6月25日に政府が閣議決定した平成25年版少子化社会対策白書が公表され、少子化に関する議論が活発化していますが、議論を実りあるものにするためには、多くの先進国に共通する現象である出生率低下の実態を正しく認識しておくことが必要です。
まず押さえておかなければならないのは、日本の出生率は特別に低くはないことです。
少子化社会対策白書では「欧米諸国と比較するとなお低い水準にとどまっている」としていますが、これは正確とは言えません。日本の2007-11年の合計出生率の平均は1.37ですが、ヨーロッパでも約1.4以下の国はオーストリア、イタリア、スペイン、ドイツ、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、ラトビア、ルーマニア、ハンガリーなど多くあるからです。
さらに注目すべきは、アジアでは日本の出生率は高いことです(韓国1.21、台湾1.03、香港1.10、シンガポール1.23)。出生率引き上げ策を考えるにあたっては、日本の出生率低下に歯止めをかけている要因を見つけることが有用です。
出生率低下の主因は非婚化(既婚率の低下)です。特に、30歳代前半の既婚率の低下が出生率低下と連動しています。これは、30歳代後半になると妊娠・出産確率が急激に低下することと整合しています*1。
同様の傾向はアジア諸国でも見られます。台湾の既婚率低下は日本よりも進んでおり、20歳代後半で3割弱、30歳代前半で6割にとどまっています。
5/9【女性手帳バッシャーが見たくない「不都合な真実」】と6/23【リッチ女性の「美味しい男」獲得競争がもたらす非婚化・少子化】で説明しましたが、非婚化の主因は女の高学歴化と就業率の上昇(男女の同等化)です。
- 経済的な自活能力を獲得する→結婚しなくても生存可能
- 男に対する要求水準が高まる
したがって、他の条件が一定なら、自活に積極的≒仕事熱心な女が多い≒女の労働参加率が高いほど非婚化が進むと考えられます。日本の労働参加率(労働力人口比率)が相対的に低いことはこの仮説と整合的です。
少子化問題で政府や男社会を批判する「進歩的」な論者は、日本の女の労働参加率の低さを「男社会が女の社会進出を妨げている証拠」と見ますが、北欧と比べるならともかく、他のアジア諸国よりも日本が後進的とは言えないでしょう(進歩的とも言えませんが)。
進歩的な論者が(意図的に?)見落としているのは、自活に積極的でない女も相当数存在するということです。働かなくても夫の金で生活できるのであれば、それを選択することは合理的です。外国では稼ぐ金額が家庭内での発言力につながるため、女が働くことが促進されますが、夫が稼いできた金を妻が巻き上げて管理することが珍しくない日本では、女(妻)の労働参加意欲が減退しがちです*2。
- Japanese wives controlling the family purse strings(BBC)
- 【台湾ブログ】日本という国は、男性よりも女性の方が幸せだ!(サーチナ)
- 「専業主婦」になるなんてもったいない!? 日本在住の外国人に聞いてみた!(マイナビ)
フェミニスト学者の小倉千加子に至っては、ブラック企業経営者と同じ考えのようです*3。これが通用するのだから、日本はまだまだ甘い国です。
妻の人生には充電のために中休止が必要であるが、夫には家族のため、世の中のために必死で働いてほしい。夕方から家にいる人を尊敬できるだろうか。
要するに、「働いて金を稼がないにもかかわらず家庭内で強い発言力を持てる」という日本文化→女の労働参加率低下(専業主婦化)→出生率にプラス、というのが日本の相対的高出生率のメカニズムではないか、ということです。
進歩的な人は専業主婦を「女の労働参加が妨げられている証拠」、低出生率を「ワーク・ライフ・バランスが崩れている証拠」として政府を批判しますが、一部の女の「働かずに生活したい」あるいは「ブラック企業経営者の立場になりたい」という願望が出生率に貢献しているとすれば皮肉なことです。
進歩的な人がこの「不都合な真実」を少子化対策の議論の俎上に載せることはないでしょう。
追記
栄養ドリンクのCMに、小倉のような「ある種の男性差別」「男性を追い詰めるような恐ろしいもの」「男を酷使する、古い価値観」が見て取れるという指摘です。
- 「女は家事、男は仕事」は、誰に対する差別?(東洋経済オンライン)