭徹甲弾は通常型式の徹甲弾に比べて決定的に貫徹力が劣るとしている(艦船局に言わせると通常型式の砲弾の半額以下だそうだ)。彼等が平頭弾の貫徹力をこう評価した理由は明確ではないが、アメリカの新型艦が使用したSHS(Super Heavy Shell)砲弾の開発の際にそういう結論を得ていたと推測されている。
この他に「同様な距離で撃たれたサヴォ島海戦の重巡群はより厚い砲塔装甲(8in)を持っていたにも関わらず、何故装甲を貫徹されたのか?」という点から「サヴォ島海戦で使われた日本の徹甲弾は平頭ではなく通常型式のものであったか、もしくはエスペランス海戦で使用された徹甲弾が超硬化処理をされた装甲板を打ち抜くだけの硬度が無かった(打ち抜かれたほうは超硬化処理されていない装甲板であったため)」という推測を艦船局が行っているのも興味深い事項であろう。
またこの他にも14in榴散弾/榴弾2発を含む各種砲弾計45発(!)を喰ったガダルカナル海戦のサンフランシスコが上部構造物には大損傷を喰ったものの8in砲塔のうち二基、5in砲のうち五基が戦闘後も使用可能であった事実もあり、艦船局の評価を含めて日本の徹甲弾の貫徹能力には疑問符を付けざるを得ない、というのが実感である。
信管についてであるが、アメリカの艦船局は「日本の大口径砲弾が使用する遅動信管の調定秒時は長すぎる」と評価している。これは6in砲が0.08秒、8in以上の砲は0.4秒と彼等は判定しており、米海軍の同種砲弾の0.02〜0.035秒に比べて確かに長い。艦船局はこれを「水中弾効果を最大限に活用するための調定」と判断したが、その対価として「水線以上に命中した場合その調定秒時の長さのため炸裂せずに通り抜けることが多々あり、その有効性を大きく減じている」と断定している。まあ実際日本の大口径砲弾が炸裂せずに船体を通り抜けていく事例は多かったようで、アメリカ側はこれを信管の調定秒時の問題だと受け止めていたわけである。実際には信管の不作動もあったろうが、命中しても炸裂しない日本の徹甲弾のお陰で重大な損傷を受けずに済んで命拾いをした連合軍艦艇は結構多いことを考えると、日本の徹甲弾は「貫徹威力に劣り、当たっても炸裂しない」という敵に優しい物であった可能性がある事は否定できない事だと言える。
2001/06/03追記:
ガダルカナル海戦時のサウス・ダコタ(BB-57)の損害状況報告によれば、日本海軍の重巡から放たれた8in砲弾の内の一発は同艦の舷側装甲に8inくい込んだ旨の記載があるので、日本側のカタログスペックに匹敵する程度の貫徹力を出した砲弾もある事はあったのは事実である。それでも上記のような報告を出しているのであるから、米海軍はそれなりの結論が出せるだけの材料を持っていたのであろうと推測することが出来るだろう。
なお、日本側の不発弾が多いのは紛れもない事実で、サウス・ダコタに命中した8in砲弾18発のうち炸裂しているのは約1/3に過ぎない(6〜7発)。まあデンマーク海峡海戦でウェールズがビスマルクの砲弾を受けた際も爆発したのは3発当たったうちの1発でしか無いので、これが徹甲弾が命中した際に炸裂する確率の平均的数値なのかもしれない。
2,水中弾効果
それでも「なに、水中弾が当たれば効果は大きいんだ!」と思う人が多いのは仕方がない。大体において仮想戦記では大艦が水中弾の効果でいきなり急傾斜、波間に沈んでいくし、また多くの人が廃艦土佐への実弾試験で水中弾により3000tの浸水をみたのが九一式徹甲弾に代表される水中弾効果を狙った平頭型徹甲弾開発の契機となったと耳にタコが出来るほど聞かされているからである。またアメリカの艦船局は戦争中に日本の徹甲弾が水中弾効果を狙った形状になっているのを知って驚いた、という事実もあるが、現実にそれ程の素晴らしいものであったのだろうか?
最初にアメリカの艦船局の考え方を述べておくと、「水中弾は確かに脅威となる」と思っていたのは事実である。アメリカの艦船局は水中弾によって弾薬庫を含む重要区画を撃ち抜かれて轟爆する危険性を充分に認識しており、それに対する手当てをサウス・ダコタ級以降の戦艦の設計に反映していたのも確かである(同級/アイオワ級の舷側装甲が艦底部まで延びて船体と強固に結合/固定されているのはこの為である。またモンタナ級は防御を更に強化しており、水線下に8.5in厚(!)の水中弾防御用の装甲を備えている。アメリカは水中弾効果のことを知らなかった、と書いている本が多いですが、これからも大嘘であったことが分かりますね)。
2001/06/03追記:
米海軍が後に行った実験ではサウス・ダコタ式の水中防御は水線下に飛び込んだ砲弾に対しての防御力は上がったものの、ノース・カロライナ級に比べてバルジが無いため外販と内側の防御層の間隔が狭く、魚雷等の水中爆発のショックを完全に吸収しきれない可能性があると指摘されており、このため戦時中に一部の防御区画において液体防御層の見直しが行われたが、大幅に設計を変更しなければ完全に欠点を除去する事は出来ない、と判定されている。
この結果モンタナ級では水線下防御を含む防御配置はノース・カロライナ類似のシステムとなったが、多層液体防御壁の後方に水中弾防御用として8.5in厚の装甲板を装備するという重防御艦として完成する予定であった。
これだけ見ると仮想戦記は正しく見える。しかし、「水中弾効果はどれぐらい起こるものであるのか?」という見方をすると一気に水中弾の効果は割り引かなけねばならないことが分かるのだ。あの太平洋戦争においては結構な数の水上戦闘が起こっているが、これらの戦いで水中弾効果があったと確実に判定されるのはたったの二例、エスペランス岬のボイスとサマール島沖のガンビア・ベイだけなのである。九一式徹甲弾の想定や仮想戦記によれば至近弾はかなりの確率で水中弾効果をもって有効弾となるはずであるが、現実にはこの程度のものでしかないのだ。実際サマール沖であれだけ夾叉しておいて水中弾効果が起きたのが一例だけ、と言うことから水中弾効果が起きるのはまぐれ、としか言い様の無いものであることが証明されていると言えるだろう。
(水中弾効果の戦果は以下の通りである。エスペランス岬のボイスに命中した8in水中弾は弾火薬庫の水線下装甲板に命中し、弾火薬庫の装甲はこれを喰い止めたものの第一/第二砲塔の操砲室に火災を発生させている。もっともこれはそれに続く浸水で鎮火し大事に至らずに終わったが、ボイスは浸水のため速力が低下したため戦列を去る事となった。もう一方のガンビア・ベイの方は8in砲弾と思われる水中弾の命中により機関室に浸水、速度が11ktsに低下しており、これは後刻日本艦隊に袋だたきにされる要因となった。両者共水中弾にはそれなりの効果があることを示した例とは言える)。
2001/06/03追記:
アッツ沖海戦の際のソルトレークシティ(CA-25)も水中弾を受けていた節がある。これが直接大きな損傷を与えた形跡はないが、間接的に同艦の行動を制約したのは事実である(UMAX18参照のこと)。あと巡洋艦の主砲弾だから、戦艦の主砲弾による戦艦への効果は未知数、という意見もあったので、実戦における戦艦の主砲弾による水中弾の恐らく唯一の例を挙げておく。
その光栄ある戦艦は英海軍のプリンス・オブ・ウェールズであり、同艦は1941年5月24日、デンマーク海峡でビスマルクと交戦した際に15in砲弾による水中弾を受けている。これはウェールズの手前80ftの位置に落ちた15in砲弾が船体中央部水線下28ftの位置に命中したものだが、この結果として船体に18ftx18ftの穴を開け、船体内部に12ftくい込んだものの同艦の優秀な水中防御に阻まれて船体内部に突入することはかなわず、また爆発しなかったこともあって大した損害を与える事もなかった(浸水もさして無かったようだ)。
2002/09/03追記:
米艦船局の報告によると、先に上げたガンビア・ベイの被害は水中弾によるものではなく、14in乃至16in砲弾が至近の水中で炸裂したため、その衝撃が「機雷効果」を生みだした結果、水線下の機関部側面に大穴が開いた結果だそうである。この他12発目の命中弾が水線下に当たっているが、同艦が左舷に傾斜後の命中弾なので恐らく水中弾であろう。これは何inのタマだかは定かでない(多分8in砲弾だろうが…)。この他3発が喫水線の中央部の位置に当たっているが、水中弾によるものとは今一つ考えがたい位置である。
以上のような点から、太平洋戦争時の日本の大型水上艦が装備していた徹甲弾は「水中弾効果を狙うことに偏重した設計のためその効果を減じた」徹甲弾であったということが出来る。華々しい主力艦同士の艦隊決戦で日本艦隊の勝利を思い描く仮想戦記の読者には悪いが、太平洋戦争で日本戦艦が米戦艦と堂々と渡り合う機会が無かったのは日本人の夢を守る、という面では良いことであったのかもしれない。